建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年1月号〉

interview

構想期間40年を経て当別ダムがいよいよ着工

――全国で初めて台形CSG形式を採用

札幌土木現業所 事業部長 土栄 正人氏

 
土栄 正人 どえい・まさと
昭和33年 3月生 札幌市出身 
昭和55年 3月 北海道大学工学部卒
昭和55年 4月 入庁
平成 5年10月 室蘭土現道路建設課舗装係長
平成 8年 4月 企画振興部計画室主査
平成10年 4月 建設部道路計画課主査
平成12年 4月 建設部道路計画課道路企画係長
平成14年 4月 建設部都市計画課主幹(小樽市派遣)
平成16年 4月 建設部道路課主幹
平成19年 6月 現職

 昭和45年から構想され、基本調査が行われてきた当別ダムが、およそ40年の時を経てようやく本体工事に着工した。当別川総合開発事業の一環で、洪水調節だけでなく水道水や農業用灌漑用水も供給する多目的ダムだが、最大の特徴は台形CSG形式を採用したことで、これは全国でも初めての施工事例となる。設計、資材、施工の各段階において、合理化が可能となる画期的な工法で、長い年月をかけながら考え抜かれた成果とも言えるだろう。この事業実施に当たる札幌土木現業所の土栄正人事業部長に、ダムの特性と技術などを語ってもらった。

