建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年1月号〉

interview

「目指す姿」実現のため全道民による協働の地域づくりが基本方針

――広大な土地 食料 人材を総動員

北海道知事 高橋 はるみ氏

高橋 はるみ たかはし・はるみ
昭和29年1月6日生まれ 富山県出身
昭和51年3月一橋大学経済学部 卒業
昭和 51年 4月 通商産業省入省
平成 元年 6月 通商産業研究所総括主任研究官
平成 2年 7月 中小企業庁長官官房調査課長
平成 3年 6月 工業技術院総務部次世代産業技術企画官
平成 4年 6月 通商産業省関東通商産業局商工部長
平成 6年 7月 通商産業省大臣官房調査統計部統計解析課長
平成 9年 1月 通商産業省貿易局輸入課長
平成 10年 6月 中小企業庁指導部指導課長
平成 12年 5月 中小企業庁経営支援部経営支援課長
平成 13年 1月 経済産業省北海道経済産業局長
平成 14年 12月 経済産業省経済産業研修所長
平成 15年 2月 経済産業省退官
平成 15年 4月 北海道知事

 原油高にともなう物価高の上に、世界的な金融危機により、国際社会は一様に大きな影響を受けた。さらに同盟国であるアメリカは政権交代することとなり、日本でも国政選挙が近づきつつある。グローバル社会にあって、そうした動勢は北海道にとっても無縁のものとはいえず、円高による第一次産業のコスト高の反面、販売価格の競争により収益性が下がり、それが税収に反映するなど、その余波はあらゆる分野に及び、隅々にまで波及している。そうした情勢の中で、北海道はどの方向を目指し、道民は何をすれば良いのだろうか。

