建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年9月号〉

interview

前倒しで市立学校の耐震改修の完了へ(前編)

――市営住宅は建替が中心

札幌市都市局建築部 建築部長 白鳥 健志氏

白鳥 健志 しらとり・たけし
昭和24年11月12日生まれ
昭和48年 北海学園大学工学部建築学科 卒業
昭和48年 4月 札幌市職員採用
平成 4年 4月 建築局建築指導部建築確認一課 主査
平成13年 4月 北海道派遣(生活文化部文化振興課)課長職
平成18年 4月 都市局建築部 工事担当部長
平成19年 4月 札幌市住宅管理公社派遣(保全部長)
平成20年 4月 都市局建築部 建築部長

 日本の政令指定都市の中で最北端に位置する札幌市は、洞爺湖サミットなど環境対策への関心の高まりに合わせて、公共建築のあり方を見直し、様々な新技術の導入に向けて歩み出している。札幌市都市局建築部の白鳥健志部長は「新規の建築プロジェクトは少ないが、保全需要は着実にあるため、改修予算は安定している。札幌の公共建築は、新たな資材と技術を導入して環境エコの実現に向かうというのが理念」と語る。

──札幌市の公共施設は、十分と言える状況にあるのでしょうか
白鳥  おおよその都市基盤整備は出来上がっていると思いますが、政令指定都市に移行した昭和47年以降の約20年間に数多くの市有施設を建設したことから、その建物の老朽化や耐震化が課題になっています。また、各区役所庁舎や拠点施設に関しては、他の民間施設との合築やメンテナンス状況も複雑なので、改修はもちろん移転や建替えも視野に入れて検討する必要があります。  学校は321校ありますが、47年以降20年間にその6割以上を建てているので、その耐震化が課題となっています。さらに、少子化等の問題もあり、当時の社会情勢とは異なる状況に備えた対応も必要となっています。  当時の社会情勢とは異なる状況が、今後に訪れるので、それに備えた対応が必要になります。
──学校は少子化に合わせて統廃合しながら再編する方向性ですか
白鳥  学校の再編については教育委員会が主体となり進めていますが、実際に統廃合となれば、新たな学校建築が必要になります。ただ建てれば良いという時代は終わり、PTAや地域社会と関わりを持ちながら、地域の思い入れも考慮することが必要です。  一昨年に施工した伏見中学校などは、歴史が古く地域に非常に親しまれていました。その改築に当たっては、地域住民は母校でもあるので熱心に論議してプラン作りなどに意見を頂きました。これからも、そうした地域の声を大切にしながら、学校づくりを考えなければなりません。その意味では、昭和40〜50年代の拡大期の建設の時代とは異なります。
──教育施設ですから、教育効果を高める空間作りが必要ですね
白鳥  札幌で特徴的なのは、小学校の教室をオープン方式といいますか、廊下と教室に隔てのない構造としています。これは一例ですが、ある学校で予算上の都合で、内装をコンクリートの打ちっ放しとしたところ、声が反響して授業に支障が出たことから、後から吸音材などを導入して対処した事例もありました。  このように、教育の在り方と空間作りは密接に連携しているので、私たちもその意味を十分に理解し、建物づくりをしなければならないと感じています。
──近年はせっかく学校が地域に開かれていても、犯罪者が乱入するなど、それが仇となるような事件も起こっており、防犯も課題では
白鳥  確かそうした事件からセキュリティが課題になり、最近では職員室を玄関の脇に配置して、不審者に目が届くようにする工夫もしています。
──最近は東京都内の学校で、夜間は私塾に賃借することが話題になりましたが、施設運営に当たっては、様々な有効利用の可能性も考えられるのでは
白鳥  基本は、やはりその建物の機能でしょうね。特に学校の場合は、法律等により建物の機能が限定されていますので、複合的な施設運営ができる建物をつくる場合においても、機能をどうするかが重要な観点となります。私たち建物をつくる側の人間としては、単に建物といったハードな面だけではなく、多くの人の意見を聞いたり過去の事例などを研究するなどして、使用のしやすい、管理のしやすい、そして予算のかからない建物とするよう努力する必要があると思っています。
──中国四川省の地震では、学校が倒壊して多数の生徒が被害に遭い、脆弱な構造が地域で問題提起されていました
