建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年5月号〉

interview

国と自治体それぞれの長期計画を補弼し合う地域づくりを推進(中編)

――入札参加条件の細分化と追加により不適格業者を排除

北海道開発局 局長 鈴木 英一氏

鈴木 英一 すずき・えいいち
昭和50年 3月 北海道大学工学部 卒業
昭和50年 4月 北海道開発庁 採用
昭和63年 4月 同 北海道開発局石狩川開発建設部千歳川放水路建設事業所長
平成 3年 4月 同 北海道開発局帯広開発建設部帯広河川事務所長
平成 4年 6月 同 北海道開発局建設部河川計画課長補佐
平成 5年 4月 同 水政課開発専門官
平成 7年11月 同 北海道開発局建設部河川計画課河川企画官
平成 9年 4月 同 北海道開発局旭川開発建設部次長
平成10年 6月 同 北海道開発局石狩川開発建設部次長
平成12年12月 同 北海道開発局長官房開発調整課長
平成13年 1月 国土交通省北海道開発局開発監理部開発調整課長
平成14年 8月 同 北海道開発局建設部河川計画課長
平成15年 7月 同 北海道局水政課長
平成17年 8月 同 北海道局参事官
平成18年 7月 同 北海道開発局建設部長
平成19年 7月 同 北海道開発局長

 人口が分散しているため市場性が低く、商工業が発達しづらい北海道は、領土の広さと自然資源を生かした第一次産業に偏重せざるを得ない。そうした前近代的な重農主義的構造を、いまさら改革することは容易ではないが、世界的な食糧危機と安全への要請を顧慮すれば、むしろその制約の中にこそ生き筋が見えてくる。米政権が公共事業を単なる景気浮揚のためのバラマキではなく、グリーンニューディールと名付けて新規の成長分野にも戦略的に投資するのと同様に、北海道も人々の暮らしを向上させる通常のインフラ整備とともに、今後の成長分野への投資と、それを促進する物流・交流網の整備も必要になる。そして、その発注・契約は正常な価格相場と市場経済を阻害しないものであることが重要だ。

