建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年5月号〉

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不可能を可能にした伊万里市第4工業用水道事業

たった3年間で246万トンを確保

伊万里市水道部 伊万里市第4工業用水道

 焼き物の里として知られる伊万里市は、伊万里市第4工業用水道事業として、新たに貯水施設を整備している。これは、伊万里湾の久原海面貯木場跡を締め切って貯水池を造成し、そこに水源となる有田川の水を導水、湛水させ、市内の工業団地に工業用水を供給するという、我が国でも例を見ない初めての工業用水道貯水施設となる。

 この伊万里市第4工業用水道は、伊万里団地をはじめとする市内の工業団地に立地する企業の生産活動に必要な工業用水を安定的に供給する水道事業で、現在整備中の貯水施設は、半導体用シリコンウェーハ製造大手の(株)SUMCO(Silicon United Manufacturing Corporation)の新工場建設に合わせて整備されることになった。この生産工場は、約1年半後の本格操業に向け建設中で、本格操業になると大量の水を必要とする。同社によると、300o半導体用シリコンウェーハと太陽光発電用ウェーハを生産する計画で、最大生産能力が公称85万枚規模というから、国内でも最大の製造工場となる。この工場進出にともない、1,000人の新規雇用が見込まれる他、市、県の税収、その他様々な経済波及効果が期待されている。

▲貯水池(標準断面図)
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▲浄水施設
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 ただ、それらシリコンウェーハの製造においては、水資源が重要なポイントとなることから、工場進出はその用水確保が大前提となっていたが、供給開始まで2年という短期間に、それだけの用水を確保することは、事実上は不可能だった。そこで、市では海水淡水化、下水道放流水再生、有田川河口堰など、様々な工法について、工期、事業費などを含めて多角的に検討。  その結果、二級河川・有田川の1号堰左岸・又川井堰から余剰水を取水し、8.5kmにわたる直径90pの導水管を通じて、山代町久原の伊万里湾の一角にある久原海面貯木場跡へ導水し、周囲の海域を締め切って246万トンの貯水施設を造成して湛水させるという、過去にも例を見ない画期的な手法を考案した。そして、これを浄水し、立地した企業の工業用水として配水するという計画である。  二里町の導水ポンプ場から貯水施設までの導水管は、国道204号、臨港道路などに地下埋設するほか、河川や一部海の入り江を横断する箇所では、河底や海底にトンネルを掘削するという推進工法も活用されている。  一方、貯水施設本体の面積は約43haだが、問題点は川の水を湛水した貯水池に海水が流入しないよう、完璧な遮断が可能かどうかにあった。そこで、貯水施設の壁は、鋼矢板を海底の岩盤まで深く打ち込み、それを二重構造として幅10mの頑丈な堤防を築造する技法を採用し、中詰材料として透水係数の低い貯水池内底土を固化処理したものを用いることとした。締切堤地盤の軟弱層については、深層混合処理方式による地盤改良を施工。これを延長835mの強固な堤防で囲み、貯水施設の内部と外部とを完全に遮断するという工法だ。さらに、越波防止対策としては、台風などを考慮して約4mのパラペットを締切堤の上に建設する。

 総事業費は約150億円で、そのうち約50億円を国庫補助金等で賄い、残る100億円は市が企業債によって確保し、その元利償還を県と市が折半し負担する。  伊万里団地には(株)SUMCOのほか、中国木材(株)や、水産関連企業、高圧ガス・工業薬品の販売会社、運送会社などの立地も予定しているため、この事業の成功によって、元利償還財源はそれらの企業から納付される法人市民税・固定資産税などで賄われるほか、最大で年間4億1,000万円の給水収益も見込まれることから、佐賀県及び伊万里市にとっては、経済的発展と地域振興に大きく貢献するものと期待されている。



伊万里市第4工業用水道事業によせて

伊万里市長 塚部 芳和

 九州北西部に位置し、波静かな天然の良港伊万里港は、江戸時代にはヨーロッパの王侯・貴族が競って買い求めた焼物の積出港として栄え、セラミックロードの起点「イマリ」の名が世界に広まりました。  明治以降は周辺地域から産出される石炭の積出港として、さらに近年では中国をはじめ、アジア諸国に近いという地理的優位性を活かし、中国、韓国の主要な港との航路が次々と開設され、西日本屈指の国際物流港として発展を続けています。  加えて、伊万里湾岸の工業団地には合板・造船・化学・食品・IC関連など優良企業の立地が進み、地域に魅力と活力をもたらしています。   平成18年5月、半導体用シリコンウェーハの製造大手慨UMCOが、単体工場としては世界最大の生産規模を誇る新工場を伊万里団地に建設されることが決まりました。  これは国際的な競争力を高める戦略のもと、生産設備の増強と次世代ウェーハの研究開発から製造部門までをこの地に集約することで、業界一のシリコンウェーハ製造拠点を構築し、伊万里とともに世界に向け発展していこうとされるもので、かつて海を渡った「イマリ」と重なる思いがいたします。  また、この度の伊万里団地進出は、伊万里市のみならず県域を越えてあらゆる経済波及効果をもたらすことになり、元気な伊万里市づくりの起爆剤になるものと大きな期待を寄せています。  ただ、伊万里団地進出の条件は、平成21年6月末までに新工場が必要とする大量の工業用水を佐賀県と伊万里市が共通の責務として確保するというものでした。  この大きな課題を前にして、限られた期間のなかで確実に対処するため、県に工業用水対策会議、市に工業用水対策プロジェクト会議を設置し、情報の共有を基本に、環境、港湾、土木、水質など各分野における専門家の意見をいただきながら調査・研究と検討を重ねてまいりました。  その結果、2級河川有田川の余剰水を新たに建設する貯水施設に導水し、最大246万m3を貯留して原水の安定確保を行う、給水能力25,000m3/日の第4工業用水道事業を計画したところであり、平成19年度には経済産業省の工業用水道事業費補助の新規採択をいただくことができました。  この事業の大きな特徴は、海域を締め切って貯水施設を建設するところにあります。  一般的に、貯水施設となるダムの建設には十年を越す年月と莫大な建設費を必要としますが、現在工事を進めている貯水施設では締め切り部の海底に水をほとんど透さないシルト(粘土)が厚く堆積しているところに着目し、短い工期で安価な二重鋼矢板式と呼ばれる締切工法を採用することができたことにより、緊急性と経済性を両立することができました。  海域を締め切るという大胆な発想もさることながら、必要な場所に適度のシルト層が存在したという自然がもたらした恵みに感謝するところです。  平成21年7月の給水開始に向け、事業完遂に最大限の努力を傾注するところでありますが、市民をはじめ関係機関の皆様には新たな伊万里市の躍動にご期待いただくとともに、今後ともご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。



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