建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年1月号〉

interview

5期総計の集大成となる砂川市立病院改築

――暮らし・にぎわい再生事業補助が適用

砂川市長 菊谷 勝利氏

菊谷 勝利 きくや・かつとし
昭和14年6月26日 増毛町生まれ
昭和33年3月 北海道立留萌高等学校卒業
昭和36年2月 砂川市役所奉職
昭和46年1月 自治労砂川市職員労働組合特別執行委員
昭和46年5月 砂川市議会議員(7期)
平成 3年5月 砂川市議会副議長
平成 7年5月 砂川市議会議長
平成11年4月 砂川市長(現在 3期目)
賞罰
昭和55年 砂川市自治功労章受賞
平成10年 藍綬褒章受章

砂川市は昭和33年7月に道内26番目の市制を施行して以来、今年で50周年の歴史を刻んだ。50周年の節目を祝うかのように、人口2万人の砂川市に平成22年10月の完成を目指し、新しい市立病院が着工した。総事業費130億円、病床数506床を擁する中空知の基幹病院で、菊谷市政の最重点課題である中心市街地の活性化の目玉事業に位置付けられ、国の「暮らし・にぎわい再生事業補助金」の適用に成功したのはクリーンヒットだ。市街地再開発事業、地域交流センター「ゆう」、公営住宅団地に続く中心市街地活性化の一環として改築事業が始まった市立病院の設計コンセプト及び施設概要、財政難を逆手にとって市民との協働に取り組む菊谷市政の課題などを聞いた。

