建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年6月号〉

interview

足かけ9年の地域の希望が実現した(仮称)入江地区広域センタービル

――改めて証明した地域市民経済の底力

室蘭市長 新宮 正志氏

新宮 正志 しんぐう・まさし
昭和10年11月 14日生まれ
昭和33年 3月 専修大学商経学部 卒業/td>
昭和33年 4月 室蘭市役所 入所
昭和49年 5月 市議会事務局議事課長 就任
昭和56年 4月 総務部職員監 就任
昭和58年 7月 環境衛生部長 就任
昭和60年 4月 市民福祉部長 就任
昭和61年 6月 財政部長 就任
昭和62年 7月 総務部長 就任
平成 2年 4月 収入役 就任
平成 7年 5月 市長 就任(現在4期目)

 1980年代に迎えた産業の軽薄短小化による重厚長大産業の衰退は、鉄の街として栄えてきた室蘭市を直撃した。以来、鉄冷えの街などと揶揄される不遇の時代を迎えることとなったが、中国、ロシアの劇的な経済成長と自動車産業の興隆から、俄然として息を吹き返し、室蘭市の抱えていた不良債務はついに減少へと転じた。室蘭市としては、まさに巻き返しの時を迎えており、この勢いに乗って街づくりを進めなければならない。その起爆剤のシンボルとも言えるのが、胆振支庁の入居を中心とした官民複合施設(仮称)「入江地区広域センタービル」の建設である。財源不足の道に代わって、市や地元企業らの出資による「むろらん広域センター(株)」が、代行して建設するという前例のない事業モデルだ。9年がかりで要望してきただけに、先導役となった新宮正志市長としても、その着工には一方ならぬ感慨があるだろう。そうした施設整備を契機に、ようやく景況を持ち直した室蘭市として、どんな街づくりに着手していくのか、施策を伺った。

