建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年5月号〉

interview

新千歳空港を最大限に生かして苦境を乗り切る

――市民力と都市力を発揮するための努力が結実

千歳市長 山口 幸太郎氏

山口 幸太郎 やまぐち・こうたろう
昭和17年4月10日生まれ 千歳市出身
最終学歴
明治大学政治経済学部卒業
職歴
昭和50年4月 株式会社三美代表取締役社長就任(平成13年6月1日退任)
昭和62年4月 千歳市議会議員(2期)
平成 3年4月 北海道議会議員(3期)
平成15年4月 千歳市長就任(現在2期目)
公職
防衛施設周辺整備全国協議会副会長
全国基地協議会理事
北海道市長会監事
北海道自衛隊駐屯地等連絡協議会会長
北海道基地協議会会長
北海道空港協会会長
(財)北海道健康づくり財団副理事長
(社)北海道交通安全推進委員会副会長

 地方切り捨てと批判される三位一体改革や、企業経済の悪化を招いた構造改革による不況のダブルパンチにより、全国のほとんどの自治体が財政緊急事態に陥り、存続の危機に直面している。だが、北海道の玄関である新千歳空港を擁する千歳市は、厳しいながらも健全な財政運営を維持している。それは空港と自衛隊がもたらす経済効果もさることながら、千歳市と千歳市民がそれらを最大限に生かし、苦境を乗り切るために意識を共有したことが大きなカギとなっている。

