建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年12月号〉

interview

欧米市場向けサケ加工場のベトナムへの移転も検討(後編)

――国際標準として求められるエコラベル認証の取得を目指す

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏

宮村 正夫 みやむら・まさお
昭和19年7月31日生まれ
昭和43年3月 北海道大学農学部 卒業
昭和43年4月 北海道漁業協同組合連合会 入会
昭和56年3月 同 東京支所次長 就任
平成 5年5月 同 参事 就任
平成10年5月 同 代表理事常務 就任
平成16年6月 同 代表理事専務 就任
平成18年6月 同 代表理事副会長 就任
委員就任状況
社団法人日本水産物貿易協会 理事
北海道卸売市場審議会 委員
北海道産業団体協議会 幹事
北海道・ロシア連邦極東地域経済交流推進委員会 委員 他
北海道漁業協同組合連合会
札幌市中央区北3条西7丁目
TEL011-231-2161

 日本にとって重要な食糧輸入先である中国食品の安全性が揺らいでいるため、欧米向けにサケ、ホタテを中国経由で輸出する漁連は、小骨などを除去する加工場のベトナム移転を検討するなど、具体的なアクションを起こし始めている。しかし、クリアすべき課題はそれだけでは終わらない。欧米諸国では、消費者も含めて水産資源保護の意識が高まっていることから、有力量販店の中には適正な資源管理の証明となるエコラベル認証付きの商品しか扱わないところもあり、国際市場で生き残るためには、道漁連が供給する道産水産品もそうした国際認証の取得を目指さなければならない。

(前号続き)

