建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年10月号〉

interview

海外輸出を急増させる北海道漁業(前編)

――浜値維持のため積極的な輸出展開

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏

宮村 正夫 みやむら・まさお
昭和19年7月31日生まれ
昭和43年3月 北海道大学農学部 卒業
昭和43年4月 北海道漁業協同組合連合会 入会
昭和56年3月 同 東京支所次長 就任
平成 5年5月 同 参事 就任
平成10年5月 同 代表理事常務 就任
平成16年6月 同 代表理事専務 就任
平成18年6月 同 代表理事副会長 就任
委員就任状況
社団法人日本水産物貿易協会 理事
北海道卸売市場審議会 委員
北海道産業団体協議会 幹事
北海道・ロシア連邦極東地域経済交流推進委員会 委員 他
北海道漁業協同組合連合会
札幌市中央区北3条西7丁目
TEL011-231-2161

 世界人口が60億人代から90億人に達すると予測され、食糧への需要は高まる一方だが、世界の水産物は、安全性に不安を抱えた養殖ものの比率が高く、天然物への要求が高まっている。そうしたとき、周囲を広大で、かつ肥沃な海洋に囲まれ、放流による資源増殖で漁獲された北海道の天然水産物にも世界の注目が集まり、北海道水産物の海外輸出が急増している。浜値を維持し漁業者を守るために、流通対策を推進する北海道漁連の宮村正夫副会長に、今日までの経緯と今後の展望などを伺った。

