建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年5月号〉

interview

根室は北方四島の核として
食料基地として安全な道路網が必要

 水晶島出身の母を持つ北方領土返還要求運動二世
 4月1日暴風雪で丸一日以上陸の孤島に

渡辺建設工業株式会社 代表取締役社長 渡辺 寿一氏

渡辺 寿一 わたなべ・じゅいち
昭和20年1月11日 生
昭和38年3月 北海道根室高等学校普通科 卒業
昭和39年1月 根室石材建設株式会社 技術員として入社
昭和50年8月 渡辺建設工業株式会社に社名変更
昭和62年6月 同社代表取締役社長 就任
公職
釧路建設業協会 理事
根室市建設協会 相談役
渡辺建設工業株式会社
根室市花園町5丁目10番地
TEL 0153-23-5291

 北方領土返還要求運動の原点でもある根室。ピーク時の人口が約5万人だった根室市は年々、人口の高齢化と若者の流出が進み、平成20年1月現在の人口は前年同月比500人減の約31,000人。3万人の大台を割るのは時間の問題か。その根室で半世紀にわたり、土木・建築・舗装の中核企業として貢献してきた渡辺建設工業株式会社の二代目社長、渡辺寿一氏は、水晶島出身の母を持つ北方領土返還要求運動二世。根室商工会議所副会頭、根室支庁管内建設業協会長を歴任、北方領土隣接地域としてインフラ整備の課題などを聞いた。
――会社の社歴と業務概要からお伺いします。創業は何年でしょうか
渡辺
 昭和32年で、創業者である私の父親が根室で砂利採取業を立ち上げたのが始まりです。昭和32年は、当時の根室町と和田村が合併し、根室市が誕生した年で、昨年に50年を迎えました。「誠実・信頼・責任」を念頭に、お客様に信頼され、地域に愛され、地域に必要とされる企業をめざし、半世紀を根室市とともに歩んできており、'07年3月期の売上高は20億800万円となりました。
▲社屋
――昭和30年代初頭の根室経済も少しずつ上向いてきた時期ですか
渡辺
 そこまではいってなかったと思います。会社にはブルドーザーがありましたが、砂利採取はスコップによる手作業が中心で、根室で初めて道路舗装が行われたのも37、8年のことで、市役所前の道路でした。下駄を脱いで舗装道路を裸足で走った記憶がありますが、そんな時代です。  私は38年に高校を卒業後、大阪の建築専門学校に進みましたが、父に勧められて卒業を待たずにUターンし、翌年1月に入社しました。
――土木建設業に進出したのは何年でしたか
渡辺
 確か昭和43年頃に、根室市の河川改修の仕事を受注したのが建設業の始まりです。社長に就任したのは、本社屋新築と同じ年で61年です。その頃は、新造船フローティングドッグでの港湾工事や、舗装工事などを施行し、北海道知事から農業基盤整備事業優秀表彰も頂いています。
▲根室半島線 現在
――北方四島の核として住民の生命、財産を守るためにも安全な道路網や漁港の整備は欠かせませんが、根室の現況はいかがですか
渡辺
 根室市の人口はピーク時で49,600人でしたが、現在は31,000人にまで減っています。平成元年のデータによると、15歳未満が15、6%、65歳以上が8、9%でしたが、いまは完全に逆転しています。あと15年もすれば65歳以上が人口の半数を占める勢いです。  産婦人科医がいないから、根室では安心して子どもを生むことすらできません。医療設備が整った釧路市までは、一般国道44号を利用しますが、距離は約125kmもあり、2時間はかかります。高速道路などで1時間ぐらいで釧路に行けるように整備しなければ、子どもを生む人もいなくなります。
▲平成20年4月2日幹線道の車線確保
――先日4月1日に道東暴風雪に見舞われましたが
渡辺
 台風並みに発達した低気圧の影響で根室半島の道路網が寸断され、また、根室国道(44号線)も通行止めになり丸一日以上陸の孤島になりました。  従業員は、2日早朝2時に会社に集まり、除雪作業を開始しました。幹線道路では、地吹雪や吹きだまりで苦戦を強いられましたが、事故もなく安全に作業を終えることが出来ました。  根室は暴風雨に伴う高波被害が多く、大雨、地震、津波などによる災害も過去には数多く発生しています。安全で安心な道、戦後未解決の領土問題を含めて国の責任でもあると思います。  根室は公共事業のウェイトが高い地域です。公共投資縮減で、建設業の雇用に大きな影響が出ています。  