建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年1月号〉

interview

「ものづくり産業」の集積地と物流拠点都市(後編)

――市政施行60周年と日本を代表する海の玄関「苫小牧港」の役割

苫小牧市長 岩倉 博文氏

岩倉 博文 いわくら・ひろふみ
昭和25年1月15日生まれ
昭和47年3月 立教大学経済学部経営学科
昭和49年1月 岩倉組土建(株)入社(昭和64年1月岩倉建設(株)へ社名変更)
平成 5年12月 岩倉建設(株)取締役
平成12年 4月 岩倉建設(株)顧問
平成12年 6月 衆議院議員
平成15年10月 岩倉建設(株)顧問
平成18年 7月 苫小牧市長(1期)


(前号続き)
――市長の祖父である岩倉巻次氏(初代)は、昭和26年に本格着工した苫小牧港の生みの親で、その子孫が市長として市政施行60周年を迎えたことに因縁を感じますね
岩倉 祖父たちの代の人々のかいた汗と、その歩みをしっかり引き継ぎ、私も苫小牧に生まれ育った1人ですので、祖父に負けないくらい苦労し、次の世代に「たくましい苫小牧」をバトンタッチするのが市長としての私の基本的なスタンスです。
――苫小牧市は北海道の玄関口として重要な役割を果たしています。特に衆議院議員も経験された岩倉市長の手腕には北海道開発を担う国交省、道開発局も期待しているのでは
岩倉 苫小牧は王子製紙、トヨタ等のナショナルカンパニーが操業しており、従業員の多くが労働組合に所属しているので、政治風土は比較的強い部分があるとは思います。世界経済、世界物流が非常に早いスピードで変化しているなか、国、道の方針と地方自治体の方針に温度差があるようでは、変化のスピードに遅れてしまう時代だという認識を持つ必要があります。
――その意味では国、道と三位一体の基盤ができたのでは
岩倉 私はそれを連携・連動と呼んでいます。特に港湾の場合は先行基盤投資が欠かせない事業で、後追いでやっても意味がなく、乗り遅れてしまいます。国際コンテナターミナル機能を東港区に一括シフトし、さらに国際物流機能を強化していきますが、基盤がなければ機能しない社会資本なので、国や道の方針と苫小牧市のマチづくりの方針に「差異」があっては後戻りしかねません。その意味では重要な事業と位置付けています。  基盤整備の技術や、ハード・ソフトを含め物流機能としての港湾のプロが国にしかいないのが現状なので、引き続き開発局の果たす役割は大きいものがあります。金太郎飴のように日本も全国の至る所に港湾をつくり続けてきましたが、国の財政に起因する「選択と集中」が進み、しかもアジアでは釜山、上海をベースとした物流形態が大きく変貌し、何よりもコンテナ輸送が当たり前になってきました。私たちは難しい時代の局面に立っていますので、早いスピードで変化していることを見据えつつ、基盤投資をセットで考えるスペシャリストが絶対に欠かせません。
――自動車産業、バイオエタノール技術実証プラントなど企業の立地や事業の拡大が続いています。苫小牧は北海道経済のエンジン役を担っていますね
岩倉 苫小牧は港を抱え、新千歳空港にも至近距離にあるので、立地環境には恵まれています。従来から紙パ、石油精製、電力などの集積があり、いまは自動車産業を中心に企業の立地が続いていますが、プラスワン、プラスツーの柱がほしいと思っています。  その一つとしてバイオエタノール製造プラントが建設中です。自動車産業については一貫生産工場の構想もありますが、いまのところ北海道の地場調達率は6%で、この半年間のアメリカの自動車産業都市の様子を見ていると、むしろ部品工場の集積のほうがベターかなと思います。九州のように部品調達率が50%になれば別でしょうが。
▲自動車産業の集積地
――自動車産業も道路あってのことですが、ウトナイ湖周辺に「道の駅」の設置計画が具体化しているようですね
岩倉 これから運営管理会社を決める段階ですが、あれだけの交通量があってウトナイ湖、空港にも近いので、騒音問題等でご苦労をかけた地元の植苗地区に還元できる仕組みをつくりたいと考えています。  進出企業の社員にとっても子弟の教育面や、住環境として北海道は全体として物足りなさを感じているようですから、新しい市民の皆さんに生活面で充実感を味わっていただけるよう、しっかりとまちづくりに取り組みたいと思います。ただ、財政が厳しいのが残念ですが。
――企業立地が固定資産税等税収面に反映しているのでは
岩倉 進出企業の設備投資に対する助成措置がありますから、皆さんが想像しているほど、即市税に反映しているわけではありません。しかし、新しい工場が出来れば、社員が増えたり、新たに住宅を求めたりしますから、中長期的にはプラスです。
――今後の都市機能の充実には、どう取り組みますか
岩倉 今回10年スパンの新総合計画をスタートさせました。現在、苫小牧市の人口は174,000人ですが、10年後は横ばいの170,000人と設定しました。  苫小牧は成長都市で人口もまだまだ伸びるとの見方もありますが、近年の出生率からみて自然増は期待できません。これまでは社会増でカバーしていましたが、それでも05年より15歳から64歳までの生産年齢人口が減少に転じており、その結果、現実的な数字としてはじき出したのが17万人でした。国全体の人口が減少している中で、決してハードルを低くしたとは思っていません。そう考えると、新たな投資より維持管理の方向にシフトせざるを得ません。  少子化に何とか歯止めをかけたいと考えていますが、なかなか難しい。
――苫小牧は市域が東西に長い地形なので、地域の特性を生かすのは難しいですね
岩倉 そうです。苫小牧は中心部と東、西と人口のバランスは取れていますが、大型の商業施設がオープンするなど話題性は東が圧倒的に多いのです。  そこで、東西のアンバランスの解消を政策課題に掲げています。人口の比率は拮抗していますが、人口構造では西側は圧倒的に高齢化が進み、東は比較的若く、中心市街地は空洞化が顕著で、課題は多い。
▲ウトナイ湖
――苫小牧市の将来像について市長のイメージをお聞かせ下さい
岩倉 北海道の自立に向けて、観光産業と一次産業の振興が道政の柱になっていますが、観光と一次産業で3兆円を超える域際収支のバランスを取ることは不可能です。もう一つの「核」として、ものづくり産業の集積が北海道経済の自立に欠かせないファクターです。その役割を担うのが、苫東を中心とする苫小牧の宿命だと自負しています。  もとは王子製紙で培ったものづくりのノウハウを蓄積しており、近くには室蘭市もあり、そうした意味で、苫小牧は北海道経済自立のための基盤をつくっていく都市の一つですから、経済や生活面でたくましい苫小牧を目指したい。 もう一つは、昭和48年から先輩世代が掲げてきた「人間環境都市」を、苫小牧市が目指すべき理想の都市像として宣言したことです。公害問題が騒がれた当時とは環境の背景は違いますが、21世紀はまさしく環境の世紀といわれている中で、先輩たちの思いと志をしっかりと受け継ぎ、「人間環境都市」を追い求めていきたい。  環境を追求すると経済が縮小するといわれがちですが、それは大きな間違いです。個々の生活や産業分野を含めて、環境問題はこれからメジャーな問題になると思うので、それらも視野に入れたまちづくり戦略を、市民の皆さんとともに取り組んでいきたいと思います。
――バイオエタノールの製造プラントが建設中ですから、環境都市のイメージにピッタリですね
岩倉 苫小牧には出光の製油所も近くにあるので注目しています。

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