建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年3月号〉

interview

サハリンの地震緊急対策の関連工事で州知事から感謝

――極東ロシアで現地建設会社と道内5社が「ハイドロテック」設立

札幌建設業協会社   会 長 代 行
全日本漁港建設協会   北海道支部長
勇建設株式会社 代表取締役社長
坂 敏弘氏

坂 敏弘 さか・としひろ
昭和18年1月29日生
出生地 満州国 新京(長春)
昭和 41年 3月 武蔵工業大学電気工学科卒
職歴
平成 元年 8月 勇建設株式会社 代表取締役社長 就任
平成 7年 8月 北弘機工株式会社 代表取締役会長 就任
平成 8年 8月 北東建値株式会社 代表取締役社長 就任
役職歴
平成 2年 5月 大札幌建友会 理事
平成10年 6月 全日本漁港建設協会北海道支部 支部長
平成12年 5月 札幌建設業協会 副会長
平成12年 5月 北海道建設業協会 理事
平成14年 5月 札幌商工会議所総合建設関連部会 部会長
平成14年 4月 北海道港湾空港建設協会 会長
勇建設株式会社
札幌市中央区北6条西14丁目
TEL 011-221-0171

札幌市の勇建設会社を幹事会社に道内の中小建設業5社が、ロシア極東サハリン州の大手建設会社と共同で設立した合弁企業の事業が軌道に乗ってきた。道内の公共事業の縮小に加えて、景気低迷と競争激化に伴って受注機会が減るなか、寒冷地の建設ノウハウを生かし、新生ロシアの戦略拠点としてインフラ整備が急ピッチで進むロシア極東市場で、新たな飛躍を模索しようとしており、海洋土木工事でその技術力がロシア側から高い評価を受けている。2012年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の開催地に決まったロシア本土のウラジオストックも視野に、受注機会の拡充などで09年度は20億円の売上高を見込む。ロシア側でも道内企業の技術指導、建設機械の調達等に大きな期待を寄せているという。港湾工事を得意分野とする勇建設の坂敏弘社長に、合弁企業設立の経緯やロシアビジネス成功のポイントを伺った。
▲「ハイドロテック」のユジノサハリンスク事務所
――2月にサハリンで日ロ首脳会談が開催されるというニュースが飛び込んできました。サハリンでは天然ガス掘削の国際的なプロジェクトが本格化していますが、道内企業でもサハリンビジネスへの関心が高まっています。政府系の建設会社であるトランスストロイ・サハリン社(TSS)と合弁企業の設立に至った経緯等からお聞きします
 公共工事が大幅に削減されるなか、道内業者としてサハリンプロジェクトの動きに指をくわえて見ているわけにはいきません。われわれにも何か出来る事はないかと思っていたところ、北海道港湾空港建設協会でご指導を頂いている寒地港湾技術研究センター及び北東アジアネットワーク研究会の会長だった田中敦幸(あつゆき)さんが、TSS社のツカロヴ社長と昔からの友人だったというご縁もあって、田中会長の橋渡しで05年6月に、ユジノサハリンスク市において、道内業者10社と道外業者1社の計11社とTSS社による包括的業務提携の調印を行ったのが始まりです。  ツカロヴ社長は、田中会長を絶大に信頼しており、私たちも異業種への参入には一抹の不安がありますが、同じ建設業なら自分たちの技術力を生かせるチャンスと考えました。  その後、お互いに情報交換を重ねているうちに、具体的な案件に取り組むためには合弁会社の設立が不可欠との機運が生まれ、最終的に道内企業5社が名乗りを上げ、06年8月31日、この勇建設(札幌市)を幹事に西村組(網走管内湧別町)、釧石工業(釧路市)、松本組(函館市)、近藤工業(小樽市)の5社とTSS社による、サハリン州の海洋土木工事を主たる事業とする日露合弁会社「有限責任会社HYDROTECH社(ハイドロテック)」を設立、ユジノサハリンスク市ポグラニーチナヤ通り65に事務所を開設しました。設立にあたって、ロシア開発コンサルティングの内山恒平代表に、北海道5社とロシア間のコンサルタント業務を依頼しました。
