建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年8月号〉

interview

地域から感謝状を受けた古舞幹線明渠

――広大な北海道の不毛の地を肥沃な大地に

笹谷建設株式会社 取締役社長 佐々木 正光氏

佐々木 正光 ささき・まさみつ
昭和 6年 9月22日 本別町生まれ
昭和31年 3月 山形大学農学部 卒業
昭和31年 4月 帯広営林局計画課 勤務
昭和35年10月 笹谷建設有限会社 入社
昭和51年 4月 笹谷建設株式会社へ組織変更に伴い取締役 就任
平成 3年11月 同社 取締役社長 就任
笹谷建設株式会社
帯広市西8条南17丁目1番地
TEL 0155-27-1116

 昭和26年に有限会社として設立した笹谷建設(株)は、現場を与る技術職員だけでなく、事務担当職員までが土木施工管理技士の資格を取得しており、技術とサービスを売る建設企業としての生き様に徹している。それを反映してか、工期が9年にも及んだ古舞幹線明渠工事では、現場代理人が地元農家から感謝状を贈られるなど感動的な工事となった。同社の佐々木正光社長は、「公共工事は人のために行われるのであって、私たちはその施工によって貢献することを誇りに思う」と、建設業に生きることの誇りと喜びを語る。

──社史から伺います
佐々木
 創立者は笹谷清治で、国鉄を退官した後、昭和26年に帯広で笹谷建設有限会社を設立したのが始まりです。当時は建築工事を専門としていましたが、公共事業の拡大にともなって土木工事が増えたことから、30年代半ばから土木部門にも進出しました。当時は建設機械のリースが十分に発達していなかったため、機械はすべて自社で所有し、オペレーターも揃えていました。  建築では拓銀帯広支店、NHK帯広放送局、大樹営林署などを施工しましたが、39年に施工した帯広開発建設部の職員宿舎を最後に建築工事から撤退し、土木専門会社となりました。そして、51年に有限会社を株式会社に変更しました。  土木は道路、河川、農業基盤、下水道、砂防など手広く手がけましたが、中札内停車線鉄道記念公園通りの施工は、道が推進していた「マイウェイアワーロード事業」に基づく全道初のモデル事業でした。  その他、昭和45年に古舞幹線明渠の施工に当たりましたが、この工事は9年に及ぶ長期の大プロジェクトでした。1.500haの耕地を湛水、過湿被害から守るもので、現地の農家から喜ばれ、現場代理人が感謝状を頂くなど感動の深い事業となりました。
▲社屋
──農業基盤整備を通じて、十勝農業の動勢をどのように見ていますか
佐々木
 私が笹谷建設に入社した昭和40年代は、ほとんどの農家が小規模で、子息が農業を営み、その親は労務者として建設作業に携わるケースが多かったものです。例えば、私たちが施工した古舞幹線明渠は、農家の人々が作業を手伝いに来てくれたので、彼らを作業員として雇用し、その関係が今日でも続いています。  十勝は豆類の産地として有名とはいえ、小規模経営が大半で、機械化もされていませんでしたが、最近では農業政策も変わり、酪農などに着手して家計を維持する農家も増えています。農協も土地の有効利用のために、営農力ある人に農地を提供し、農家側も営農規模が拡大してきたことから、今日では一戸当たり40〜50haが標準になっています。  広大な北海道の中でも、特に十勝は農業を基幹産業とする農業王国ですが、しかしながら近年は後継者がいないために、農家の高齢化が進み、農協なども対策を必死に模索しているようです。けれども、高齢化の進展で離農者が増えることから、それを吸収した結果、大型化してきたという背景事情もあります。そして、規模が拡大すればするほど機械化は必要となり、関連設備も必要となるので、その投資にともなう過重債務に苦しむ農家もけっこうあります。  それでも十勝農家の長所は、農協に頼り切るのでなく、自力で販路を拡大する意欲があることです。最近では産物も多様化し、麦やビートなども生産され、地元に製糖工場もあります。小麦の作付け面積もかなり拡大し、長芋も十勝ブランドが確立され、海外にも輸出されています。反面、伝統的な豆類の生産から離れる農家も現れ、地域農業の最大の問題となっています。豆離れの理由は、豆類は気象の影響を受けやすく、霜が降りればすべて台無しになるなど、育成が難しいため、敬遠されるようになったのです。
──そうなれば、求められる農業基盤整備も変わってきますね
佐々木
 そうです。最近は麦やビート生産のための土地改良が望まれており、そのための暗渠や明渠、除レキなどへの要望がかなりあります。地元農家は、湿地帯をいち早く肥沃な農地に改良し、反収を上げたいとの意向で、すでに明渠が作られた農家では、次に暗渠整備を要望しています。しかし、地元負担や農家負担など、予算的な制約もあるために実現できないケースもあります。同じく、予算上の都合で除レキが十分にできないために、作付け作物が制限されている農家もあります。
──管内の農地は、営農条件としてはあまり良くないのでしょうか
佐々木
 元は石の多い河川を畑に変えたり、洪水によって畑地に河川水と石が流れ込んだ所もあり、全体に表土が浅く、その下に石が埋まっている畑地が多いのです。それが作付けに影響するので、除レキ工事は土地改良において重要な作業なのです。十勝は、農地面積が広いものの、土地改良予算の制約から課題はたくさんあるのです。  したがって、農作物の自給自足を考えるなら、やはり十勝は農業王国に相応しく生産力を上げて貢献していくべきで、その可能性を持っています。北海道の農地の総面積は全国の22パーセントに相当しますが、人口はわずか4パーセントでしかないので、企業誘致などを進めて地域の産物需要を拡大し、生産力も上げて裕福な北海道にしていくことが必要でしょう。
