建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年11月号〉

interview

「土木王国・北海道の土木を語る」(前編)

――厳しい気候・風土で磨かれ培われた道産新技術の可能性

北海道建設部長 宮木 康二氏

宮木 康二 みやき・こうじ
昭和27年 8月8日生まれ 室蘭市出身
最終学歴
北海道大学工学部土木工学科
職歴
昭和54年10月 北海道庁採用(小樽土木現業所)
平成13年 4月 建設部参事(北海道エアシステム取締役)
平成16年 4月 建設部道路計画課長
平成17年 4月 留萌土木現業所長
平成18年 4月 建設部技監
平成19年 6月 後志支庁長
平成21年 4月 建設部長

 国内で最も広大で、かつ積雪寒冷地の厳しい気候・風土にある北海道は、広大であるがゆえに社会基盤整備にともなう負担も大きく、しかも豪雪・積雪により、経済・生産活動の停滞は半年間に及ぶというハンディを負っている。しかもそうした不利な経済環境である上に、リーマンショックなど英米金融経済の失敗により、世界恐慌の再来とも言える不況に巻き込まれ、さらには各国が恐慌対策のため、公共投資を含めた景気対策を協同歩調で実施する国際社会の中で、唯一、公共投資の廃止を公約する政党が政権に就くなど、北海道経済は三重苦の状態だ。こうした閉塞状況を打開するための起爆剤はどこにあるのか。農業と並ぶ基幹産業として、建設産業が地域を支えてきた土木王国・北海道としての、今後の生き筋を探るべく、北海道建設部の宮木康二部長に語ってもらった。

