建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年8月号〉

interview

農家になりきって農業基盤整備に臨み整備後の営農状況にも関心

――癌患者の手術後のケアと生存率を高める病院整備を目指す

村上土建開発工業株式会社 代表取締役 村上 誠氏

村上 誠 むらかみ・まこと
昭和23年10月27日 生まれ
昭和48年4月 村上土建開発工業株式会社 入社
昭和54年4月 同社 代表取締役 就任
昭和52年5月 音更運輸工業株式会社 取締役 就任/td>
昭和60年4月 同社 代表取締役兼務
平成10年3月 株式会社キョーリツ 代表取締役 就任
平成17年1月 株式会社サニーサイド 代表取締役 就任
平成17年4月 株式会社ナショナルトラスト 取締役 就任
平成18年7月 株式会社ドゥテック 代表取締役 就任
公職
音更建設業協会会長
帯広建設業協会理事
北海道建設業協会 交通安全委員
賞罰
平成 7年5月 紺綬褒章
村上土建開発工業株式会社
音更町大通5丁目3番地
TEL 0155-42-3111

 村上土建開発工業(株)は、一般土木の他、農業土木の施工が受注の半分を占める。村上誠社長は、「農業土木の特色は施工結果が目に見えないことで、それだけに整備後の営農状況が気になる」と語る。失敗しないためには、自らが農家になり切って、営農者の視点に立ち、その思いを理解することが大切であるという。そうして農家に喜ばれることこそ、建設会社としての喜びであるという観点から、今後はさらに病院事業にも進出し、癌患者のアフターケアを万全に行うなど、長く生きて喜ばれる地域医療づくりを目指しているという。