──地域住民に長く待ち望まれてきた胆振支庁を中心とする(仮称)入江地区広域センタービルの建設が、いよいよ始まりました。その実現に向けての先導役として、万感の思いがあるのでは
新宮
 市民を始め地域の企業が出資し合って、「むろらん広域センター(株)」を設立し、ついに実現にこぎ着けました。30億円もの事業費を地元だけで確保するのは、並大抵の苦労ではありませんでしたが、逆にそれを成し遂げる底力が地域にあることが改めて実証された形で、これは私たちとしても大きな自信となりました。  そして、都道府県の入居する庁舎を地元が建設するという事例そのものが希有のことですから、今後に向けて一つのモデルケースともなるでしょう。
──施設の概要と、まちづくりにおいて期待される効果などを伺いたい
新宮
 胆振支庁や市の一部窓口業務、金融機関などが、賃貸で入居する複合施設となります。述べ床面積約14,000uで、鉄骨造4階建て、テナント用を含め約400台の駐車場を完備します。来年2月の完成を目指して、カ強い建設の槌音が響き渡っています。  空洞化が目立つまちなかの再生に取り組む本市としては、このセンタービルが地元商店街を含めて、中央地区の活性化の起爆剤となるものと大いに期待しています。したがって、今後に向けては地域の活性化や市民の利便性向上につながる事業展開を図っていく決意です。
──室蘭市は鉄鋼・造船不況によって、長らく辛い苦しみの中にありましたが、近年の鉄需要の高まりからようやく息を吹き返し、そして昨年にはものづくり100年を迎えましたね。こうした経済情勢を踏まえて、どんな施策に取り組みますか
新宮
 お陰で、市の不良債務はついに減少傾向へと転換し、財政健全化への展望が開けました。しかし、それに油断していてはなりません。市としては、さらに環境産業拠点の形成を目指し、その中核プロジェクトとしてPCB廃棄物処理事業が稼働しました。さらに安定器等の処理に係る新たな施設増設に向けた動きもあり、雇用効果が期待されています。環境汚染を懸念する声もありましたが、安全性においては、万全の体制が確立できたので、心配は全くありません。今後も、安心・安全な事業の実現に向けて、適正処理についての監視・指導や情報の発信に努めていきます。  また、燃料電池システムなど、新エネルギーを活用した先進的な技術開発も進められており、室蘭工業大学が持つ知識や情報と、地域企業の技術を結ぶコーディネート機能の強化を図るため、新たに職員を大学に配置して産学官の連携を促進しています。  特に、クリーンエネルギーとして注目される水素については、地元企業や室蘭工業大学の取り組みが活発化しており、関係機関と連携を強化する中で、国等の水素実証プロジェクトなどへの提案を積極的に検討していきたいと考えています。
──元通産官僚であった北海道知事が、製造業の誘致に熱心であるのも追い風ですね
新宮
 私たちも昨年に成立した「企業立地促進法」の制度活用に向けて、近隣市町と連携した、環境・エネルギー関連など付加価値の高い産業の集積を目指す基本計画の策定とともに、環境と自動車関連産業を中心に、積極的な企業誘致活動を展開していきます。  また、ものづくりを支える人材の確保については、U・Iターン事業による優秀な人材の誘致を進め、さらにものづくり基盤センターとの連携により、女性や若年者への技術研修などを実施し、雇用のミスマッチの改善と地元への就業を支援するとともに、季節労働者の通年雇用化を促進するため、商工・労働団体とも連携し、就労支援講座なども行います。  さらに、これらの産業活動を支える室蘭港においては、高速フェリー就航に向けて全力を挙げるとともに、海外を含めたポートセールスを積極的に展開して、フェリー航路の再開やRORO船の誘致に力を入れます。
──室蘭市の袋小路を解消した白鳥大橋は、開通して10周年ですね
新宮
 この橋の開通によって、室蘭市のサークル化ができたことは、産業においても市民生活においても大きなインパクトをもたらしました。10年目を迎える今年は、白鳥大橋を地域の誇りとして再認識し、室蘭の歴史を未来につなぐ象徴として活用し、まちの魅力と活力を飛躍させていくことが必要です。 この記念すべき年にあたり、市民のエネルギーを結集し、全国で初めてとなる、橋を舞台にしたトライアスロン全国大会と市民ウォークの同時開催をはじめ、民間とも連携しながら、広範多彩な記念イベントを実施して、室蘭をPRしていきます。  一方、市民も発想力が豊かであると同時に、結束力も強いので、自主的に様々なアイデアを出してイベントなどを実行しています。そうした発想の中から、クロソイやカレーラーメンなどの地域ブランドも生まれてきました。  一方、白鳥新道二期区間については、昨年の市民ワークショップの提言をもとに、臨港道路を活用する整備案を取りまとめ、地域の声として国に要望してきましたが、技術的・制度的な課題に加え、道路整備を取り巻く厳しい情勢から、事業費の縮減が不可欠なので、臨港道路活用のルート化を前提とした祝津ランプから、新たな築地交差点までの早期事業化について事業要望を絞り込み、地域の熱意・必要性を強く国へ訴えていきます。  新千歳空港を擁する千歳市と、臨海工業都市である苫小牧市、そして鉄鋼・自動車産業の室蘭市は、国際空港と工業都市と港湾が連胆したベルト地帯となっているので、長らく冷え込む北海道経済の牽引役を果たせるものと思っています。
▲白鳥大橋開通10周年記念イベント 白鳥大橋ウォーク ▲白鳥大橋開通10周年記念イベント 開通年ウォークの様子
──第一次産業が主力の道内で、数少ない工業都市として、ようやく転換期を迎えましたが、それまでの苦況は並大抵ではなかったでしょう
新宮
 死に物狂いで行財政改革に当たらねばならず、そのために施設整備もできず、廃止した施設などもあり、市民には不便をかけつつ忍従してもらいました。ですから、その分、今年は市民生活の安心・安全向上を図る、生活直結型の施策に力を入れたいと思います。
──市政方針が発表されましたが、今年度の主力施策についてお聞きしたい
新宮
今年は地方財政健全化に関する指標が適用される初年度なので、本市にとっても厳しい状況ではありますが、「未来に希望のもてるまちづくり」、「活力あふれるまちづくり」、「市民の力が広がるまちづくり」を3本柱に、「動」の姿勢で積極的に取り組みます。  主な施策としては、財政上の課題である不良債務をさらに早期解消させる一方、4月から始まった後期高齢者医療制度への対応や、地域医療の確立、子育て支援、福祉施策、学習環境の整備など市民の暮らしを守る施策に加えて、商店街のにぎわい創出や、まちなか居住の推進など、まちなか再生への取り組みも重点的に進めます。  具体的には、救急医療を含めた診療体制を確保するため、病院の連携を強めるほか、市立病院については「地方公営企業法の全部適用」によって経営基盤の強化を図り、地域医療の向上に努めます。看護師不足への対応については、奨学資金貸付金の増額や貸付枠の拡大を図り、学生定員の拡大を検討していきます。  子育て関連では、児童センターの開所時間延長やスクール児童館の指導員体制充実など、放課後児童対策を推進します。また福祉対策として、旧小学校を活用した児童療育施設を、障害者団体の作業所としても利用できる総合的な福祉施設として再整備するほか、高齢者福祉については、昨年に地域住民を中心に発足した「高齢者たすけ隊・見守り隊」の活勁への参加の呼びかけと、地域ケアの体制整備に努めます。  文教政策では、統合小学校の建設着手や中学校の実施設計を進めるほか、文化センター地階を改修し、市民運営による美術館を整備します。  まちなか再生の実現に向けては、市営住宅の建て替えのほか、「借り上げ市営住宅」の導入を検討し、また民間事業者による胆振支庁跡地・公共施設跡地の活用を促進します。  一方で、商店街の賑わい創出として、アーケード撤去後の道路整備、公共と民間の連携による複合公共施設の整備、新サービスセンターの開設などで、地元商店街と連携した回遊性のあるまちづくりに着手します。  また本市は、国の産業遺産の認定を受けた歴史的施設など、ものづくりのまちとして、観光画に活かせる多くの資源があり、こうした既存資源に、ボルタ工房やものづくり基盤センターなどの製作体験学習を組み合せて、「観る」、「学ぶ」、「体験する」の三要素を備えた、室蘭ならではの「ものづくり観光」を確立し、新たな観光誘致を図っていきます。
──近年は三位一体改革論議や道州制論議などを通じて、地域が自立することが求められていますが、一市町村だけで全ての機能を完結することは困難であるため、広域連合や合併なども行われています。西日振の未来づくりについてはどう考えていますか
新宮
 広域連携の推進では、ごみ処理や共同電算業務に続き、西胆振6市町による消防の広域化について、西いぶり広域連合を中心に準備を進めます。  一方、市町村合併については、従来に見られた単なるリストラ目的の合併ではなく、地域の将来を考えての合併が重要です。その大前提を踏まえた上で、これまでに2回のフオーラムを開催し、住民意識の醸成に努めてきましたが、大同合併を目指した今後の取り組みとしては、6つのまちが一緒になった時に、他地域に比べどのような優位性があるのか、また、どんなまちづくりの可能性があるのかなど、地域の将来像を具体的に示し、住民に説明し、より一層理解を深めていただく必要があると考えています。  このため、6市町で協力し、住民の意見も聞きながら、西胆振の未来づくりにつながる地域ビジョンを策定しますが、私としては、今までのように市町村同士が競争し合うのではなく、お互いに無いものを融通し合い、分業体制で助け合う形が望ましいと思っています。

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