建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年4月号〉

interview

自治体職員から地元建設会社に転職

――支庁制度改革は地域と道の将来像が不透明 自治体の基盤強化策が不安を解消する

日高建設協会 会長、上田建設工業株式会社 代表取締役
上田 正則氏

上田 正則 うえだ・まさのり
昭和25年2月 25日 浦河町荻伏生まれ
昭和43年 道立浦河高校卒業
昭和47年 中央大学法学部法律学科 卒業
昭和47年 埼玉県庁 入庁
昭和51年 上田建設工業株式会社 入社
平成 元 年 上田建設工業株式会社代表取締役 就任
役職
浦河建設協会 会長
日高建設協会 会長
室蘭建設業協会 理事
上田建設工業株式会社
浦河町荻伏町1
TEL 0146-25-2331

 道が20年度から7年間にわたって新たに公共投資の7.5%削減の方針を打ち出したことに、道内の中小建設会社からは「死刑宣告に等しい」と落胆の声が上がっている。日高建設協会の上田会長は、14支庁の再編に対しても「地方の過疎化を加速、都市間格差の拡大につながる。何よりも地域の声が届かなくなる」と指摘。「本庁のスリム化が先決。支庁に権限を持たせ、地域間競争により北海道の底上げを図るべきだ」と、高橋道政に注文を付ける。支庁再編の問題点、入札制度のあり方などをざっくばらんに語ってもらった。
――ここ浦河町荻伏は明治13年、北海道開拓のために神戸で設立された「赤心社」が開拓のクワを下ろしたと伺っていますが、上田家も「赤心社」の流れをくんでいるのですか
上田
 私の祖父の親は鉄道敷設の作業員として渡道し、住み着きました。十勝の晩成社はすでに解散していますが、赤心社(現・赤心株式会社)はいまも商業活動をしています。道内各地の入植団体のなかで現存しているのは赤心社だけで、荻伏の大半が赤心の社有地です。札幌にもマンションを何棟か持っているようです。創業して130年の歴史を刻んでいるわけですから、北海道で最も古い会社の一つでしょう。根室支庁長や教育長を歴任した留寿都村の澤宣彦村長は「赤心社」の一族の1人です。  旧荻伏村(後に浦河町と合併)はもとから教育熱心な土地柄で、明治18年には移住者の徳育を目的とした徳育会を設立しています。また、教会では日曜学校のほかに「読み・書き・そろばん」を村の大人たちがボランティアで教えていて、私も通うのが楽しみでした。「地域の子どもたちは地域で育てる」という気風がありました。
――社長の経歴を伺いたい
上田
 昭和47年に中央大学法学部を卒業し、埼玉県庁に入庁しました。会社を創業した父親は当時から体調がすぐれず入退院を繰り返していましたので、3年で県庁を退職し、荻伏に戻ってきました。そして、私が38歳の時に亡くなったので、社長を引き継いで20年になります。
――昭和から平成へ移る前で日本経済に陰りが見え始めた時期ですから、会社経営に不安はありませんでしたか
上田
 確かに不安はありました。北海道開発庁が国交省に吸収された時点で、何となく今日の状況を予測できましたが、これほど急激な変化が起きるとは想定外でした。高橋道政は「食と観光」に重点を置いているようですが、しからば一次産業振興のためにどれだけ手厚い措置をしているのか、何ともお寒い状態です。一次産業が大事なら、せめて一次産業出身の副知事を配置すべきでしょう。土地改良など一次産業をもっとテコ入れしないと、建設事業は増えません。少子高齢化に伴って、義務的経費は黙っていても増えていくので、投資的経費を減らし続けるばかりで、将来に対する税収の見込みをどう考えているのか、はなはだ疑問です。  いまの公共工事量からして道内24,000社の建設業が供給過剰であることは間違いなく、整理、淘汰されるのは致し方ない面はありますが、道は「財政再建」ありきで、何でも経費を切り詰めるだけ。財政上のツジツマ合わせで、それに代わる手立てを考えているようには見えません。多少の道債が増えても税収を上げる方策を考えるべきです。
▲北海道支庁制度改革案( 日高支庁は胆振支庁の出先機関として機能縮小) 平成20年2月27日原案
――2月27日の支庁再編の委員会について感じたことは
上田
