建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年2月号〉

interview

自分たちの街は自分たちでつくるという意識(中編)

――借り上げ方式の比重は高まるか

札幌市都市局長 荒川 正一氏

荒川 正一 あらかわ・しょういち
昭和23年5月18日生まれ
昭和46年3月 日本大学工学部電気工学科 卒業
昭和46年4月 札幌市採用
昭和60年1月 建築局電気設備課電気二係長
昭和63年4月 交通局施設課設備管理係長
平成 4年4月 交通局電力信号区軌道係長
平成 8年4月 交通局電気設備課軌道係長
平成 9年4月 建築局建築部電気設備課長
平成10年4月 都市局建築部電気設備課長
平成14年4月 都市局建築部設備担当部長
平成17年4月 豊平区長
平成19年4月 札幌市都市局長

 近年は不動産事業資金として、金融機関の融資だけでなく、投資家の出資や公共予算などが投入されるビジネス手法が浸透し始めている。大量の公営住宅ストックを抱え、その更新に追われる自治体としては、折りからの財政難もあって、新規の住宅供給はもとより既存ストックの更新にも十分に手が回らない状況から、そうした民間施工によるマンションの借り上げ方式などを導入している。札幌市でも北区のJR篠路駅西地区再開発や、同じく新川地区で、借り上げ式市営住宅の建築が進められているが、今後は住宅を含めて公共施設建築も民活の時代を迎えることになりそうだ。
(前号続き)
――最近はJ-REIT(不動産ファンド)などによる民間建築も見られますが、いずれ自治体の公共施設の建設手法にも一般投資家の資金を活用した仕組みが導入されるのでは
荒川
今後はそうした方向に進むのではないかと思います。行政は予算が無く、組合などが施工するにも資金が確保できませんが、資金力のある事業者と投資家が集まれば新たな資本ができると思います。ただし、営利だけが目的ではなく、地域貢献も含め、地域に必要なものを供給してお互いに利益を得る上では、そうした手法が理想だと思います。
──北区篠路地区の住宅プロジェクトとして実施される再開発では、借り上げ方式の市営住宅になるのですね
荒川
JR篠路駅西第2地区の市街地再開発は、一昨年に設立された第2地区再開発(株)が施行者となり、総事業費31億円で1.1haに3棟の団地として再開発するものですが、そのうち3億6千万円を地域住宅交付金として交付します。 3棟の建物は分譲共同住宅が1棟、店舗付き賃貸住宅が2棟となりますが、この店舗付き賃貸住宅が借り上げ市営住宅となります。規模はどちらも住宅72戸、店舗3戸ずつで10階建てです。 また、新川地区では、農地を住宅用へ転用した元農家の敷地に11階建てのマンションが建設されていますが、これは住宅金融支援機構の関連機関である住宅改良開発公社の制度を活用しながら、借り上げ市営住宅として運用されます。
――こうした手法を用いれば、今後もさらに新規の公共建築事業や住宅供給が可能なのでは
荒川
住宅ばかりで店舗のない地域であれば、商店を集約した施設ができるでしょう。ただし、これはあくまで既存施設の集約ですから、新規の出店は認められません。地元商店の経営を圧迫するので、国も方向転換してきており、日本全国の市街地整備のありかたは変わってきています。
――自治体と地域とが協力し、地域性に合った街づくりをしていくのは理想ですね
荒川
それが大切です。何しろ、札幌市は全国的に公営住宅の入居倍率の高い地域で、そのためにいろいろと批判もありますから、市営住宅の借り上げも導入し、それで少しでも競争を緩和できればと考えています。
――政令指定都市の中でも市営住宅のストックが少ないのでしょうか
荒川
比率的にはそれほどの差はありません。民間のアパートは空きがあるのですが、公営住宅は家賃が安いので、どうしてもそちらに流れやすいのです。 本州では、所得がある程度高いため、それほど倍率が高くないようです。北海道も経済が回復してくれば、民間のアパートも利用されるので、自ずと倍率も下がってくるでしょう。そこが札幌と他都市とは違うところですね。
▲下野幌(青葉)団地
──篠路再開発の他にも建設中の市営住宅は
荒川
新規にストックを増やすものではありませんが、下野幌団地と幌北団地の建て替え事業に着手しています。 下野幌団地は4つのブロックに分かれた20棟、1,161戸の大規模な団地ですが、ほとんどは2DKと手狭な間取りで、浴室もない住戸が多いのです。しかも、老朽化していると同時に、居住者も高齢化しています。そこで、厚別副都心という地域性を生かしつつ、高齢者に優しい街づくりを実現する目的で、建て替えを進めています。 幌北団地は全23棟で451戸ですが、昭和37年から47年度にかけて建てられたもので、これも老朽化している上に浴室のない住戸も多いことから、住宅としての水準が低くなってしまいました。しかも、地下鉄南北線沿線にあるのに、容積率が低くなっているため、高度利用が必要です。
──本州他都市では、空間利用のために構造物も巨大化し、土地の固定資産税の税収率も高くなっていますが、札幌でもPFIなどを活用すれば可能なのでは
荒川
本州のデベロッパーが市内で巨大な超高層のビルやマンションなどを建てても、地場企業が参入できるわけではないので、メリットもありません。地場企業で建設できる程度の規模が良いのです。 また、超高層ビルを都心部に建てた場合、上層階はかなり高値で売れますが、誰が買い手かといえば、本州の投資家や資産家がほとんどで、札幌市民はあまりいません。それでは地域にとって、何のメリットもなくただ地域景観の見栄えが良くなっただけです。 そうしたものではなく、地域にの為にやっていくという意識が重要で、地域でいろいろな地元協議会を設立し、打ち合わせしながら地域を取り込んだ街づくりが最終的に必要なのです。 「地下鉄ができた瞬間に、車で通勤する人も多くなる」という話を聞きますが、このようになったのでは困ります。本当に地域が喜んでくれるものでなければ。
――J-REITなどを導入した建物は、国土交通省だけでなく財務省の厳しい審査も受けるので手間がかかり、しかも投資家や金融機関の信用も必要ですから、遂行は容易とはいえないようです
荒川
まさに信頼度が問題で、誰が事業者なのかが見えなければ、お年寄りは不安がります。高齢者が高層の分譲マンションや賃貸マンションに入居するときには、誰が作ったのかを見ます。安全度と信頼性が重要で、まさしく「安心、安全で快適な住まい」というものを人々は望むのです。
――そうした市営住宅を通じて街づくりの理念が実現できれば、モデルケースとなりますね
荒川
市内にはJRや地下鉄など様々な交通機関も揃っているので、今後の街に対する見方は変わってくると思います。神戸などの関西方面に比べると小規模開発しかありませんが、それでも本州からは様々な関係者が視察に来ています。 本州などは、素晴らしい開発事業がたくさんありますが、大規模のものは札幌ではできないでしょう。札幌のカラーを大切にしているので、視察者からは「それなりに良くやっていますね。」と評価され、私たちとしては嬉しいことです。 (以下次号)

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