水産業は50年頃から排他的経済水域200海里宣言で、遠洋漁業が減船を強いられました。その際は、建設業が雇用の受け皿になりました。  ご承知のように、根室は水産業が基幹産業です。昨年の水揚高は、全国の港のなかで5番目。水揚量、水揚高とも釧路を抜いています。その中で、さんまの水揚げ量は10年連続日本一を達成しました。その水産資源の大半はトラック輸送に依存しているのですから、安全な道路を整備するのは当然のことだと思います。  ところが、根室〜釧路間はいまだに高速道路が整備されていません。例えば、食糧自給率を現状の40%弱から少なくとも50%に、100年後には70%にするために、北海道の位置づけをどうするか。そうした大きな枠組のなかで、根室の位置付けを明確にしてほしいものです。  根室は間違いなく日本の水産・酪農の食糧基地です。根室経済の活性化を積極的に進めれば、必然的に日本の食料自給率を引き上げることになります。
――そうしますと、北方四島が返還されたら、間違いなく日本一ですね
渡辺
 そうでしょう。しかし、第二次大戦の未解決問題が残っている地域ですから、もっと政治的にも国が力を入れないといけない。  根室は北方領土返還運動の原点であり、私の母も水晶島の出身ですから、私自身も返還要求運動の二世にあたります。昭和20年当時、北方領土の島々には約17,300人の日本人が住んでいましたが、ソ進軍による不法占拠により家や土地、そして先祖の幕までも残し、引き揚げざるおえなかったのです。当事の根室町長の安藤石典が4島の返還を求めて陳情を行ったのが北方領土返還要求運動のはじまりであります。以来その声は全国に広がっており、根室は未だにその旗振り役を続けております。しかし63年経っても何一つ動いていないのが現実であり、元島民も半数以上が故郷の地を踏むことなく他界し、平均年齢も75歳を過ぎております。国の責任においてこの問題を風化させることなく、後世へと引き継いでいかなければなりまん。昨年も東京で返還運動のデモを行いましたが、日本は北方領土問題より拉致問題に力を入れているとロシアに見透かされているのではないでしょうか。4島をロシアが実効支配して半世紀以上経ち、ロシア人が居住しているのは事実ですから、共存・共栄も含めてとりあえず2島でも3島でも返還してもらい、後は継続協議とするのもより現実的な解決策の一つではないかと思います。勿論4島の主権が大前提でのはなしですが。とにかく日本政府と国会議員はもっと真剣に返還運動に取り組むべきだと思います。
▲納沙布岬空撮
――根室の現状を見ると、北海道支庁制度改革で根室支庁(根室支庁は釧路支庁の出先機関として機能が縮小され道東総合振興局・根室振興局となる)は残してほしいのが地域の本音では
渡辺
 道庁自身が考えることですが、今年の1月の「新しい支庁の姿」に関する地域意見交換会の資料で、根室支庁管内の面積に北方四島を含めていないのは論外です。納沙布岬で終わりではなく、その先があるのです。今の国の道路を造る基準として、まず交通量等の調査をし、道路を造る事業費とその維持管理費よりも便益のほうが多くなければなりません。しかし必要な道路とはそうした費用対効果だけではないと思います。今問題となっている暫定税率や道路特定財源の一般財源化により道路整備が益々立遅れることは、地方に住む我々にとっては非常に大きな問題であります。時には民有地を買収して整備していかなければならない事業ですから、長期的に国家戦略に基づいた道路の位置付けが必要です。同様に支庁再編についても先述の食糧基地としての役割や国家の問題である北方領土問題を抱える根室において、根室支庁は絶対に必要な機関でありますから、もっと時間をかけて議論し理解を得るべきものと思っております。
会社概要
創業・設立:1957年6月(昭和32年6月)
資 本 金:7,800万円
売 上 高:20億800万円(2007年3月期)
事 業 内 容:土木・建築・舗装 工事
従 業 員 数:52名(2007年3月末現在)
営 業 所:釧路営業所
関 連 企 業:渡辺商事株式会社
建設業許可番号:
北海道知事許可(特・般-19)根 第121号
建設業の種類:
土木・建築・大工・左官・とび土工・屋根・
タイルれんがブロック・鋼構造物・舗装・
しゅんせつ・内装仕上・建具・管・水道施設

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