建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年6月号〉

interview

新たな住宅政策へ!安全・安心な北海道らしい住まいづくりに向けて(後編)

――ユニバーサルデザインや子育て環境の整備で住宅レベル向上に期待

北海道 建設部 前住宅局長 中岡 正憲氏

中岡 正憲 なかおか・まさのり
昭和27年生
北海道大学大学院修了
平成13年 建設部 建築指導課長
平成15年 建設部 建築整備室建築課長
平成16年 建設部 砂防災害課長
平成17年 建設部 建築整備室長
平成18年 建設部 住宅局長
平成20年 北方建築総合研究所 現職

 北海道建設部住宅局は、少子高齢化の対応や、まちなか居住の促進を図る道営住宅整備、リフォームによる質の向上と住宅流通の活性化を促す住宅づくりを通して、地域のまちづくりに貢献している。

(2006年12月号続き)

――生活全般にわたっての利便性を多角的に向上させる合理的なプランですね
中岡
 現時点では、そうしたケースを増やしていくことを考えています。道営住宅では釧路駅前の「ことぶき団地」や、旭川の宮下というところも駅前周辺の区画整理にあわせて進めています。これ以上は郊外に広げず、出来るだけまちの中に戻していくという作業を公共住宅で進めていくことで消費需要を生み出し、100戸や200戸でも整備することを続けていかなければ、まちの活力が戻ってこないのではないかと思います。この点は、総合的なまちづくりと、住宅づくりとの政策的な合致点だと思います。  また、例えば札幌の北26条の道営住宅などのように、民間の資本を使ったPFI方式も有効です。単なる借り上げ住宅と言えるかもしれませんが、民間企業が進められるようなスタイルで、しかも費用を役所が負担しないかたちで進められます。しかも、スペックとしては、体力が衰えた方でも住めるようにユニバーサルデザインとし、今後のストックとして残していくことにしています。  それから、多少年数が経過していても、躯体がしっかりしているものであれば出来るだけ改修し、建設廃材などによる環境負荷をかけないよう、既存ストックを出来るだけ活用することを念頭に進めています。  道営住宅の場合は、管理は新しく地方自治法で公共物の指定管理者制度が施行されたので、我々も今年度から取り入れており、札幌周辺については公募によって、住宅管理公社が札幌周辺、小樽までを含めて管理し、函館については同市の住宅都市施設公社に委託することになりました。  他は地元の市町村にお願いしているところもありますが、現時点では全て移行している訳ではなく、直営で支えているところもあり、それらを出来るだけ制度の主旨に沿って指定管理者に委託していきます。ただ、郡部の町村では、町営住宅の指定管理者を委託できる事業者が、あまりいないとのことでした。その意味では、完全委託にはもう少し時間がかかると思います。  何分にもコスト削減が厳しく、双方の交渉問題もあり、管理システムも大きく変わっているので、入居者に不安を抱かせないこと、サービスレベルが極端に落ちないことに配慮することが大切です。  道営住宅は、いままでのような一般会計からの繰り入れは出来ず、家賃収入で負債を返済し、今までのように追加投資をしながら修繕をすることは出来なくなってきています。したがって、町内会あるいは入居者自らが出来ることを出来る限りしていただき、外部委託分の経費も下げていくことになります。例えば、管理作業の一部を担当していただければ、その分の経費は削減できるので、入居者の方々には様々に協力をお願いする管理方法に変わると思います。住宅の管理は、博物館や美術館などの管理とは違うのです。  ただ、建物の管理だけではなく、入居者の生活の安全管理なので、9時から5時まで入館者のための管理とは訳が違います。
――道営住宅の入居者は、比較的長期間入居するケースが多く、高齢者にとっては低金利の上に年金支給額が減ってきている中で、家賃収入にも影響が出てくるのでは
中岡
 制度としては、ゼロ円での入居は無くなりましたが、所得が下がってくるなどの場合は、減免というかたちで本来の家賃から下げる状況が必然的に増えているので、我々の収入も年々下がっています。数年前の7割から8割まで下がっており、国では家賃収入が無くなった時の対策として、国庫負担で補ってきましたが、実態は補填しきれておらず、各市町村も家賃収入の穴埋めが出来ない状況です。結局、それが管理費でも落とせないとなれば、例えば債務を返済しても、次の投資が出来なくなり、建て替えも不可能となります。したがって、国には家賃の収入源に見合った対策をしていただきたいと思っています。その財源を確保することが三位一体改革なのですが、明確になっていない部分もあり、財源を削減されて非常に苦しい状況になっています。  各市町村にとっても大変厳しく、やむなく老朽化した物を直しながらという実態です。その中には建物の耐用年数を超えている物が、約2割もあり、例えば昭和40年代建設の建築物が、それだけ残っているということです。これらを解体したいのですが、新しく建てる予算が無く、建て替えにおいて家賃が3倍から4倍にもなってしまうので、市町村にとっても大変なところです。  もう一つは、我々も市町村もそうですが、逆に入居者の収入が高くなってしまった場合は、出来る限り自助努力で、他のところに移っていただき、入居出来ずに待っている希望者に空けていただきたいということです。様々な事情があるにしても、入居契約を守っていただけなければ、やむを得ず法的手段を取らざるを得ないのです。  そもそも、入居希望者の倍率が高く、かといって民間企業との兼ね合いもあるので、闇雲に建てるわけにもいきません。出来るだけ需要に応えたいのですが、まずは待機者について何とかしなければならないと考えています。  その他、例えば上階に入居されている高齢者が階段の昇降が辛いという理由で、下階に移りたいとの希望もありますが、入居者の理解を得られれば、強いてエレベーターを造らなくても済む場合もあります。
――継続事業もふくめて、今年度の事業計画はどのように実施していきますか
中岡
 来年度以降は、まだはっきりしていません。とりあえず今年度に公表している団地については、継続で進めていきます。平成18年から住生活基本法という住宅政策の基本柱が更新されました。今までは戸数を中心にした住宅建設計画法というのが国と市町村を含めた全体的な柱でしたが、住生活基本法では基本的な計画は都道府県が自主的に作ることになり、必ずしも戸数計画では無くなります。  見通しとしては、年内に計画を策定しますが、箇所についてはかなり流動的な要素を持っているので、道営住宅についても現在約23,200戸を抱えていますが、これを格段に増やすことは非常に難しいので、古くなった物を解体、あるいは他の対策と連携し、住宅対策の支援として供給します。  また、狭くなったところを広くするために、2戸を1戸に改善するなど戸数を増やさない形で供給します。道営住宅予算は、厳しい財政状況を踏まえながら、どこまで出来るのか、団地を見ながら、また地域的なものも考慮しながらということになるので、単純には決められないものがありますね。

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