建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年9月号〉

ZOOM UP・寄稿

サトウキビを干ばつから守れ

――多様な活用が期待されるサトウキビの生産拡大で徳之島経済の活性化を促す

九州農政局徳之島用水農業水利事業所 徳之島ダム


▲徳之島ダム完成予想図

 九州農政局徳之島用水農業水利事業所は、徳之島地区の農業用水を確保するため、徳之島ダムの建設事業に着手している。徳之島は鹿児島市の南南西に位置する248?の楕円形の島で、奄美群島(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、世論島)の中で奄美大島に次ぐ面積を有する。人口は徳之島町、天城町、伊仙町の3町を合わせて約2万8,000人で、「長寿の島」、「闘牛の島」として知られる。亜熱帯海洋性気候で、年間平均気温21℃以上、年間降水量約2,200oと多雨だが、降水量のほとんどは梅雨期と台風期に集中する反面、7月から10月には干ばつ被害を受けやすい。
 面積は奄美群島全体の2割だが、耕地面積はそのうち4割を占める農業生産の拠点となっており、さとうきびをはじめ野菜、畜産との複合経営が行われている。中でもさとうきびの生産量は奄美群島全体の生産量の約5割、畜産もその約4割を占めている。
 さとうきびの収穫面積は、昭和56年の5,260haをピークに減少する反面、園芸作物や飼肥料作物が大幅に増加しているものの、いまなおさとうきびの作付け率は6割以上で、徳之島農業の基幹作物としての地位は不動であり、依存度は高い。しかも、近年では単なる砂糖の減量としてだけでなく、様々な自然資源としても注目されつつある。それだけに、生産量の増減は地域経済と密接に関連し、近年に見られる生産量の減少は地域経済を低迷させる要因となっている。
こうした基幹作物による経済発展のためには、亜熱帯海洋性気候を生かした農業の確立がポイントだが、離島という立地条件等から畑作用水に関する基盤整備が遅れているのがネックであり、また干ばつへの対策も重要だ。
 このため九州農政局は、秋利神川に徳之島ダムを築造して水源を確保し、幹線水路等を施工するとともに、末端畑地かんがい施設、農地造成、区画整理、農道等の整備によって、農家の経営規模拡大と生産性の向上を図ることで、中核農家の育成と地域農業の振興を促すことにした。





奄美郡島で最大規模の徳之島ダム

――監査廊分断のハンディを乗り越えて施工

鹿島・フジタ・株木 徳之島ダム建設工事事務所 所長 児玉 敏則

▲図-1 徳之島ダム完成予想図
▲写真-1 徳之島ダム全景(2009年7月9日撮影)

はじめに
 徳之島ダムは、鹿児島本土から南西に約450km、奄美大島と沖縄本島の間に位置する徳之島に建設中である。徳之島は、周囲84km、面積248kuで、徳之島町・天城町・伊仙町の3町からなり、人口は約2万8,000人。主産業は、サトウキビを中心とした畑作農業であるが、降水量のほとんどは雨期(2・3月)・梅雨期(5・6月)と台風時に集中し、7〜10月は干ばつの被害を受けやすい。そこで、干ばつから作物を守り、さらに高収益作物栽培を可能にするため、当ダムの建設を核とした農業水利事業が進められている。

1.工事概要
 徳之島ダムは堤高56.3m、堤頂長265.5m、堤体積689,300m3の中央遮水ゾーン型ロックフィルダムで、完成すれば、奄美で最大の規模である。
 当工事の特徴は、@左岸側は30°〜40°で傾斜し、流れ盤になっている、A河川流量が大きい(設計洪水量1,150?/s)ため、堤体に比して洪水吐の規模(約60,000m3)が大きく、全量購入コンクリートである、B施工条件より監査廊斜面部のコンクリート打設が配管打設となり、圧送距離が最大水平換算距離で約250mに達する、C河床部左岸側には断層が確認されており、その断層を境とし地盤の変形係数に極端な差があるため、監査廊が分断されている、などがあげられる。
 工事経過については、平成16年12月に着工、平成17年5月に秋利神川の流れを迂回させる転流式を終え、引続き堤体基礎掘削を開始、平成18年5月には洪水吐コンクリートの打設開始、そして平成20年11月から堤体盛立を開始している。平成21年7月末現在、洪水吐コンクリート打設約96%、監査廊コンクリート打設約98%、堤体盛立約17%が進捗している。

2.監査廊コンクリートのポンプ圧送性の向上
 監査廊斜面部のコンクリート施工は、配管打設となり、圧送距離が非常に長いため、事前にポンプ圧送性の照査を実施した。その結果、単位セメント量およびスランプのそれぞれを増加させる必要があった。スランプは、高性能AE減水剤を用いて、単位水量を増加させることなく、8cmから15cmに増やすこととした。一方、監査廊はマスコンクリートであり、単に単位セメント量を増加してポンプ圧送性を向上させることが困難と考えられた。そこで、セメントの比表面積とほぼ同じであり、不活性で水和反応に寄与しない石灰石微粉末を混和材として使用(m3当たり60kg使用)することとし、配合試験および施工実験によりその効果を確認した。平成20年8月から実施工を開始し、全体の約98%の打設が完了しているが、配管閉塞、ジャンカなどの初期欠陥、温度応力による有害な温度ひび割れなどは生じていない。

▲図-2 監査廊構造図
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3.廊内作業の安全対策
 一般のダムでは、監査廊は連続した構造となっているが、当ダムでは、監査廊が河床部にて分断されており、左右岸で連続しないため、空気が通りにくく、第1種酸素欠乏危険箇所に該当する。そこで、@廊内作業従事者全員に第1種酸素欠乏危険作業特別教育を受講させる、A換気設備を設置するとともに最大入坑人数を制限している、B監査廊内に設置した酸素検出器により坑内環境の状況をリアルタイムに測定し、監査廊構築中の入口に設置したモニターにて表示し、酸素濃度の異常時には警報ブザー及び回転灯により入坑者に退避を促す、C火災、酸欠状態等の非常時を想定して、救護設備・緊急非難設備を設置、などの安全対策を実施している。

▲写真-2 定礎式状況(礎石搬入)

おわりに
 徳之島ダム建設工事は、ダム工事において最も重要な式典である定礎式を7月17日に終え、今後、堤体盛立工事の最盛期を迎えるが、厳しい暑さと同時に台風の被害を受けやすい時期でもある。こられの厳しい自然環境を克服し、平成22年度の盛立完了、平成23年度の試験湛水開始を目指して鋭意努力している。



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