▲完成予想写真
──いよいよ着工となりましたが、事業計画の概要を伺いたい
土栄 構造は台形CSG形式で、高さは52.0m、堤頂長は432m、総貯水容量は74,500,000m3の規模となります。事業目的は、洪水調節と流水機能の維持、水道用水と灌漑用水の供給という多目的のダムとなります。  ダム地点の計画高水量1,220m3/sのうち760m3/sを調節し、概ね50年に1回程度の確率で発生する洪水に対して、中下流の地域を防御します。また、生態系への影響に配慮し、サケ・ウグイのために水深30cmを確保するほか、流水の正常な機能を維持するために流量を安定させ、河川の水面幅を確保することで景観を保ちます。  かんがい用水としては、3,153haの農地に最大で13.386m3/sの潅漑用水を確保し、安定した生産と農業の発展に貢献します。水道用水は、当別町、札幌市、小樽市、石狩市に一日最大85,500m3の指導用水を供給します。
──着工に至るまでの経緯は
土栄 平成 4年 3月に石狩西部広域水道企業団と基本協定を締結してから、その翌月に 建設事業が採択され、9年10月に当別ダム損失補償基準の妥結・調印が行われました。そして14年に付替道路工事に着手し、19年11月に堤外板流水路による一次転流が行われ、そしてこの20年10月に、いよいよ本体工事の契約を締結しました。
▲ダム平面図
──この構想の起こりは
土栄 当別川は、昭和38年より中小河川改修工事、局部改良工事等が行われてきましたが、その後も河岸の決壊、氾濫を繰り返したため、地元住民から抜本的な治水対策が要望され、昭和45年に北海道の単独費による水文調査、地形調査などの予備調査を開始しました。その結果、現在の位置でのダムの築造が可能と判断され、昭和55年には国の補助事業としての実施計画調査の採択を受けました。  この当別川周辺は、稲作を中心とした札幌圏の食料供給地区として、都市近郊型の農業が行われてきましたが、当別川に建設した農業専用の青山ダムだけでは、十分なかんがい水量が確保できず、代かき期間の短縮や疎水かんがいなど、現在の栽培技術に対応できない状況にありました。  また、当別町の水道水源は、この当別川での農業用水で使用した水をさらに下流で取水している状況で、慢性的な渇水により農業では番水、上水では節水の呼びかけなどが常に必要で、水資源の安定供給に懸念があるなど、利水においても抜本的な対策が求められていました。  当別町の外にも、札幌市の将来人口への対応、豊平川水系からのリスク分散が望まれており、また石狩市は地下水に依存しているため、地盤沈下や塩水化への懸念がありました。小樽市でも、石狩湾新港地区での地下水に対する石狩市と同様な懸念が持たれていたため、平成4年には石狩西部広域水道企業団が設立され、共同事業者として基本協定の締結を行い現在に至ります。
──流域の概要と建設地の状況は
土栄 当別川は、流域面積が309.5平方qで、流路延長は72.5qの一級河川です。水源は暑寒別山系増毛山地の南にある察来山で、山間部を南下し一番川、二番川などを合流しながら、石狩川の河口より約15qの右岸に合流します。  流域の気候は内陸性で、地域差はあまりなく、年平均の降雨量は約1,500mmですが、台風期は豪雨による被害が集中しています。  ダム建設地は当別市街から北へ約11qの地点で、その地区の地質は新第三紀のシルト岩や砂岩による望来層が基盤となっています。これを段丘堆積物や崖錘堆積物が覆っています。
──地域からはかなり期待が持たれていますね
土栄 管内の主な既往災害は、昭和56年8月が最大規模で、その他にも昭和36年、昭和45年、昭和49年、昭和50年、昭和56年、平成8年にも水害に見舞われ、地域は悩まされてきました。  当別川の整備計画は、学識経験者、地元委員を含む委員会や、住民説明会の開催、計画についての縦覧などの手続きを経て、平成14年 1月に当別川、材木川などの支流を含む「石狩川水系石狩川中流圏圏域河川整備計画」として認可されました。これによって、概ね50年に1回程度の確率で発生する洪水に対し、中下流の地域を防御する計画が認可されたことになり、治水安全度の向上は大きく期待されています。  そして、水道用水と、水質の確保も実現します。札幌市は北海道の行政・経済の中心として、今後も人口の増加が見込まれ、現水源として依存している豊平川のみでは、将来の需要に応えられなくなることから、新たな水源確保が必要でした。  小樽市の場合は、石狩湾新港地区では100%を地下水に依存しているため、塩水化や地盤沈下が心配されていました。  石狩市は現在、地下水の他に 不足分を札幌市からの分水によって確保していますが、やはり地下水の場合は塩水化や地盤沈下の心配があり、また札幌市からの分水では、札幌市の需要の増加に伴って供給が補償されないなど、将来的に不安定です。  地元の当別町は、現在は当別川を水源としていますが、渇水時には取水できない暫定水利権によって、かろうじて確保されている心許ない状況です。実際に過去の渇水時には、節水の呼びかけを行うなどの事態も生じており、水需要に対して十分には応えきれない状況ですから、安定的で十分な水道水の確保は当別町の悲願ともなっています。  この他、当別地区は稲作を中心とした農業地帯で、その水源は当別川の青山ダムに依存していますが、河川の流況の変動によって用水不足をきたしていました。このため、代かき期間の短縮や深水かんがいのための、用水を安定的に確保し、土地生産性の向上、品質の向上を図り、農家経営の安定が求められていました。
▲クリックすると拡大したものが開きます。
──施工技術について伺いたい
土栄 ダム形式は、当初は重力式コンクリートダムとして計画されていましたが、コスト縮減をはじめ様々なメリットの多い「台形CSG形式」を採用しました。ダム建設でこの工法を採用するのは珍しく、全国でも初めてのケースとなります。  台形ダムは、直角三角形の断面となる重力コンクリート式に比べて体積が増えますが、設計の合理化が可能です。そしてさらに3つのメリットがあり、1つは台形の形状は内部の発生応力が小さいため、強度の低い材料でも建設できるので資材の合理化が実現します。2つは台形形状であるために、荷重条件の変動にも発生応力の変化が小さく、3つは転倒、滑動の心配がなく、安全性が高いことです。  一方、CSGは「Cemented Sand and Grave」の頭文字で、直訳するとセメントで固めた砂礫となります。河床砂礫などを有効活用できるので原石山を縮小でき、材料は分級が不要で、骨材製造設備や濁水処理が簡素化されます。そして、ダンプトラックやブルドーザーなどの汎用機械で施工が可能であるため、コストを縮減し、環境へのダメージを最小限に抑えられます。しかも、高速施工も可能となるので、施工の合理化も実現します。
──手軽に、しかも迅速に建設できるよう多角的に考え抜かれた工法ですね
土栄 建設地には厚さ20mほどの河床砂礫が堆積しており、基礎掘削に伴って発生するその土砂に水とセメントを混ぜることで、そのまま提体資材として使用できますから、基礎掘削と採石を兼用できます。コンクリート資材のための骨材製造設備や、コンクリート使用に伴う濁水の処理設備も不要で、土砂の廃棄量も抑えられるという画期的な工法です。このためコスト縮減だけでなく、環境への影響も抑制できるのです。  また、施工に当たってはセメントの使用量が少ないため、ブリージングがほとんど発生せず、施工の継目やグリーンカットなどの作業は不要ですから、手順が簡素化されてスピードアップできるわけです。  そして、台形の安定性のお陰で基礎岩盤の適用範囲は広く、地形に合わせた配置が可能ですから、堤頂長を最短に抑えた配置も可能です。
──地域の重要な社会資本となりますが、どんなダムにしたいと考えていますか
土栄 まずは地域と一体になった親しみやすいダムとするため、住民参加のダムづくりに取り組むとともに、機能的に利用実態に合ったダムとするのはもちろん、ダムが持つ本来の美しさを表現するため、自然と調和し、風景を楽しめるものとするほか、地域の歴史性も感じさせるものにもしたいと思っています。
H20 当別ダム施工に貢献します
HOME