建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年4月号〉

ZOOM UP

年間訪問者9万人の豊平峡ダムで落石被害防止策に先手

――景観に配慮しながらダム周辺をリニューアル

石狩川開発建設部 豊平峡ダム周辺整備

▲豊平峡ダム右岸法面保護工

 昭和47年に札幌市の水瓶と洪水調節の主役として完成した豊平峡ダムは、観光客の安全対策等のため、堰堤改良や橋梁の架設などの周辺整備が行われている。豊平峡ダムは、岩肌が露出した左右の急斜面の間に美しいアーチを描き、これに加え峡谷と岩肌や、ダム湖の景観が優れていることから、年間に9万人の観光客が訪れている。観光シーズンには札幌リゾート開発公社が電気バスを運行し、ダムサイトの上部にはレストハウスや、管理事務所付近にはダム資料館も設けられており、地域の有力な観光資源として、ふもとの定山渓温泉とともに相乗効果をもたらしてきた。

▲豊平峡ダム上流橋梁製作据付工事 ▲豊平峡ダム上流橋梁製作据付工事 完成予想図

 一方、堤体を挟む左右の岩盤斜面は、風化による崩落のおそれもあり、有事に備えて大がかりなリニューアルに着手することになった。
 これに先立ちダムの関係機関や地元町内会、観光協会などで豊平峡ダム周辺景観協議会が発足し、7回にわたって協議が行われた。その結果、落石防止のため左右の斜面対策や、観光客の安全確保のための架橋、管理者用の斜路設置工事などに景観設計が求められた。
 堤体下流の右岸堤体向き斜面は、岩肌が剥き出しになっており、その下部には通路として使われている堤頂があることから、落石のおそれが懸念される箇所だった。そのため、斜面から剥離しかけている浮き石を落し、不安定な岩塊はロックボルトで固定した。この斜面は、岩肌の力強さが感じられる壮大な景観となっているため、施工の形跡を残さないよう配慮されている。
 一方、スリット状の防護壁の間は、フトン篭を設置し、豊平峡に自生する植物の種子の着床が可能となるよう工夫されている。ダムを管理する豊平川ダム統合管理事務所の藤浪武史所長は、「将来的には、ツタ類が伸びてコンクリートを覆い、緑豊かな景観に育ってくれれば」と希望を語る。

▲豊平峡ダム左岸斜面対策工事 ▲豊平峡ダム左岸斜面対策工事 完成予想図

 また、斜面ふもとにある堤体管理用のエレベーター走行路は、落石に耐える強度に屋根を強化している。エレベーター走行路とコンクリート防護壁の施工は国策建設が担当した。
 今後は従来の通路を管理者用とし、観光客用の通路としては、落石が予想される範囲を避ける形でダム堤体に新たに橋(カムイ・ニセイ橋)が架けられた。形式はPC片持フィンバック橋で、利用者に圧迫感を与えないよう、左右の壁は10度の傾斜で上に開く形とし、また奥の堤体側へ進むにつれて低くなり、視界が開ける構造となっている。橋梁と堤体との接合点は、地震発生時の揺れによって、堤体に負担やダメージを与えることを避けるため、直接接合せず、緩衝機能を有している。こうした長径間の片持フィンバック橋は全国的にも事例が少なく、特にダム堤体に橋梁を架設したのは全国でも初めてのケースだ。施工は三井住友建設が担当した。
 さらに堤体左岸側も岩塊落石のおそれがあるため、右岸側と同様に、施工跡が目立たないよう配慮しながら浮き石の除去とロックボルト工、植生注入マット工が行われ、さらに落石を受け止めて、堤体や観光客を被害から護る屋根状のコンクリート防護施設が施工されている。この左岸側に、露出した岩盤斜面は千丈岩と呼ばれ、その景観が高く評価されていることから、防護施設は視覚的な圧迫感を与えないよう低めに抑えられている。施工は間組が担当した。


HOME