建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年2月号〉

寄稿

将来にわたる安全で良質な水道水の安定供給に向けて(前編)

――安全で良質な水の確保と災害に強い水道施設の整備

札幌市水道局給水部長 木村 英世

木村 英世 きむら・ひでよ
昭和24年1月26日生
昭和48年3月北見工業大学土木工学科卒
昭和50年7月札幌市採用
平成 4年4月水道局工務部東部配水事務所配水工事係長
平成 6年4月水道局給水部給水課技術係長
平成 8年4月水道局給水部給水課給水技術係長
平成10年4月水道局給水部給水課給水技術調整担当課長
平成13年4月水道局給水部給水課給水技術担当課長
平成15年4月水道局給水部給水課長
平成15年7月下水道局建設部工事担当部長
平成17年4月水道局給水部長
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 札幌市の水道水源は、豊平川、琴似発寒川、星置川の3つの河川であり、このうち、豊平川は水源の約98%をまかなっている重要な河川です。豊平川上流に位置する豊平峡ダムと定山渓ダムの集水区域の大部分が支笏洞爺国立公園や国有林野内にあるため、全国の大都市と比較しても水量・水質的に極めて恵まれた環境にあります。また、冬期間の降雪により、多量の雪が夏期近くまで融雪水や涵養水として蓄えられるため、水量は比較的安定しており、札幌市はこれまで一度も水不足を経験したことがありません。  しかし、両ダムから浄水場に流下する過程で、自然湧水や下水処理水が流入し、恒常的な水質汚染リスクとなっており、また、豊平川の上流域には休止中の鉱山など様々な水質汚染リスクが存在しています。  このように、札幌市は水道水源を豊平川に過度に依存しているため、万一豊平川において大規模な水質汚染事故などが発生し、浄水場において長時間にわたり浄水処理が停止となった場合には、市民生活や都市機能に甚大な影響が生じるという危険性を抱えています。  このため、豊平川上流域における自然湧水等の影響を抜本的に排除するとともに、事故・災害発生時においても良質な水道原水の確保を目的とするバイパスシステムの構築を目指した豊平川水道水源水質保全事業に取り組んでいます。また、将来不足する水源の確保と、水源の分散化と事故・災害時におけるリスクの低減化を図るため、石狩西部広域水道企業団へ参画しています。  水道施設の整備としては、事故や災害時に、飲料水や生活用水等を確保する緊急貯水槽や緊急時給水管路の整備、水道施設の耐震化などを計画的に進めており、災害に強く安全な水道水を利用者にお届けするよう様々な取り組みを積極的に展開しております。  また、本市は水道施設として、浄水場5ヵ所、配水池41ヵ所、ポンプ場41ヵ所、配水管約5,700kmなど、膨大な数の施設を所有しています。  これらの施設は、高度経済成長期から急速な人口増加に伴う給水需要の増加に対応して整備を進めてきましたが、今後老朽化し、次々に更新時期を迎えていくことになります。施設を健全な状態に保持し、安全安定給水を継続していくためには、財政状況を加味しながら計画的に更新を進めていく必要があります。

安全で良質な水の確保に向けて
■豊平川水道水源水質保全事業
 通常時の水質保全対策、事故・災害時の水道原水の導水対策を両立できる方法として、バイパスシステムを構築することとしています。  このシステムは、豊平川上流に取水堰を設置し、通常時には自然湧水を含む河川水と下水処理水を導水渠により流下させ、放流調整池で水圧・水質の調整を行った後、浄水場取水地点の下流に放流するもので、これにより、白川・藻岩浄水場において良質な原水が確保されます。  さらに、事故・災害発生時には、導水渠の切り替えを行うことにより、豊平川上流の清浄な河川水を当管路により白川浄水場に直接導水し、浄水処理を継続することが可能となります。  平成17年度から国庫補助事業として実施してきており、総事業費は約187億円を見込んでおります。平成19年度は環境・土質調査などを実施しております。

