建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年11月号〉

interview

全国漁協系統団体で唯一のぎょれん設計事務所

――購買部職員が自力で建築士の資格を取得

ぎょれん設計事務所 所長 小田 芳一氏

小田 芳一 おだ・よしかず
昭和25年9月18日生まれ
昭和50年3月 北海道大学水産学部水産化学科 卒業
昭和50年4月 北海道漁業共同組合連合会 入会 購買事業部
平成14年2月 同 設計事務所 管理建築士
平成16年7月 同 設計事務所 購買部長(設計事務所長)
平成18年9月 同 設計事務所 参事(設計事務所長)
平成20年4月 同 設計事務所 設計事務所長
北海道漁業協同組合連合会設計事務所
札幌市中央区北3条西7丁目(水産ビル)
TEL 011-281-8509

 北海道漁業協同組合連合会の「ぎょれん設計事務所」は、漁業者が使用する燃油や漁業資材などの供給を行う購買部門から独立した全国の漁協系統団体でも例のない水産専門の設計事務所だ。

──水産団体が独自に設計事務所を持つのは珍しいですね
小田 元は漁連の購買部として、燃油やぎょれんブランドの漁業資材、施設の設計などを業務としていました。それが1988 年から水産加工機械や計量装置などのプラントを扱い始めたのがきっかけとなり、建築、設備、電気などの施工のため、委託先の設計事務所との打ち合わせなどを通じて建築技術に関する知識の必要性を感じたことから、まずは建築士の資格を取得すべく、当初は一人か二人が資格を取り、現在は一級建築士が4人、二級建築士は3人で、7人のスタッフとなりました。その結果、2002年に「ぎょれん設計事務所」として独立することとなりました。  したがって、一般的な建築設計事務所とは生い立ちが異なる面があります。
──設計手法などもかなりの違いがありますか問
小田 基本的な考え方は、建物の外観の設計からではなく内部の生産機械・設備から着手することになります。たとえば、加工場の場合は最初に加工ラインありきで、それを上屋で覆い尽くすことが我々の役割となります。通常の建築設計では、建物の意匠や外観も重要な要素となる場合が多いと思われます。  加工施設など水産施設の設計、施工は、たとえば加工手順や作業工程、あるいは水産関係者が使用するので、作業に当たる人々の気質に至るまで、「水産」というものを熟知していなければできません。生産者漁協職員が相手ですから、設計者にありがちな複雑な設計思想を説明するよりも、むしろツーカーの阿吽の呼吸で理解できるような解りやすいものが求められます。  構造計算や耐震性能などは、どの事務所にも共通の課題ですが、水産専門の施設となると、札幌市内の大手クラスの設計事務所を除いて、これをすべて自力でこなせるところは余りないと思われます。  当事務所は、建築物における一般的な電気、設備などにおいては、非常勤の顧問がおり、また提携している設計事務所もあります。
──水産業界に特化した専用の建築士を持つのは、業界としても心強いですね
小田 漁協職員や組合員は、水産物の鮮度や善し悪し、価格などは精通していますが、建物や施設となると、門外漢でどんなものが良いのかは魚の知識ほど持っておりませんから、その分野に特化したアドヴァイサーという役割を担っています。お陰で全道の漁組から重宝がられています。
──全道の施設をわずか7人で分担し、主導するのは過酷では
小田 各地の漁協では、地元のネットワークにより地域の設計事務所を起用するところもあるので、全道の全ての建築が我々に集中するという状況ではありません。  目標として、むしろ我々が着手する比重を、全体の半分くらいにまで高めたいと思っています。何しろ設立してまだ6年程度で、駆け出しのようなものですから、今後に向けて育てていきたいと考えています。
──最近はどんな要請が見られますか
小田 事業費の問題からあまり新築はできず、その分を改修で対応しようというケースが増えています。そのため、改修設計の件数が増えてきています。 
──工事発注はどの様な形が多いのですか
小田 発注方式は指名競争入札が中心ですが、基本的には各地の地場建設業者が施工するケースが主です。
──余市で防備隊関連による補助事業の施設が着工しましたが、他にも着手している事業は
小田 余市は海自の防衛施設があるので、その防衛補助事業として周辺整備に合わせて施工されているものです。この他には、今年度は別海の荷さばき場がこれから着工し、ウトロでは漁協事務所の改修工事に着手します。
──今後の展開として、漁港・漁村におけるまちづくりに、設計の分野から携わっていく可能性はありますか
小田 スタッフが限られているので、限界があります。漁村の道路改良に伴い、既存施設をまとめて新築するケースはありますが、浜全般に財政的な事情であまり積極的に投資できる状況ではありません。ただ、各地にはかなり老朽化した家屋や施設があり、近年の重要課題である食の安全や衛生を考えると、再整備する必要のある物件はかなりあるものと思います。その際は地域の特性を十分に考慮すべきと考えております。  香深漁協などは、利尻富士を背景とした観光地で、一日に5台の観光バスが入るなどロケーションに恵まれていたことから、道内でも珍しく事務所・店舗の2階に独自の眺望レストランを備えた建物となりました。
──水産専門の設計事務所として、どんな将来像を描いていますか
小田 設計部門は水産施設の新築やリフォームなどの建築・設計だけでなく、総合コンサルタント業として、業務の幅を広げていきたいと考えています。

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