――世界的に金融不安が広がり、景況に大きく影響していますが、逆風の中でも今後の北海道を牽引していける産業とは、どの分野だと考えますか
高橋 北海道は、世界に誇れる雄大な自然や、安全安心な農水産物など魅力ある地域資源に恵まれています。道民一人当たりが使用できる水資源は、全国平均値の約3倍で、環境省の「きれいな河川・湖沼調査」でも、北海道の多くの河川・湖沼が選ばれるなど、産業用・飲料用ともに高品質な水資源が豊富です。  食料については、農業の産出額、水産業の漁獲量・漁獲高が全国1位で、食料自給率もカロリーベースでほぼ200%と全国一です。食品の安全・安心の問題に関心が高まる中で、本道の食品に関する潜在力は極めて高いと自負しています。こうした限りない本道の潜在能力を活かせば、各産業が北海道経済を活性化させるものと考えています。
――農業の近況は
高橋 北海道の農業は、積雪・寒冷という厳しい自然条件の下、不撓不屈の精神で幾多の困難を克服された多くの先人のご尽力によって、我が国最大の食料供給地域として、道民をはじめ国民に対する食料の安定供給に大きく寄与しています。  また、国土や環境の保全など多面的な機能を発揮しながら、地域の基幹産業として発展し、本道の経済・社会の基盤を支える重要な役割を果たしています。  しかし、WTOやEPAといった農業の国際化の進展や、昨今の肥料、燃油高騰にともなう農業生産資材の価格高騰が農業経営に大きな影響を与えることが懸念されています。私が本部長で、市長会、町村会、議長会、産業団体の代表の皆さんが構成メンバーとなっている「緊急経済対策会議」でも、各代表の皆さんからは、「農業が厳しい状況におかれると、本道経済は長期的に悪化していく」といったご意見があり、農業は地域における基幹産業であるとの思いをさらに強くしたところです。  しかも、近年の国際的な食料需給の問題や、様々な食を巡る問題などから、道民をはじめ国民の皆さんの安全・安心で安定的な食を求めるニーズがこれまで以上に高くなっていますから、本道農業の果たすべき役割はますます重要になっています。  今後とも、高品質な農畜産物を安定供給するとともに、地域で穫れた農産物は地域で加工するなど道内で付加価値を高める取り組みを、これまで以上に積極的に展開することで、農業が地域の基幹産業としての重要な役割をしっかり果たせるものと考えます。
――水産業も燃油高に苦しめられ、浜では苦戦を強いられています
高橋 北海道の水産業は、全国の水揚げに対する割合が生産量で1/4、生産額で1/5を占め、我が国最大の水産物の供給基地となっています。ちなみに、後に続く宮城県や長崎県が全国に占める割合は、5〜8%程度であることを考えると、これは飛び抜けたレベルといえます。  最近は、健康志向の高まりや、BSE・鳥インフルエンザによる食肉への不安から、世界的に水産物需要が増加していますが、人口増加への対応を考えると、本道の水産業も非常に大きな可能性を秘めていると考えています。
――林業を取り巻く状況についてはいかがですか
高橋 北海道は、戦後から道民が植えてきたカラマツなどの人工林資源が充実しつつあります。そして、道産木材の需要も高まっており、平成19年度には道産材供給率も53%と、5年前より10%以上も伸びているのです。  林業が発展するにつれ、林業労働者も建設業などから新たな参入があり、平成19年度は17年ぶりに就業者数は増加に転じました。  森林・林業を取り巻く状況は大きく変化していますが、適切な森林資源の管理や、カラマツなどの人工林資源の高付加価値化などによって、林業・木材産業の振興を通じた地域の活性化が図られるものと考えています。
――原油高騰のショックから、世界的に脱原油とエネルギーの多角化を模索するようになりました
高橋 北海道は苫小牧市勇払地区で産出される「天然ガス」のほか、風力、太陽光、農畜産廃棄物、雪氷など、新エネルギー資源の宝庫であり、さらに昨年7月の「北海道洞爺湖サミット」の開催により、環境やエネルギー面などにおける北海道に対する関心や知名度が高まっています。  このほか、苫東地域などの道央圏で集積が進んできた、自動車産業や、電気・電子機器産業などのものづくり産業、本道の豊富な地域資源や知的資源を源とするIT産業やバイオ産業の発展も期待できます。  道内の各地域では、世界的な環境やエネルギー制約に対応した新商品の開発、農商工連携による一次産業とIT技術を結びつけた新事業展開など、経済活性化の芽が生まれてきています。道としては、こうした分野を可能性のある産業分野として、事業者の皆さんの新たな取り組みへのチャレンジを積極的に応援し、経済活性化の芽を大きく育てていきたいと思います。
――観光産業は、円高、原油高、物価高で、例えばニセコ町から豪州人が退去しているようです
高橋 確かに昨年の秋以降、円高や世界的な景気後退の影響で、これまで順調に伸びてきた外国人観光客は落ち込みを見せており、私たち北海道観光を担っていく関係者はこうした状況の中で2009年を迎えることになります。  けれども、このような時だからこそオール北海道が一丸となって、豊かな自然環境、彩り豊かな四季折々の景観、心を癒す温泉や新鮮な食など、北海道の魅力を存分にPRするプロモーションに力を入れるほか、外国人をはじめすべての観光客が安心して快適な旅を楽しむことができるよう、ホスピタリティの向上や、地域観光を担うリーダーや通訳案内士などの人材育成、地域の特色ある観光資源を生かした観光地づくりなどの受け入れ体制の整備に、しっかり取り組むことが必要です。  観光は、旅行業や宿泊業、運輸業だけでなく、飲食業や物販、娯楽・レジャーをはじめ、農林水産業などの一次産業や製造業など、様々な分野に経済効果が及ぶ裾野の広い産業です。このような厳しい状況でも国際的に通用する質の高い観光地となるよう、道内観光の基盤整備や外国人観光客向けのインフラ整備なども、中長期な観点から引き続き進めていこうと考えています。
――本道の経済構造はいまだに農業中心のイメージですが、第一次産業をどう多角化するかが課題ですね
