建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年8月号〉

interview

高速道路整備率が全国の中でも下位の北海道(前編)

――高速道路ネットワークの整備に全力

東日本高速道路株式会社 北海道支社 支社長 山本 裕己氏

山本 裕己 やまもと・ひろみ
昭和52年3月 北海道大学 工学部 卒業
昭和52年4月 日本道路公団 採用
平成16年4月 東京建設局 建設第一部長
平成17年7月 関東支社 管理事業部長
平成18年7月 本社 総務部次長
平成20年6月 北海道支社 支社長

 道路特定財源は一般財源化されるなど、とかく道路整備は世論の槍玉に上げられるが、ネットワークの遅れている地方では、暮らしの生命線ともなっている。とりわけ全国でも最大の面積を持ち、都市間距離が長い北海道の場合は、高度の医療機関を利用するためにも高速道路は欠かせない。にも関わらず、2008年の統計調査では、その整備率が全国的にも低いという寂しい状況にあり、既存路線の完成が待たれるところだ。570万道民の期待を背負って、整備・運営に当たるNEXCO東日本北海道支社の山本裕己支社長に、事業計画と整備状況などを伺った。

──全国の統計データによると、北海道の高速道路整備率は全国でも下位の結果ですが、高速道路の建設・運営を担うNEXCO東日本北海道支社としてどう捉えていますか
山本 北海道は非常に広大な土地に都市が分散しており、人の交流はもちろん物流においても長距離移動が日常化しています。しかも、冬期は厳しい気象条件にさらされます。私たちNEXCO東日本北海道支社が建設・管理する高速道路は、こうした地理的・気象的条件下にある北海道でこそ、道民の皆様の生活に密着した基本的なインフラとして大いにお役に立てるものと考えています。高速自動車国道の整備率を見ると、全国では66%であるのに対し、北海道はわずか42%でしかなく、高速ネットワークの整備はやはり遅れていると認識しています。
──現在の整備状況や課題は
山本 現在、建設している区間のうち、平成21年度は北海道縦貫自動車道の落部〜八雲間16kmと、もう一つは北海道横断自動車道の占冠〜トマム間26kmの開通を予定しています。この2区間の開通によって、道内の開通延長は620kmを超えて整備率は45%となります。  今後も高速道路保有・債務返済機構との協定に基づき、整備を着実に進めることが基本ですが、道央圏と道東圏とを結ぶ横断道として、残る未開通区間の夕張〜占冠間34kmについては平成23年度に開通させるべく、全線で工事の最盛期を迎えています。この区間では、多くの地すべり地帯を抱えるとともに、トンネルが多く、蛇紋岩という非常に脆弱な地質を通過する難工事も含まれているので、工事は慎重に進めています。  道南地域へ向う縦貫道の大沼〜落部間30kmは、まだ用地上の問題がいくつか残されていますが、平成24年度の開通に向けて、鋭意事業を進めています。札樽道から分岐する横断道の余市〜小樽間23kmについては、現在地元の方々との設計協議を進めているところです。協議がまとまれば、順次、用地取得のための測量作業などに着手します。このほか、新直轄区間である横断道の本別〜阿寒間は、一部区間を北海道開発局からの受託事業として施工しています。  また、北海道の地域特性から、特に冬に強い高速道路の整備に力を入れています。具体には、平成21年度開通区間の全線に「自発光スノーポール」を設置し、降雪や地吹雪による視程障害の低減を図っています。
──建設された道路の管理、運営、改良なども課題ですね
山本 管理事業においては、安全で円滑な道路交通を確保しつつ、ETC設備の拡充を図るなどして、効率的で使いやすく、地域に貢献できる道路管理を目指します。平成21年度は、雨天時の走行環境を向上させるため、高機能舗装化を進めます。また、逆走を防止するために、ランプ合流部の路面標示や標識を増設します。  冬期の安全対策としては、自発光スノーポールを増設します。また、札幌の高架区間で除雪作業の速度向上と通行止め時間の減少をめざし、マルチ悌団除雪を導入しています。橋梁については、耐震補強などの防災対策を実施し、災害に強い道路づくりを進めています。  道東自動車道の占冠〜池田間では、ETC設備を設置します。ETCの利用増加への安全対策としては、バー開閉の遅延化や路面表示の改良を実施します。そのほか、道央道の輪厚PAには、北海道で初となる「輪厚スマートIC」を、6月29日にオープンしました。これによって、北広島市中心部からのアクセスが向上し、地域の利便性が向上します。
──民営化によって、事業展開に幅ができたのでは
