建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年10月号〉

interview

建築需要は保全需要にシフト(後編)

――増加が予想される官民同居型の合同庁舎

札幌市都市局建築部 部長 白鳥 健志氏

白鳥 健志 しらとり・たけし
昭和24年11月12日生まれ
昭和48年 北海学園大学工学部建築学科 卒業
昭和48年 4月 札幌市職員採用
平成 4年 4月 建築局建築指導部建築確認一課 主査
平成13年 4月 北海道派遣(生活文化部文化振興課)課長職
平成18年 4月 都市局建築部 工事担当部長
平成19年 4月 札幌市住宅管理公社派遣(保全部長)
平成20年 4月 都市局建築部 建築部長

 かつては公務のシンボルとして、尊厳を示す単独建築だった行政庁舎は、いまや民間企業と同居する複合施設へと変貌しつつある。その整備手法も、行政単独の財政に基づく建築だけでなく、PFIや民間建築の借り上げなど幅広くなってきた。財政的な窮状から、行政も投資家のように、ファシリティマネージメントによる効率的で有効な資産運用が求められる時代となった。しかも、原油高騰にともなう資材と資源の不足を視野に入れ、Co2対策も考慮しなければならない。これらは収益性第一の民間事業では、容易にフォローできない課題だが、それゆえに公共建築がそれを先導しなければならない。そこで白鳥部長は「建築事業にともなうCo2排出量の数値化」を提唱しており、それを建築行政の基礎の一つに加える将来像を語る。

(前号続き)

