建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2010年1月号〉

interview

地域主権型社会で未来を切り拓く

――北海道経済の成長は「健康」「環境」「国際」がポイント

北海道知事 高橋 はるみ氏

高橋 はるみ たかはし・はるみ
昭和29年 1月6日生まれ 富山県出身
昭和51年 3月一橋大学経済学部 卒業
昭和51年 4月 通商産業省入省
平成 元年 6月 通商産業研究所総括主任研究官
平成 2年 7月 中小企業庁長官官房調査課長
平成 3年 6月 工業技術院総務部次世代産業技術企画官
平成 4年 6月 通商産業省関東通商産業局商工部長
平成 6年 7月 通商産業省大臣官房調査統計部統計解析課長
平成 9年 1月 通商産業省貿易局輸入課長
平成10年 6月 中小企業庁指導部指導課長
平成12年 5月 中小企業庁経営支援部経営支援課長
平成13年 1月 経済産業省北海道経済産業局長
平成14年12月 経済産業省経済産業研修所長
平成15年 2月 経済産業省退官
平成15年 4月 北海道知事

 政権党が鳩山民主党に交代したことで、我が国の政治体制は180度変更した。かつての小泉構造改革と同様に、これまでの行政、政治、企業経済の新たな枠組みに向けての変革が遂行されている。こうした国策の転換は、地方自治にも大きく影響する可能性は高く、北海道も官民ともにこれまでに目指してきた目標や方針の修正・変更を迫られる可能性も否定できない。今後、北海道政はどこに向い、企業経済はどの方向に向けて進んでいけば良いのか、高橋はるみ知事に見解を伺った。