──景気対策を主眼とする新年度予算とゼロ国債、第二次補正予算などが執行されますが、そのポイントは
鈴木 平成21年度北海道開発予算については、現在、国会で審議が行われていますが、このうち一般公共事業費である北海道開発事業費は、国費が5,748億円で、対前年度比0.94倍と前年割れしたものの、平成21年度予算と一体的に執行される平成20年度第1次・第2次補正予算額を合わせると、6,292億円となり、平成20年度を上回っています。  また、地方負担金を含めた平成21年度の事業費は8,147億円で、このうち北海道開発局が中心となって進める直轄事業費は、4,691億円となっています。これに平成20年度第1次・第2次補正予算の直轄事業費577億円が加わることになります。  新年度も政府の公共投資抑制方針により、極めて厳しい状況下での予算編成となりましたが、「新たな北海道総合開発計画」に掲げられている「内外の交流を支えるネットワークとモビリティの向上」などの主要施策に沿って、北海道の骨格を形成する高規格幹線道路・地域高規格道路網の整備、港湾における多目的国際ターミナルなどの整備といった、所要事業を総合的に推進するための予算を確保することができました。  私たちは、これらの予算を活用して厳しい北海道経済を支えるとともに、将来の北海道の発展や地域の自立・活性化にとって真に必要な基盤整備を進めていきます。  また、平成20年度第2次補正予算は1月に成立しました。北海道開発事業費については、地域経済の活性化や防災強化対策を進めるための経費として、336億円の事業費が計上され、官庁営繕を含めた局実施分としては、266億円の補正追加が行われました。  これと併せて、公共事業の端境期における効率的な執行確保のために、ゼロ国債が設定され、局実施分として611億円が措置されています。この予算の執行に当たっては、景気対策としての効果が上がるよう、より一層の早期発注に努めていきます。
──特に重点配分された分野は
鈴木 北海道は広域分散型社会であり、道路は農水産品の輸送や産業・観光、生活・医療を支える重要な社会基盤です。そこで、旭川紋別自動車道など、北海道の骨格を形成する供用間近な高規格幹線道路・地域高規格道路網の整備に重点を置いて推進します。  また、関係機関や道民の取り組みにより、昨年は北海道の交通事故死が228人と一昨年に比べて2割減となり、昭和26年以降で最も少ない数を達成しました。これには、特に道の努力が大きく寄与しており道道での事故が特に減っていました。どんな工夫によってそれが実現できたのか尋ねたところ、歩道整備に力を入れるとともに、道路のセンターラインに車線逸脱を防止するため、ランブルストリップスを導入するなどの地道な改良の結果とのことです。道財政の厳しさは以前から伝えられるところですが、予算がないから何もできないというのではなく、有効な策を模索して実行した成果だと評価できます。  私たちも同じ道路管理者として、道路の安全性を高めることは重要ですから、さらに冬道の対策には力を入れて取り組みます。具体的には、都市部の積雪などによる渋滞緩和を目的に、交差点における除排雪等を重点的に実施するほか、雪崩や地吹雪などにより交通障害が発生する危険性の高い箇所には、雪崩予防柵・防雪林などを整備します。  さらに、北海道経済の底上げには、産業の国際競争力強化が重要ですから、北海道の外貨コンテナの80%以上を取り扱う苫小牧港において、多目的国際ターミナルを整備します。  その他、地球環境問題への対処が重要課題となる中で、バイオマス資源が豊富に存在する北海道の優れた資源・特性を活用し、C02排出量の削減、地球環境負荷の少ないエネルギーの利活用を推進するため、これまで廃棄されていたホタテの貝殻や食品加工の残液といったバイオマスを原料とした、水中や地中で分解される地球環境にやさしい生分解性素材の利用に関する調査や、北海道に分布するエゾノキヌヤナギをバイオマス資源として利活用するための調査を実施します。  また、平成20年度から国の「新たな北海道総合開発計画」と北海道の「新・北海道総合計画」がともにスタートしたので、両計画の地域展開を図るため、北海道開発局と北海道は、市町村、民間団体などとともに「地域づくり連携会議」を道内各地域に設置し、この会議において様々な議論を行い、昨年10月末までに道南、道央等6地域毎の今後10年の共有ビジョンである「地域づくりの方向」を合意しました。  私たちは、この「地域づくりの方向」を推進する一員として、北海道などとの役割分担の下に、国としての役割を果たすため、平成20年度第1次・第2次補正予算、平成21年度の北海道開発予算をもって、本格的な推進に努めることにしています。
──近年の工事契約においては、事業費節減努力に乗じたダンピング合戦が拍車をかけて、もはや正常な経済行為とはいえない不当廉売が横行し、それが国民の社会資産であるインフラ施工における不安材料となりました。今後に向けて、これは是正されますか
鈴木 最近の建設業をめぐる社会経済状況の変化は著しく、建設投資の急速な減少や資材価格の高騰に伴う利益率の低迷などにより、特に公共工事の比重が高い北海道の建設業では、一段と厳しい経営環境に直面していることは、私たち発注者としても十分に認識しています。  そこで、北海道開発局としては国土交通省が講じてきた種々の中小・中堅建設業者の受注機会の確保対策を踏まえ、これまでも優良な中小・中堅業者の上位等級工事への参入拡大、経常JV制度の活用による上位等級工事への参入機会の拡大、経審点による競争参加条件の設定など、様々な方策を講じてきました。  また、厳しい経営環境にある中小・中堅業者の経営改善や新分野進出などの取り組みを支援するため、建設業総合相談受付窓口での経営相談・アドバイザーの派遣、新分野進出モデル事業、「北海道地方建設産業再生協議会」を通じた各種支援策の情報提供による支援も行ってきました。  そして、いわゆるダンピングなどによって市場価格を混乱させる不適格業者排除のための対策としては、入札参加条件として本店や営業所の所在地により参加者を定める地域要件を、予定価格や工事難易度に応じて適切に設定していくこととし、総合評価方式において地域精通度や地域貢献度として地域活動による自治体からの感謝状の交付、行政機関との防災協定を締結しているかどうかなど、地域ごとの実情に応じて加点評価を行うことにしました。地域を良くしてきた企業が受注できるような配慮が必要です。  また、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の基本理念に基づき、技術的能力を有する建設業者による競争を通じ、経済性に配慮しつつ、価格以外の多様な要素を考慮して価格と品質が総合的に優れた会社と契約します。  これによって、施工不良や工事の安全性の低下、一括下請負の不正行為が未然に防止されるとともに、ペーパーカンパニーなど不良・不適格業者が排除され、技術と経営に優れた企業が成長できるような環境整備に努めます。  北海道開発局としては、これらの措置を着実に実施し、引き続き業界団体や地方自治体とも連携して、地場企業の育成に取り組んでいきます。

(以下次号)

北海道の社会資本整備事業に貢献します
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