――前政権による景気対策のお陰で、当初予算だけでなく補正予算も執行され、現場もかなり確保されたことで、これまで世論に圧殺され瀕死状態だった建設業界は、首の皮一枚で命脈を保ちました。その分、入札・発注業務は膨大であり、業務に当たる職員は忙殺され、定員削減の上に平時の給与や手当がカットされながらも、表向きには見えない様々な貢献がありましたね
宮木 職員には相当の努力をしてもらいました。何しろ100年に1度といわれる経済危機ですから、公共事業を担う我々こそが、いま頑張らなければならないという重い使命感を持って臨んでもらったのだと思います。その結果、地域で公共事業が増えたことが実感できるとの声が各地で聞かれます。  ただ、業界側ではこれまでにスリム化をさんざん押し進めてきたので、工事契約を受注したくても、肝心の技術者が不足しており、これ以上は受注できないという事情も聞かれますが、今年度一年間だけの景況かも知れませんね。
――道単独事業の工事であれば、翌年度に繰り越すことも可能では
宮木 不可能ではありません。今後、どんな形で執行していくかは、これからの課題ですが、来年度の予算案がどんな内容になるのか、国費の動向を踏まえながら検討しなければなりません。政権交代でどんな影響が発生するのか、未知数ですから。  しかし、北海道の建設業は、地域の雇用と経済を下支えしているのは紛れもない事実で、道内総生産に占める割合も高いのです。したがって、激変するのは北海道経済にとって大きなダメージとなります。公共事業を削減していくにも、せめて建設業の新規産業への転換を模索し、見定めていくための時間的猶予は欲しいところです。
――11月18日は「土木の日」という記念日に設定されていますが、日本社会では公共投資で行われる土木に対して嫌悪感が持たれ、それを排除する政権を国民は選択しました。しかしスマトラでは、大地震と津波によって数千、数万という人民の生命が失われ、国土の安全を高める土木の必要性を再認識させられますが、地震大国であり、台風・水害が日常化している日本で、土木が軽んじられるのは不思議です
宮木 私は土木が果たす役割が、今後の時代の変化とともにどう変わっていくのかに注目しています。地球温暖化に向けて、それを防ぐための様々な対策が必要になりますが、そこに今後の土木の役割があるものと考えます。  この10年から20年の動向を見ると、地球温暖化によって集中豪雨と乾期の差が大きくなっており、集中豪雨の発生頻度が増える一方で、干ばつの発生も多くなっています。両極端の症状が現れており、これはまさに温暖化現象の結果といえるでしょう。  とりわけ、最近の集中豪雨は「ゲリラ豪雨」などと呼ばれ、1時間100mmを超えるようなケースも見られるようになり、私たち土木技術者としても体験したことのない現象に直面するようになりました。土木は、これに責任を持って対応していかなければならない時代なのだと思います。そして、住民が安心して安全に暮らせる国土づくりが、私たち土木技術者に課せられた使命なのだと考えています。
――日本は世界的に見ても山脈の多い地形で、その上に北海道は積雪寒冷地という不利な気候環境に置かれています。そうした実情に対する配慮が欲しいところですね
宮木 およそ5ヶ月は積雪によって、生産活動も経済活動も国内的に停滞を余儀なくされます。そうしたハンディを認知して、理解して欲しいと思います。
――反面そうした不利な条件を克服してきた北海道の土木技術は、工夫によっては地域を越えて様々に応用し得るのでは
宮木 北海道の寒冷地技術は、土木に限らず建築においてもハイレベルのものを培ってきたと言えます。本来は土木工事の品質確保のため、冬期間の施工は少ないのですが、太平洋側の海岸で波のない時期には、漁港・海岸工事などが実施されます。また、緊急に行わなければならない災害復旧工事などは、季節にこだわってはいられません。  しかし、冬の施工現場では、まず除雪をしなければならず、非生産的な作業に経費がかかります。冬期施工のコンクリート工事なども、寒中コンクリートとして施工しますが、その防寒対策にも経費がかかり、品質確保においても苦慮しているのが現実です。このため、近年では耐寒剤を用いた施工例も増えており、その使用範囲や仕様、施工管理などの運用について各現場に周知を図っています。こうしたハンディを乗り越えなければならない宿命が、北海道の土木にはあります。  そして、積雪地の特殊性を反映した施設としては、「防雪柵やシェルターを設置した道路」や「積雪路面を溶かすヒーティングを設置した道路」、「氷点下30度以下になる地域においても凍結による破損が起きない道路」などがあります。
――高コスト構造を克服すべく、土木技術の改良と同時に新工法や新しい資材、機材の開発が官民で行われてきました。道内は開発が遅れている分、未開発地も多く、実験施工の余地も十分にあります。そこで、我が国の新幹線技術を中国、韓国、ドイツに売り込んだように、北海道の土木技術・資材、機材を売り物とするなど、経済的自立・再生の糧として活用していく道も考えられるのでは
宮木 北海道の特殊性に応じて開発された独自の新技術を、本州府県にピーアールして、新たなビジネスチャンスを開拓していくことは大切だと思います。そのため、建設部としてもどんな形でそれを支援できるか考えていきたいと思っています。  北海道は自然が豊富ですから、環境に配慮した技術、例えばバイオエタノールや廃棄物処理の分野も含めて、今後ともいろいろな技術開発を先導して進めなければならないでしょう。住宅建築においても、高断熱・高気密の北方型住宅など、北海道ならではの特殊技術があります。  とりわけ、新政府は1990年比で25%のCo2削減を国際社会で表明しましたが、北海道は冬場に大量の化石燃料を消費し、特に家庭からのCo2排出量は、全国の2倍となっておりますので、こうした新技術によってCo2削減に貢献していくことが必要です。高断熱技術によって、化石燃料の消費を抑制することでCo2の発生を削減したり、反面、植樹を促進するなど、様々な取り組みの可能性があります。そうした活動の中に、建設業で培った技術が生かせる分野が必ずあると考えています。
――問題は、開発された新資材や新工法などを、官公需として積極的に採用し、実績を作るチャンスを与え、道外にも販路を開拓していけるほど安定的な商品として定着させていけるかどうかでしょう。前例・実績主義に基づき、新技術に対して慎重になるあまりに最初の一歩がなかなか踏み出せず、これがイノベーションの障害となりがちです
宮木 新技術の採用における問題点は、在来工法に比べて価格の高さにあります。イニシャルコストが高くても、トータルコストを見ると経済的であるのかどうか、議論を尽くしていくことが必要です。  また、新技術の採用が、国庫補助事業において認められるのかどうかという問題もあります。ただ、今後の国庫補助は、一括交付金という形式も導入されるなど、様々な動きは見られます。制度が確定していないので、今から確定的なことは表明できませんが、予算執行における自治体・北海道としての裁量の幅が広がるならば、地域産業を育成する視点で新技術を採用した工事も、今後の可能性として考えられます。  これまでは全国一律の基準で土木・建設工事は進められてきましたが、北海道からの提案型ビジネスを推進していくことが重要だ思います。北海道独自の地域性や特殊性を踏まえた工事を行うことで、幅広く道内各産業に波及効果を生み出していけることが理想です。
──実際にそうした新工法、新資材、新機材を試験的に導入した事例はありますか
宮木 平成18年度から20年度までに、地場企業で開発された高い技術による道産資材の利用促進に向けた道産資材モデル工事を実施しました。道産資材の利用促進と、その性能を検証するため、道単独工事で実施したものです。使用材料は、環境に配慮した「北海道グリーン購入基本方針」に基づく道産木材と北海道認定のリサイクル製品などです。  具体的には、一般廃棄物溶融スラグを細骨材とした道路縁石・側溝や、間伐材などを利用した歩道、河川の転落防止のための木柵など多岐にわたっており、モデル工事は57件で、実施結果を資材メーカーにお知らせし、道のホームページで公表しています。
──最近は道産の間伐材への評価も高まっているとのことです
宮木 北海道の面積の7割は森林で、間伐などを行い適切に整備することで山は守られるのですが、近年の木材価格低迷などの影響で間伐が進まない状況です。そこで、平成12年度から建設部の他に農政部と水産林務部の発注3部が連携し、公共土木工事での間伐材の活用を進めています。間伐材とはいっても、最近は技術開発によって河川水路工や法面保護工、柵工など、土木用資材として十分に利用可能なのです。  ただ、強度や耐久性の限界から使用箇所が限定されるという課題もありますが、限られた財源を有効に活用して効率的な公共事業を行うと同時に、環境保全のためのリサイクルを促進するため、地場企業が開発した道産資材の利用促進と合わせて、間伐材の活用を促進します。  道内の地場企業が開発した優れた技術を普及促進することで、道としても企業が将来にわたって発展するための役割を担っていきたいと考えています。
──公共投資削減という趨勢の中で、建設業は岐路に立たされており、多くの経営者が出処進退に悩んでいます
宮木 建設業の経営問題については、ソフトランディングの促進と対策を進めてきましたが、思うに農業やその他、すでに市場が成熟した産業分野に新規参入するのは、容易なことではありません。既にマーケットが形成され、流通・販路も構築されている訳ですから。したがって、既存産業の隙間を狙っていくか、あるいは全くの新しい分野を開拓していくのであれば、そこにチャンスがあると思います。  そうした新事業を興すには資金が必要であり、また支援も必要です。建設業の経営改革に対する道の支援体制は、これまでは経済部や建設部などに分散していたのですが、平成23年度以降からは建設部に一元化し、総合的に支援できる体制に変革すべく準備を進めています。そうした体制を強化していかなければ、今後に予想される公共投資の削減に対応できなくなるものと危惧しています。

(以下次号)


11月18日は「土木の日」
北海道の土木事業に貢献します

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