――全国の自治体が深刻な財政難に悩まされている中で、千歳市は比較的に堅調ですが、どこにポイントがあるのでしょうか
山口 本市の平成17年度時点の産業別人口構成比を見ると、農業、林業などの第1次産業は3.2%、鉱業、建設業、製造業などの第2次産業は18.8%で、商業、サービス業、行政などの第3次産業は77.0%に上り、その他は1.0%とという比率で、第三次産業が中心となっています。  その第3次産業の特徴としては、日本最大の自衛隊基地があるため、そこに勤務する国家公務員が多く、また新千歳空港を中心に鉄道、高速道路が結節する交通の要衝地となっているため大規模アウトレットモールが形成されています。さらに、観光資源として国立公園支笏湖などもあることから、サービス業、運輸業、飲食店、宿泊業などの就業人口が圧倒的に多く、全道平均の71.3%に比べて高くなっています。  したがって、常住人口は91,388人ですが、昼間人口は96,531人で、約5千人も上回っており、それだけ周辺都市からの流入人口が多く、昼間の産業活動が活発です。平成17年国勢調査における昼間人口比率は、105.6%となっています。
――農業や建設業が基幹産業となって、地域を支えてきた従来の北海道型経済構造とは、かなり異なっていますね
山口 新千歳空港をはじめとする交通アクセスと、名水百選に選ばれた優れた水資源、そして充実した産業インフラの他、千歳科学技術大学などで優秀な人材を供給できる体制があり、住みよさランキングでは道内1位、全国86位に選ばれた住環境が整っています。お陰で進出した企業からはバランスの取れた、道内でも「最良の工業適地」と高い評価をいただいています。  その結果、電子部品関連ではパナソニック、セイコーエプソン、SUMUCO(サムコ)、ミツミ電機、自動車部品関連ではダイナックス、デンソー、飲料・食品関連ではキリンビール、キッコーマン、カルビー、日清食品、研究開発関連では、日本食品分析センター、日本電波工業、医薬品関連では、日本赤十字社、バイファなど、国内大手の製造業をはじめ多くの企業が進出しています。
――立地先として好条件に恵まれていたのですね
山口 それだけではありません。インフラだけを整えて、ただ待っていたわけではなく、私たちは企業誘致を市政の重点施策に位置づけ、平成17年度から土地リース制度の導入や空き工場に関する情報公開と斡旋、平成20年度から間接リース制度の導入など、新規の政策を積極的に展開してきました。この間接リース制度とは、「リース事業者等が立地企業に土地と建物を併せて賃貸する方式」で、地方自治体が工業団地で取り組んでいる事例は、全国でもごく僅かです。  さらに、平成18年度からは「企業誘致戦略プラン」を策定し、提案型の企業誘致を基本コンセプトとして、「企業のために何ができるのか」、「何が企業にとってベストか」など、「相手の立場に立つ」提案や、進出する企業の視点でスピード感のあるワンストップサービスを実施しています。  そして、空港周辺で進めている美々プロジェクトにおいては、千歳科学技術大学を中核とする産学官連携の取り組みが進められており、これがセイコーエプソン鰍フ進出の機縁となりました。また、千歳オフィス・アルカディアはアウトレットーモールの進出などにより、すでに完売となっている状況です。臨空工業団地も多種多様な企業が立地し、今年からは潟fンソーエレクトロニクスが操業を開始します。  こうした企業集積を促進するため、21年度においては企業立地促進法に基づく当市独自の「地域産業活性化基本計画」を策定し、国の支援策を活用しながら食品関連・光関連・物流関連の産業集積を図っていく方針です。  北海道の冷涼な寒冷地特性の気候は、決してデメリットばかりではありません。冷房用のエネルギーが本州よりも格段に抑えられるため、省エネにおいても有利なのです。しかも、最近では冬の雪を保存・活用する技術も確立され、冷房費だけでなくCo2削減も期待されています。  これらのお陰で、平成15年4月に市長に就任して以来、これまでに34件の企業誘致に成功しました。今後とも本市の持つ総合的な「都市力」を、事業の拡大を目指す企業の皆様に積極的にアピールしていきたいと考えています。
――地域に国際空港を擁していることは、発展の上で大きなインパクトとなりますね。これをまちづくりに生かせるかどうかも、まちづくりの成否の決め手となるのでは
山口 新千歳空港は、日本の北の拠点空港として、かつ北海道の経済活性化の起爆剤としても期待されています。そのため空港周辺地域においては、空港機能を最大限に活用し、国際ビジネスゾーンの形成をめざす「北海道エアロポリス構想」や「新千歳空港の国際拠点空港化」などが進められてきた経過があります。  近年ではアジアを中心とした北海道観光の人気の高まりにより、国際線の需要拡大が見込まれることから、国際線専用ターミナル施設が2010年3月の供用に向けて建設されています。  そこで当市は、これらを踏まえて美々プロジェクト、千歳オフィス・アルカディアなど、各種の空港周辺プロジェクトを推進し、国際的視野に立った流通・物流機能や研究開発機能、先端技術産業などの集積に向けた基盤整備など、空港と共存共栄するまちづくりを進めています。当市の特性・優位性を活かしつつまちづくりを進める上で、その柱となる理念は「安心」と「活力」ですが、新千歳空港はこの「活力」の原動力です。それゆえに、市政においては「企業誘致」や「観光」など、空港を視野に入れた政策を重点政策として位置付けているのです。
――世界的な金融不安と円高不況などにより、観光は打撃を受けていると伝えられます
山口 千歳市は空港をはじめ鉄道・道路などの交通の要衝ともなっていることから、千歳の観光といえば、とかく「立ち寄り型」、「通過型」などと言われてきました。  そこで今後は、昨年の洞爺湖サミットと連動して開催されたジュニアエイトサミット参加者から好評を博した、「静かな佇まい」を売りものとする支笏湖温泉や、広大な農村地区での体験観光を観光資源に、空港所在地の利点を生かして、札幌市周辺の市町村や関係機関・団体、観光事業者などとも連携し、滞在型観光を目指したいと考えています。
――そうした有力な財政基盤を生かし、どのような都市を作ろうと目指していますか問
山口 私は本市の発展の原動力は、市民がそれぞれに持っている多様な資質や、優れた能力によって生まれる「市民力」と、平均年齢が若いこと、都市機能が高いこと、多様な企業が集積していること、そして日本一の自衛隊のまちであることなど、さまざまな特性や優位性を背景とした「都市力」にあるものと考えています。この「市民力」と「都市力」を最大限に活かして、ふるさと・千歳の発展を持続させていくことが、私に与えられた使命です。  その市民力を高めるために、私は市長に就任して以来、徹底して「課題の共有」、「市民主体」、「市民協働の都市経営の推進」を、市政運営の基本姿勢として貫いてきました。そして、市民説明会や出前講座など市民との対話を積極的に進めてきました。  このように市民が市政に参画しやすい仕組みづくりを進め、市民主体、市民協働のまちづくりを実現することで、「市民力とまちの特性を生かし幸せを実感できるまち」にすることが、私の目標です。
――そうした理念を、新年度予算でどのように反映しましたか
山口 新年度予算は、財政健全化対策の確実な達成を目指すことを基本としつつも、現下の厳しい景気・雇用情勢を踏まえ、一定の事業量を確保し、地域における経済活性化策など独自の景気対策を盛り込んでいます。  景気・雇用対策に加えて、再編交付金を活用した地域振興策や、子育て支援、観光振興など地域の生活と経済の活性化、新たな長期総合計画の策定に合わせた各分野の個別計画の策定。そして、千歳市の命名205年・開庁130年、また支笏洞爺国立公園指定60周年、アンカレジ市との姉妹都市提携40周年、長春市友好親善都市提携5周年など、多くの節目を迎える年なので、記念事業関連経費などに重点配分し、これを「千歳の“ちから”創造予算」と命名して取りまとめたところです。  財政状況について言えば、一時期は赤字財政となったこともありましたが、現在は黒字財政へと転換し、健全化しています。市民参加による市政の協働運営に徹した結果、市民が市政の課題や財政状況を理解し、緊縮財政に積極的な協力を得られた成果だと言えます。そうした市民力の維持・向上のためにも、今後はさらに道立高等養護学校が必要となるので、所管官庁である北海道の協力を得たいところです。

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