建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年4月号〉

interview

疲弊する北海道経済の救済に乗り出す(前編)

――1,110億円で約500件の工事を3月中に発注

北海道開発局 局長 鈴木 英一氏

鈴木 英一 すずき・えいいち
昭和50年 3月 北海道大学工学部 卒業
昭和50年 4月 北海道開発庁 採用
昭和63年 4月 同 北海道開発局石狩川開発建設部千歳川放水路建設事業所長
平成 3年 4月 同 北海道開発局帯広開発建設部帯広河川事務所長
平成 4年 6月 同 北海道開発局建設部河川計画課長捕補佐
平成 5年 4月 同 水政課開発専門官
平成 7年11月 同 北海道開発局建設部河川計画課河川企画官
平成 9年 4月 同 北海道開発局旭川開発建設部次長
平成10年 6月 同 北海道開発局石狩川開発建設部次長
平成12年12月 同 北海道開発局長官房開発調整課長
平成13年 1月 国土交通省北海道開発局開発監理部開発調整課長
平成14年 8月 同 北海道開発局建設部河川計画課長
平成15年 7月 同 北海道局水政課長
平成17年 8月 同 北海道局参事官
平成18年 7月 同 北海道開発局建設部長
平成19年 7月 同 北海道開発局長

 以前から公共投資関連予算の縮小により、存亡の危機に追い込まれていた建設業は、さらに金融ショックによる追い討ちをかけられる格好となっている。事実上、世界恐慌と化した今日の経済情勢の中で、毎日のように企業が消滅していっているため、各国政府の公共事業を含む景気対策に倣って、我が国政府もようやく重い腰を上げた。それによって編成された補正予算とゼロ国債による北海道分の執行額は1,110億円。それを執行する北海道開発局は、約500件もの工事発注に当たることとなり、鈴木英一局長は「契約業務の遅滞が景気の足を引っ張るようではならない」として、3月中の業務完遂に向けて全力を挙げる決意だ。地域経済の救済の色合いが強い今回の景気対策は、地場企業にとって大きな効果をもたらすことになるだろう。これまで否定され、忘れ去られてきた公共投資の真の意義と波及効果が、改めて再評価されるべき局面とも言える。そこで、本誌はそのための窓口となる開発局の鈴木局長に、改めて公共投資がもたらす波及効果と建設業の存在意義について語ってもらい、連載する。

──景気対策がいよいよ行われる矢先に、政治家とゼネコンとの政治資金が取りざたされるなど、水を注すような情勢となっています
鈴木 北海道開発局においても、昨年発覚した農業・河川工事に係る一連の談合事案や2月に発生した釧路開発建設部発注の道路工事に係る競売入札妨害事案など、相次ぐ不祥事の発生により、これまでの北海道開発行政に対する国民・道民の信頼を大きく損ねる結果となりました。これについて、私たちは深く反省し、なんとかこの信頼を回復し、よりよい仕事をするため、2月27日に北海道開発局内部統制及びコンプライアンス強化計画を策定しました。人事配置及び業務運営の見直し、入札契約のプロセスの見直し、職員に対するコンプライアンスへの取組の強化などを中心とするものです。この計画を速やかに着実に実施してコンプライアンスを徹底し、不祥事の再発防止と国民・道民の信頼回復に努めるため、コンプライアンス宣言を致しました。  職員も法令を遵守し、全国民の奉仕者であることを改めて自覚し、高い倫理観を以て職務を公正かつ厳正に遂行することを誓い合い、私たちが本来与えられている「競争力のある地域づくり」と「安全で安心な国土づくり」という使命を着実に果たす覚悟で出直すべく意識の統一を図ったところです。  その職務の第一弾として、一次、二次補正予算、ゼロ国債の月内発注に全力を挙げます。事業費総額は1,110億円で約500件の発注予定件数となります。特に、地域経済にとっては非常に重要で、これが地元・中小企業などの実力を発揮できる機会となってくれればと願っています。今は日本中が大変な時期ですから、くれぐれも私たちの作業の遅滞によって、迷惑がかかる事態は避けなければなりません。
──建設業をはじめ、現在の景況はもはや救いようがないと思われるほどに荒廃しました
鈴木 現在、世界は百年に一度と言われる金融危機に直面し、その影響が北海道経済にも及んでいます。内閣府が平成21年2月26日に発表した四半期毎の地域経済動向によると、北海道の景況判断は「悪化している」とされ、前回の「やや悪化しつつある」という景況判断よりも下方修正されています。  北海道に関する個別の経済指標を見ると、外需の冷え込みなどの影響で、本年1月の輸出額が前年同期比で23.4%減、昨年12月の鉱工業生産指数が前年同期比で22.5%減となるなど、生産活動が大幅に落ち込んでいるほか、昨年12月の大型小売店販売額が18ヶ月連続の減少となるなど、個人消費も厳しい状況が続いています。  また、道内の本年1月の有効求人倍率は0.39倍で、平成11年以来9年ぶりの低水準となり、雇用情勢も悪化しています。  建設産業についても、建設投資の急激な減少などで、極めて厳しい状況が続いています。北海道の建設投資額は、4.85兆円だった平成5年度のピーク時に比べて、平成19年度は2.29兆円となり、約47%の水準にまで減少しています。建設業就業者数は、約35万人だった平成7〜9年のピーク時に比べて、平成20年は約24万人となり、約69%の水準にまでダウンしています。  こうした極めて厳しい経済状況ですから、景気対策・雇用対策は政府の重要課題で、私たちは真剣に取り組まなければなりません。
──建設業に対する偏見は、それでも根強い様子が窺えます
鈴木 建設業は、社会資本整備を通じて道民生活の質の向上に大きく貢献してきましたが、それだけではなく、地方自治体の税収への貢献や、地域雇用の受け皿としても寄与し、災害時における防災力の担い手としても役割を果たしてきました。  さらには、地域でのボランティア活動に参加したり、青少年育成活動にも携わるなど、地域を支え、その発展のために大きな役割を果たしてきた大切な産業なのです。  建設業は単に工事を受注し、それをこなすだけの業界ではなく、地域全体を支えている業界ですから、そのために補正予算の意義も大きいものです。そうした建設業のあり方を、地域住民の方々が十分に認識し、存在意義を正しく捉えることが必要です。
──我が国は、内需の源ともなる公共投資と建設業を縮小することに全力を挙げて努力してきました。しかし、日本経済が唯一最大の頼みとしてきた外需は、それを担っていたアメリカの金融と市場の混乱により、いとも簡単に減産と大量倒産、そしてそれにともなう大量失業を生み出す事態となりました。経済の循環や資金の循環を無視し、単調な公共投資批判に専念してきた一部の大衆向けマスコミの報道に惑わされた国民は、この現実を以て目を覚ます必要があると思います。そこで公共投資とは、そもそもどのような波及効果を持つものであるのかを、再確認の意味で改めて伺いたい
鈴木 世界はまさに同時不況にあり、我が国経済も厳しい状況にある中で、公共投資の景気対策効果や雇用効果は再び見直されつつあります。この公共投資の経済波及効果としては、公共投資の増加が直接GDPの増加につながる即効的な景気浮揚効果があること、そして公共投資の生産活動は、公共工事を請け負う建設業だけではなく、原材料などの取り引きや消費活動を通じて、関連する他産業にも幅広く波及し、それぞれの産業に従事する雇用者の所得や消費が増加することなどが考えられます。  また、中長期的には、産業基盤や生活基盤の整備が進むことで、経済発展や生活水準の向上など、国民−道民の経済厚生を高める効果があります。

(以下次号)

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