建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年9月号〉

interview

寒冷地ならではの新技術開発で大きな成果(後編)

――他企業との共同研究も積極的に推進

東日本高速道路株式会社 北海道支社 支社長 山本 裕己氏

山本 裕己 やまもと・ひろみ
昭和52年3月 北海道大学 工学部 卒業
昭和52年4月 日本道路公団 採用
平成16年4月 東京建設局 建設第一部長
平成17年7月 関東支社 管理事業部長
平成18年7月 本社 総務部次長
平成20年6月 北海道支社 支社長

 北陸を含む東北以北は、冬期間に積雪があることから、関東以南とは道路の維持管理や運営のあり方も異なる。とりわけ、シベリア寒気団の影響により、氷点下10℃以下に達する厳しい北海道の冬は想像を絶するものがある。このため、温暖な地方の資材・工法をそのまま流用できないケースもあることから、効率的なメンテナンスや運用のために独自の技術や資材・工法の開発を余儀なくされる。NEXCO東日本は、画期的な研究開発によって成果を上げているだけでなく、さらにアイデアを広く求め、他企業との共同研究なども積極的に行っている。

前号続き

──建設工事における事業費の節減や、環境対策などに対する時代の要請もあり、施工技術の開発・改良も必要ですね
山本 当社としては、「安全性・快適性の向上」、「事業の効率化」、「沿道環境や地球環境の保全」などを目指して、技術開発や新たな施工技術の導入に積極的に取り組んでいます。  例えば、安全性・快適性の向上のために、北海道型高機能舗装の導入を進めています。高速道路の舗装は、お客様の安全、快適性の確保に非常に大きな影響を与えるものです。従来、高速道路においては、雨天時の交通事故が大きな課題となっていましたが、この対策として優れた排水性能をもつ高機能舗装を開発し、全国的に導入しました。その結果、湿潤時の事故率が約8割も減少し、高速走行時の安全性と快適性が飛躍的に向上しました。  ところが道内の高速道路は、冬期の厳しい気象条件による凍結融解や、除雪車のスノープラウによる路面損傷が激しく、特に高機能舗装についての耐久性向上が課題でした。このため、従来の機能と遜色なく、かつ耐久性に優れた「北海道型高機能舗装」を開発し導入しています。  この北海道型高機能舗装は、北海道の気象条件、雪氷作業環境などに適合するように開発した新しいタイプの舗装混合物で、表面に5mm程度の凹凸を持たせた適度な粗面を有し、内部は密実な構造となっています。その結果、高いすべり抵抗性を有しながら、雨天時のスモーキング現象やハイドロプレーニング現象の抑制効果も合わせ持つこととなり、安全で快適な交通の確保に寄与します。  一方、密実な内部構造は、耐流動性と耐磨耗性の双方に優れ、かつ、水密性を有することから、高い耐久性が期待されます。近年、高速道路における雨天時の死亡事故率は、高機能舗装の普及に伴い、減少しています。例えば、警察庁の調査によると、平成13年の雨天時の死亡事故率は晴天時の約4倍だったのが、18年は約2倍へと減少しました。
──トンネルなどの照明も工夫をしたそうですね
山本 事業の効率化と地球環境保全につながる対策として、低温環境下におけるトンネル照明の蛍光灯化を進めています。従来のトンネル照明には、経済性の観点からナトリウムランプが用いられてきましたが、近年は自然光に近く見やすい蛍光灯が安価となったことから、全国の高速道路で標準的に使用されるようになりました。  しかしながら、蛍光灯は低温環境下では明るさが低下する特性があるために、道内の高速道路では導入できませんでした。その対策として、低温時でも必要な明るさが確保でき、経済性にも優れ、省エネ設備として地球環境にも優しい「低温対策型蛍光灯」を導入することにしました。
──どのようにして、それが可能になったのですか
山本 蛍光灯は両端部が最も温度が低く、これを最冷点といいますが、この部分の温度が低下すると明るさが低下します。そこでランプに保温カバーを装着し、最冷点を保温しています。予定としては、今年度開通予定の道東自動車道(占冠IC〜トマムIC間)以降、今後に建設するトンネルや、老朽化更新時にこの低温対策型蛍光灯を導入してまいります。  それからもう一つの新技術として、冬期道路管理を支援するIT技術である道路画像配信システムを紹介します。  北海道内では、冬期の厳しい気象状況下においても高速道路の安全・円滑な交通を確保することが、重要な課題となります。このため、除雪や凍結防止剤の撒布といった雪氷対策を実施していますが、これを的確に実施するには、刻々と変化する降雪状況や地吹雪などによる視程障害の状況などを、的確に把握することが重要となります。  そこで、従来は路側に配置した気象観測施設と定期的な巡回によって、天候や路面状況、視界の状況などを把握していましたが、より迅速かつ的確に現場状況を把握するために、道路巡回車にカメラやGPS装置を塔載し、リアルタイムで管理事務所へ情報送信する「道路画像配信システム」を開発し、試行的に導入しています。  当社の管理する高速道路の延長も、今年度はいよいよ620kmに達する状況となっていますから、今後は高速道路の管理に関する新技術等の開発、導入がさらに重要になります。
──今後の情勢の変化によって、時代の要請も変わってくるでしょう
山本 当社では、企業が開発した新技術や新工法も積極的に活用していきたいと考えています。そこで、新技術に関する情報交流の窓口として、「TIネットワーク(Technical Interchange Network)」を平成19年3月に開設し、提案を広く受け付けています。これまでに約200件の提案を受け、2件については共同研究・開発に取り組んでいます。  その一つは、橋梁伸縮装置の防音構造体です。これは高い吸音性能を持つパネルを用い、橋梁の伸縮装置下部から発生する騒音を抑制するための防音構造体です。関越道の大泉高架橋で採用されました。  もう一つは、ユリ科植物のマット植栽工法です。これまで株分けによる繁殖が主流であったユリ科植物(ヤブラン)について、種子繁殖による技術を用い、雑草を抑制する植栽マットと組合せた製品・工法で、現在は東北道大谷PAで試験施工中です。将来は、本線路肩等に導入しヘデラなどの代替を目指しています。  さらに、この1月からは、当社が求める技術要件を明確にした上で提案をいただく、新たな取り組みも開始しました。今回は、保全業務の省力化と効率化に資する技術及び環境に関する技術14件の募集を行い、66社から71件の応募を頂きました。それらの提案については、社内で検討を進めており、共同で研究・開発をおこなう企業を決定する予定です。

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