▲豊平川水道水源水質保全事業(バイパスシステム)のイメージ図

■石狩西部広域水道企業団(当別ダム)への参画
 将来にわたり水道水を安定的に供給するとともに、水源の分散化を図り災害時においても水道水を確保・供給することを目的とし、当別ダムを水源とする石狩西部広域水道企業団へ参画しています。  これにより、将来不足する水量の確保に加え、万一災害時に豊平川が使用できなくなった場合でも、企業団から受水することで、飲料水は勿論のこと、炊事・洗面・トイレなどの生活用水として札幌市民1人1日20gの水を確保することが可能となり、水源の分散化による事故・災害時等におけるリスクの低減化を目指しています。  現在、企業団では当別ダムの着工前という時期に、国庫補助事業の事業再評価を行っており、その中で、札幌市を含め各構成団体が最新の実績値などを用いた水需要推計等を実施しているところです。この再評価作業において、札幌市の参画水量はこれまでの1日最大48,000m3から44,000m3に縮小する考えであります(再評価中であり数値はまだ確定しておりません)。  石狩西部広域水道企業団からの受水が開始されると、各構成団体(3市1町)は企業団の送水管を通じて接続されることになりますが、広域的な視点に立ち、緊急時等における水道水の相互融通を図ることについても検討していきたいと考えています。

災害に強い水道施設の整備について
 平成7年に発生した阪神淡路大震災など大地震による被害を教訓として、緊急貯水槽などの応急給水拠点の整備や水道施設の耐震化などのハード面の整備のほか、応急給水や復旧体制などのソフト面の整備などを推進し、予防対策と応急対策の観点から、地震など災害に強い水道施設の整備に取り組んでいます。

(1)地震等の災害時における予防対策について
■水道施設の耐震性強化
 地震等の災害に強い施設整備を目指し、水道施設の耐震工法指針や地域防災計画における想定震度に基づいた施設整備を行っています。  既存の施設については、平成9年から16年までに想定地震に対する水道施設の耐震性診断業務を行っており、その診断結果を踏まえ、浄水場や配水池等の基幹施設などを最重要施設に位置付けて優先的に整備しています。

札幌市災害時基幹病院(対象12病院)
・市立札幌病院        ・札幌医科大学附属病院
・北海道大学病院       ・NTT東日本札幌病院
・手稲渓仁会病院        ・北海道がんセンター
・札幌厚生病院        ・札幌東徳州会病院
・北海道社会保険病院   ・札幌社会保険総合病院
・勤医協中央病院       ・国立西札幌病院

■札幌市災害時基幹病院へ向かう配水管の耐震化
 地震発生直後には多くの傷病者に対して応急処置等の医療活動が必要となり、適切な医療を提供するためには清浄な水が不可欠です。そのため、災害時における医療活動の中心となる札幌市災害時基幹病院への安定的な給水を確保するために、供給ルートの耐震化を実施しています。  平成22年度までに全ての札幌市災害時基幹病院までの供給ルートを耐震化し、災害時における医療活動を支援いたします。

■水管橋の耐震化
 水管橋の耐震化については、耐震補強が必要と診断された32橋を対象に、平成16年度から優先度の高いものから順次耐震化を進めてきており、平成19年度末までに、豊平川に架かる水管橋など、本市の水道の大動脈である送水・配水管に架かる水管橋6橋のうち4橋の耐震化が完了いたします。  残る28橋の耐震化についても、平成24年度までの完了を目指し、優先度の高いものから補強工事を実施していきます。

▲豊平川第1水管橋

■仙台市水道局との合同防災訓練
 平成19年11月19日〜21日までの3日間、札幌市水道局において、仙台市水道局との合同の防災訓練を行いました。  訓練はロールプレイング方式で実施し、災害想定条件を当日朝に決定、応急給水の実地訓練も実施するなど、職員の初動対応力を強化する実践的な内容となりました。  訓練では水質汚染により白川浄水場が停止した場合を想定し、市内ほぼ全域が断水する最悪の事態も想定される中、断水を極力回避するための水運用、応急給水、断水しても早期復旧が可能な断水作業などを検討し、本番さながらの緊張感、臨場感のもとで一定の成果が得られました。また、今回は市民対応を重視し、市民にどう情報を伝え協力してもらうか、実際模擬記者会見も行いました。       (以下次号)


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