建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年2月号〉

interview

会社の規模拡大ではなく「会社を磨く」ことが重要

――拓銀の終焉を見届けたシビアな体験を企業経営に反映

株式会社 北英建設 代表取締役社長 菊地敏夫氏

菊地 敏夫 きくち・としお
昭和51年4月 中央大学法学部法律学科 入学
昭和55年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
昭和55年4月 北海道拓殖銀行 入行
平成10年3月 北海道拓殖銀行 退職
平成10年4月 株式会社北英建設 入社
株式会社北英建設
札幌市豊平区月寒中央通6丁目
1番地15号 北武第1ビル3F
TEL 011-851-3002

北武グループは、医療、福祉、食品、ITなどの新産業を網羅した企業グループで、(株)北英建設もグループ企業の一員として、それらの産業基盤を支えるインフラとなる土木施工を担いつつ、特に法面施工において専門性の高い施工会社だ。昨年は前社長の不慮の事故死という不幸もあったが、それにめげることもなく、負債のない健全経営を維持している。かつては北海道拓殖銀行に勤務していた菊地敏夫社長に、会社のあり方、建設業のあり方、さらには北海道経済のあり方などを、元金融マンとしてのシビアな視点を通じて語ってもらった。
──北英建設の施工実績の中で、特に法面施工については秀でた実績を残していますね
菊地
北英建設の前身は、昭和40年に設立した加藤鉄鋼建設工業ですが、その当時からすでに法面施工の分野でスタートしていました。その後、三立建設工業と合併し、社名を現在の北英建設に変更しました。そして前社長の伊藤蔵吉氏(故人)は、防災工事や災害工事について、既存のゼネコンとは別に北英建設がそれを専門に担う会社でありたいと考え、体制を築いて今日に至ったのです。
──社長に就任した経緯をお聞きしたい
菊地
私は昭和55年に中央大学を卒業して拓銀に入行し、東京支店で破綻を迎えたのですが、後にそのまま残るかどうかを思案していたところ、北武グループのオーナーである私の叔父が、グループ内の業務でできることがないか、考えてみてはどうかと提言してくれました。それを機にグループに参画し、2年間ほど北英建設以外の業務に従事した後、北英建設取締役に就任し、伊藤前社長の指導を受けましたが、昨年に伊藤社長が事故で急死されたため、急遽社長を引き受けることになりました。
──折りから公共投資が激減している情勢下での社長就任でしたね
菊地
しかし、誰かがやらなければならないことでもあります。この数年間、建設業界が置かれている状況は経営環境的には舵取りが難しい状況ですが、かといって店じまいはできません。幸いにして当社およびグループ内には、様々な分野に秀でた役員が揃っており、そうした優秀なメンバーに支えられています。
──金融界に生きた社長としては、金融・投資業務には精通しているものと思いますが、建設・土木となると勝手が違ったのでは
菊地
銀行に勤務していた頃から建設業界への融資を担当していたので、大まかな業界事情は認識していましたが、実際に業界内に立つと、やはり現実は違っていました。  ただ、当社の場合は長期借り入れがないので、資金面でそれほど心労を負うことがないのが幸いです。お陰で役員も職員も一丸となって、本業に専念できる体制となっています。
──受注工事を通じての利益率確保には、苦労があるのでは
菊地
やはり、一般管理費の抑制が第一です。原価の部分の圧縮も当然必要ですが、品質の維持、安全の確保に問題が生じては本末転倒ですから、十分に検討したうえで行うべきと思います。
──原油価格の上昇が、収益率を圧迫しているのでは
菊地
製造業とは違って、建設の場合は燃料コストが占める割合は低いので、現時点ではそれほど影響がありません。むしろ原油高にともない、道路特定財源論議の動向が気になります。私たち業界は勿論ですが、北海道民全体としても暫定税率の維持が必要であるとの論議が重要であると思います。
──毎日のように企業の倒産が報告される情勢で、健全経営であるのは奇跡的といえますが、営業における強味はどこにあるのでしょうか
菊地
やはり防災工事の経験が豊富であるため、公募その他の入札条件に合致する機会が多いことが一つであり、もう一つは道央圏だけではなく全道展開するなかで、過去の工事のJVメンバーや発注者に、施工結果を高く評価していただいた結果なのだと思います。それをさらに営業活動において確実に伝え、PRしてきた積み重ねの成果だと思います。
▲一般国道278号南茅部町東古部災害防除外一連工事
──そうした防災施工で、特に全社的にアピールしたい実績はありますか
菊地
奥尻島の震災後の復旧・復興工事などは、施工がかなり困難だったものと思いますが、当社としては多くの実績を残しました。今年も奥尻で函館土現発注の工事を施工しています。  特に建築とは異なり、土木は特別な意匠技術があるわけではなく、工法は発注者が発案し、そのための技術を以て受注していくわけですから、工法においての特殊性はなく、格差もないものです。ただ、自然を相手の仕事ですから、設計図面通りの施工だけではなく、現場の状況に合わせた的確な提案または報告・相談ができるかどうかにあるのだと思います。それが発注者はもとより下請け施工者の安全管理にも直結しますから、その能力がポイントでしょう。その意味では、法面施工の経験の豊富さが生かされており、他社よりは若干なりとも優位なのだと思います。
