建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年2月号〉

interview

サハリンプロジェクトの日本の玄関口

稚内は最北端の国際都市

稚内建設協会 会     長
藤建設株式会社 代表取締役
藤田 幸洋氏

藤田 幸洋 ふじた・ゆきひろ
昭和30年3月29日生まれ 北海道稚内市出身
昭和52年3月 東海大学海洋学部卒業
昭和52年4月 東亜建設株式会社入社
昭和55年5月 同社を退社
昭和55年5月 藤建設株式会社入社
昭和62年5月 同社 取締役に就任
昭和63年5月 同社 常務取締役に就任
平成 3年5月 同社 専務取締役に就任
平成 4年5月 同社 代表取締役に就任
藤建設株式会社
稚内市港5丁目5-15
TEL 0162-23-4810

 「ロシアはサハリンプロジジェクト開発で得た天然ガスをアメリカに売るかもしれない」と、藤田稚内建設協会会長は大胆に予測する。エネルギー事情は世界の枠組みをそれほどに変えようとしているからだ。合弁会社「ワッコル」を引っ提げてサハリンのインフラ整備に参加する藤田会長に現状と展望をお聞きした。

――サハリンは地下資源開発によって劇的に変わりつつあります。新ロシア政府になってからは、稚内市とサハリンの交流も盛んになってきています。今後の展開、問題点などをお聞きしたい
藤田 まずは「足」の確保をどうするかですね。冬期はサハリンまでの海路がありません。まず空の便です。
――稚内に空港がありながら、サハリンヘ行くには函館空港か新千歳空港からしか方法がありませんね
藤田 サハリンプロジェクトが最盛期のころ、現地にいる欧米人の技術者が稚内までフェリー(夏期運航)で来て、稚内空港から関西空港経由で本国に帰るという流れもあるのです。幸い夏期には稚内−関空の直行便もありますから、稚内も捨てたものではありません。  ただ、稚内空港とユジノサハリンスク空港の間にエア便がないのが不便です。冬期はフェリーが休航するため、千歳か函館経由なのです。  けれども、船は物を運ぶのに適しており、飛行機は人です。稚内は北に開かれた国際都市を目指していますから、稚内空港は大事です。
――北海道は雪害などで空港が使えないこともあり、さらに地方空港の場合は滑走路が短いことがウイークポイントとされています
藤田 稚内から国内を考えると、例えば札幌などで会議がある場合、普通は一泊二日で済むものを、冬場では二泊三日しなければならず、費用が余分にかかるのです。ですから、冬でも安全で安心して走れる道路が欲しいものです。  地方空港を考えると、就航率が悪いと搭乗率が下り、搭乗率が悪いからまた就航率が減るといういたちごっこが起こっています。冬などは東京発稚内行きの下り便と、稚内発東京行きの上り便の就航率に差があるのです。  例えば、羽田から稚内に向けて出発しても、雪害のために旭川空港へ着陸したなら、旭川から稚内まではバスで6時間です。これでは計画がたちませんね。  しかし、今年は稚内空港の滑走路が200m延長で2,200mになりますから、今以上に追い風が吹いても着陸できるようになります。わずか200m延長とはいっても、特にビジネスや観光に携わる人々にとっては大きな意味を持つと思います。
――東京から来るカニなどのグルメツアーでも、旅行代理店はあまり稚内空港を使いたがらないとのことです
藤田 ロスが生じるからです。稚内は観光資源も、海や山の食材も豊富で、非常に良い場所だと思っています。しかし、いかんせん冬場は就航率が悪く、搭乗率も落ちます。ちょっと天候が悪いと、稚内からバスで旭川に向かい、そこからJRで札幌まで行き、千歳から東京へ向かうことになります。これがダイレクトなら東京から1時間40分、飛行場から稚内市内まで15分。つまり、東京羽田から2時間もあれば来られるのです。問題は就航率で天候に左右されることですね。
――北海道観光を考えた時、観光名所の間の距離が大きいのもネックですね
藤田 北海道は広く、東北6県と同じ位の面積があるのです。したがって、6県ぶんの空港があって良いのです。本来最も安全な陸上交通手段は鉄道ですが、いかんせん時間がかかり過ぎます。道路は夏場は快適でも冬場は厳しい。その結果、空路に頼るというのが現状です。  それを考えると、やはり公共の高速交通網は必要です。そのひとつが飛行機ですから、就航率が上がれば、どんどん使ってもらえるようになるものと私は思います。
――サハリンのユジノサハリンスク空港は国際ハブ空港を目指しているようですが、ユジノは今後の展開から目が話せなくなりますね
藤田 サハリンのプリゴロドノエ地区で、サハリンプロジェクト2の液化プラント工場が完成しました。二つのラインがあり、さらに3番目の液化工場のラインが計画されています。今のラインの隣にできるので、まだ造成もされていませんが、新たなプラントができてくると思われます。そうして、この春には液化ガスを本格的に供給開始するでしょう。  それを運搬する船は世界中にあり、世界各国にそれを受け入れる工場もあります。したがって、液化したガスをアメリカにも売ることが可能です。もちろん、日本にも売れます。そうした展開を考えたのではないかと思います。その時に三つ目のガス製造ラインが浮上してきたので、また大きな規模のプロジェクトが動くことでしょう。
▲サハリンプロジェクト
――ロシアにとってサハリンの地下資源は政略的にみてウエートは大きいのでしょう