――出資比率の内訳は
 ハイドロテック社の資本金は300万ルーブル(約1千万円)。資本比率はTSS社50%、北海道5社はそれぞれ10%ずつ。ロシア企業の比率は当初30%〜40%でも良いと思っていましたが、比率を50%以下に低くすると、いろいろ弊害が出てくることが、徐々に分かってきたところです。06年12月18日に軍事・原子力関連を除く全分野で建設業ライセンスを取得しました。
――トランスストロイ・サハリン社のプロフィルをお聞かせください
 ソ連時代の運輸建設省が崩壊し、その傘下にあった国営企業が民営化して生まれた会社です。潜水、建築工事、保守点検、内装等も業務とする6つの会社を統合し、年商は90億円以上で、サハリン州では2〜3番目に大きい規模の会社と聞いています。また、ツカロヴ社長は政府筋に人脈があるようで、よくモスクワに行っています。
▲エクソン社発注・チヤイヴォ矢板引き抜き工事 ▲ネヴェリスク市発注・セーヴェルヌイ地区護岸工事2007.3.8 ▲ネヴェリスク市発注・セーヴェルヌイ地区護岸工事2008.2.22
――設立から3年近く経過しましたが、株主総会などはオープンな形で行われていますか
 経営陣らは日本にも来ていただき、札幌で株主総会を開催しています。ただ会計処理ひとつをとっても、日本とロシア企業との考え方には大きな違いがあり、最初は面食らいました。例えば、ロシアの企業は12月31日に決算します。当然工事中の物件もあります。竣工前の前払い金は、日本なら仮受け金として処理するところを、ロシアでは収入に計上します。前払い金が支払われていないと、未収入として計上しますが、ロシアは収入ゼロでかかった経費を提示するというやり方です。前渡金を立て替えと見なさず、これだけ投資しているという考え方です。一般管理費もありますが、表面に出てこない。工事別に分かれていません。  建設機械を用意するにしても日本のようなリースの仕組みがなく、必要な機材を所有している企業に下請させる方法は採らないのです。そこで、北海道で中古機械を賄うことにしました。当初はミキサー車の注文もありました。
――最初の工事は何でしたか
 エクソン・モービル社の発注で、エネルギー開発事業「サハリン1」関連のベースキャンプ解体工事でしたが、これにはほとんどタッチしませんでした。ほぼ同じ時期の07年8月にサハリン州ネヴェリスク市で発生した地震の復旧対策で受注した海岸の護岸工事には各社の技術者が交代で現地に赴き、技術指導に当たりました。完成式には州知事、ネヴェリスク市長、日本側から北海道サハリン事務所長も出席され、知事から北海道の企業に対して施工技術、工期の圧縮に感謝の言葉がありました。  この護岸工事は、日本企業がTSS社から一括下請して施工しましたが、大きな問題はビザです。就労ビザですから180日の期間に最大3ヶ月(90日間)しか滞在できません。半月間ラップさせる日程で毎回1か月半ずつ交互に技術者を派遣しました。  ロシアは宇宙にロケットを飛ばす大国ですが、サハリン州は辺境の地ですから、技術者や熟練工は極端に不足しているようです。軽作業員が多く、現場のトップにしても、日本に比べると技術力は劣っているとの印象があります。  このビザにも問題があり、技術支援に限定されます。そのため、北海道から持ち込んだクレーンに関するオペレーターの支援という名目で行っているので、手取り足取りには教えられませんでしたが、今は日本人技術者10人が労働ビザを取得したので、技術指導の態勢は整いました。毎日、日本語で記載した指示書をロシア語に翻訳してもらい、現場に伝達することの繰り返しですが、ハイドロテック社としても日本の技術移転に大きな期待を持っています。
▲地震災害復旧工事
――サハリン2が完成し、ロシア政府もサハリンに投資意欲を持っているようですから、今後はインフラ整備が進むのでは