――砂川市は市制施行50周年を迎えました。その節目にふさわしく、市立病院を全面的に建て替える改築事業がスタートしました。砂川市の将来展望において、市立病院をどのように位置付けていますか
菊谷 市立病院の改築事業は、原油価格の高騰に伴う建築資材コストの上昇により発注が遅れていましたが、8月5日に入札を執行し、翌9月4日には安全祈願祭を無事に済ますことができました。  市立病院は昭和15年に町立社会病院として開院し、病床数521床、職員数721名を擁する中空知5市5町30万人の基幹病院として発展してきました。現在は中空知地域センター病院、へき地医療拠点病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域周産期母子医療センターとして、救命・救急・急性期医療、がん診療、周産期医療などの高度専門医療や教育研修の役割を担っています。  市立病院の建て替えは以前からの懸案でしたが、1床あたり4千万円、およそ200億円規模の事業費が必要との試算でしたので、市の財政規模からしてなかなか踏み切れませんでした。その後、建築コストが下がってきたことや、低金利が続いていることから、中心市街地活性化の政策の中に位置付け、市営住宅、交流センターに続く第三弾として改築事業に着手したところです。  原油価格高騰のあおりで建設費は当初の見込みより大幅に増えましたが、幸いにして中心市街地活性化基本計画の内閣総理大臣認定を受け、「暮らし・にぎわい再生事業補助金」、「住宅・建築物耐震改修等事業補助金」が見込めるのは大きなインパクトです。  総事業費が130億円を超える大型事業で、中心市街地の活性化、保健・医療・福祉の充実した総合的なまちづくりを担う重要な存在です。22年10月の開院を目指しており、これが完了することで、22年度までの重点課題が解決されることになるので、その意味では13年度を初年度とする砂川市第5期総合計画の集大成と言っていいでしょう。
――市立病院改築事業の設計コンセプト、計画概要をご説明ください
菊谷 現在の市立病院は昭和43年の建設で、竣工から40年が経過し老朽化が進み、高度多様化する医療への対応や災害拠点病院としての機能充実が求められています。  阪神淡路大震災規模の直下型地震に見舞われると壊滅的な打撃を受けるため、新しい施設は地震や災害に強い免震構造や浸水防護区画を取り入れ、災害に強い病院を目指しています。  また、急性期基幹病院としての機能を一層充実させ、専門的高機能、地域医療連携機能、救急医療機能を整え、地域完結型医療の中心を果たす病院として設計しています。利用者の利便性に配慮し、外来・検査部門を1階に集約、主な医療行為は1階で完結するようにします。  1階の救急部門は放射線部門などと近接し、3階の救命集中治療センターと専用のエレベーターで直結し、24時間的確な対応が可能となるよう設計しています。救命集中治療センターにはICU(集中治療室)、HCU(重症患者治療室)を設置します。産科病棟にはLDR(陣痛・分娩・回復)3室を設置、1つのベッド1つの個室で過ごせる分娩室を整備します。  新本館は7階建て延べ11,600u、南館が6階建て延べ6,200u、立体駐車場は4階建て延べ14,900u等の施設構成で、診療科目は内科、精神神経科、循環器科、外科、脳神経外科、産婦人科等18科、病床数は一般病床408床、精神88床、結核6床、感染4床の計506床となります。  まず現病院の本館・新館の機能を新本館へ移転しながら、22年10月に開院します。その後、現病院の本館の一部を解体しながら23年11月までに南館の改修・増築を行います。さらに翌年度には現病院の跡地に650台収容の立体駐車場を建て、24年8月までに全事業が完了の予定です。立体駐車場だけで7億かかります。
▲全景(南東側上空) ▲新病院(右側)、南館及び立体駐車場(左側)
――市長は30年代から砂川市の行政、議会事務に携わってきました。いまトップとしてその経験を持っていることは最大の強みですね
菊谷 そうかも知れません。皆さん財政的に苦しいと訴えますが、それを逆手にとって、いま何をしなければならないか。これまで先送りしてきたことで、問題点が浮き彫りになっているはずです。埋没しないためには費用対効果を考え、優先順位をつけることです。  平成11年にわたしが市長に就任した当時、わが市は200億円を超える借金を抱えていました。予算規模が100億円規模ですから、2年分の借金です。起債の償還が年間22億円、市税が21〜22億円ですから、税収がそのまま借金返済に消えてしまいます。そこで、採算性の合わない無茶な施策は止め、事業の「選択と集中」により、起債は年間7億円程度に抑えながら、財政健全化に取り組んできました。  議会からは「財政健全化と選挙公約に整合性がない」との批判や、職員組合の推薦を受けての当選だったので、「合理化は出来ないだろう」との冷めた見方がありましたが、これまで職員を100人減らし、人件費にも大ナタを振るいました。新卒職員の採用は定年退職者の半分しか補充していません。20年度一般会計の人件費は、前年度当初対比で7.7%減まで絞り込みました。それでも組合は率先して協力してくれています。5ヵ所の保育所を3つに統廃合し、直営だった特別養護老人ホーム福寿園の管理運営は民間に任せました。そうして、経常経費は前年度の97億円から94億円まで縮減できました。市の歳入、つまり自分の身の丈に合った予算編成にしなければなりません。
――道内の自治体はどこも財政難にあえいでいますが、合理化に伴う職員の士気低下を指摘する声も聞きます
菊谷 中心市街地の活性化は最重要施策の一つです。かつて12,000人を数えていた中心市街地の人口が5,600人にまで減少しています。砂川農協ストア跡の市街地再開発には、総事業費16億円を投じて、12〜13年度で実施しましたが、市も駐車場取得に約2億円、補助金は1億4千万円出しています。14年度から東部開発の基本・実施設計に着手、16年〜18年度の3年間で老朽化した市民会館に代わる施設として500人収容のホールを備えた、中心市街地の核となる地域交流センター「ゆう」の建設、1,600戸の公営住宅を統廃合して東部地区への移転など、重点事業には費用対効果を考えて積極的に財政出動してきました。そして、東部開発の次が病院の改築事業ですが、病院経営の様子をみながら、しばらく大型事業は控えるつもりです。  残された大きな課題は、東西市街地の交通アクセスの要所である南1丁目線ガードの整備です。砂川の開基は明治23年(1890)で、今年118年になりますが、南1丁目線ガードは明治24年、砂川〜岩見沢間に鉄道が開通した当時の施設です。コンサルタント会社に調査委託を行い、市議会に諮問する予定でしたが、道路特定財源が一般財源化し補助金制度がどうなるか分からないため、ストップをかけているところです。
――3期目に入っていますが、職員に意欲を持たさせている市長の手腕は敬服に値します
菊谷 職員はもともと勤労意欲を持っています。副市長が陣頭指揮を取って、市民サービスの向上に極力予算を回そうと工夫しています。  しかし、それにも限界がありますから、市民との協働を訴えています。例えば、公園の草刈を地域の町内会に協力してもらっています。資材等はもちろん市が提供します。昨年オープンした地域交流センター「ゆう」の利用者はお陰様で目標を大きく上回っています。計画段階から市民主体で取り組んできた成果の表れです。福祉は選択の時代だと思います。今後も市民との協働、連携でまちづくりに取り組んでいきます。
――市民ニーズの変化をどう感じていますか
菊谷 昔は三井東圧の砂川でしたが、いまは「安全な病院があり、福祉が行き届いていること」が市民の一番の願いです。とにかく赤字経営に転落させないよう頑張ってきました。医療スタッフは病院長が自らの人脈で確保しています。さらには滝川、赤平、奈井江にまで医師を派遣しているほどです。開業医に配慮し診療科を設置していないのは歯科だけで、外来・入院患者のうち6割は市外、地元4割の比率ですから、なおさら赤字に転落すると影響は大きいのです。
――病院の改築事業の目途が立った今、これからの施策展開についてお聞かせください
菊谷 これが一番難しいところですね。議会でもお話していることは、「だらだら」とした施策は実施しません。施策にはメリハリをつけたい。病院のあとの大きな事業は南1丁目線ガードの整備ですが、これも40億円ほどの事業費がかかります。完成まで10年は要するでしょう。公営住宅の修繕、災害時の避難場所になっている小中学校の耐震化も控えています。新しい施設をつくるだけでなく、既存施設の利活用を図っていくには、維持修繕の手当てが緊急の課題です。施設の新規建設には 国の補助制度があっても、施設の延命のために市町村が行う大規模修繕等に対しては、財政支援の仕組みがないのはおかしい。国はそういうことにもっと理解を示してほしい。地方と国の協働が必要です。  市立病院の改築事業についても、「病床数が大きい」とか「経営内容が良い」などの理由で償還条件が有利な過疎債の適用を渋っていました。経営が優秀なのは、それだけ努力しているからです。今回は初めて過疎債(75億円)の対象になりました。通常なら償還額の22.5%のところを、過疎債は70%が交付税に参入されますから、事業費の二分の一が補助される計算になります。  国の中心市街地活性化基本計画も新聞報道で知り、直ちに担当職員に調べさせ、幸いにして砂川が北海道で第1号にに認定されました。病院の改築事業で15億円の補助を受けます。もともと病院建設には、一切の補助制度はなく、総務省や道の担当者には「人口2万人の規模で500床の病院を建てるのはとんでもない」と言われましたが、私自ら総務省に足を運び粘り強く交渉して実現したのです。

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