藤田 ロシアにとっては、環日本海、環オホーツクというサハリンから北東、日本を含めた部分を考えると、アメリカの方が欧州よりも近いのです。だからウルップ海峡航路をつくってしまえば、アメリカとの往来が容易になります。
――工業的な拠点として近くに位置する稚内は、インフラも進んでいますから、そのノウハウなどが役に立つのでは
藤田 稚内ではなく北海道がロシアにとってどうなのかということでしょう。サハリンで合弁会社「ワッコル」を設立した目的は、具体的には稚内を資材置き場にしようということです。物さえ集まってくれば、人も資金もついてきます。だから、そこに物流のルートを作ってしまおうというのが、私の考えです。それが稚内の発展にもつながります。  もう一つは空港で、地図を見ると、サハリンの北端のオハと稚内の距離は、名古屋市までと同じくらいです。そう考えると、私は北海道の在り方が違ってくるのではないかと思うのです。  サハリン州で、現在行われている地下資源開発はわずか2つですが、計画ではさらに6つあります。多分、順次着手されていくものと思いますが、何年間もの開発期間中や、エネルギー開発が実現したときにも、新しいビジネスチャンスが得られます。  サハリンには安いエネルギーを使った工場が誘致され、それによってサハリンがどう変わるかです。今日のビジネス環境において、最もコストを高めているのはエネルギーですから、地元に安いエネルギーがあることは大きなメリットです。そのため、サハリンからアメリカへの物流が起きるかもしれません。そうなってから日本が参入したのでは遅いのです。  そうなる前に、北海道の経済界が考えるべきです。北海道の経済界は新千歳空港に近いので、そこからのエア便があれば良いのかも知れませんが、地方の稚内空港にエア便があっても良いのです。もっとも、あくまでも収支バランスを考えた場合は無理かもしれませんが。
――稚内の資材置き場構想について、詳しく伺いたい
藤田 サハリンの開発に必要な物資を稚内に蓄積しておき、すぐに必要ならエア便、時間がかかってもよければ船便で搬送するサービスです。空路さえできれば活用できます。
――海運はオホーツクの流氷がネックになりませんか
藤田 いままでは原油だけでしたが、今回プリゴロドノエにプラントが完成し、沖合いに出せるプラットホームができたので、年中運べる体制です。近年の船は大きくて強い一方、稚内もコルサコフもともに不凍港で、氷の厚さは2mにも到らないのではないでしょうか。  ですから、砕氷型の船を造れば問題はないはずです。
――サハリン側のインフラはどのような状況ですか
藤田 国道はちゃんと整備されています。生活道路はまだですが。2012年のエイペック(アジア太平洋経済協力会議)は、ウラジオストック(沿海地方の最大都市)で開かれますが、基本的な開発については積極策にでています。2014年冬季オリンピック開催都市のソチ(ロシア随一の保養地)に対しても資金が出ており、地方への投資の形は見えて来ていると思います。したがって、生活環境は良くなっているでしょう。  ロシアはウラル山脈から東は極東で、非常に人口密度が少ない。しかし、極東に多くの地下資源があることは間違いないので、ヨーロッパロシア、モスクワロシアがようやく極東に目を向け始めたのです。  ロシアはヨーロッパには物を売ったことはあっても、アメリカには無いと思います。しかし、アメリカに一番近い場所が極東ですから、それが見直されるのではないかと思われますね。
――ロシアの公共事業はどんな仕組みで行われていますか
藤田 日本の場合は、すべてを国か地方自治体にお願いして作ってもらいますが、ロシアでは、例えば港の経営者たる管理者が自治体ではないのです。どこの市町村にも、漁港区と商工区があって、それぞれが独自にインフラ整備を行います。漁港区は漁港区の資産でプライベートバースを整備します。空港の管理者も同じだと思います。このように、全てとは思いませんが、日本とはかなり異なっています。
――稚内市が進めている研修生の交流は有意義と思いますが、合弁会社の「ワッコル」にも研修生はいますか
藤田 合弁会社「ワッコル」の社長もやはり研修生OBですからね。ワッコルには技術アドバイザーとして、稚内の建設会社の技術者を、多い時には5人ほど派遣しています。そうしたアドバイザーのおかげで、サハリン2関連工事等で着実に業績を伸ばし、日本円にして16億円から50億円くらいの受注がありました。  アドバイザーは現場監督の上位にいて、元請との折衝、図面の作成、現場の指導など全てを担当しました。そして2007年には「ワッコル」がロシア経済発展に貢献する企業として「全ロシア賞」を受賞しました。
――今のサハリンにとって、稚内は良きパートナーといえますね問
藤田 私は、サハリンを収益源とは思っていないのです。サハリンは私たちにとって、ひとつのパートナーだと思っています。そして、サハリンをひとつのツールとして、稚内をどう発展させるかがポイントだと思うのです。ですから、最終的に稚内は「物置場」で良いと思うのです。合弁会社を作り利益を上げるのもひとつの方法かもしれませんが、できる仕事とできない仕事とにかかわらず請け負い、そこで自分たちが対応できるものは自分たちで、稚内で対応出来ないものはオール北海道で対応するのが理想だと考えます。  ただし、ひとつだけ言いたいのは合弁会社が受注した仕事の資材は、すべて稚内港から積み出せということで、それを最大の条件にしたいと主張しています。そうすれば、稚内に荷物は集まるのです。

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