 現在の支庁制度ができて100年。この間、高速交通ネットワークの進展など、世の中の流れが大きく変わり、これまでのやり方では時代にそぐわなくなってきたという説明がありましたが、100年続いたことはそれなりの良さがあったと思います。地域にとって、支庁は道民意識を持たせる精神的なシンボルです。支庁が果たしてきた役割についての検証の仕方が、非常に雑だと感じています。  堀道政時代は本庁をスリム化し、支庁にもっと権限を持たせ、支庁間の地域間競争を加速しようという流れだったはず。平成18年6月、道は全道を6圏域に分け、石狩は道央支庁とし、浦河も苫小牧も岩見沢も地域行政センターとした再編案の方が、かえってすっきりしています。いきなり本庁と話ができますから。  ところが、各方面からから反対論が出て細分化してしまいました。後志を総合振興局に残し、石狩では道央一極集中になるからと、札幌から岩見沢に移すというのです。こうした姑息なことをするから、われわれは怒るのです。1度も支庁勤務の経験のない幹部が、1、2回首長さんと意見交換したところで、地域のことが分かるでしょうか。  例えば6圏域で展開する重点プロジェクトを前倒しして、3月までにまとめるということですが、これは本末転倒です。まず地域振興策を出して、それに即して広域的に集約するというなら理解できますが、激変緩和のため3年かけて実施すること自体が姑息です。道州制の行方も見えず、市町村合併は進まない、10万人とも30万人ともいう基礎的自治体(日高管内は全体で8万人)もできないなかで、なぜ支庁制度の再編だけを急ぐのか。本庁のスリム化と関与団体の合理化が先決ではないでしょうか。  支庁再編にしても、胆振と日高は「日胆」のくくりで再編しようとしていますが、生活経済圏レベルで考えると、日高と胆振との関係は意外に薄い。水産業にしても日高は外洋なのに対し、胆振は内浦湾を中心とした栽培漁業で、同じ経済圏域と言われる理由は見当たらない。  公共投資の削減を7年間続けて、その後どうするかの青写真を示さずに、5兆6千億が5兆円になりますと言われても納得できません。今回、建設業の新しいに振興策に対して、道議会でも「安楽死を助長するようなもの」との批判が上がっていますが、以前のアクションプログラムと何ら変わっていない。具体的な数値目標もなく抽象的な文章の羅列ばかりで、お粗末以外の何ものでもない。建設業は地元の雇用を下支えするなど、地域経済にいくばくかの貢献をしています。特に日高は災害の多い地域ですが、緊急の時に果たして札幌の業者がすぐに来てくれるのでしょうか。やはり各地にそれなりの建設業者が残っていなければ、地域防災の担い手がいなくなることを考えると、建設業者をここまでに粗末にして良いのだろうかと思います。  公共投資の規模から見ても、建設業者の数が多いのは事実です。体力的に余力があるなら、中小業者2、3社が合併し、スケールメリットを大きくするのも選択肢の一つです。その一方で、道庁にはそれぞれの地域で残ってほしい、残すべき業者を何らかの形で示してもらいたい。入札制度の仕組みも、ただ単に価格だけの競争に走るのではなく、雇用など地域経済への貢献度も含めて総合評価してもらい、保護、育成の観点も念頭に置いてほしい。  金融機関の建設業者への貸し渋りも見受けられます。契約書を担保にするとの話も聞きますから、勢い低価格入札がはびこっています。技術力も加味し価格競争に走らずに生きる道を考えてもらわなければ、共倒れになりかねません。
――日高では新分野へ進出の動きはありますか
上田
 われわれの仲間で養豚や花卉栽培に取り組んでいるケースはありますが、まだ1、2年しか経っていないので、軌道に乗るまでにはまだ時間がかかるでしょう。ただ、ソフトランディングと言っても、農業にもそれなりのノウハウが必要ですので、簡単なことではありません。
――日高は道路、下水道などのインフラ整備はまだ不十分では
上田
 14支庁のなかでも下位の方です。全国総合開発計画は、かつて国土の均衡ある発展を目指していましたが、いまは「均衡ある発展」が消え、「選択と集中」としています。しかし、経済効果以上に大事なことがあります。地元の雇用とか、例えば道路が整備されていないばかりに救急患者を苫小牧まで運ばなければならないとか、えりも町のように大雨が降れば陸の孤島になるとか、それぞれの地域の実情を踏まえて、道民の安全、安心を守る意味からも、整備の遅れている地域に重点的に投資するのが、北海道の役割ではないでしょうか。
――厳しい現状の中で、経営者として生き残りへの戦略があればお聞きしたい
上田
 4月に入ったら明確な経営方針として打ち出すつもりですが、たぶん公共投資は増えないでしょうし、どこまで減少するかの歯止めも見えないなかで、私自身あと2年間は頑張るつもりです。  社員を路頭に迷わせないため、新分野への進出を検討しているところです。広い駐車場スペースを確保できる不動産物件を取得したので、新規事業をスタートしたいと思っています。以前から個人で持っている用地を生かし、介護・農業分野を視野に計画を進めています。
会社概要
創  業:昭和40年10月 上田建設工業株式会社に組織変更
資 本 金:25.000.000円
年  商:450.000.000円
従 業 員:20名
関連会社:浦河メンテナンス
建設許可業種:
      北海道知事 特定建設業 日第13号
      土木工事業 とび・土工業 水道施設工事業

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