建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年5月号〉

interview

大手ゼネコンが「大学病院」なら地方の建設会社は「医院」

――全国建設青年会議の会長を務めた経験で地域活性化を語る

株式会社 星組土建 代表取締役社長 星 政人氏

星 政人 ほし・まさと
昭和36年4月10日北海道寿都町生まれ
昭和59年3月 法政大学社会学部応用経済学科 卒業
昭和59年4月 株式会社星組土建 入社
昭和61年6月 株式会社星組土建取締役 就任
平成16年6月 株式会社星組土建代表取締役社長 就任
公職
小樽後志陸上競技協会(後志支部) 副会長
寿都商工会 監査役
法人会寿都支部 理事
寿都地方暴力追放運動推進協議会 会計兼事務局長
函館方面本部寿都警察署 少年補導員
寿都建設協会 理事
株式会社星組土建
寿都町字湯別町上湯別105番地1
TEL 0136-64-5331

 大手ゼネコンが「大学病院」なら地方の建設会社は「医院」。地域の建設産業は大学病院からホームドクターの段階まで非常に幅広い。かゆいところに手が届くように、患者(地域)に密着し一人ひとりの特性に合うように「経験と技術」に基づいて公共施設の適切な「維持管理」と将来の老朽化に対する延命策(長寿命化)を提案・実行していくー。平成15年の全国建設青年会議で会長として晴れの舞台に立った星組土建の星政人社長の信念は今も変わらない。人口減少と高齢化の進む北海道後志管内寿都町を拠点に建設産業の生き残りを模索する星社長に熱い思いを語ってもらった。
――会社の社歴と、社長の略歴から伺いたい
 現職の会長は星禰助ですが、初代も星禰助で、社長に就任する者は遺言で代々、この名を襲名します。そもそも、どんな経緯で北海道に移住してきたのかはっきり聞いていませんが、明治後半に宮城県から小樽に入り、その後寿都に移り、大正14年に建設業を興したようです。昭和7〜18年初期に日本鉱業の指定業者とし、鉱山施設の建築を手掛けたのが事業の始まりです。2代目からは公共事業に進出し、今の会長が3代目です。私はまだ名前を襲名していませんが、4代目となります。  法政大学の社会学部応用経済学科で中小企業論などを学び、昭和59年に卒業して当社に入社しました。社長に就任したのは、平成16年で、それまでに取締役に就任し、営業及び現場管理を担当していました。
――社長就任の前の年の平成15年に、全国建設青年会議の会長に着任しましたね
 北海道建青会の前任者は旭川の荒井建設の荒井社長で、荒井社長にそのまま継続してほしいと頼んだのですが辞退され、会員各社から当番会長がなるべきと要請されたので、身分不相応なのですが引き受けることになりました。小樽が北海道建青会の当番の時で、さらに全国建設青年会議の主管の年でもありました。  全国会議の主催者とし、また、会長として当時、国土交通省の大石久和技監に挨拶の御願など、多くの人と知り合い、会議宣告や、地域建設産業の存在意義など議論を通じて自分なりにも鍛えられ良い経験をさせてもらったと全国の仲間にも感謝しています。
――地方での建設産業と、会社経営の基本的な考えをお聞きしたい
 寿都町(人口3,674人・世帯数1,872世帯)のような田舎には民間の産業が数多くないので、そのため、まずは第2次産業の建設業が潰れないことが一番の地域貢献だと考えます。公共事業依存型であるのは否定できませんが。  「公共事業は税金の無駄使い」との批判を聞きますが、田舎であればあるほど、その批判は当たっていないのです。建設産業は、地域に密着した公共事業を確実にこなし、利益も出して地域に還元するという考え方です。  星組土建の社員とその家族は寿都町の町民です。会社の損益分岐点をギリギリまで落とし、固定費を抑えつつ人件費とリストラには出来るだけ手を着けないという姿勢で、会社の経営にあたっています。
――公共事業削減の情勢で、どの企業も収支バランスに頭を悩ませていますが、どのように工夫していますか
