建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年2月号〉

interview

水産物の医学利用研究にも着手(後編)

――非食用コンブからバイオエネルギーを抽出

北海道水産林務部 部長 武内 良雄氏

武内 良雄 たけうち・よしお
平成11年5月 水産林務部栽培振興課参事
平成12年4月 水産林務部企画調整課 参事兼水産林務部企画調整課研究普及室長
平成13年4月 水産林務部漁業管理課長
平成15年6月 水産林務部技監
平成17年4月 水産林務部水産局長
平成18年4月 檜山支庁長
平成19年6月 水産林務部長

 水産物は、単なる食用だけでなく医薬成分を含んでいるため、医療用としての研究も進められている。そうした可能性に、北海道も着眼し、その可能性を追求し始めている。そうした新分野への進出に欠かせないのは、政府の助成制度の活用と、また情報ネットワークや人脈の広さである。かつて北海道開発庁への出向経験を持つ武内部長は、その重要性を身を以て体験した一人である。

(前号続き)

──近年は毎日のように荒んだ事件が報道され、社会不安から人心が荒廃している状況も伺われますが、食生活にも関連性があるのではないかと思われます
武内 確かにそう感じます。骨のある魚を食べないとカルシウム不足になり、そのために精神が安定しないとの説も聞かれますね。また、最近、見直されているのは、コンブから採れるフコイダンや、その他ガンに効能を持つ成分などで、現在水産試験場でも研究を進めています。それを安定的に生産し、薬品会社に卸していく方針で、サケのコンドロイチンなどはすでに製品化されています。  この他にもまだまだ不明な有効成分が多いとのことで、そうした研究を通じて医学分野にも進出していければすばらしいですね。
▲サケ定置漁業水揚げ
──水産物のそうした多角利用の将来像と、その価値を考えると、浜の漁業者は途方もなく高価な貴金属を掘り出しているようなものですね
武内 その通りで、東北大の教授の話を聞くと、海藻からメタノールが採れるとのことで、その海藻は食用にならないものだとのことです。近年はトウモロコシからメタノールを採取してバイオエネルギーに変えていますが、これは食物を使用するために穀物相場が高騰して、世界経済に悪影響を与えています。しかしこの海藻は食用にはならず、それでいて効率的に成分が採取できるため、その教授が共同研究を提案してくれています。実際、日本海の磯焼け対策にも東北大学が協力してくれており、さらに北大の水産学部にも参画してもらおうと考えているところです。  私たちが必要とするのは、そうした人脈と専門的知識や情報です。北大水産学部を卒業して、本州で活躍する人材も多くいますが、そうした人々を仲介するのも、私たち行政の役割だと思っています。
──部長ご自身もかつては北海道開発庁に出向し、中央省庁の空気に触れてきましたね
武内 政府の業務の進め方や予算要求の仕組み、組織や人の流れというものが理解できました。海外の研究者に面会を求めるときも、水産庁の誰が人脈を持っているかが分かり、例えばノルウェーのサケ養殖が問題になっていますが、それを視察する場合もノルウェー大学関係者に人脈がある水産庁が協力してくれたこともあります。やはり情報と人脈がものをいうのです。  このため、私たちからも職員を水産庁や林野庁に派遣しています。ただし、私たちは単にお手伝いに行くわけではありませんから、本業の業務に専念するだけでなく、人脈を広げ、見聞を広め、そしてより多くの情報を得てくるよういつも言っております。  逆に水産庁も、職員が地方出向を経験すると、浜の事情への理解がかなり深まるため発想も違ってくるようです。例えば、かつて石川県に赴任した経験を持つ、退職されたある水産庁幹部は、サンマの発光ダイオードによる集魚灯を浜中町のサンマ漁で実験しました。他の漁船が燃油をかなり消費する中で、これを用いた漁船は良い結果を出しています。  同じく浜中のウニの養殖において、中核世代の漁業者に対して助成する制度がありましたが、実際にはその制度は適用しづらいものだったため、彼はそれを改正して地元で使い易い制度にしてくれました。そこで、この制度を北海道で活用したところ、全国でもその制度の利用希望が増えたのです。
▲夕映(留萌市)
──国の制度に地元が合わせるのではなく、地元の要望に添って国が制度を柔軟に運用した成果ですね
武内 そうです。使いにくい制度だからダメなのではなく、せっかく国側でも柔軟な対応を示してくれているので、現場の事業者も具体的に事業を提示し、それに合わせて政策要求する形でなければならないと思っております。  燃油対策についても、7月15日に都内で開催された漁業経営危機突破全国漁民大会には、副知事とともに私も出席しましたが、国に対してはさらなる対策をお願いするとともに、道としても独自の支援対策を検討していく方針です。
──燃油問題は世界経済の問題ですが、自力でできる政策を極力自力で行うことも自立ですね
武内 例えば、イカの集魚灯への発光ダイオードの導入については、これまで国でもいろいろ検討し、実用化に近づいておりますが、その設備投資には大きな出費が問題となります。外国の情報を収集してみると、今の電球を取り替えるだけで、ダイオードを導入できるというものもあり、道が情報を提供していきたいと考えております。  この他、道の融資制度利用における条件の緩和などを検討しており、国が対策に向けて、精力的に乗り出してくれているのですから、道としても自力でできることは極力取り組む考えです。 

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