──最近は産地偽装も次々と発覚し、安全性がからめば国際問題にも発展する時勢ですから、品質管理も世界標準のレベルが求められるのでは
宮村 現在はアメリカに輸出できる基準で管理していますが、現在、根室市に20億円以上の総工費で建設を予定している加工場は、アメリカよりも厳しいEU基準も視野に入れた施設にしようとしています。今年は石狩市で、コンブを刻む4億円規模の工場が竣工しました。本州の佃煮メーカーから、1pに刻んだ状態で納入することが求められており、その一つ一つに例え髪の毛一本でも付着していてはならないので、刻んだコンブは強風の中を通すなど、何工程も経ることになります。そのための設備として4億円も投じるのです。  一方、我が国の消費者が、輸入品よりも国産品に目を向けてくれるのは追い風です。最近、産地偽装が発覚して問題となった関係者が、経緯説明と謝罪に訪れた際、「2ヶ月は仕事にならない状態」と話していたので、北海道産のものを扱ってはどうかと提案しています。北海道としては、そうしたことも視野に入れてさらに努力し、消費者が利用しやすい製品に加工して提供すれば、まだまだ国内でも需要を増やしていけるでしょう。  そして肥沃な海域を利用し、資源を増やすことができれば漁業者も豊かになり、輸入は減少しても国民への食糧供給は維持できます。こうした可能性から、水産の将来は農業よりも明るいのではないかと、個人的に思います。何しろ、水産の場合は、農業のように保護されず、当初から国際価格の中で競争に打ち勝ってきているので、輸出もできるわけです。
──天然物が豊富に獲れるのは、国際競争においては強力な強味ですね
宮村 外国へ出荷した時には、特に強味を発揮します。その分、サケなども養殖サケよりは遙かに高価格です。餌で成育をコントロールし、大きさや身の色、脂肪分の比率などを、製品化の段階で調整しやすいので、統一した規格品を作りやすいのです。  しかし、天然サケとなると、大きさなどは加工段階でなるべく調整しますが、身の色や脂肪分などは成育段階で顕著に変化していくため、規格品とするのは困難です。これが、天然物の弱味ともいえますが、それを中国の加工場で品質を統一して欧米へ輸出してきたわけです。  しかし、中国で食品の安全性に問題が起きたので、加工の一部をベトナムに移転することも進めています。この動向は、我々だけでなく、他の大手メーカーその他の食品会社も、同じくベトナムに拠点を移し始めているのです。  一方、それに合わせて加工機械の開発も進めることが必要で、日本の機械メーカーの技術は、かなり向上しており、既存の機械でもほとんどの骨は除去できますが、背びれなどは深く入っているので、数本はどうしても抜けないのです。そのため、全てが完璧に取り除けるものを開発して欲しいと、メーカーの社長に依頼し、徐々に実現しつつありますが、やはり完璧なものは難しく、当面は機械の他に女工さんを配置し、機械で除去できない部位は手作業で行う必要があります。
▲水揚げ
──北海道ブランドの確立は、長年の悲願でしたが、それが実現し結実したわけですね
宮村 幸いだったのは、平成14、15年にサケもホタテも値下がりしたことで、価格競争力を持てたことでした。頭部と内臓を除去したものが、1,100ドルで売れたわけです。その安いときに、欧米の業者がそれならばと本格的に取り扱い出したところ、ものは天然で身の色はアラスカの身色よりも良く、人気が出たために輸出量が増加し、価格は2〜3倍に高騰して2,500ドルになっていますが、それでも欧米の需要は落ちることがなかったのです。  かくして北海道ブランドは定着しており、今では北海道のサケ、ホタテが、今年はどれくらい獲れるか、アメリカ、中国、ヨーロッパの関係者が毎日のように情報収集するようになっています。我々も、正午までには全道の漁港の日々の収穫量のデータが集約されるので、それらを全て公開しています。
──それほど世界が関心を持って見ており、情報公開するとなれば、浜の人々も自分たちの収穫した魚介類の値動きをリアルタイムで知ることができるので、やりがいや意欲に繋がりますね
宮村 その通りです。10月後半になると、ブナサケが獲れるのですが、平成7、8年頃には単価が20円でしかなかったものです。このブナサケは、その当時は中国の黒竜江省などに1キロ40円から50円程度で販売されていた程度でした。様々な対策を進めてきまして、今は随分と高くなりました。
──近年はどの自治体も税収が確保できず、経済を再生するための地域おこしにも苦慮していますが、前浜を持つ自治体は有力な資源を生かすべきですね
宮村 そうです。実際にオホーツクなどはサケとホタテと両方の資源を持つので、漁業者の経営状況は非常に良好です。また、根室市や釧路市は、元から大型船の基地だったので疲弊していますが、地元の漁業者は堅実に経営しています。  ただ、檜山管内から留萌管内にかけては、資源が不足しているため苦戦しています。韓国のトロール船が、資源を台無しにしてしまったためです。かつては武蔵帯が魚類の産卵場所となっていたのですが、1,000t級の韓国漁船が通り、トロールで海底を平坦にしてしまったために、産卵場所が破壊されたのです。
──そうしたものが完成してくれば、日本海側で疲弊している地域でも、漁業によって再生することが可能となるのでは