高橋 本道の農業・農村は、高品質な食料の生産だけでなく、水資源のかん養や洪水の防止、大気の浄化、さらには美しい農村景観の提供といった多面的な機能を持っており、食品製造業やグリーンツーリズムなどの幅広い関連産業の発展が期待されますから、農業・農村は地域の産業を支えていると言えます。  また、こうした機能や役割は、開拓の歴史や自然条件が異なる道内それぞれの地域において多様な農業者によって担われていますから、今後とも農業者が共存できるよう、新規就農者の育成や複数戸による法人化などに努め、小果樹など特色ある農産物づくりをはじめ、農家チーズなどの農産加工や産地での直売、農家レストランといった農業の価値を高めるアグリビジネスの一層の振興を図るとともに、多様な形態の農家が活き活きと営農でき個性輝く農業・農村づくりを進めたいと考えています。  水産業も、道内各地では北海道の水産業の現場を知っていただきたいとの思いで、意欲的な取り組みが行われています。一例を上げると、根室の歯舞漁協では、北方領土と隣り合わせの厳しい漁業環境に対する理解を深めてもらうために、貝殻島周辺で遊覧船を運行しています。  また、サケの水揚げの見学やコンブ採り体験などの「漁村体験」、サケの新巻づくりやウニの殻むきなど「漁獲物の加工体験」そして、これらを組み合わせた「エコツーリズムや修学旅行の受け入れ」なども行われています。  森林分野については、近年、中高年の健康志向や登山ブームを背景に、森林浴をはじめ森の中を歩きながら自然を利用した医療的なリハビリテーションなど、森林に包まれながら心と身体を健やかにする森林の癒し効果や森林療法が、全国的にも注目されています。それを反映して、一部の地域では、都市住民を対象とした「森の癒し」体験ツアーなどを先駆的に取り組んでいる事例もあります。  道としても、道有林内の優れた景観を有する箇所を「見どころマップ」として紹介したり、旅行会社や旅行雑誌社、道民の皆さんを対象とした「森の癒し」を取り入れたツアーの商品化を目指した体験ツアーを実施しています。体験ツアーの参加者の方々からは、概ね好評を得ていますが、観光資源として活用する森林に関する情報が少ないとのご指摘もあったことから、今後も様々な媒体を活用した効果的な情報提供を行っていく予定です。  このように、一次産業は観光資源としてもいろいろな可能性があると考えています。
――道内食料自給率はほぼ200%となっているものの、現実には素材を供給する一方で、製品は本州製のものを道民が購入しているという矛盾が以前から指摘されてきました。地産地消の取り組みとしてどのようなことを進めていますか
高橋 カロリーベースでの食料自給率がほぼ200%という高い水準にある本道農業が、今後とも我が国最大の食料供給地域として、その役割を高めながら発展していくためには、地産地消や食育といった消費や食生活のあり方など、生産と消費の両面にわたる施策展開も重要です。  とりわけ消費面については、道としてはこれまで「北のめぐみ愛食運動道民会議」を中心に、生産者団体、経済団体、消費者団体などと一体となって、地産地消をはじめ食育やスローフード運動を総合的に推進する愛食運動を展開しています。具体的には、毎月第三土曜日・日曜日を「愛食の日」と定め、「どんどん食べよう道産DAY」の普及啓発を図るほか、生産者自らが行う直売市などへの支援、道産食材を使った料理などを提供する愛食レストランの認定や生産者を対象とした料理コンテスト、さらには正しい食習慣を身につけるための食育講座の開設など、様々な施策に取り組んでいます。  一方、量販店やコンビニエンスストアなどにおいても、道産食材の販促キャンペーンなどの取り組みが広がっているほか、ハンバーガーやピザの大手外食チェーンが道内向けの商品の原料を道産小麦に切り替えるといった、地産地消を促進する動きもみられます。  また、道庁赤れんが前庭をはじめ、道内各地で開催された「北のめぐみ愛食フェア2008」では、入り込み客数と売り上げともに、前年を上回る結果となりました。  さらに、19年度の北海道米の道内食率は、70%にまで向上したほか、昨年、道が実施した道民意識調査では、約8割が「地産地消を意識している」との結果が得られて、消費者の地産地消に対する認識が着実に高まっていることが伺われます。  近年、食品の偽装表示や輸入食品における農薬、有害物質の混入など、食への信頼を揺るがす事案が相次ぐ中で、安全・安心で品質の高い道産品への期待は、ますます高まっていくものと考えられますので、消費者ニーズを踏まえた食の提供に向けて、関係者が一丸となって、取り組んでいきたいと考えています。
――アメリカは大統領が交代して、政策が転換することが予想され、同盟国である我が国でも国政選挙が近づいています。とりわけ金融危機への対応のために世界が変化しつつある中で、日本の中の北海道の今後のあるべき姿をどう考えますか
高橋 20世紀と21世紀にまたがるこの十年余りで、日本の経済社会は大きく変化しました。未来への新たな展望が拓かれる一方で、都市と地方の格差など様々な課題も顕在化しています。加えて、本格的な人口減少と超高齢社会の到来、グローバル化の進展、地球規模での環境・資源エネルギー問題など、かつて経験したことのない課題にも直面しつつあります。これからは、北海道にとっては、この歴史的転換期を乗り切る上で極めて大切な時となります。  北海道は、世界自然遺産の知床をはじめとする優れた自然環境、高い食料供給力、多様なエネルギー資源、フロンティア精神と寛容な気質などの独自性や優位性を有しており、私たちはこれら本道固有の価値を最大限に生かして、将来にわたって住み続けたいと思える希望の地としていかなければなりません。  北海道では、今後の四半世紀を展望しながら、北海道がめざす姿と進むべき道すじを明らかにする「ほっかいどう未来創造プラン」と通称している「新・北海道総合計画」が、平成20年4月からスタートしました。この計画は、今後10年間にわたる道政の基本的な方向を総合的に示すとともに、道民の皆さんと道がともに考え、ともに行動するための指針と位置づけており、道民の皆さんと実現していく「めざす姿」として、「人と地域が輝き、環境と経済が調和する、世界にはばたく北海道」を掲げています。  このめざす姿をより確実に、より効果的に実現するため、資金や情報、人材など北海道全体の政策資源を結集して取り組むテーマとして、「食」、「観光」、「ものづくり」、「高齢者」、「子ども」、「エネルギー」、「自然環境」及び「コミュニティ」の8つの分野を「ほっかいどう未来づくり戦略」として絞り込んでいます。  北海道の未来を創り出していくには、道はもとより道民の皆さんや企業、市町村、国など、多様な主体が力を合わせる「協働」が不可欠なのです。道政を取り巻く環境は大変厳しい状況にありますが、皆様の一層の御理解と御協力を得ながら、本道の「めざす姿」の実現に努力していこうと思っています。

HOME