──北海道の水産業の特色と近況をお聞きしたい
宮村 北海道で獲れた魚介類の8割は本州や外国に出荷しているので、PRや販促活動は本州が中心となってしまうため、逆に地元の北海道での認知度が低くなりがちですね。  北海道は平成19年度時点で総漁獲量が142万tとなっており、全国では576万tですから、全国の4分の1の漁獲量を安定的に維持しています。北海道の水産物の特徴は、世界的に養殖漁業が普及している中で、北海道は放流天然物が主流であることです。稚魚や稚貝を育成して海に放流し、以後は自然の中で成長したものを漁獲するという増殖事業に力を入れています。主力はコンブ、ホタテ、サケ、マス、スケソウダラなどの北方魚種で、全国シェアも非常に大きなものです。  漁連としての取扱高は、平成19年時点で3,067億円で、概ね3,000億円台を維持しています。15年は2,500億円に落ちていますが、原因は魚価安によるもので、その後に輸出が増加し魚価が回復したお陰で、3,000億円台に回復しました。量販店に直接販売する直販事業は170億円となっています。
▲ぎょれん販売 株式会社
──漁連と、そのグループの概要を伺いたい
宮村 組合員である全道の漁業者は2万人で、漁協は合併によって76組合となりました。資本金は、全漁協による50億円の出資に基づき運営されています。事業は販購買事業と漁政活動指導事業があります。  漁連の出先事務所は道内10カ所で、本州には仙台、東京、大阪、福岡に事務所があります。  水産物の加工販売が主業務ですが、漁政活動としては、貿易問題や燃油問題にも取り組んでいます。もちろん環境対策も着手しており、植樹運動を全道で展開しています。「漁民の森づくり活動推進事業」や、北海道女性連と連携して「お魚殖やす植樹活動」などで、「100年かけて100年前の自然の浜を」をキャッチフレーズとしています。この他に河川の水質を分析する施設もあります。  現在は原油高騰が問題となっていますが、漁連は根室と稚内に大型の燃油タンクを保有しており、備蓄しています。この他にも各漁協と共同で、各地の漁港に200以上のタンクを持って漁業者に燃油を供給しています。  ぎょれん設計事務所という独自の設計事務所があり、4人の一級建築士と3人の二級建築士が、全道の漁協や漁連の施設の設計を担当しています。現在、代表を務める小田事務所長は、本来は漁連の購買担当の職員だったのですが、彼を始め数人が本業の合間に自力で建築を学び、資格を取得したので、設計事務所を設立することにしました。  この他、 100パーセント出資の子会社は10社です。  ぎょれん販売(株)は、札幌市西区八軒に工場、新千歳空港内に店舗を運営しています。大阪本社で東京に営業所を持つ(株)北光は、コンブや干した貝柱の国内販売や香港、台湾、シンガポールなどの東南アジアへの輸出を手がけています。(株)ぎょれん食品と業務がほぼ同じなので、今年から合併しました。  ぎょれん総合食品(株)は、石狩市に秋さけ専用工場を持っていますが、その他にフライ工場があり、さらにコンブの加工場もあります。(株)ぎょれん鹿島食品センターが茨城県にあり、用地1万坪の規模で、5期工事で順次加工場を増設しています。道産品をパックして全国の量販店に卸していますが、この施設は無塵室と、静電気解凍機もあるHACCP対応施設です。  その他、(株)ぎょれん道東食品は、根室市と厚岸町に冷凍食品工場を有しています。冷蔵庫と凍結室が、老朽化しているので、国の補助によって来年1月から全面改築に着手する予定です。  (株)ぎょれん室蘭食品はホタテの干貝柱を作る工場ですが、さらに冷凍食品工場を建設しようと考えています。(株)ノースコープぎょれんは貿易会社で、中国からの資材の輸入、水産物の輸出などを担当しています。  マリノサポート(株)は、漁において使用される浮玉や定置用ロープ、養殖用丸籠、漁網などの資材や器材などを、商社を介さず中国に製造を委託し、直接輸入し、漁業者に安価で提供しています。各漁協には、そうした資材の購買事業担当者の人員が少ないので、マリノサポートの17人のスタッフが浜に安価で良い資材を仲介しています。  (株)北海道ぎょれんビルは、札幌市中央区桑園と、東京都内に7階建ての自社ビルや職員住宅を所有し、管理・運営に当たっています。(株)ぎょれんシステムは、漁連だけでなく漁協のためのシステムソフトの開発に当たっています。
▲北海道の秋鮭
──近年の漁獲量や漁獲高の推移は
宮村 北海道の漁業生産量は、平成元年には216万tだったのが、ロシア海域から撤退したり、大量に獲れたイワシが獲れなくなるなどの変化によって、右肩下がりで推移し、19年度は143万tにまで下がっていますが、近年は沿岸沖合主体に140〜150万tで安定しています。生産額としては、魚価安や輸入増などによって底値を打った15年の2,476億円以降は、4年連続で上昇し、18年度は2,939億円で、3,000億円レベルにまで回復しています。  漁業者についても、農業と違わず漁業に従事する就業者数が減少しており、高齢化も進み、およそ全体の4割が60歳以上となっていますが、オホーツク海側のようにホタテやサケなどの資源が豊富なところは、経営状態も良いので若い人々も参入してきていますから、経営さえ安定すれば後継者も確保できるものと思います。しかし、全道的には依然として漁業者の減少と高齢化は進んでいます。  漁協も合併によって76漁協体制となりましたが、これについては経営体質の強化が目的ですから、減少それ自体には問題はありません。  魚価は、14〜15年には全ての魚種で軒並み下落しました。秋サケなどは、雄雌込みで150円にまで下がりましたが、19年度にはようやく340円くらいまで回復しました。ホタテも80円にまで下落しましたが、150円くらいまで回復してきました。世界的に魚介の需要が増えており、我々も順調に輸出できるようになったためです。  輸出によって国内の需給バランスが改善し、価格が安定してきました。
▲ぎょれんブランド商品
──世界的に食習慣が変わったのでしょうか
宮村 日本人は一人で平均70キロ程度の魚食量だったのが、近年は若干ながら減少傾向にあります。しかし、他国ではおよそ10キロから20キロ程度でしたが、最近になって欧米でも消費量が増えており、とりわけ中国では飛躍的に増加しています。その全体的な傾向は、特に2000年以降に極めて顕著となっており、EUでは鶏インフルエンザやBSEの影響によるもので、アメリカでは肥満やメタボリックなどを懸念する健康意識が高まり、ソフトドリンクの自販機を撤去したり、週に二回の魚食を奨励しています。このために、魚介類は肉類よりもかなり高値ですが、需要は確実に伸びているのです。  ところが、世界の漁獲量を見てみると、横ばいから減少状態となっています。世界中の海洋が漁業開発されてしまい資源問題が起きています。これはもう簡単には回復はしません。その反面で伸びているのが養殖漁業で、これによって世界の需要をカバーしている状態です。  ただし、これは養殖中に魚が病気で全滅する可能性があり、抗生物質やワクチンなどを投与するため、特に欧米では養殖ものについては食の安全性に関わる問題点がクローズアップされています。それだけに、欧米では天然産のものへのニーズは非常に高くなっています。いずれにしても水産物については、世界の需要に生産が追いつかないだろうと予測されています。
▲燃油タンク(稚内)
──安全性の高い日本の魚介類の出番が来たといえますね
宮村 日本は国土面積では世界で61番目で、人口規模では10位となっています。しかし、200海里の海域となると、第6位に位置しています。つまり広大な国土を持つロシアや中国よりも海域が広いわけです。そのため、世界的に見ても漁業が盛んで、水揚げ量を見ても5、6位にあります。ただでさえ世界の需要は増加傾向であり、中でも天然魚への要求は高まっていますから、周囲の海岸線が3,000キロに至る北海道の可能性は高いのです。暖流と寒流の交差するポイントにプランクトンが多く発生するので、良い漁場となりますが、道東がまさにそうしたエリアです。また、オホーツク海は大陸棚が続いており、良い漁場に恵まれています。したがって、かつては大漁になると価格が下がって経営に苦労したものですが、今日では流通面は輸出対策などによって対応できるので、資源管理を確実に行い、漁穫を殖やしていけば、北海道の漁業は発展していける可能性があります。  そこで、世界の貿易の流れを見ると、かつては世界中の水産物が日本に集中していたのが、近年になってからはアメリカから直接ヨーロッパへ輸出されたり、東南アジアから欧米へ流通するなど、輸入フローが全く変化してしまいました。FAOは近い将来需給ギャップが生じるものと予測しています。  さらに国連の発表した人口予測を見ると、2050年には90億人に到達するとのことで、食の問題は大きな課題となるでしょう。  その日本で輸入している魚介類の数量は、平成13、14年は380万tで、史上最高となりました。一貫して増えてきたのですが、それが減り始め、昨年などは300万tを下回りました。これは自給率が上がったのではなく、商社が買い負けして調達できなかったためです。外国の買いが強力で、欧米需要に圧されて輸入できない状態となっています。この傾向はまだまだ続きそうで、実際に今年も上半期の結果を見ると、輸入量は減っています。
(以下次号)

会社概要
設  立: 昭和24(1949)年8月26日
出 資 金: 50億3,862万円(平成20年6月19日現在)
総取扱高: 3,067億円(平成19年度)
会 員 数: 84会員(平成20年6月19日現在)
職 員 数: 333名 (平成20年7月1日現在)
事業所数: 16箇所
グループ会社: 10社

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