建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年10月号〉

ZOOM UP・寄稿

平成2年7月水害で466億円の被害

――阿蘇火砕流堆積物の上にコンクリートダムを建設

大分県 稲葉ダム


▲稲葉ダム完成イメージ(常時溝水位の状況)

 一級河川大野川上流域の本川及び稲葉川・玉来川は、急流のため古くよりたびたび洪水被害を受けてきた。このため、昭和40年より改修工事等の治水事業が行われ、治水安全度の向上が図られてきた。
 その後、昭和57年7月の集中豪雨により、23〜24日の総雨量は稲葉川流域で、354.8mmに達し、浸水家屋356戸、浸水農地875ha、被害総額5,308百万、また、平成2年7月の梅雨前線豪雨により1〜2日の総雨量は、稲葉川流域で453.9mmに達し、浸水家屋1,483戸、浸水農地2,087ha、被害総額46,606百万円等、毎年のように河岸の決壊、氾濫を繰り返してきた。さらに沿川の竹田市の市街化が進み、洪水被害は増加の傾向にある。
 これらの水害を契機に、市街地上流に稲葉ダムと玉来ダムを建設する「竹田水害緊急治水ダム建設事業」が平成3年度に事業採択され、平成2年7月既往最大流量と同程度の出水に対し、河川改修とダム建設を組み合わせた治水対策を行うこととなった。稲葉ダムにおいては、平成15年から本体着工している。





稲葉ダム本体建設工事の概要と特徴

鹿島・大林・さとう建設工事共同企業体 所長 西山 英弥

▲写真-1 ダム全景(上流から望む)

はじめに
 稲葉ダムは、竹田水害緊急治水ダムとして一級河川大野川水系の稲葉川に建設を進めている、堤高56m、堤体積約22万m3の重力式コンクリートダムであり、洪水調節および流水の正常な機能の維持を目的としている。稲葉川は、竹田市街地を貫流しており、過去2度にわたって大規模な洪水被害を引き起こしている。
 ダムサイトの地質は火砕流堆積物を主体としており、堤体アバット部には軟質層が分布し、また貯水池内には高透水性の地質が分布している。そのため、稲葉ダムでは堤体アバット部の地山強度不足対策として造成アバットメント工法を採用、また貯水池の漏水対策として貯水池内表面遮水工法を採用している。

工事経過
 ダム建設工事は平成15年10月から基礎掘削を開始、平成16年11月から堤体コンクリート打設を開始、平成19年4月に打設を完了した。
 また、貯水池内表面遮水工については、全体が8つの工区に分割され、当JVは最下流側(堤体側)の工区を担当した。施工対象はコンクリートフェーシングおよび土質ブランケットであり、平成17年12月から着手し、現時点では転流トンネル呑口部のコンクリートフェーシングだけを残して完了している。
 現在は、試験湛水開始に向けて残工事や仕上げ工事を施工中である。(写真-1)

▲写真-2 造成アバットメント施工状況 ▲写真-3 左岸鞍部CSG施工状況

工事の特徴
 当工事の特徴として「造成アバットメント工法」および「貯水池内表面遮水工法」 が挙げられる。
(1)造成アバットメント工法
 ダム堤体の左右岸アバット部には、コンクリートダムの基礎として必要な強度が期待できないD級岩盤の軟質層(挟み層や非・弱溶結の火砕流堆積物)がほぼ水平に分布している。このため、その地層を覆うようにコンクリートで人工岩盤を築造し、地盤の安定を図った後に堤体コンクリートの打設を行う「造成アバットメント工法」を採用した。
 造成アバットメントは、水平幅(厚さ)8m、水平長さ(上下流方向)約45m、鉛直高さ約38mと大規模であり、勾配は基礎岩盤(水平)に対して1:1(45度)である。
 また、この傾斜型造成アバットメントは、コンクリート量が左右岸合わせて約27,000m3というマスコンクリートであるため、温度応力によるひび割れを抑止する対策として上下流方向に3ブロックに分割した。隣接するブロック間にはスロットジョイントを設け、ジョイント幅は型枠やコンクリート打設等の作業性を考慮して1.5mとした。
 造成アバットメントは堤体コンクリート打設に先行して施工を進め、スロットジョイントについては先行ブロック(3分割したアバットメント)の収縮によりジョイント幅が最も広がる冬期に膨張コンクリートで充填し一体化を図り、平成19年2月に施工が完了している。(写真-2)
(2)貯水池内表面遮水工法
 高透水性という地質条件から従来の工法(カーテングラウチングやリムグラウチング)では確実に遮水することが難しいため、貯水池内全面をコア材、コンクリート、アスファルトによって被覆する表面遮水工法を採用している。傾斜部はコンクリートフェーシング、河床部は土質ブランケット、常時満水位付近の中段部はアスファルトフェーシングとなっている。
 土質ブランケットは、CSG・コア材・保護材で構成される。CSGは土質ブランケットの基盤として河床部の不陸整正およびコア材の吸出防止機能を兼ねている。この河床部CSGの上にコア材が位置し、さらにコア材の流失防止のためその表面を保護材(現地発生材)で被覆している。
 また、堤体左岸直上流に位置する鞍部は崖錐堆積層および段丘堆積層等が厚く堆積しているため、コンクリートフェーシングの背面盛土として必要な強度を有したCSGを施工している。
1)左岸鞍部CSG
 CSG母材は輝岩(骨材原石採取時の廃棄岩)を使用した。
 CSG製造プラントから施工場所までの運搬については、上流側のコンクリートフェーシングとの同時施工の関係から、ダンプトラック直送用の道路取り付けが不可能であったため、CSG製造プラントから堤体左岸天端までダンプトラックで運搬し、堤体左岸天端から施工面までは運搬設備としてSP−TOM(Spiral Pipe Transportation Method)を採用した。(写真-3)
2)河床部CSG
 CSG母材は堤体基礎掘削ズリである中・強溶結の溶結凝灰岩を使用した。
 CSG製造プラントから施工場所までダンプトラックで直送した。(写真-4)
3)コア材
 現場から25km程離れた場所で採取したコア材(細粒材)を現場に搬入し、骨材原石採取跡地にストックパイルを造成した。ストックパイルは細粒材と粗粒材(骨材原石採取時の廃棄岩)を互層に積み上げ造成した。スライスカット、ブレンドしたコア材を、施工場所までダンプトラックで運搬し盛立を行った。なお、この一連の作業のうち、当JVはストックパイルから施工場所への運搬と盛立を担当した。
4)締固め管理システム
 CSGおよびコア材施工時の品質確認として「GPSを利用した締固め管理システム」を導入した。
 振動ローラにGPSアンテナを搭載し、GPSによる振動ローラ軌跡データに基づき、あらかじめ50cmメッシュに分割したCSG施工エリアの転圧回数を管理するシステムである。
 転圧回数情報は、色分けによりローラキャビン内設置のディスプレイにリアルタイム表示され、オペレータが転圧状況を把握できる。(写真-5)

▲写真-4 河床部CSG施工状況 ▲写真-5 振動ローラキャビン内モニター画面

おわりに
 地元小学生の見学会など発注者主催のイベントへの協力や近隣道路の草刈りなど、地域とのコミュニケーションを図りながら、工事はこれまで順調に進捗している。  今後も、関連工事との全体調整を図りながら、今年度末の試験湛水開始に向けて鋭意施工を進めていくとともに、地域の期待に添う立派なダムを完成し来年度の竣工を無事迎えられるよう努めていきたい。



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