──行政庁舎や市民サービス型の公共施設の営繕には、どのように取り組んでいますか
白鳥 やはり耐震改修が中心で、例えば豊平区役所は、今年度中に実施設計を行い、来年度から耐震改修に着手したいと考えています。南区役所は今年度に基本設計、来年度は実施設計、そして再来年に改修に着工できればと思っています。これらは、耐震改修と併せて老朽化した部分の改修や部材の取替えなどを行い、建物の機能の更新を図る考えです。  市民向け施設としては、耐震性が著しく劣っていたことから緊急解体し、暫定ホールの建設を進めている市民会館の他は、区民センターの改修に着手している状況です。  そういった意味でこれからは、スクラップ・アンド・ビルドよりも、現在ある建物の維持・保全のための改修工事が主流となると思います。  一方、そうした公共施設の建て方ですが、最近は多様になってきています。かつては、私たち建築部が施設の設計・監理に当たりましたが、今ではPFIを導入したり、先ほどお話した市民会館の暫定ホールの建設に際してもリース方式を採用するなど、民間活力を活用しながら建物を構築していこうという傾向が強くなっています。中央区北1条西1丁目に計画されている多機能複合施設も、民間を交えた再開発方式が検討されています。民間企業の持つ企画力や開発力、施工能力を取り入れた建物づくりは、ますます多くなっていくのではないでしょうか。
──文部科学省と企業が同居するR7プロジェクトや、北海道胆振支庁と民間企業が同居する予定の室蘭市入江地区広域センターなどは、そのタイプですね。今後も官民が同居するパターンが増えていくのでしょうか
白鳥 それは「まちづくり」と大きな関わりがあると思います。例えば、土地の高度利用や建設費用の分担を考えるときには、行政と民間企業とが共同して建物を建設する場合もあると思いますし、建物の一部に商業機能などを取り込んだ方が市民の使い勝手が良いと判断される場合は、1階などに店舗を設けることも考えられます。  一例を挙げると、この本庁舎の一階ホールにスーパーが開店したとして、用途としては無理ではありませんが、市民にとってそれが馴染むかどうかの問題があります。また、最近ではセキュリティの重要性も高くなっていますから、やはり慎重に対応していく必要があります。
──つまり、行政とは何かという根元的な問いが、そこに存在しますね
白鳥 そうです。行政とは普遍であり、些細なことでは動じない足腰の強さがなければなりません。それが時には頑固で融通性がないとの批判にも結びつきますが、そうした担保性があり、それゆえに信頼性があるのが行政と考えます。
──確かに、神聖な法廷を持ち、厳粛な裁判の行われる裁判所の一階に、娯楽施設や商業施設があったのでは、司法の権威と信頼性も危うい印象となりますね
白鳥 したがって、市民や地域の同意を得ながら建てていくべきであり、そして、それらはまた年々変化していくものでもあります。行政庁舎は、すべてが行政の用途にしか使わないと最初から決め込むものではなく、社会情勢に合った環境を捉えながら、何が最も適しているのかを考えるべきでしょう。
──税収と建築の関係で見ると、民間投資が活発になり始めた時期に、高さ制限が設定されたため、せっかくの企業利潤とそれからもたらされる税収を自ら抑制することになるとの批判が聞かれました
白鳥 各界からかなり厳しい意見も寄せられましたが、札幌市が今後も拡大し続けるのであれば、土地の高度利用を第一に考えなければなりませんが、人口の減少も予測されることから、すでに諸外国から高い評価を受けている現在の街並みを、次代に引き継いでいくための方法と理解して欲しいと思います。  札幌市は今年3月に都市景観に関する条例等を改正しました。それは時代を超えて脈々とつながり、やがて世界で評価されるものになっていけばとの思いがあります。また、都市空間で暮らす上ではルールというものも必要で、その一つが高さ制限なのだと思います。そうしたルールは、私たちがまちをつくっていく上でも必要と考えています。  この「札幌」を子孫に残すにも、後代の人々から無秩序なまちづくりと批判される事態は、先人として避けなければならないと考えています。
──財源対策は、全国的に共通の悩みですが、今後の動勢は
白鳥 やはり縮減傾向にはありますが、それでも保全は必要です。近年は環境エコの重要性が主張される趨勢ですから、今後の建築行政は何が何でも全てを建て替えるのではなく、 長寿命化を目指しながら対応していくことにシフトするでしょう。  したがって、かつてのような新築の大プロジェクトに伴う莫大な予算配分は見られなくなると思いますが、細やかな修繕事業は不断にあるので、むしろ予算が大きく落ち込むことはないと言えます。  そして、私的には延命化だけではなく、環境エコを実現する装置やシステムを、建築にいかに導入していくかも今後の課題と考えています。例えば、市立西岡北小学校では、太陽光発電システムを導入し、学校で消費する電力の7.7パーセントを自給しています。北区体育館では、屋上に集熱パネルを設置して、年間で22.5万円の燃料費を節約しています。屯田北小学校は風力発電システムによって、114kWhを発電しており、年間0.04tの二酸化炭素を削減しています。モエレ沼公園のガラスのピラミッドは、環境局と協力して雪冷房システムを採用し、年間の燃料代は261万円を節約しています。札幌市立大桑園校舎では、地中熱ヒートポンプシステムによって年間58万円の燃料代を節約しています。自閉症者自立支援センターはエコ・ジェネレーションシステムを採用し、天然ガスを利用して自家発電しています。市営住宅下野幌団地は、外断熱工法を採用し暖房費の低減や建物の耐久性の向上に努めています。  特に、札幌市では、太陽光の学校への導入については、1区1校を目標に進めており、これを通じて、子供達に資源の大切さを体感してもらうという教育効果も期待しています。  しかし、残念ながらこうした工夫は市民にはなかなか理解してもらえないのも実情です。一方、こうした努力は、利潤が求められる民間企業には容易にできることではないでしょうから、行政が先行して取り組まなければならないことだとも実感しています。「札幌らしい建築とは何か」といえば、これらの技術を極力採り入れた環境に優しい建物づくりこそが、札幌市の公共建築の指針となっていくのが理想だと考えています。  今後は建て替えるべきか、延命すべきかを検討する場合も、CO2の発生量など環境と建物をめぐる様々なスケールを下に、市民に分かりやすい数値化を図るなどして、札幌市ならではの基準づくりができればと考えています。  環境が建物の機能更新の道標となる時期が、もうそこに来ているのかもしれません。

HOME