建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年2月号〉

年頭所感

年頭所感

国土交通大臣 金子 一義

新年のはじまりにあたって

 平成21年という新しい年を迎え、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
 昨年は、「100年に一度」という世界的な金融危機に直面し、欧米各国で金融機関の破綻が相次ぎ株価が急落するなど、世界的な景気後退の兆しが強まった一年でした。日本経済についても景気の下降局面が長期化そして深刻化するおそれが強まっています。こうした状況のもと、政府としては昨年8月に「安心実現のための緊急総合対策」を、また、10月には「生活対策」を取りまとめました。これらの対策に基づき昨年10月に成立した第一次補正予算等により、国民の安全安心の確保や地方の活性化等のため必要な社会資本整備の早急な実施、高速道路料金の大幅な引下げ、地域建設業への支援・不動産市場の活性化、貨物運送における中小・小規模企業対策、地域バスの利便性向上、離島・過疎等の地域における公共交通の維持等の施策を推進していますが、通常国会冒頭には第二次補正予算案を提出し、一層の施策の推進を図ることとしております。さらに、12月の与党税制改正大綱では、住宅ローン減税の過去最高水準までの引上げ、新たな投資減税型措置の創設、土地の譲渡益課税の新たな特例措置の創設など、住宅土地税制を中心とした内需拡大、景気回復のための思い切った拡充措置が盛り込まれました。また、同月には、住宅・不動産事業者向けの資金確保、住宅取得の支援及び優良な民間都市開発の促進を内容とする「住宅・不動産市場活性化のための緊急対策」を取りまとめました。
 一方、中長期的に見ると、我が国は、本格的な人口減少・高齢化社会の到来、急速な経済のグローバル化、地球環境問題の深刻化、環境や美しさを重視する国民の価値観の変化など、歴史的な転換期を迎えており、このような時代の潮流の変化に的確に対応して、私たちの子どもや孫たちが自信と誇りを持てるような国づくりを進めていかねばなりません。特に、国土交通行政は、社会資本整備のほか、国土政策、住宅・都市政策、交通政策、観光政策、海洋政策等を総合的に推進するという幅広い任務を担っており、そのいずれもが国民生活や経済活動に密着しているものです。
 このような国土交通行政の推進にあたっては、何よりも国民の皆様の信頼が欠かせません。しかし、誠に遺憾ですが、昨年は国土交通行政をめぐって国民の信頼をゆるがすような事例が多く指摘されました。これからは、国民の皆様の視点に立つという原点に立ち返り、国民の皆様の信頼を確保しつつ、たゆまざる改革に全力で取組み、時代の要請に応えられる国土交通行政を推進するため、以下に申し述べる課題に取り組んでまいります。

自立した活力ある地域づくり

 昨年9月以降の金融危機や、世界的な景気後退の兆しがある中、特に地方の経済は非常に厳しい状況にあり、都市部との格差も拡大しています。地域に関連の深い行政を担っている国土交通省としても、地方を再生・活性化していかねばならない重い責任を担っております。
 地方の再生のためには、都市機能・産業集積を強化することを通じて、多様な広域ブロックが自立的に発展するとともに、各ブロック内において様々な地域が交流・連携しながら発展していく姿を目指すことが必要です。
 昨年7月に閣議決定された「国土形成計画(全国計画)」を踏まえて、今後全国8つの広域ブロックにおいて、その有する資源を最大限活かせる「広域地方計画」を策定します。
 地方の活性化に向けては、この広域地方計画の枠組みも活用しつつ、地域経済や人々の暮らしを支える基盤として、幹線道路ネットワークの整備、政府・与党申合せに基づく整備新幹線の整備、港湾整備など真に必要な社会資本への集中投資を進めます。また、暮らしの利便性、賑わいや活力のある地域経済社会の実現に向けて、地方の鉄道、バス、離島航路などの地域公共交通の活性化・再生、交通結節点の改善等、総合的かつ戦略的な交通施策の推進、中心市街地の活性化や都市再生、集約型都市構造への転換、観光振興などの地域の創意工夫あふれる取組への支援、適正価格での契約の推進や地域総合産業化支援等による建設業振興を推進してまいります。一方、人口減少・高齢化の著しい地域等に対しては、NPO等の多様な主体が協同する「新たな公」による地域づくり活動等の支援や集落機能活性化による社会的サービスの確保、コミュニティバスの導入支援等による日常生活の足の確保などにより、生活者の視点に立った暮らしやすい地域を形成してまいります。

