建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年11月号〉

interview

鹿の群れも押し流した台風10号の被害拡大を食い止めた二風谷ダム

――プロフェッショナルの道路管理技術で日勝峠の通行止めゼロ

株式会社 磯田組 代表取締役 磯田 憲生氏
(社団法人室蘭建設業協会 副会長)

磯田 憲生 いそだ・のりお
昭和25年6月14日生まれ
最終学歴
明星大学理工学部土木課 卒業
職歴
昭和49年3月 丸磯建設株式会社 入社
昭和51年4月 株式会社 磯田組 入社
昭和54年2月 同社 取締役土木部長 就任
昭和57年1月 同社 代表取締役 就任
                  現在に至る
株式会社 磯田組
本社/日高町富川南3丁目2番32号
TEL 01456-2-0050

 日高町の(株)磯田組の磯田憲生社長は、31歳の若さで創業者の後を継ぎ、28年にわたって管内のインフラを見続けてきた。その中でも平成15年、18年の台風災害は自然の驚異を見せつけられた反面、二風谷ダムの重要性を思い知らされた事例だった。全国的にダム事業の全廃を実現しようと、民主政権は躍起になっており、管内では平取ダムが槍玉に上げられているが、磯田社長が災害復旧の現場で見たものは、治水ダムが示した紛れもない効力である。一方、同社は世界的にも交通の難所である日勝峠の維持管理、除雪も委託されているが、交通事故のような不可抗力の交通規制を除けば、通行止めという事態をもたらしたことがないという実績を誇る。しかし、その背景では、庶民には窺い知れない壮絶な苦闘があった。