山本 そうです。民営化後はお客様サービスの向上を目指して、日々改善を進めています。例えば、休憩施設については、先の輪厚PAで営業施設のリニューアルを行いました。また、地域の特産物・工芸品等を販売する地域特産品市場などのサービスを拡大します。
――高速道路が整備される事でもたらされる効果にはどんなものがありますか
山本 いくつかの事例を紹介させて頂きますと、交通安全においては、高速道路は死傷事故率が、全道路の死傷事故率に対して12分の1であり、一般道路に比べると極めて高い安全性を有しています。例えば、道央自動車道の旭川鷹栖〜士別剣淵間において、高速道路の整備前後で比較した場合、並行する一般国道12号、39号及び40号を含めて死傷事故件数が約1割減少し、重大事故件数も約4割減少しています。これは道央道の整備により、通過交通が一般国道から高速道路に転換したことで、並行する一般国道を含めて安全性が改善されたものと考えられます。  次に交通障害やリスクの改善の観点から見ると、道央と道東を結ぶ大動脈である一般国道274号の日勝峠は標高が1,000mを超え、急峻な地形と過酷な気象条件下による交通の難所でしたが、並行する道東道トマム〜十勝清水間の開通により、道路標高が約400mも下がり、縦断・平面線形も大幅に改善し、過酷な峠越えが回避されるため、吹雪、濃霧などの交通障害リスクも大幅に改善され、安全で円滑な道路交通の確保が可能になりました。  また、夕張〜十勝清水間の道東道は、移動時間の短縮にも大きく貢献するもので、全線が開通すれば、札幌と帯広が現在より1時間近くも短縮されて3時間程度になります。
──高速道路の持つ機能と価値は、多角的ですね
山本 この5月には、日勝峠において降雪による通行止めが発生しましたが、道東道のトマム〜十勝清水間が迂回路として機能することで、異常気象時におけるリダンダンシーが強化されていることが実証されました。  また、高速道路ネットワークの整備は、災害時における物流の確保、高次医療機関への搬送時間の短縮などにも大きな効果を発揮するため、各地域の皆様からも早期の整備を要望されています。当社としても1日も早い完成に向けて、今後とも努力してまいります。
──近年は建設工事の契約において、過剰なダンピング競争が横行していましたが、これによって正常な経済発展が阻害されてきました。このため、政府も自治体も正常化に向けて取り組んでいますが、NEXCO東日本としての取り組みは
山本 低価格入札への対応としては、国などの動向も参考にしながら、ダンピング受注など不適切な低入札の排除に取組んでいます。  品質と価格で総合的に優れた調達方式を採用する観点から、価格と価格以外の要素を考慮する総合評価落札方式を積極的に導入しています。当社の総合評価落札方式には3種類があり、一つは当社が標準としているもので、施工の確実性や優良業者のインセンティブを高めるために、同種工事の成績や表彰実績などを提出していただき評価する工事成績評価型という方式です。  二つ目は、WTO基準額を超える大規模工事や、技術的難度の高い工事については、施工上の技術提案をいただいて評価する技術提案評価型と称するものです。そして三つ目は、比較的規模が小さな工事について、施工の確実性を確保するため、簡易な施工計画や同種工事の成績などを提出してもらって評価する施工体制評価型と称する方式です。  このほか、二つ目の低入札対策としては、入札価格が一定の基準価格を下回る場合に、低入札価格調査を実施しています。この低入札調査を実施する基準価格については、国の基準が今年4月に変更されて、公契連(中央公共工事契約制度運用連絡協議会)のモデルも同様に改正されました。  当社はこの公契連のメンバーでもあるので、国の動向や公契連の改正を踏まえて、この5月1日以降に入札公告した工事から、低入札調査の基準価格の上限を契約制限価格の85%から90%へ引き上げました。  そして、もしも低入札があった場合には、契約内容に適合した工事の履行がなされるかどうかを確認するため、その価格で入札した理由、工事費内訳の明細書などの資料を提出してもらい、応札者からヒアリングを行うなどして調査しています。その結果、契約内容に適合した履行がなされない恐れがあると判断した場合は、落札しないことにしており、次点となった会社と契約または調査を行っています。  三つ目の対策として低入札の場合に、工事契約時の履行保証(契約保証)の割合を、通常の10%に対して、30%に高めています。  これらの対策によって、低入札の抑止効果が期待できるものと考えていますが、低入札価格調査を実施して契約に至った工事については、施工計画の確認や、現場における工事材料の確認、立会検査などを強化しています。

(以下次号)


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