 私が入社した昭和59年頃は、公共事業が増えていた時代で、建設業法関連の改正もあり、社内にコンピュータの導入を始めました。  その頃は、「エクセル」の前世代の「マルチプラン」という表計算ソフトがありましたが、それから始め、後にはPCA会計という財務会計コンピュータソフトも導入しました。この地域でIBMのS/36・AS400のハードのコンピュータシステムを導入していたのは、当社を含めて2社程度でした。
▲社屋
――最近は電子入札が本格化してきましたから、IT化は必要ですね
 しかし、OA化が進んで地域格差がなくなると言われてきましたが、現実は違います。当社もそうですが、光ケーブルが整備されていない地区がまだあるのです。インフラとしては孤立している印象で、むしろ、このために地域格差が生じている感じです。
――早い段階でコンピュータ化に着手した利点は
 15、6年前に、当社で開発したソフトが、IBMの開発援助商品(オブジェクトベースシステムへの移行支援)として採用され、開発費として約800万円の収入を得ました。それによって、当社はさらにプログラム会社に発注し、労務管理と原価管理のソフトのVerUpを手掛けました。  工種、種別1、種別2、品名、さらには材料、労務、外注等の要素別に管理できるシステムで、これによって施工中でも正確に原価管理ができます。  当社は基本的に余剰人員が少なく、現在の社員数は20人です。事務職は女子が2人と男性1人で、労務管理のデータ入力は女性社員1人で行っています。会社経営においては人件費のウエイトが高いので、一定以上に増えないシステムを確立しています。
――近年は公共事業不要論だけでなく、道路特定財源も廃止すべきと言われていますが、地域の交通事情と道路網をどう評価しますか
 この地域は海岸線の国道229号と、内陸部に繋がる道道寿都黒松内線が主要幹線道路ですが、日本海特有の強風と地吹雪が厳しく、冬季間の交通障害などで苦労することが多いのです。  そのため、黒松内から倶知安、ニセコ、余市を経由する高規格幹線道路と、黒松内から日本海側へ抜ける道道の整備が急がれます。実現すれば、ニセコ周辺の巨額な外国投資がさらに活発化し、よりグローバルなツーリズムによる集客力のアップが期待できます。また、観光面ばかりでなく、寿都の基幹産業である水産物を消費地へ運ぶなど、経済活動を支える上でも道路整備は欠かせません。  道路特定財源は、北海道の高速道路ネットワークや道道、市町村道の確実な整備に必要な財源です。国土交通省の資料によると、平成19年度道路関係予算における道路特定財源は総投資額の60%以上を担っており道路整備の推進に重要な役割を果たしています。国は道路特定財源で道路整備すべてを賄っているが、地方自治体は道路整備の45%を一般財源より支出していると聞いておりますので、現在、報道されている、道路特定財源に余剰があるのは国費で、地方費を含めると道路特定財源は「余っているのではなく、たりない。」のではないでしょうか。道路特定財源の、一般財源化は現在、国会等で論議されていますが、まだ、国民のコンセンサスが得られていないのではないでしょうか。
――とりわけ医療・福祉過疎である地方にとって、高速道路ネットワークは「人の生命線」ですね
 その通りで、寿都から札幌市内の設備の整った大規模病院に救急車で搬送するには、2時間以上もかかります。現在はドクターヘリも整備されていますが、北海道は気象状況によって、ヘリが運行できないこともあるため、確実な輸送方法としての道路が必要です。実際に心臓病を発症した私の近親者は、吹雪のためにヘリが飛べず、救急車で搬送され緊急手術を受けましたが、命は取り留めたものの、処置が後れたことで心臓の一部が壊死しました。国民の生命は憲法で平等に保証されているはずなのに、現実は平等ではないのが実態です。
――229号線で、かつて白糸トンネルの崩落事故(平成9年8月)がありました
