建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年8月号〉

ZOOM UP・寄稿

那珂川沿岸農業水利事業の中心拠点となる御前山ダム

――茨城の農産物の品質と生産性向上に貢献

関東農政局那珂川沿岸農業水利事業所 御前山ダム


▲御前山ダム完成予想図

 関東農政局那珂川沿岸農業水利事業所は、茨城県常陸大宮市の那珂川に合流する相川に、御前山ダムの建設を進めている。このダムは、県北部の水戸市を含め4市3町1村(水戸市、ひたちなか市、常陸大宮市、那珂市、茨城町、大洗町、城里町、東海村)を対象に、那珂川沿岸にある畑地と小支川流域にある水田の計5,540haの農業地帯に農業用水を供給する「那珂川沿岸農業水利事業」の一貫として行われる。
 この台地上の畑地帯は、年間の降水量が1,300mmと少なく、しかも多くは小区画で農道、水路が未整備のままとなっていた。一方、水田は小河川や溜池、地下水を水源として利用しているため、恒常的な用水不足に悩まされており、農業の近代化の足かせとなってきた。特に大消費地となる首都圏を背後圏に持つだけに、近代化と生産性の向上に欠かせない農業用水の確保と安定供給は、地域農家にとって長年の悲願だった。
 そこで、御前山ダムの建設によって農業用水を確保し、那珂川に新設する2つの揚水機場で取水して、総延長97q18路線のパイプラインを通じて安定供給する那珂川沿岸農業水利事業が計画された。この御前山ダムは、この施策における重要な水源となるもので、これによって農業用水不足の心配から解放されるばかりでなく、新技術を導入した農業の近代化が可能となる一方、農作物の収量安定、農産物の品質向上、生産性の向上による労働の軽減など、農業経営の効率化と安定化に貢献するとともに、食料自給率の向上が求められる時代の要請にも応えることが可能となる。
 こうした国営農業水利事業の効果を生かすため、地元茨城県では圃場整備などの関連事業を計画しており、圃場の区画整理、暗渠排水などの生産基盤整備を通じて、生産性の向上と近代化を実現させていく方針だ。
御前山ダムは、こうした国策のカギとなるダムであり、地域農家、自治体の期待を背負い、国民への食料供給においても重要な役割を果たす使命を担うために建設されている。


御前山ダム諸元
位    置:茨城県常陸大宮市下伊勢畑内
型    式:中心遮水ゾーン型ロックフィルダム
流 域 面 積:23.3ku
堤    高:52m
堤  頂  長:298m
堤 体 積:92万m3
総 貯 水 量:720万m3
有 効 貯 水 量:650万m3
洪 水 吐 型 式:自由越流型側水路(洪水吐対象流量850m3/s)
減 勢 工 型 式:ローラバケット式
取水施設型式:斜樋



水戸に初めてのロックフィルダム

――地域住民も興味津々

鹿島・西松・株木 特定建設工事共同企業体 所長 池田 邦彦

池田 邦彦 いけだ・くにひこ
経歴:
北海道出身
昭和58年 長岡技術科学大学大学院 修了
昭和58年 鹿島建設株式会社 入社
昭和60年 水資源開発公団 奈良俣ダム建設工事
平成 5年 インドネシアコタパンジャンダム 建設工事(東電設計出向)
平成12年 関東農政局 御前山ダム建設工事
資格:
ダム工事総括管理技術者、技術士(建設部門)、上級技術者(土木学会)

1.工事概要
 御前山ダムは、那珂川水系相川の茨城県常陸大宮市下伊勢畑地内に建設される農業用水専用(灌漑)ダムであり、ダム下流に広がる那珂川周辺の畑地、水田を合わせ5540haの受益地へ農業用水を供給します。ダムの規模は堤高52m、堤体積約93万m3の中心遮水ゾーン型ロックフィルダムです。またダム周辺地域には奈良時代の光謙天皇と弓削道鏡の遺跡と呼ばれるものがあり、ダム建設地点も江戸時代には藩領であって、現在は県立自然公園に指定されており自然環境の豊かな場所となっています。

2.工事経過
 ダム建設工事は平成12年1月より基礎掘削を開始、同年11月より洪水吐急流部コンクリート工を着手、施工途中ではオオタカへの配慮や淡水性の藻類であるチスジノリの保護などを行い、平成18年5月より盛立を開始、平成20年11月に盛立を完了しました(写真-1)。現在は洪水吐下流部周辺の護岸工など周辺整備工事を施工中です。

▲写真-1 ▲写真-2

3.施工に当っての留意点
 御前山ダムでは、盛立工事や監査廊工事などでの品質確保、工程確保、環境保全のため、いくつかの創意工夫を実施しました。以下に主なものを示します。
@監査廊コンクリートのひび割れ防止対策として、暑中対策として打設後養生用大型テントの開発、コンクリートのクーリングを実施。また寒中養生として厚さ1mの「もみがら」敷設。
A凹凸のある岩盤面はコア(止水材料)が密着するよう着岩コア材などで充填する必要がありますが、その密着性確保のための材料を製造する「止水材だんご製造機」の開発(写真-2)。
B御前山ダムのコア材はローム材と強風化岩を混合していますが、この混合材料の品質を安定化させるための「標準コア攪拌機」の開発(写真-3)。
C降雨後などのコア材の材料を一定品質で供給するためのコア材保管設備として「大型養生テント」を導入(写真-4)。
DIT土工管理システムのうち、コアの敷均し厚さを自動制御するブルドーザ敷き均しシステム、フィルターやロックゾーンの締固め回数を自動管理する振動ローラ締固めシステムを導入。
E工事区域が特別に目立つ存在にならないよう仮設備に自然に溶け込む配色(茶色など)を行い、騒音・振動の発生が少ない工法を選択するなどを工夫(制御発破工法、機械設備の防音対策など)。

▲写真-3 ▲写真-4

4.おわりに
 御前山ダムは茨城県水戸周辺地区では、はじめてとなるロックフィルタイプのダムであるため、施工当初から地元の方々には注目されていました。そこで発注者と協力して現場見学会などの実施や、地元小学生の理科授業の場(地層など)の提供、工事区域周辺道路の一斉清掃など、地域とのコミュニケーションを図ってきています。今後のダム工事は平成23年に試験湛水を予定しており、今まで以上に積極的に情報を発信し、地域に愛されるダム造りに取り組んでいきたいと思います。



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