白鳥  札幌市の市有建築物について耐震化診断をしたところ、震度6強以上の地震で倒壊の危険性があると診断された施設が、学校だけで52校もありました。それらを平成19年度から23年度の5ヵ年で、緊急に改修していくことにしました。今年はその計画の2年目となっています。  自治体負担もあるので、全国でなかなか進まない学校の耐震化ですが、四川省大地震を契機に、政府が改修促進の政策に乗り出したので、私たちもそれに合わせて前向きに取り組み23年度といわず、それ以前に早く完了させようと検討しています。  何しろ、学校自体が避難施設となることが多いことから、それが倒壊するのでは問題です。学校は子供達の生命に関わる問題でもありますから、特に大切に考えなければなりません。  このように学校施設をめぐる課題としては、少子化対応と地域との関わり、耐震化が重要です。やはり街が歴史を重ねていけば、そこで学んだ人々が世代交代を繰り返しながらまちを育んでいくことになりますので、地域の思い入れの場として、地域が大切にしていくべきものだろうと思います。私たちも建築行政を担う立場として、それに協力していこうと思っています。
── 一方、市営住宅も全国で建替が進められていますが、札幌市では
白鳥  市営住宅は、現在、およそ2万7,000世帯分のストックがあり、近郊都市の世帯数に匹敵します。これも急激に人口が増加した昭和30年後半から50年代に整備したものがほとんどですから、建物の老朽化解消のための改修や建替が必要になっています。現在、下野幌団地や幌北団地で行っている建替事業が今後は主流となるでしょう。  また、建替を行う理由のもう一つは、生活様式・水準の変化が挙げられます。建設当時と現代では、部屋の広さや給湯などの設備機能のあり方が異なっています。かつては、お湯などはやかんや鍋で沸かして使用していたのが、今日では給湯設備により蛇口から湯が使えることが標準となっています。したがって、間取りが狭く、設備も不十分の公営住宅は、生活水準の確保という意味でも建替は必要と考えられます。  しかし、建替が完成したものを見て「立派で市営住宅には見えない」という批評も聞かれたりしますが、逆に言えば、市営住宅とはそれほどまでに劣悪なイメージで見られていたのかと落胆しますね(笑)。やはり公共建築ですから、その時代に相応しい生活水準に合わせた建物をつくるという意味もあるので、規模拡大や設備のレベルアップなどを含めた計画となるわけです。
──公営住宅となると、とかく貧困層への福祉政策的な住宅供給というイメージで捉えられがちです
白鳥 居住水準がレベルアップしている今日、やはり安価ではあってもそれなりの内装意匠、空間作りは必要です。また、中には、自前でトイレのウォッシュレットを設置するなど諸設備をレベルアップした場合でも、退去時にはそれらを撤去しなければならないことに疑問の声も聞かれますが、ウォッシュレットとて何人も好むわけではない。公営住宅は公共施設であるという性格を踏まえ、時代に適した最も効果的・効率的な観点から内容等を決定していく必要があると考えています。
──公営住宅の改修・建替に当たって、ストックが多い一方で財政的な制約があるため、数パターンの設計図を用意しておき、画一的に整備している事例も見られます
白鳥  公営住宅が地域にどのように馴染んでいくかという課題もあるので、必ずしもパターン化することが良いのかどうかは疑問です。地域に合ったデザインや色彩というものがありますから、そうした特性にはやはり配慮すべきではないかと思います。それがあまりにもコストに反映して割高となるならば、パターン化もやむなしと思いますが、その限りでなければ、なるべく地域に適したデザインを模索するべきでしょう。  特に建替となると、効率化を求める観点から従来よりも高層となることが多いので、景観に関してはかなり気を遣う必要があります。今までの団地が、建替によって外見が変っていくのですから、違和感を与えない配慮が必要であり、またそうでなければ地域から好まれる空間・機能を持つ建物づくりが出来ないのではないかと思うのです。例えば、地域に解放した遊び場や集会室を作ったり、あるいは自転車置き場などはどうすべきかなど、細かく検討していく必要があると思います。
(以下次号)

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