建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年7月号〉

interview

市民の期待が高まる札幌駅前地下歩道

――札幌市と国が事業区間を共有

札幌市建設局土木部 創成・駅前整備担当部長 山重 啓司氏

山重 啓司 やましげ・けいじ
昭和31年7月22日生まれ
昭和55年3月 北海道大学工学部 卒業
昭和55年4月 札幌市職員 採用
平成14年4月 市民まちづくり局総合交通計画部課長職・運輸政策研究機構派遣
平成16年4月 建設局土木部道路課長
平成19年4月 建設局創成・駅前整備担当部長

 JR札幌駅と大通りまでを結ぶ地下歩道の整備が進んでいる。積雪寒冷地に暮らす市民にとって、厳しい風雪を避ける上で地下空間は有り難く貴重で、両区間の地下直結は長年の悲願だった。しかし、すでに完成した街は地下埋設物も多く、しかもその下に地下鉄が通っているため、ただ掘削すれば済むという単純なものではなかった。また国道部での整備もあるので、北海道開発局札幌開発建設部の協力も不可欠だったが、国と札幌市の共同施工という両者の協力体制によって、いよいよ市民の夢は実現に向かいつつある。
――札幌駅前通地下歩行空間整備事業は、昭和46年に地下鉄南北線が開通して後、久々に駅前での整備事業となりますね
山重
 事業カ所をめぐる周辺状況を見ると、JR札幌駅北口は地上が駅前広場でバスとタクシーの乗降空間となっています。地下は駐車場で、その両サイドに地下歩道があります。歩道の幅はともに12mで、西側通路は西3丁目のエルプラザに直結し、東側通路は西2丁目合同庁舎付近が終点です。それらと札幌駅を介して接続する形で、南口から20m幅の地下通路を整備しているものです。  これまでは、大通公園、狸小路、すすきの周辺が古くから札幌の都心となっていましたが、市としては札幌駅周辺も同様に均衡ある発展を遂げるのが望ましいとの発想から、古くから駅前地下通路の計画は持っていました。しかし、地下鉄南北線を整備していた当時は、人口が100万人程度で、まちづくりの意識はそれほど高くありませんでした。  近年になって、札幌駅舎の改築と鉄道高架、周辺の再開発にともないJRタワーが建設され、大丸その他のデパートなど集客力ある施設が出来た上に、JRと二本の地下鉄があるので交通の便も良く、周辺にも人が集まり非常に発展しています。そこで、札幌駅を中心とした都市部の活性化という観点から、着手することになりました。  特に、冬期間は7割から8割の人々が地下道を利用するとのデータがありますから、冬でも安全に往来できる空間を作り、大通と札幌駅の回遊性を向上させることで、互いの地域的魅力を高める施策です。  駅前通にはビルが多いので、沿道のビルと地下接続することも想定しています。したがって、地下道の構造は、両サイドにビルと接続するスペースとともに、賑わいを作る空間を設定します。単なる通行空間とするなら、北口と同様に12mあれば十分ですが、両サイドに4mほど憩いの空間を確保し、休憩したり、イベントで活用でき、そしてビルとも接続出来る空間を確保するため、20mの幅員で整備しています。
――広場が設定されるポイントと、その運用方法は
山重
 地上の北3条通りなどとの交差点の地下部分となります。地下に接続するビルを中心としたまちづくり会社を設立し、管理運営を委託しようという試みです。東京のミッドタウンや汐留などはまさにその手法で、再開発ビルと地下や歩道も含め、三井不動産などが全てのマネージメントを担当しています。  そうした会社によって、地下利用のルールを作成したり、警備や清掃などの管理をお願いしようと考えています。当初は札幌市から業務委託する形を予定しておりますが、イベントによって収益を上げてもらい、それで維持管理できるようになれば理想的です。
――地下空間の施行となると、技術的な困難もあったのでは
山重
 地下歩道の下を通る地下鉄南北線は、かなり浅いところに作られています。その上に作るので、空間的な制約がありました。また、地下鉄の施設に影響しない配慮が必要で、例えば土の掘削によって上の重りがなくなり、地下鉄躯体が地下水により浮いてしまわないように、事前に井戸を掘り、地下水をポンプアップして水位を下げているところです。  その他、地下鉄を整備した当時に、水道や電気、ガス、下水、電話回線などを入れ替えたのですが、今回の工事で再びそれらの埋設物を移設しながらの施工となったので、これも当初は大変でした。街ができあがってしまうと、思うようには掘削できないものです。
▲地下道 全体イメージ ▲地下道 イメージ
──この整備にともなって、駅前通は地上の風景も変化してきましたね
山重
 地下歩道との接続を希望するビルは11棟に上り、ニッセイビルが建て替えられたり、三井ビルも解体してニッセイより高いビルを建てようとしていたり、北洋銀行も建て替えに着手しました。  市としては、単に駅前の地下通路の整備計画を構想通りに進めているだけですが、それによって周辺のビルが建て替えられるという大きな経済効果が得られたと思います。道路と一緒に周辺のビルも昭和46年当時からのものを一新するのですから、大きく変貌するでしょう。
――地上の交通体系も変化するのでは
山重
地上は3車線ですが、今後は2車線とし、停車帯を両側にとって歩道も拡幅します。また、ビルが多いので荷さばき需要も多く、タクシー待ちのスペースも確保します。
――この事業には、市交通局や北海道開発局も参画していますね
山重
 地下鉄札幌駅のコンコースの南端に交通局の機械室があり、この地下通路と行き当たるので、そこは交通局にお願いして施工してもらっています。その先は私たちが1工区、2工区として整備し、国道部分については、北海道開発局札幌開発建設部にお願いして施工して頂いています。
▲断面計画
クリックすると拡大したものが開きます。
――国には国策としての計画もあるので、調整が大変だったのでは
山重
 国の理解なくしてはできない事業でした。お互いに同じ道路行政を担う立場なので、整備の目的や効果などについては共通の認識を持つことができます。とりわけ札幌市の都心部を所管し、事業展開する共通の立場にあることは大きいと思います。  これまでにも、国道と道道・市道の区間を分け合って、ともに事業に当たった事例はありましたが、今回のように同じ区間を共有して連携したのはまれではないかと思います。
―─国道12号の地下には札幌開建が整備した北1条地下駐車場がありますが、現状では孤立していますから、新たに地下道と繋がれば利便性がさらに高まりますね
山重
 地下のネットワークが計画された時点で、駅前地下通路と北1条地下駐車場の計画はともに構想されていました。ただ、北1条駐車場が最初にできて、その後に間ができてしまいましたが、今後は便利に、地下歩道を通って大通方面や札幌駅方面に向かうことが出来ます。  近年は都市が膨張する時代ではなく、むしろコンパクトになる時代ですから、この事業は札幌の今後の街の方向性を示すものと思います。

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