――民主党政権のマニフェストと鳩山政権の「友愛」の理念をどう解釈していますか
高橋 民主党のマニフェストや鳩山総理の所信表明にあるように、「ひとつひとつの生命を大切にし、他人の幸せを自分の幸せと感じられる」、「誰もが尊厳をもって生き生きと暮らせる」ことが、友愛政治の理念だと考えています。  民主党の掲げられたマニフェストについても、そうした理念を踏まえ、「国民の生活が第一」との考えのもと、生活者の立場に立った、様々な施策が掲げられているものと理解しています。
――そのマニフェストと理念に基づく北海道の将来像をどう展望していますか
高橋 私としては、知事に就任して以来、道民の皆さま、そして、北海道の将来にとって何が大切かという視点に立って、様々な立場の方々のご理解とご協力をいただきながら、道民本位の道政を進めてきました。  平成20年4月からスタートした、道の総合計画「ほっかいどう未来創造プラン」は、道政の基本的な方向を総合的に示すとともに、道民の皆さんと道がともに考え、ともに行動するための指針と位置づけており、道民の皆さんと実現していく「めざす姿」の一つとして、環境と経済が調和する北海道を掲げています。  「めざす姿」の実現に向けては、環境を守ることが経済を活性化させ、経済の活力が環境を守るというようなサイクルのもとで持続可能な社会を創造していかなければなりません。北海道には、このような社会モデルを創造する上で絶好の条件が整っています。豊かな自然は高い食料供給力の源であり、再生可能なエネルギー資源の宝庫です。さらには、自然を敬い、自然とともに生きてきたアイヌの人たちの知恵、困難を克服して歴史を拓いてきた先人たちの創造と挑戦の精神が今に伝えられています。  こうした北海道にあふれる宝をさらに輝かせるためには、そこに住む道民一人一人が、地域と地域が支えあい、力を合わせて磨いていかなければなりません。道政を取り巻く環境は大変厳しい状況にありますが、道民の皆さんとともに、「めざす姿」すなわち「人と地域が輝き、環境と経済が調和する、世界にはばたく北海道」の実現に努力していきたいと考えています。
――自治体である北海道として独自に目指す理念と将来像とは
高橋 明治以降、形成されてきた我が国の中央集権型システムは、限られた資源の効率的な活用に適した面をもち、急速な近代化に寄与してきましたが、権限や財源の過度な中央への集中は、その画一性や縦割りの弊害など、様々な点で行き詰まりが指摘されています。  我が国が成熟社会へと変化する中で、多様化、複雑化する諸課題に適切に対応していくためには、地域の課題は地域自らが解決できる「地域主権型社会」に転換していく必要があります。  「地域主権型社会」では、地域のことは地域で、しかもできる限り住民に近いところで、決めることができます。具体的には、権限や財源が地方に移ってくることによって、例えば北海道独自のやり方や制度を組み立てていくことによって、北海道の気候などの特徴を生かした取組を北海道の判断で実行できるようになったり、住民の声が行政に反映されやすくなります。  「地域主権」の出発点は、一人一人の主体的な発想や行動であり、地域課題の解決に向けた取組の主体は地域住民です。個人でできることは個人が、個人でできないことはコミュニティや民間活動が、コミュニティや民間活動ができないことは行政が補完します。  行政においても、住民に最も身近な基礎自治体である市町村がまず行い、市町村でできないことを道が行う、道ができないことを国が行うという補完性の原理に立脚した社会システムです。  道内は、179の市町村があり、それぞれの地域が個性を生かした地域づくりを進めています。「地域主権型社会」という社会システムの実現は、それ自体が目的なのではなく、あくまでも手段です。しかし、それはとても大きな可能性を秘めた手段であり、この手段を効果的に使いこなすことによってはじめて、新しい自治のかたちのもと、地域の新しい未来を切り拓くことができると考えています。
――恐慌に近い現在の不況は雇用不安を生み出し、これによって短絡的な刑事事件も起こるなど社会不安の情勢になっています。雇用不安の解消に向けて、どんな対策が可能ですか
高橋 雇用不安を解消するためには、まず雇用のセーフティネットの充実を図ることが必要と考えています。このため、道では国からの交付金を積極的に活用して、離職を余儀なくされた方々の次の雇用までの間をつなぐ雇用の場づくりを行っています。  また、離職者の方々が再就職にあたって必要となる資格や技能を身につけるための職業訓練の機会を今年度から大幅に拡充しており、こうした対策によって、離職者の方々が早期に再就職できるよう支援を行っています。  また、できるだけ失業が発生しないよう、企業の倒産を可能な限り未然に防止するため、中小企業向けのセーフティネット貸付などの金融対策を行っており、それでも企業倒産により離職者が発生した場合には、ハローワークなどの関係機関と連携し、相談会や求人要請などを行うプログラムにより、機動的な対応に努めています。  こうしたセーフティネット対策をしっかりと行うことはもちろんですが、雇用不安の解消には、雇用の維持、さらには将来に向け安定した雇用の場の創出に向けた対策も欠かせません。  雇用の維持に向けては、国の雇用調整助成金の制度もありますが、道においても経営に支障が生じている企業に対して、制度融資により必要な事業資金の融資を円滑化するなど、中小企業金融対策を強化しており、また、雇用の場の創出としては、国の交付金を活用して、地域の創意工夫を活かした雇用機会の創出や、雇用を伴う新規開業や新事業展開への支援、農商工連携による新たな事業の創出などを進めています。  厳しい雇用情勢が続いていますが、中でも若年者の厳しい就職状況を憂慮しています。将来の本道の産業経済を担う若者たちが、安定した職に就き、働くことによって職業能力を蓄積して、本道の発展を支える人材として成長していけるよう、道としても関係機関と連携して、一人でも多くの若者の就業に結びつくよう、しっかりと取り組んでいきます。
――厳しい経済情勢下で、北海道の企業、企業人は、どの方向に向けてどう活動すれば北海道経済の再生を実現できると考えますか
高橋 一昨年秋からの世界的な金融市場の混乱をきっかけとした急激な景気後退の影響を受け、厳しい状況が続く本道の経済・雇用情勢の改善を図ることは道の最重要課題であり、これまで国の景気対策に呼応しながら、数次にわたって補正予算を編成し、雇用対策や中小企業対策を切れ目無く実施することはもとより、産業基盤の整備や道民の皆さまの暮らしの安全・安心の確保といった総合的な経済雇用対策に取り組んできました。  一方で、本道経済を将来的にわたって持続的に発展させていくためには、中長期的な視点に立って、公的需要への依存度が高い経済構造を、民間主導の厚みと広がりのあるバランスの取れたものへと転換していくことが不可欠です。  こうした中、経済団体や労働団体、地方団体などの代表者の皆様に御参加いただき、本道経済の成長力強化に向けて重点的に取り組むべき課題や道の経済政策のあり方などについての議論を行う場として「北海道経済政策戦略会議」を昨年7月に設置しました。  これまでの3回の会合では、本道を取り巻く厳しい経済・雇用情勢はもとより、少子高齢化の進行や環境エネルギー制約の高まり、グローバル化の進展など、経済社会環境の変化のなかで、本道の強みを活かした産業の創出や地域経済の活性化を図っていくため、「健康」「環境」「国際」を幅広い産業分野にわたって、本道経済の成長力を高めていく共通の視点として重視し、官民が連携を図りながら取組の重点化を図っていくことを確認したところです。  具体的には、「健康」の視点からは、本道の強みである安全・安心な農林水産物など豊富な食資源を活用した本道ならではの食の総合産業の確立を目指す「食クラスター」活動の展開と健康関連サービスの創出といった取組です。  「環境」の視点からは、環境との好循環による持続可能な経済の活性化に向けた環境関連ビジネスの集積拡大、各産業分野における環境対応力の強化、環境エネルギーに関する普及啓発といった取組です。  「国際」の視点からは、国際競争力を意識した商品・製品の競争力向上・高付加価値化、国内外への販路拡大、地産地消や域内消費の拡大を通じた道内循環・地域循環の促進などといった取り組みを進めることが必要であると提言されています。  本道経済は今後も厳しい状況が続くと予想されますが、このような「北海道経済政策戦略会議」の提言などを踏まえ、時機を失することなく、当面の総合的な経済雇用対策及び将来の持続的発展に向けた取組をオール北海道の体制で全力で進めていきたいと考えています。

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