──近年は世代の断絶により、技術の継承が課題とされていますが、対策はありますか
菊地
土木会議を毎月行い、失敗事例も含めた工事例についての勉強会を行っています。将来的には、そうしたデータのIT化を進めたいと思っています。また、50代の技術者が複数の現場を分担し、相談役としてマネージメントできるようなシステムを、昨年から構築しています。
──北海道は旭川の層雲峡にしろ、小樽周辺の海岸線など急峻な地形が多いですね
菊地
とはいえ、どこでも施工費のかかるトンネルを通すわけにもいかないでしょう。やはり山地をカットし、トンネル以外の道路も整備しなければならず、そうなると法面が発生し、危険箇所の処置が必要になります。その地域に住む人もいるのですから、そうしてでも道路は通さなければならないでしょう。  また、北海道には20カ所を越える国定公園もありますから、それを保全しただけではなく、そこに至るルート整備も不可欠だと思います。
──昨年は観光バスの事故のニュースもよく聞かれましたが、インフラ面での安全確保も必要になるのでは
菊地
北海道は、今後もさらに海外からの観光客を受け入れる方針を表明していますから、そのためにはインフラ整備も必要で、新千歳空港に降り立った後、道南、道東、道央などに向かう上では、やはり安全性の高い高規格道路が必要だとみんなが思っているはずです。道民だけではなく、道外の観光事業に携わる方々の意見を良く聞き、インフラ整備に関する論議を進めることが重要だと考えます。
──北海道の特殊性としては、降雪もあります
菊地
かつて冬場はみな活動が鈍り、耐雪の生活をしてきましたが、今日では経済活動も活発になってきたので、冬場でも夏場と同様に活動できるインフラが求められていますから、法面の落雪対策も重要になります。  また、昭和の時代から整備されてきた防災施設を含めた社会インフラは老朽化が進んでいますから、建設需要は引き続きあると考えています。  北海道の面積は、我が国の20パーセント以上を占めており、それを一つの自治体で管理しているのですから、もう少し政府予算が配当されても良いと思いますね。これは決して道民のわがままだとは思いません。
▲社屋
──その意味では、かつて金融関係者として首都圏に勤務された経験から、北海道の経済構造と、建設業のあり方をどのように見ていますか
菊地
地域別比較では、北海道は農林水産業、建設業、政府サービスのウェイトが最も高く、製造業は最も低い。サービス業は関東、九州についで高いのが現状でこの傾向は数十年変化は無く、よく言われる官依存型の生産構造といわれる部分です。これは是非を問いただす指標でもないし、地域の地理的、歴史的な積み重ねの結果の産業構造であると考えます。ですから、短時間で産業構造の変革はできることではないと思います。かといって道民は今までも無為に過ごしているわけではなく、優秀な人材が多く、真面目でもあり、ポテンシャルは十分に持っていると思います。しかし、現在北海道が単独で自立できるだけの競争力、経済力は今はありません。官依存型の生産構造であることを十分に確認すべきと思います。  理想としては、官依存型産業から、特に製造業を中心とした分野へのシフティングが進むべきだとは考えますが、そのためには、道路、港湾設備の充実は必要であると考えます。北海道の高生産コストの課題は輸送費、中間財調達コストが高いことを勘案すると、インフラ整備はまだまだ必要が有ると考えます。しかし、公共投資が減少していくのは現実であり、現在の建設会社の絶対数が多いわけですから、淘汰の時代を迎えたわけです。  建設業は建設会社の絶対数が多い反面、公共投資が減少していくのは現実で、淘汰の時代を迎えていますが、その中で生き残るには「技術力」と「経営力」の2つが整った上で、「社会貢献」を合わせた三点セットを持ち得るかどうかが分かれ目になるものと思います。もちろん、私たちは淘汰されないように、役員も職員も一丸となって努力しています。
──それらの展望を踏まえて、今後の会社経営にどう取り組みますか
菊地
会社の規模を大きくするのではなく、会社を磨いていくことが必要です。技術を売る会社なのですから、北海道のインフラ整備において必要とされる会社でありたいと思います。そのために、経験を通じて学んだ知識を蓄積し、職員と共有化し、現場だけでなく社外の勉強会にも参加したり、資格を取得するなど、社業としての自己研鑽を積んで欲しいと思います。  また、多様化している入札制度に対応するため、昨年度は営業部を総合管理部へと改組し、総合評価制度への対応能力引き上げ、積算対応力の向上を目的とする体制を整備しつつあります。  今後は業界規模が縮小するでしょうが、良い施工結果を残し、地域に根ざした会社が生き残り、その上で利益を捻出し、納税するというかたちの構造が望ましいと考えています。そのためにも私たちは会社を磨くことが重要と考えています。
会社概要
商  号:株式会社北英建設
創  業:昭和40年
資 本 金:74,000,000円
従業員数:47名(平成19年6月1日現在)
分  室:北郷分室、川下事業所、小樽事業所
事業内容:土木工事、とび土工事、舗装工事
      造園工事、水道施設工事
特定建設業許可:北海道知事許可
      (特-17石第01928号)

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