──そのためにも、インフラ整備がまだまだ必要ですね
佐々木
 現在は支庁再編が各地で論議されていますが、北海道はこれほど広大なのですから、やはり道路網ももう少し整備してもらわなければなりません。いつまでも原野のままになっているから、本州の人からは「北海道は少しでも郊外に行くと、熊に出会う」などと誤認されるのです。そのようにまだまだ未開の地なのですから、食糧王国の北海道として政府も積極的にインフラ整備と農業政策に力を入れてもらいたいものです。  ところが、最近は公共工事が建設業者に仕事を与えるために行われているかのような評を聞きます。私たちはあくまでも社会資本の整備に貢献している立場であり、それに自信を持っています。河川が氾濫して農地が浸水した場合に、最初に出動するのは私たちであり、厳しい冬の道路交通を確保するための防雪柵を作るなど、公共事業は建設業者のためではなく、道民のために行われるのです。したがって、それを施工する私たちは、人のためになる仕事をしているのに、近年は公共工事に対する風当たりが異常に強いので困惑しています。
▲寒地農業の確立が推進
──食糧自給率を上げるにも、生産基盤と流通基盤が貧弱では実現できませんね
佐々木
 最近はバターが不足しているなどと問題になっていますが、以前は搾乳が余ったとして廃棄するなど、勿体ないことをしていました。今になって不足したから多目に出荷してほしいなどと要請されたところで、簡単に応じられるものではありません。乳牛が搾乳できるまで成長するには、5年近くもかかるのですから、長期的な需給バランスの見通しに欠けた食糧政策には、疑問を感じます。稲作にしても同様で、過剰米になったことを理由に減反させたり、十勝でも水稲から畑作へ転作したりしましたが、一方で米不足に陥った時期がありました。しかも、世界には飢饉で餓死する子供達もいるのです。  それらを考えると、やはり自給率は上げていかなければ、いざというときは北朝鮮のように支援に頼らなければならなくなってしまいます。北海道は食糧供給基地として、より多くの投資をしてもらい、農産物の生産性と収益性を上げて、都市部に供給できる体制を確立していくことが必要だと思います。
──最近は談合の発覚が相次ぎ、公共投資に対してさらなる逆風が吹いています
佐々木
 報道では、落札率が予定価格の95パーセント以上は談合で、80パーセント以下なら談合ではないなどと批判されていますが、多くの人々は認識不足だと思います。  工事によって作業条件などが異なるので、利幅のある工事もあれば、採算がギリギリの工事もあり、その差は歴然としていますが、企業は多くの従業員とその家族を抱え、雇用し続けるのですから、適正利潤がなければ経営が成り立つはずがありません。採算を度外視した工事をしていた企業は、実際にはみな事業停止したり自己破産しています。企業経営は、きれい事で済むものではないのです。
──とりわけ公金によって実施される公共事業に携わる企業は、労務・福利においても合法でなければなりませんね
佐々木
 低価格の落札工事は、手抜き工事や下請け企業へのしわ寄せなどによって、工事の安全対策も困難となり、危険度が高まります。利益を確保すべく、工期を短縮しようとして作業員に無理な作業を強いることになるからです。そのため、最近は低価格入札工事に対しては、とりわけ調査が厳しくなっていますね。やはり安全な労務管理と着実な工程管理が重要なのであって、ただ安ければ良い、工事を終わらせればそれで良いというものではないのです。  あくまでも健全な競争性の下に、適正利潤を確保してこそ企業経営は成り立つわけで、競争性だけを高めてしまったなら、建設業界は弱肉強食となり、地域に密着し地域事情に精通した地場企業などは消滅してしまいます。大手企業が無制限に参入して地場企業は消滅し、施工はできても収益は大手本社に吸い取られるばかりで、地場建設業のみならず、地域経済そのものが崩壊してしまいます。
▲大規模機械化農業
──特に農業基盤となると、受益者の農家がそこに住み、生産に当たるのですから、農家の事情などを理解している地場企業が施工する方が適切なのでは
佐々木
 そうです。特に、私たちが長く担当した古舞幹線明渠などは、元は耕作どころか飼料も撒けないような不毛の野地でした。そこに明渠排水路を掘削していくことで水はけが良くなり、畑地や牧草地へと改良され、作物の有効面積が大きく増えたことで地域農家から非常に喜ばれたのです。そうして喜ばれれば、私たちも嬉しい。  北海道には、そうした不毛の地がまだまだあり、整備を進めるべきです。それを単なる金儲けのために公共工事を受注しているような批評をされますが、工事は他ならぬ住民のためであり、道民のためのもので、それを施工することが私たちの貢献だと自負しています。これによって農家の反収が上がり、地域が裕福になれば理想的だと思うのです。  特に北海道農業は、本州に比べると面積こそは大きいものの反収が低いのです。理由は機械化が進まず、粗放農業に近い状態にあるからですが、もちろん土地が肥沃であるかどうかも重要な要因です。生産力のない不毛の地を、生産力のある肥沃な耕地にするには、土地改良が必要です。「畑づくりは土づくりから始まる」のですから。
会社概要
創立・設立:昭和26年3月笹谷清治氏により創立
資 本 金:3,000万円
許 可 番 号:北海道知事許可(特-62)十第221号
許 可 業 種:土木、とび・土工
社員数:11名
主 な 事 業:中札内停車線鉄道記念公園通り
      ペンケオタソイ川砂防工事
      札内ダム道々静内中札内線4号覆道
      上居辺幹線排水路

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