安全・安心で豊かな社会づくり

 我が国は、地震・津波や水害・土砂災害・高潮災害など、自然災害に対して脆弱な国土条件にあります。特に最近では、各地で集中豪雨や異常渇水が発生しており、地球温暖化の影響が懸念されるところです。これらに対応し、自然災害や事故などから国民の生命や財産を守ることは国土交通省の重要な使命であることから、安全・安心基盤の確立に向けた取り組みを推進してまいります。
 自然災害に対しては、予防対策の重点化、災害復旧関連事業の強化、防災気象情報の高度化などにより、地球温暖化等に伴う災害リスク増大への適応策を推進するとともに、住宅・建築物の安全・安心対策の強化、情報提供体制の充実、公共交通インフラ等の耐震対策の促進により地震対策の強化を図ってまいります。また、昨年6月、7月に発生した岩手・宮城内陸地震、岩手県沿岸北部地震については、被災当日から、緊急災害対策派遣隊(テックフォース)を派遣し、被災地における一日も早い安全確保のための支援を行うとともに、海上保安庁においても153名の孤立者の救助を行い、関係者から広く評価をして頂きました。今後も災害を未然に防ぐ予防対策を基本としつつ、災害時の緊急対応体制の充実、被災地の復旧・復興の支援を積極的に推進してまいります。
 更に、昨年頻発した集中豪雨等への対応については、着実な河川や下水道の整備の推進とともに雨水貯留施設の整備等流域における対策や啓発活動の推進などハード・ソフトを組み合わせた豪雨対策に全力を尽くします。
 一方、我が国が今後本格的な高齢社会を迎えるにあたり、高齢者・障害者をはじめとする誰もが自立できるユニバーサル社会の実現は極めて重要な政策課題です。国民生活に最も密着した基盤である住宅について、ケア付き住宅の整備等による高齢者の居住の安定確保や子育て世帯等への配慮など、住宅セーフティネットを構築するとともに、公共交通機関、建築物等の一体的・総合的なバリアフリー化を着実に推進します。
 また、運輸安全マネジメント制度の一層の充実や保安監査の強化、昨年設置された運輸安全委員会による事故原因究明及び再発防止機能等により、日常生活に不可欠な公共交通の安全と信頼を確保します。
 四面環海で、資源や食料の多くを海外に依存する我が国において、新たな海洋立国の実現を図るため、海洋基本計画に基づき、日本籍船・日本人船員の確保・育成による安定的な海上輸送の確保、マラッカ・シンガポール海峡の安全確保、ソマリア周辺海域での海賊事件に対する早急な実効的対策の実施や法整備の検討、領海及び排他的経済水域における海洋調査の推進、本土から離れた離島の利活用等の海洋政策について、政府一体となった取組を総合的かつ計画的に進めてまいります。さらに、海上保安庁の巡視船艇・航空機等の緊急整備や複数クルー制の拡充など、海上保安体制の充実強化を推進し海上の安全と治安を確保してまいります。

国際競争力の強化に向けた基盤づくり

   本格的な人口減少・高齢化社会を迎えつつある我が国において、持続的な成長を維持していくためには、過度に外需に依存することなきよう努めつつ台頭するアジアをはじめとする諸外国の成長と活力を取り込むことが必要です。
 来年には、現在整備中の羽田空港及び成田空港の滑走路が供用されることに伴い、2010年の供用開始当初に、羽田は昼間約3万回、深夜早朝約3万回(合計約6万回)、成田は約2万回の合計約8万回の国際定期便就航の実現を予定しています。国際競争力の強化に向けては、これら首都圏空港の国際航空機能の拡充、関西・中部国際空港の戦略的なフル活用や、アジアゲートウェイ構想に基づく航空自由化を進めるとともに、成田新高速鉄道の整備をはじめ、成田・羽田両空港間や都心とのアクセス改善等の都市鉄道ネットワークの充実などを推進してまいります。さらに、コスト・サービス水準で海外を凌ぐスーパー中枢港湾の実現、都市の経済活動の効率を高める都市圏の環状道路等の整備や高速道路料金の引下げなど既存高速道路ネットワークの有効活用・機能強化、アジアにおける人流・物流サービスの向上への支援など、ハード・ソフト両面から、迅速、円滑、低廉な人流・物流体系の実現を目指します。
 住宅・不動産市場の活性化については、「住宅・不動産市場活性化のための緊急対策」に盛り込まれた施策を実施するほか、不動産市場データベースの整備や、国内外への情報発信、市場の信頼性向上や投資促進のための環境整備、既存住宅流通の促進などを図ってまいります。
 さらに、人口減少局面においても高い生産性を確保するため、国民生活や経済社会活動に密着する国土交通分野においてICTを最大限に利活用し、イノベーションを次々と生み出していくための共通基盤の構築を推進してまいります。

