建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年10月号〉

寄稿

京都国立博物館 平常展示館(仮称)

国土交通省近畿地方整備局 営繕部整備課


▲南門より平常展示館(仮称)を見る
▲西側より平常展示館(仮称)と本館を見る ▲絵画展示室

計画の主旨
 京都国立博物館は、明治30年5月、帝国京都博物館として開館以来百余年、千年の古都京都を中心に分布する、国民の責重な文化遺産を守る重大な責務を果たすとともに、その文化財の展示・保管と、調査研究を使命として、多大の成果を収めてきた。
 近年の施設整備としては、昭和31(1956)年の北収蔵庫の設置以後、同38(1963)年には事務庁舎及び講堂続いて同40(1965)年には、新陳列館(平常展示館)が建設され現在に至っている。
 その後、展示設備・展示方法の進化、生涯学習・学校教育への対応、地域との連携推進、施設のバリアフリー化など、国立博物館を取り巻く社会状況は大きく移り変わり、本博物館も現代の需要に合致した所要の機能を付加させることが求められるようになった。しかしこのような社会的要請に応えるには、現平常展示館が抱える狭陰化、老朽化、建物の非機能的分散、耐震構造上の諸問題を解決しなければならず、また地震時における観覧者の安全性の確保と文化財の保護の観点からも、現平常展示館施設及び周辺施設の見直しが急務となった。
 そこで、現平常展示館及び講堂並びに事務庁舎を建替・一体化した「平常展示館」(仮称)を建設し、併せて北収蔵庫の耐震補強及び庭園等周辺環境の整備を行うことにより、現代日本文化の源流である「京都文化」を紹介し続けてきた永年の実績により培われた『「京都国立博物館」ブランド』のよりよい発展と、国際文化観光都市・京都において京都文化発信の核となる施設に相応しい博物館を構築することを目指すものである。


▲西側より敷地全体を見る

計画概要
施設名称:京都国立博物館平常展示館
所 在 地:京都市東山区茶屋町527
敷地面積:53,182.85u
建築面積: 5,280.08u
延床面積:17,590.33u
階  数:地上4階・地下2階
最高高さ:15m
構造規模:RC造、SRC造
主要用途:博物館
用途地域:第2種住居地域
設  計:谷口建築設計研究所
監  理:近畿地方整備局京都営繕事務所
      谷口建築設計研究所
工  期:平成21年3月〜平成24年2月(予定)
▲配置図
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歴史的プロジェクトの施工に緊張と誇り

――地下空間の形成が施工の要

戸田建設株式会社 大阪支店 京都国立博物館平常展示館建築工事 作業所長 曽我 正志


豊臣秀吉由縁の地
 京都国立博物館の北には豊臣秀吉が築造させた方広寺大仏殿が発掘されています。方広寺は、徳川家が豊臣家を滅亡に追い込むきっかけとなった「国家安康」「君臣豊楽」の鐘銘で知られており、その大仏殿は奈良東大寺の大仏殿をしのぐ規模であったと言われております。広大な方広寺の石垣は京都国立博物館の敷地内にも及び、今回の工事で解体する陳列館に隣接して方広寺の南門跡も発掘されています。

工事上計画上の2つの課題
 京都国立博物館には京都市内の寺社を始めとし、外部から預かっている宝物や自ら所有する宝物を含め、20以上の国宝と180以上に及ぶ多数の重要文化財が収蔵されていると伺っています。本工事着工前の京都国立博物館では、それらの文化財が期間展示を行う「本館」と常設展示を行う「陳列館」に収められておりました。
 さて、今回の計画は、常設展示を行う「陳列館」を「平常展示館」として建て替える工事となっております。この常設展示を行う「平常展示館」の機能は、観覧者に対し宝物を展示する「展示ゾーン」と展示しない宝物を収蔵しておく「収蔵庫ゾーン」、さらにこれらを管理する「事務ゾーン」の3つのゾーンに分かれております。
 「平常展示館」では、京都市新景観条例による高さ制限や前述した方広寺の埋蔵文化財の影響で、高さ方向にも平面方向にも拡大することが難しくなり、必要な床面積を確保するために地下のボリュームを大きくする計画となっているようです。その結果として、多くの国宝・重要文化財を収める「収蔵庫ゾーン」を地下におく計画となっております。
 ところが、京都国立博物館が位置する京都は東山から鴨川に向かってなだらかに地下水が流れている関係で、地下水位が非常に高く、地下約16mまで掘削工事を進める今回の計画では、地下に配置された「収蔵庫ゾーン」の防水対策が品質上の大きな課題となっております。
 また、別の問題として、膨大な約60,000m3にものぼる掘削土の搬出や約20,000m3にもなる生コン打設量に対し、必要十分で安定した搬出入量を実現しなければならないという課題があります。「平常展示館」へのアプローチは物理的には西門(正門)、南門、東門の3つが考えられますが、3年に及ぶ本工事期間中も京都国立博物館では期間展示を行う「本館」が運営され、来館者にとってのメインアプローチである南門は工事用の搬出入口とすることは不可能でありました。また、博物館の正門である西門は門自体が重要文化財であり、工事期間中も損傷を与えないよう、文化庁などとの調整が必要でありました。更に、東門側は博物館関係者やサービス用動線の出入り口として使用されており、急激な勾配の後、直角に構内道路が曲がっており、大型の工事車輌のメインルートとして利用するには厳しいものでした。

▲現況全景写真

工事計画上の課題を 克服するための対策
 地下躯体の品質を確保するために、@密実なコンクリートを打設するAコンクリートの収縮によるクラックを防止するよう管理を徹底するB地下に余計な水みちを作らないC地下外周部の防水を確実に行う、という方針の下で工事計画を検討しております。しかし、計画建物の周囲にある方広寺に関わる埋蔵文化財は現地調査の結果、当初の想定とは異なっており、これら文化財の保護と地下の止水性確保の2つの課題を克服すべく工事に携わる関係者のご協力をいただきながら工事計画の改善を行っています。
 また、工事用搬出入口の問題については、メインゲートを博物館の正門である西門とし、サービス用動線である東門側をサブゲートと位置づけることとしております。メインゲート側の課題としては、重要文化財である西門(正門)を3年の工事期間中に損傷させないよう、また史跡である方広寺の石垣を崩すことがないよう、事前協議の結果、盛土による有効幅9m、長さ約60mに及ぶ仮設スロープを造成し、博物館の正門を保護しながら、工事用車輌が史跡である方広寺の石垣を山越しして計画地敷地内に入っていく計画としました。これによって、必要を満たし、安定した搬出入口を確保することができると考えております。

二度と巡り合えない工事
 日本には、京都国立博物館を始めとし、東京、奈良、九州と併せても国立博物館は4つしかありません。今まさに我々が推し進めている今回の工事は、日本国内における博物館として稀に見るビッグプロジェクトであり、求められる品質や施工条件は極めて厳しいものであります。しかしながら、竣工後100年以上残るであろう二度と巡り合えない工事を進めているのだという実感を噛み締めて。成功裏に竣工できた暁には、工事屋としての自信を深め、胸を張って人に説明できる。
 必ず決められた工期内に今回のプロジェクトを無事竣工させ、多くの関係者の方にご満足いただける御建物を納められますよう、作業所員全員が一丸となって日夜格闘しております。





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