──会社の概要から伺いますが、設立は昭和9年ですね
磯田 私の父が創業者で、この富川で起業しました。職業が大工だったことから、町の学校など公共施設の建築に携わっていました。戦前から戦後にかけて、管内の建築物のほとんどは当社が施工したものです。 およそ10年前に、富川中学校を解体したところ、廃材の中から磯田組の社名が記された棟札が見つかりしました。
──社長は25年の出生ですが、今日に至る経緯を伺いたい
磯田 私は2年ほど東京都大田区の丸磯建設(株)に勤務していました。この会社は鹿島建設の下請け会社です。ところが、2年上の兄が事故により25歳で他界したため、磯田組に戻ることになりました。
▲本社社屋
──自社に戻ってからは、どんな現場を経験しましたか
磯田 磯田組に勤務してからは、室蘭土木現業所発注の皐月橋工事を8,000万円で受注しましたが、当社としてはこれが最大規模の工事でした。  そして、30歳のときに先代が病で現役を退くことになったので、31歳で跡を継いで28年目になります。若い社長は私だけでなく、20代で社長に就任した若い同業の仲間もいたので、やってこられたと思います。後に国交省北海道局長へと昇格した吉田氏も、二風谷ダム工事事務所の二代目所長として赴任してきましたが、私と同年でこのように世代が近い人材が多く、お互いにノウハウを伝授しあうなど良い人間関係を築いて、助け合うことができた時代でした。現代ではそれも許されず、人間関係が希薄でぎくしゃくした時代となりましたが。
──本業以外にも室蘭建設業協会副会長を務めていますね
磯田 今が最も厳しい時代ですが、平成15年、18年の台風によって、管内は復旧という仕事がありました。この災害対策の工事によって、それ以降は全く被害がないので、今後はそれも無くなることが明白です。  丈夫なインフラができた以上は、復旧工事の需要は見込めなくなるので、会員には設備投資はしないようアドヴァイスしています。前政権で編成された補正予算も、新政権になれば状況は一変しますから。
──平成15年の台風はどんな状況でしたか
磯田 とにかく凄まじい豪雨で、市街地は停電し、道路も寸断されたために何台ものクルマが立ち往生していました。沙流川は満杯にまで水位が上がり、沙流川橋の橋脚に流木が引っかかってダムのように流水をせき止め、上流と下流の落差が2mという危険な状況になりました。  したがって、上流部の二風谷ダムがなければ、堤防が決壊した可能性があります。実際に私たちは河川敷へ行きましたが、河川水が堤防の天場の上にまで到達しており、これが越流するようになれば完全に崩壊します。実際に二級河川のアッペツ川などは、川道が曲がっているのに堤防が全壊し、河川水が直進するという状況で、4人の犠牲者が出ました。  そこで、各社が下流に重機を持ち寄って集まり、不眠不休で流木などの撤去作業に当たりましたが、そこで少女の亡骸も発見されたのです。そして、5日目にはようやく国道を開通させ、1週間後には全面復旧させました。  二風谷ダムの浚渫には他社が当たっていましたが、ダム湖からは20頭もの鹿の死体が上がったとのことです。つまり、野生動物の鹿までが流されるほどの豪雨だったわけで、それらを二風谷ダムがせき止めていたのです。
▲一般国道237号の保全 道路清掃作業 6月頃実施 ▲一般国道237号の保全 除雪作業 冬季限定作業 ▲一般国道237号の保全 凍結防止剤散布作業 冬季限定作業
──18年の台風では、どんな状況でしたか
磯田 その時も、河川の水位は天場すれすれのところまで上がりました。しかし、二風谷ダムによる水量調節のお陰で、それ以上に増える心配はありませんでした。ですから、世論がどう批判しようとも、治水ダムの存在意義は十分にあるのです。
──それでも民主政権は、ダム廃止に全力を挙げていますね
磯田 あれほどの豪雨は150年や200年に1度と言われていますが、地球温暖化で気象状況が変化すれば、その限りでもありませんから治水対策は重要です。特に、管内の河川は急勾配で、流れの速い急流河川として指定されており、以前は山地から河口までの到達時間は約8時間だったのが、現在では森林が伐採されて牧場となっているので、5、6時間程度に短縮しているでしょう。  現場を見ていたスタッフによると、15年の台風では20〜30pの深さの雨水や泥土が牧場を覆って流れ、道路を横切ってきたとのことで、それはかなり恐ろしい光景だったようです。
──管内の同業者で命を落とした作業員もいましたが、現場担当者は命がけですね
磯田 ですから、あらゆる事態を予測して、重機を早めに移動し、被災現場には行かないように指示しています。当社のパトロールカーが巡回中に、水に浸かってエンジンが止まったりしていますから、危険を感じたら直ちに引き上げ、行政には通行止めとしてもらうことにしています。構造物その他は流されても仕方ない。作業員の命が流されるよりは良いのです。
──日高管内では、平取ダムが廃止論議の対象にされています
磯田 ダムは一部には反対者もいますが、地域住民は基本的に賛成しているのですから、きちんと整備しなければならず、平取ダムと二風谷ダムの二つのダムを以て沙流川総合開発事業は完結するのです。
▲一般国道274号の保全 トンネル清掃作業 ▲一般国道274号の保全 日勝峠 冬期除雪作業 ▲一般国道274号の保全 日勝峠 冬期除雪作業
──これから冬場を迎えますが、世界的に見ても最大の交通の難所となっている日勝峠(日高側)の除雪を担当していますね
磯田 当社のスタッフは21人ですが、除雪作業は24時間体制ですから、本格的な真冬には豪州国籍のアルバイト要員も補充しています。幸い、当社が担当してからは、冬期間の通行止めは一度もありません。  山地の気候は変わりやすく、気象の変化は山で暮らす者にしか分からないので、現地には社員寮を用意し、役員や担当者には住み込んでもらっています。のみならず、道路の状況を理解するには、夏のうちから散水車その他の作業を通じて経験しておくことが必要です。どこに吹石などがあるかを把握しておかなければ、冬にはそれらが積雪で隠れるので除雪車をぶつけて損壊させてしまう可能性があるのです。
──そうした技術者やオペレーターを確保し、雇用を維持するのも容易ではありませんね
磯田 世間的には、建設関係者は厚遇されていると誤認されがちですが、一般的な作業員の年収は200万円程度でしかないのが現実です。ただし、除雪作業員のように特殊な知識や技術を以て、過酷な勤務を強いられるスタッフには相応の報酬がなければなりません。したがって、そうした人材を揃えて体制を整えておくのは、経営的にも大変です。
──契約に当たっては100%の落札率でも経営は難しいのに、90%となると損失となるのでは
磯田 10%の不足は会社の自己負担となります。しかし、こうした作業は地域を熟知している地場業者にしかできません。とりわけ、交通の難所を担当しているのですから、その点を理解して欲しいと思います。  今月には占冠村−トマム間の高速道路が開通しますが、大型車は日勝峠を利用するので、かえって大型車の通行量が増えています。そして、みな先を急ぐので事故も多く、11tのトレーラーが覆道の中で横転したり、ダンプが炎上したというケースもありました。そうした事故の処理にも当たるわけです。冬場には、釧路方面から来る真鱈を積載したトラックが横転し、路面一帯に真鱈が溢れ、その処理に追われたこともあります。  しかし、迂回路のない峠道ですから、通行止めはいち早く解除しなければなりません。とりわけ輸送トラックなどは、フェリーの就航時間に間に合うべく時間に追われていますから、何時間も足止めするわけにはいきません。そのため、我々としては最大限の努力をしているのですが、評価はされないものです(苦笑)
──そうした建設会社の苦労は報道されないために、一般的に知られていませんね
磯田 現地のスタッフはベテランばかりですから、対処は迅速です。事故車が炎上して、ドライバーが炭化してしまったという凄惨な現場も経験しています。したがって、事故による通行止めはありますが、それ以外の道路管理の問題での通行止めは一度もありません。

会社概要
創  業:昭和 9 年5月 1日
設  立:昭和 45 年2月12日
資 本 金:4,000万円
事業内容:建築・土木工事の請負
営 業 所:苫小牧市音羽町1丁目18番地3号 日興ビル内
     TEL 0144-35-2591
出 張 所:沙流郡日高町新町2丁目424番地14
     TEL 01457-6-2138


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