 そのとき、私たちは白糸トンネル前後の道路整備に当たりました。1年間にわたる工事で、苦労した工事でした。道外の人にすれば北海道の道路はどうして幅員が広いのか、感覚的に分からないようですが、冬期間の積雪で道幅が狭くなったり、吹雪で見えにくくなることが想像できないのでしょう。
▲寿都停車場線交通安全施設
――それら道路の施工において、最近は画期的な取り組みをしたとのことですね
 北海道小樽土現が整備した寿都停車場線交通安全施設(交差点改良)工事は、寿都市街地及び港に人を呼び込み、また、地域活性化のため、ブロック舗装の色を関係住民も参加して決めるなど、地域参加型の理想的な工事でした。  国の計画であるマリンビジョンにも認定され、4月には道の駅もオープンするなど、地元商店街の人たちに喜ばれています。異業種で構成しているツーリズムとマリンビジョンの協議会も発足しており、寿都のランドマークとして地域活性化の起爆剤になればと願っています。
――そうした施工を担う建設業は、災害時の緊急出動など地域のセーフティネットとしての役割も担っていることが、あまり認識されていないのでは
 中小建設業者は地域の経済、雇用を支えてきたと自負しています。まちづくりや地域の活性化に深く関わり、同時に「国民の生命と財産を守る」使命を担ってきました。災害時の緊急出動や社会資本の維持管理は、まさに地域の建設産業の存在なくして語れないはずです。  地域に根ざした技術集団として、また最も市民に近い「専門家」として、いままでに培った経験を生かし、市民社会にマッチする生活産業としての意識、すなわち「建設産業の市民化」の推進と、生産性の向上に取り組みながら地域格差の是正と地域の再生を行うのがわれわれの熱い思いです。
――会社としてボランティア活動にも積極的ですね
 公共施設の除雪作業や河川の草刈のお手伝いをさせてもらっています。また、会社の敷地を提供し、地元のお祭やイベントなどで使用できるように、会社のトイレや車庫を町民に開放しています。大手企業のような、新技術の開発は容易ではないですが、地域に必要とされる会社になれるよう日々努力していきたいと考えています。  小規模の会社ですが、ISOも取得しており、顧客満足度では高い評価をいただいています。地域のことを熟知している地元業者は、地域の人材・資機材を活用して施工するのがベストです。時代に逆行するかもしれませんが、最終的には地域の社会基盤整備事業は地域に密着し、熟知した会社が随意契約を結べる関係が望ましいと考えています。
――公共投資が抑制される情勢下で、ソフトランディングを検討したことはありますか
 様々なケースをシミュレーションし、試算しましたが、どれも採算的に合わないことが判明したので、今後とも建設業に特化していきたいと思っています。バブルの途中で会社に余裕があった時代は別ですが、いまは内部留保を如何に取り崩ししないかなので、失敗は許されません。  今回の経審(経営事項審査)で格付けがどうなるかで、会社をどう運営していけば良いのか、一定の方向性が見えてくると思います。公共事業の絶対量が大幅にダウンし、さらに競争が厳しくなる中で、それに伴って各社とも利益幅を圧縮しており、損益分岐点をクリアできなければ廃業する会社が出ても不思議はありません。  中小の建設業は、まさに地域の最終セーフティネットとして地域経済・雇用を必死に支えていますが、その体力にも限界が見えてきています。自分たちの存在意義を広く市民社会に発信し、地域の再生を担うのが地域の建設産業の役割と考えて、これからも頑張ります。
会社概要
創業:大正10年1月10日
設立:昭和47年3月23日
資本金:30,000,000円
従業員:20名
建設業許可:北海道知事許可(特・般)後7号
業務内容:土木工事業、建設工事業、とび・土工工事業、
       石工事業鋼構造物工事業、舗装工事業、
       しゅんせつ工事業、塗装工事業、
       水道施設工事業、管工事業、造園工事業

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