建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年3月号〉

interview

自分たちの街は自分たちでつくるという意識(後編)

――市有建築物のストックマネジメント導入

札幌市都市局長 荒川 正一氏

荒川 正一 あらかわ・しょういち
昭和23年5月18日生まれ
昭和46年3月 日本大学工学部電気工学科 卒業
昭和46年4月 札幌市採用
昭和60年1月 建築局電気設備課電気二係長
昭和63年4月 交通局施設課設備管理係長
平成 4年4月 交通局電力信号区軌道係長
平成 8年4月 交通局電気設備課軌道係長
平成 9年4月 建築局建築部電気設備課長
平成10年4月 都市局建築部電気設備課長
平成14年4月 都市局建築部設備担当部長
平成17年4月 豊平区長
平成19年4月 札幌市都市局長

 原油高などにともなう物価上昇に反して、市民の収入が伸び悩む情勢下では、低家賃で入居できる公営住宅は重要だ。とはいえ、財政状況はふんだんなストックの供給・保持を許さないため、それを補う工夫が必要になる。市では、住宅も含む公共施設の全てに対して、いよいよストックマネジメントに本格的に取り組み始めている。また、建築基準法改正による建築許可の遅延が開発業者や施工業者の負担となっている。市としてどう捉えているか、荒川局長に伺った。

(前号続き)

──市営住宅は、供給のあり方に民政・福祉政策の考え方が反映しますね
荒川
近年は急速に少子化が進んでいます。そこで、子どもを生み育てやすい環境づくりの一環として、特定優良賃貸住宅に入居する子育て世帯に対しては、家賃補助を拡大しています。  また、中学校卒業前の子供を持つ世帯で、一定の収入基準を満たしている場合は、家賃の上昇を保留するなど、経済的負担の軽減を図りつつ特定優良賃貸住宅の空き家解消を合わせて図る方針です。
──具体的には、どのくらいの戸数が確保されていますか
荒川
 公営住宅の入居対象にならない中堅所得者層のファミリー世帯向け特定優良賃貸住宅は、現在は21棟867戸で、北海道住宅供給公社が管理・供給しています。これら一定の収入基準を満たす入居者には、家賃の一部を市と国が補助しますが、入居者の負担額が毎年3.5パーセント上昇する仕組みとなっているため、近年は空き家が増加しているのです。  現在では、管理戸数の約25パーセントが空き家となっているため、供給公社が事業者から借り上げている11棟429戸に対しては、私たちが空き家補填をしている状況です。
▲東白石中学校
──市営住宅や学校などの公共施設の供給者としてはトータルなストックマネジメントが求められますね
荒川
 18年3月に、私たちは市有建築物の資産管理基本方針を決定しました。1970年代から80年代に建築した施設は、全体の20パーセントを超えており、従来通りに築後30から40年で建て替えるとなると、近い将来には建て替えのピークを迎えて財政をかなり圧迫することになります。  そこで、これまでの対症療法的な保全から計画的な保全へと変更し、専門組織を設置して一元化します。そして、長寿命化を図りながら建て替え事業の平準化を目指すことにしています。  したがって、今後は標準的な耐用年数を木造施設は45年、コンクリート構造物は60年へと変更します。
――全市に分布する多様な施設を一元化するのは、短期間では困難では
荒川
 今年は市有建築物の保全にとって意味深い年になります。ストックマネジメントの導入、計画的な修繕を狙いとした保全推進事業のスタートなど、都市局としては「保全元年」という年号をつけたいところです。まず20年度は市民まちづくり局が所管する区役所、区民センター・コミュニティセンター・まちづくりセンターなど110施設を一元化します。21年度は子ども未来局が所管する児童会館などの100施設。22年度は保健福祉局の保健・老人福祉センター、消防局の消防署、消防派出所などの110施設、そして23、24年度はそれ以外の130施設を対象とします。このように段階を経ながら移行することで、我々としても徐々に慣れながら、ノウハウを身につけていけるというメリットが生じます。  また、一元化に当たっては、都市局建築部が対象施設の保全計画を作成し、修繕工事の予算要求から着工までを担当します。  今後の課題としては、建築、設備の技術専門員のノウハウを生かし、修繕の効率化やバリューエンジニアリングなどによって、工事コストを縮減することと、設備改修や外壁改修においては、投資効果の高い省エネ技術を積極的に導入し、CO2抑制に貢献していくことです。
──ところで、昨年の建築基準法改正により、建築確認申請から許可までの時間がかかりすぎるとの批判が聞かれるようになりました
荒川
 確認申請業務に関しては、構造計算書偽装事件後に、市民の建築確認に対する信頼回復に向けて、私たちは厳正な審査体制を確立しています。平成19年度の法改正で整備された項目は、審査、検査体制の強化、構造設計者の明確化、確認申請図書の保存期間の延長などです。  国交省としては国民の不安を解消するため、法改正に迅速に対応したのですが、申請窓口となる自治体や審査機関としては、人員配置の問題など、準備期間をもう少し設けてほしいところでした。
──札幌市も最近は本州からの投資が活発になってきたので、市だけで対処するのは無理があるのでは
荒川
 現在は、市内の主要審査機関として日本ERI(株)、(財)北海道建築指導センター、住宅I&Iサービス(株)、(株)札幌工業検査の4社が市内の審査業務の多くを担っており、確認申請の移行状況は約57.3パーセントとなりました。(18年度)
──一方、デベロッパーや建築業者にとって、建築基準法の改正は業界に大きな影響を与えていますが、今後も運用する立場として、どのように取り組みますか
荒川
 私たちとしては、建築物の確認申請が建築基準法に適合しているかについての審査業務、違反建築物の是正指導、建築物の防災指導を適切に行い、良好な住環境と市街地の形成を促すことが使命です。  したがって、法の範囲内で柔軟に運用し、施工業者や建築主に影響が出ないように配慮しつつ、迅速に対処していく方針です。
――最後に将来に向かってのと支局の意気込みを聞かせてください
荒川
 昨年末には、民間建築物の耐震化を支援するための「耐震改修促進計画」を策定したところです。また、木造建築物の耐震化補助も引き続き実施する予定で、札幌を災害に強いまちに体質強化をしていくのに全力を尽くします。  「安全・安心」とは、よく使われるフレーズですが、「安全」があってはじめて「安心」が生まれます。「自分たちの街は自分たちでつくる」 という市民の意識を引き出し、安全を形にすることが、これからの都市局に求められる基本姿勢だと考えています。

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