 そうですね。インフラ整備は急ピッチで進むと思います。現状では港を見ても、船着場程度で防波堤もありません。道路にしても、歩車道の区別さえもないのが現状ですから、私たちもインフラ整備によって快適な環境整備にお役に立ちたいと思っています。また、ハイドロテックの北海道5社としては、漁港整備で施工技術を生かせると考えていますが、ロシアは漁港イコール軍港の性格が強く、民間人は立入禁止です。エクソン・モービル社から受注した防波堤撤去工事の港はエクソン社専用で、サハリンの建設会社では施工できないことから、われわれに任されました。
――今後の事業展開ですが、最近では本土のウラジオストックでも工事を受注されたそうですね
 パートナーのトランスストロイ・サハリン社(TSS)は今年1月、ウラジオストックに支店を開設したところです。国際競争に勝つためにも日本企業の力を借りたいとのことです。このように、ロシア本土で受注することが大きな飛躍につながります。  最近の動きとしては、ウラジオストックとルスキー島を結ぶ2,800mの長大橋建設の埋め立て工事、ナホトカのコズミナ石油積出港建設の浚渫工事を受注しており、ハイドロテック社の構成企業として協力できるか検討しているところです。日本とは商習慣がかなり違うので、大きな工事になればなるほど資金の立て替え、建設機械の搬入などリスクも大きい。その辺を慎重に詰めていかなければなりません。
▲ネヴェリスク漁港を背にハイドロテックのスタッフ ▲ネヴェリスク市長と打ち合わせ
――ロシア政府はウラジオストックを2012年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の開催地に決定しました。極東開発の戦略拠点として大規模な社会資本整備に乗り出しますが、沖合のルスキー島に大型ホテル、カジノを造る構想があるようですね。石油、天然ガスのパイプラインをウラジオストックの近くのナホトカに集約させる計画も進んでいます
 東シベリア-太平洋石油パイプラインの終着地はウラジオストクに近いコズミナ湾です。一方、新潟とウラジオストックには直行便がありますが、北海道にはない。サハリンには函館と新千歳から直交便がありますが、週2便しか就航していません。新潟県の大手建設会社4社がウラジオストックの会社と提携し、共同企業体として入札に参加する動きもあり、その意味ではライバルが多い。  もう一つは物流の面で北海道は後れをとっています。現状はサハリン経由でウラジオストックに行くか、新潟からの直行便を利用するしかないので、新千歳からウラジオストックへの直行便があれば、北海道とロシアとの交流は深まると思います。
――1月14日に、国交省主催の「ロシアにおける運輸インフラプロジェクトセミナー」が東京で開催されました。社長もセミナーに参加されたそうですが、間宮海峡にサハリンと本土を結ぶ長大橋を建設する構想をロシアが発表したようです
 実際にロシアの運輸大臣の話では、シベリア鉄道の延長も考えているようです。
――ロシアのインフラ整備を北海道の建設会社がお手伝いできる余地は大いにありそうですが、資金面のリスクは無視できません
 ロシア側としてはいつまでも日本企業に頼らず自立し自国のインフラ整備(技術力)と経済振興(経済力)を目指す企業になることを願っています。そのため、私たちも多いに協力したいと考えています。
――北海道の企業としては、サハリンのインフラ整備に貢献したいという心構えが必要ですね
 そうですね。儲けだけでは不安です。サハリンの人たちに感謝されるようインフラ整備に取り組むという感覚と、現地の信頼できる会社と提携できるかどうかが合弁会社設立の大事な要素です。その意味でも、われわれがサハリンビジネスに関心を持っている他の道内企業の経営者に範を示すことが出来ればと考えています。
会社概要
設立:昭和31年4月
建設業許可:平成6年11月2日 建設大臣許可(特-6般-6)第2011号
資本金:1億円
事業目的:
 1.土木建築請負業並びに砕石販売及びブロック製造販売業
 2.建設工事用機器類の販売及賃借に関する事業
 3.土地・建物の賃貸
 4.有価証券の売買
 5.前各号に附帯する一切の事業

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