宮村 ニシンの放流もしていますが、少しずつ還ってきていますから、数年間はニシン漁を禁止して資源を保護するなど、もう少し徹底した対策を行えば、資源が回復してくるのではないかと思います。  資源というのは、本来は採り尽くしてしまえば終わってしまいます。しかし、水産資源は、適切に管理すれば、枯渇することなく永続的に利用できるのです。ヨーロッパはその資源がなくなったために、むしろ持続可能性を重視する意識がとりわけ強くなっており、資源管理を確実に行われて出荷された魚にはエコラベルのマークを明示して、多少は高値でも消費者はそのマークのあるものを買おうという気運が高まっています。そこで北海道の秋サケやホタテも、困難はありますが、エコラベルの認証を得るべく準備を進めています。  アメリカでは、ウォールマートという年商30兆円を誇る世界一のスーパーマーケットがありますが、そこではマーケットとしての確固たる理念があり、エコラベルの認証を得た商品しか扱わないという方針です。間違っても密猟品などを扱うことはありません。私は、この1月にLAとシアトルのスーパーマーケットなどを視察してきましたが、エコラベルのある商品を購入する消費者は、2割くらいとのことで、今後とも2割くらいで推移するだろうとの観測でした。それでもウォールマートは、エコラベル商品しか扱わないという方針なので、納品する世界中の関係者がエコラベルを申請する動きが見られます。
──環境対策も、食も国際標準のレベルとなってきましたね
宮村 元々は日本も欧米も似た水温帯に暮らしているのですから、水産物については、どこでも似たようなものを食用してきたのです。同じくサケやタラを食用するなど、食生活は似ています。だからこそ、道産のものでも欧米で受け入れられたのです。  また、稚魚の育成技術や放流技術が大きく進展したお陰で、回帰率も向上したことも重要です。日本海側の留萌ではホタテの稚貝を育成しており、成長した稚貝をオホーツク側に供給して放流しています。整備した魚場ごとに放流し、4年目で収穫した魚場には、新たに稚貝を放流して毎年収穫できるシステムにしています。このお陰で資源は非常に安定しています。つまり海の畑のようなものですね。  しかし、ここ数年、低気圧による大時化によって、貝が死滅し、大きな影響を受けています。そのため、国費を導入して漁場を沖合に移転する事業を進めています。それが完成すれば、以後は生産量もまた増えてきます。  それを全て国内のマーケットに出荷したのでは、またも価格が暴落しますから、新たな市場を開拓しなければなりません。
──常に3、4年後の動向を見越して事業を進めているのですね
宮村 サケも帆立も放流してから漁獲が4年後ですから、当然先を見た対策が必要になります。  とはいえ、先行きは何が起こるか分かりません。16万tの漁獲を目指して努力したら、20万tの漁獲を得るかも知れず、そうなると値崩れを防ぐために、4万tのマーケットを開拓しなければなりません。  近年サンマが豊漁で値崩れを起こしています。この対策は大変に難しい課題です。漁業者の半分が本州の漁家で、北海道の水揚げは4割でしかないのです。そのため道東だけで対策を打っても、三陸から銚子にかけて豊富な収穫があり、値が崩れたのでは手の打ちようがないのが実情です。
▲本社社屋
──まさしく国外マーケットを開拓して、国内の流通量を調節するといったノウハウがあれば、状況は変わるでしょう
宮村 協同組合は株式会社とは違いますが、経営を安定させるためには一定の利益は上げなければなりません。ただし、視点はあくまでも浜のためであることを忘れてはなりません。浜に軸足を置き、浜のための仕事をしていれば、多少のミスがあっても容認してくれます。  逆に儲かるからと、浜には全く関係のないビジネスをしていたのでは、儲かっても賞賛されるものではなく、むしろ損失が出たなら厳しく追及されます。したがって、判断に迷ったときは、常に浜に軸足を置けというわけです。  サケの価格を300円を目標としたのも、これは生産者としてのエゴではなく、昨年の価格は340円だったのですから、今年も300円くらいならマーケットの動向から無理なく販売できるとの市況判断から、その価格に設定したわけです。
──この夏には燃油高騰のために、大規模な決起集会が行われましたが、この問題にはどう対処しますか
宮村 省エネとかいくつかの条件がありますが、政府が値上がりした分の一部を補ってくれる制度が創設されました。これは2年間です。その間に燃油が高くても漁業経営が成り立つような流通改革と、生産における改革を進めることになっています。そこで、9月10日の締め切りに合わせて、全道的に申請しようとみんなで頑張りました。  漁場の探索を共同で行ったり、コンブ漁などは誰しも全速力で自分の漁場に行きたがるものですが、それを減速して消費を減らしたり、漁船のエンジンも2サイクルよりは4サイクルの方が燃費が良いので、国の半額補助を利用して船外機を交換して、2割から3割くらい節約しているケースもあります。
──最近は様々なエネルギー開発が進められているので、これを機に原油離れして依存度を低めることができれば理想的ですね
宮村 しかしながら、漁業の場合は原油への依存度がかなり高いのです。収穫した後は、なるべく鮮度を維持するために、全速力で戻ることになり、サンマの競りでも、朝7時の競りと9時の競りでは、早い方が価格が高いので、みな急いで搬送してきます。また、照明をより明るくすれば、イカやサンマがより多く集まってきますが、それをみんなで制限して省エネに取り組んでいかなければなりません。  一方、流通対策も手は抜けず、PRや宣伝活動その他の対策も力を入れています。

会社概要
設  立: 昭和24(1949)年8月26日
出 資 金: 50億3,862万円(平成20年6月19日現在)
総取扱高: 3,067億円(平成19年度)
会 員 数: 84会員(平成20年6月19日現在)
職 員 数: 333名 (平成20年7月1日現在)
事業所数: 16箇所
グループ会社: 10社

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