歴史、風土等に根ざした美しい国土づくりと観光交流の拡大

   我が国には、世界に誇る歴史的資産や豊かな自然環境が数多く残されており、こうした貴重な資源を活かしつつ、美しく魅力ある国土づくり・地域づくりを推進してまいります。
 また、このような本来の魅力を最大限活用した観光政策は21世紀の国づくりの柱であり、国際相互理解の増進に加え、交流人口の拡大を通じて需要を創出し、我が国経済を活性化させるという重要な役割を担っています。このため、昨年10月には新たに観光庁が発足し、わが国全体を挙げて観光立国の実現に取り組む体制が整いました。今後は、ビジット・ジャパン・キャンペーンの充実や国際会議等の開催・誘致の推進等による国際観光の振興、滞在型観光の促進のための観光圏整備による国際競争力の高い魅力ある観光地づくりなど観光立国推進基本計画の目標達成に向けた取組を進めるとともに、訪日外国人旅行者を2020年に2,000万人とすることを目指した新たな戦略の策定を進めてまいります。

地球環境時代に対応したくらしづくり

   地球温暖化問題については、昨年から京都議定書の約束期間が始まったところですが、我が国のCo2排出量の約2割を占める運輸部門や約3割を占める民生部門のうち住宅・建築関係を所管している国土交通省としても、削減目標の達成に向け取り組んでまいります。このため、今月中旬に我が国が主催する「交通分野における地球環境・エネルギーに関する大臣会合」の成果等も踏まえ、国際連携・協力を強化しつつ、低公害車等や省エネ鉄道車両等の普及・開発の促進、クールシッピング(海運全体の低炭素化)の推進、交通渋滞の緩和、環境負荷の少ない物流体系の構築、公共交通・自転車の利用促進などにより、環境にやさしい交通の実現を図るとともに、住宅・建築物の省エネ性能の向上、歩いて暮らせる都市・地域づくり等の低炭素型都市構造への転換、次期静止地球環境観測衛星の整備等による地球環境の監視・予測の強化などより、地球温暖化対策を進めてまいります。
 また、多様な生態系を育む河川・干潟・緑地等の保全・再生を進めてまいります。
 さらに、ストック型社会への転換に向け、昨年12月公布の「長期優良住宅普及促進法」に基づき、住宅の長寿命化に取り組んでまいります。

国土交通行政の新たな展開

   国土交通行政を展開する上では、時代情勢を見据えつつ、不断に必要な見直しを行っていくという姿勢が極めて重要です。
 道路特定財源の一般財源化等については、昨年12月8日の政府・与党合意に従い、現実のものとしてまいります。
 社会資本の整備については、これまでに述べたような課題に対応すべく、次期社会資本整備重点計画を策定し、適正価格での契約を推進するとともに、引き続き事業評価の厳格な実施、コスト構造改善、入札・契約制度の改革などの取組を進めつつ、真に必要な社会資本を重点的かつ効率的に整備してまいります。また、予防保全的管理への転換による社会資本の戦略的維持管理を推進してまいります。
 また、国土交通行政への国民の信頼を確かなものとするため、これまで厳しい批判を受けた行政支出の無駄については、国民の目線で徹底的な見直しを行い、無駄の根絶に向け真剣に取り組んでまいります。
 さらに、地方分権改革については、これまでも積極的に進めてきたところですが、国民生活や経済活動への影響、国と地方の役割分担等に留意しつつ、しっかりと取り組んでまいります。

 以上、新しい年を迎えるにあたり、国土交通省の重要課題を申し述べました。国民の皆様のご理解をいただきながら、ご期待に応えることができるよう、諸課題に全力で取り組んでまいる所存です。
 国民の皆様の一層のご支援、ご協力をお願いするとともに、新しい年が皆様方にとりまして希望に満ちた、大いなる発展の年になりますことを心より祈念いたします。


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