──会社の来歴を伺いたい
村上
 先代である父・村上巌は、運送業に従事していました。昭和29年に音更貨物自動車(株)を設立し、十勝管内のチップなどの運送を請け負っていましたが、昭和46年には音更運輸工業(株)へと商号変更し、別海町のパイロットファーム整備などの現場で、一部の建設作業にも携わっていたのです。  その後、道から派遣されて就任していた音更町の千葉助役から、今後は建設事業が増えるから、建設業に従事してはどうかとのアドヴァイスを受けたことから、昭和51年に村上土建開発工業(株)へと商号を変更しました。  私は昭和23年生まれで、神奈川大学に進学しましたが、卒業した時には郷里へ戻る気は無く、仲間とともに企業研修向けの英会話学校を運営していましたが、6校にまで増やしたところで、事業を友達に預け、郷里へ戻り、村上土建開発工業へ入社しました。昭和54年に社長に就任し、今年で30年目を迎えました。
▲社屋
──30年は一世代と言いますが、地元もかなり変貌したのでは
村上
 昭和53年といえば、公共事業は右肩上がりで増えていた時代でした。私たちは一般土木も受注施工していますが、農業土木は全体の半分近くを占め、特に草地整備を得意としています。草地整備の技術を持った企業は限られており、暗渠整備などと同様に、草地整備の場合は牧草が生えるか、生えないか、結果が明瞭に現れる上に、しかも受益者の経営に影響するので非常に気を使います。  何しろ、種さえ蒔けば草が生えるというものではなく、細かい管理作業と手間が必要です。したがって、単に施工して終わらせれば良いのではなく、草地として成果が出るためには、表面的な施工評価点には現れない、見えないところでの工夫が必要になるのです。  ただ、やりがいという視点から見ると、やはり農業基盤整備のように、受益者が明確で、施工結果に喜んでもらえる方が、やりがいは大きいですね。
──同じ土木でも異質なものですね
村上
 一度作ればそれきりで良いというものではなく、一定時期が経つと再整備しなければならないものです。  農家としては、自らの負担金を負いながらも、良い畑を作り、そして良い作物を作りたいという意欲があるので、施工に対してはシビアな目で見ています。  一方、施工に当たる私たちは、シビアに見られるからというのではなく、より良い施工結果を残し、「あの会社に施工してもらって良かった」といってもらえるようでありたいし、それによって施工評価点以上の評価が得られるものと思っています。
──オペレーターなどは単なる土木技術者ではなく、農業関係者のようなスタンスにありますね
村上
 それはもう、農家との打ち合わせは綿密ですから、農業の情報・知識も豊富です。  農家が何を求めているのか、どうして欲しいのかを調べ、把握していなければ、農業土木は施工できません。十勝は農業生産基地で、農業粗生産額も2,600億円に上る農業地帯ですが、そこで農業基盤に携わる者は、みなどうすれば農家が喜ぶ良いものが作れるかを、農家とともに考えているでしょう。
──そうなると、自分たちが施工した農地の、その後の収穫、収益などの営農状況が気になるのでは
村上
 もちろん、きちんと作物が獲れているのかどうか、気になります。草地整備にしても暗渠排水にしても、整備後に機能しているのか、営農はどうなのか、施工が終わって引き渡した後でも、付近を通りかかれば気になって思わず目が向きます。  したがって、農業基盤整備とは農作業そのものだという意識で、自らが営農者の感覚を持たなければだめです。そのため、当社職員は農業基盤整備と一般土木の現場を交互に担当することはありません。技術者ですから、事業説明を受ければ、施工は実際にできますが、やはり農家の気持ちになり、自らが農家そのものになりきって臨まなければ、良いものは作れないのです。
▲担い手育成草地整備 本別地区 第41工区
──最近は営農技術もかなり高度になっていますが、それに伴って農業基盤技術も高度化しているのでは
村上
 かなり進歩しています。従来の決まり切った技術ではなく、いかにして高度な営農をする農家に喜んでもらうかを考え、独自に技術を日々改善していっています。  私が現職に就任した当時はスコップ一丁での作業でしたが、今は機械施工に変わっており、いかにしてそれを適切に行うかを考える時代です。何しろ、オペレーターの技量次第で、現場の状況はかなり変わってきますから。
▲畑総(担い手育成) 中音更地区 第1工区
──音更の農業の特色について伺いたい
村上
 音更は他の地域と違って、農家のまとまりが良い地域です。お互いに協調性が高く、情報を共有し合いながらみんなで良いものを作ろうという創造的な意識の強さが特色です。音更農協なども、組合長から専務、参事に至るまで、みんなが情報交換の場を望み、気楽に情報交換しています。  そして、元から農業規模が大きく、小麦の作付け面積が比較的多いのですが、それだけでなく様々なことを体験してみようという進取の気性があり、あくまでも食糧基地としてあり続けようとする意識を持っています。それだけに、農業基盤整備は重要です。  実際に整備のお陰で現在の収穫は増収となっていますが、予算的な事情を理由に何年も放置してしまうと、収穫は落ちてしまいますから、数年ごとに見直して再整備する必要があるのです。農家側も、たとえ自己負担があっても整備して欲しいと要望しています。というのも、例えば自己負担があっても、整備によってそれ以上の増収が可能ならば設備投資を希望するわけで、そうした投資意欲のお陰で音更の農家は裕福で、納税額が1,000万円を越える農家が何軒もあるとのことです。 そうした農家の農地に、都市部の大手建設会社が施工の手を下せるものではなく、やはり地元は地元建設会社が守らなければならないと感じます。そのために、農家側で何か問題が起これば、直ちに駆けつけることができる体制を私たちは確立しています。札幌や都市部の業者が施工だけはしておきながら、後のフォローは地元に任せるというのでは、農家側も困るでしょう。
──最近は食の安全を脅かす事件が連続していますから、むしろ高品位な北海道の農業の出番ですね
村上
 ただでさえ自給率が39パーセントでしかない中で、100パーセント以上であるのは北海道ですから、農水省も道も農政においてもう少し予算を配分して欲しいところです。それは農家や建設関係者のためではなく、その投資が直接国民のために還元されていくのです。
──そうして農業基盤において信用と実績を築いてきた村上土建開発工業社長として、経営においてはどんなことに留意していますか
村上
大規模の会社ではありませんから、社長の下にある役員、幹部、管理職、一般職に至るまで、基本は平等であり、役職は仕事上の分担でしかないことを社員に主張しています。  そして、私は時間の許す限りは一人一人の社員と会話する時間を作るようにしています。とにかく社員一人一人が喜べる会社にしなければダメだという意識を持っています。何しろ、現場は安全管理が大切ですから、胸中に不満やわだかまりがあると、作業が上の空になりかねず、事故の原因になりますから。  会社が良くなるためには、みんなも幸せにならなければダメだというのが、最大の理念です。
──一方、建設業以外の事業参入の考えはありますか
村上
 独自に病院を設立しようと考えています。先般、東京都立大病院を退官された方から、新たな医療法人を設立して病院を作ろうと提案されたので、計画を進めているところです。今日の病院の診療行為は、診察や手術を施した後は、全くフォローがないのです。例えば癌検査センターで癌を発見した場合、処置をした後に、患者がどうすれば社会生活を送っていけるようになるのか、予後治療などのケアが必要なのですが、連携体制が確立されていないという問題があります。そのためか、世界の癌患者の術後の存命率を調べると、日本が最も低いのです。それをフォローすることを視野に入れて計画しているところです。実際に、私は団塊の世代ですから、すでに何人かの友人が他界していますが、もう少し早く着手していれば、助けられたのかも知れません。  また、介護事業を見ても、被介護者は介護施設ではなく、あくまでも自宅にいたいという望みがあるのです。したがって、自宅に訪問してくれる介護士には、対価を払いたいという人がたくさんいます。家政婦を兼務できるような看護士を求める人は、大勢いるのです。  したがって、私としては地域貢献を含めて本当に喜ばれ、感謝される事業によって収益を得るというのが経営理念ですから、病院事業にも着手しようと考えています。せっかく手術を受けた患者には、長く生き続けて欲しいので、これが成功すれば既にある調剤ネットワークを利用し、そこに健康食品も備え、生活指導にも当たるなど、従来の病院ではできない体制を作ろうと考えています。
会社概要
設  立: 昭和29年
      音更貨物自動車(株)として設立
資 本 金: 2,240万円
事業内容: 土木一般・建設工事・砂利採取販売・貨物運送事業
     残土リサイクル・産業廃棄物処理
許可・業種:建設業 北海道知事許可(特-17)十第434号
      ・土木工事業
      ・建築工事業
      ・とび・土工工事業
      ・舗装工事業
      ・造園工事業
      ・水道施設工事業
営 業 所:北見営業所
グループ企業:音更運輸工業株式会社
     株式会社 キョーリツ
     株式会社 ドゥテック
表  彰:農業農村整備事業優秀業者表彰(平成10年)
     北海道開発局帯広開発建設部 優良工事施工業者表彰(平成15年)

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