建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

独自財源確保のためユニークな取り組みにチャレンジ

――82万uの敷地を埋める老朽施設の耐震化が緊急課題

北海道大学 施設部長 増川 敬祐氏

増川 敬祐 ますかわ・けいすけ
平成 7年4月 核融合科学研究所施設課長
平成10年4月 横浜国立大学施設課長
平成12年7月 文部省札幌工事事務所補佐
平成14年1月 文部科学省施設助成課補佐
平成17年4月 文教施設企画部監理官
平成18年1月 北海道大学施設部長

 全国の国立大学が、平成16年に国立大学法人として独立してから4年が経過した。かつて直轄事業として、政府予算で整備されてきた膨大な施設は、施設整備費補助金として国の支援は引き続きあるものの、一部自主財源で負担することとなり、各大学とも予算確保に頭を痛めている。そうした中で、北海道大学施設部では、各種課金制度の導入や定期借地権を利用するなど、全国でも珍しい様々な取り組みにチャレンジしている。増川敬祐施設部長に、今後のキャンパス整備の方針や、ユニークな財源対策などを伺った。
──いわゆる法人格が変わったことで、大学運営と施設整備の考え方は大きく変化したのでは
増川
北大の基本的な理念は、フロンティア精神と国際性の涵養、全人教育、実学の重視の4つで、これが札幌農学校として1876年から始まって以来、守り続けられている精神です。その間には、一時期は東北帝国大学に帰属していたこともありましたが、昭和22年に新制国立大学の北海道大学となり、その後、独立行政法人化したのが平成16年(2004年)の4月で、今年で4年目になります。 現在、大学院は25、学部12という体制で、その他附置研究所や共同利用施設、学内共同教育研究施設などや、その他に総合博物館、付属図書館、大学病院は独立した形で組織付けされています。 職員は、教員、事務職員合わせて約4,000人で、学生は大学院も含めて約1万8,000人ですから、トータル約2万2,000人が、大学キャンパスで過ごしています。キャンパスは札幌キャンパスの他に、水産学部のキャンパスが函館にありますが、メインは札幌キャンパスの178haです。函館キャンパスも含めて、建物面積の総計は82万uもあり、それ以外にも地方には研究林などもあるので、とにかく膨大な土地と施設を擁しています。 全国の国立大学の敷地合計は13億uくらいで、そのうちの半分強が北大で占めていることになります。そこで、私たちのセクションは、土地建物の資産管理も含めた業務を担当しているわけです。もちろん、新規に整備する施設もあれば、既存のものも維持管理したり、老朽化施設の改修をしたり、日々の維持修繕も行っています。
──歴史ある大学なので、老朽化の進捗は著しいのでは
増川
状態としてはおよそ82万u分の施設を、経年状況で見ていくと、約6割が25年を経過しています。歴史があるだけに、古い建物が多いという実態です。 そのため、経年した建物の維持管理が非常に大変な業務です。水道施設などの建築設備は、15年もすれば更新が必要です。教育研究施設としては特に実験を伴う施設となると、給排水、冷暖房を含めて、設備的なインフラを改修しなければなりません。したがって、私たちとしては、25年を境に、そうした更新・メンテナンスをしていく考えで力を入れています。 全国的に阪神淡路大震災で、一時的に耐震化の重要性が叫ばれていましたが、大学の施設整備は大学院重点化という方針が10年前から重視され、それに対する需要を満たすための新営工事が全国的に主体となっていました。特に、理工系学部の校舎の増築が盛んに行われて来ました。そのため、耐震化への取り組みは中断していたわけです。しかし、一昨年の姉歯事件が社会問題化したことから、やはり国立大学はもとより公立小中学校も含めて、耐震化が再び話題になってきました。 国立大学の場合は、昭和56年に建築基準法も改正され、新耐震設計法が施行されたことにより、57年以降の構造物は安全と判断され、管理もしっかりしているはずという前提に立って、57年以降の建物は耐震性があると認識されてきました。 しかし、それ以前のものについて、ほぼ100パーセントに近い形で耐震診断を行った結果、北大の場合は39.8パーセントの、約4割が耐震性なし、または未診断という結果となりました。耐震性のある建物の全国平均は69パーセントなのに、北大は60.2パーセントですから、約10パーセント低い状況です。 こうしたところから、施設整備の方針が決まってきます。北大としては、まず耐震化を進めることが急務で、老朽化が激しいものは改築(建て替え)をしていく必要もあります。このように、安全安心な施設づくりをしていくことが課題です。
──最近は学際的な研究施設が求められていますね
増川
若手研究者への施設整備も必要です。教授、準教授(旧助教授)、助教(旧助手)へと職階制が変更され、旧来の縦割り型の性格が弱まり、各職階で独立した研究が求められています。そのため、まだ称号を得ていない博士課程にある研究者も、独立した研究テーマに従事できるスペースや体制作りが必要です。 以前は実験ブースの片すみで対応してきましたが、きちんとしたスペースを確保し、研究できる体制や環境を提供する必要があります。本学は特に大学院重点の総合大学という位置づけになっています。 したがって、単に増築するだけでなく、できるだけ既存の施設を効率化し、共用スペースを生み出すなど、施設マネージメントがとりわけ重要です。しかも、国際的水準を高め、イノベーションの拠点となることが求められています。 そこで、それらを実現するために、施設の基本方針となるキャンパスマスタープラン2006を作成しました。通常は新しくキャンパスを作るときにマスタープランを作るものですが、既存の歴史ある大学施設でキャンパスマスタープランを作るのは、国立大学としては全国でも初めての取り組みでしょう。手法としては、前期のキャンパスマスタープラン96を見直して作成されたものです。
▲北キャンパス
──全体像はどのように描かれていますか
増川
北大のキャンパスは南から開発してきたので、北キャンパスは農場となっていたわけです。ところが、最近は産学連携の施設とともに、基礎研究も必要なので、その動線計画をもう一度見直す必要が生じました。今までは、南キャンパスは文系、理工系、病院。北キャンパスは農場と位置づけられてきましたが、そこに様々な要素が付加してきているため、キャンパスマスタープラン2006の中でフレームワークプランとアクションプランを作成しました。もちろん、プランを作っただけでは無意味ですから、さらに実現プログラムを作って実現したいと考えています。 しかし、そのためには資金が必要になりますから、その問題も含めて施設の運用管理としては、スペースマネジメントとともに、品質の問題、コストマネージメント、そして安全や環境、若手研究者の支援、そして女性研究者のためのスペースづくりなど、将来に向けての多用な課題とキーワードが発生します。
──一度にすべてをクリアするのは困難では
増川
もちろん施設部の現体制で、きれい事ばかり表現しても実現できず、具体化した後も維持管理が問題になってくるわけです。そこで、施設の現状をまず把握しなければならず、そのために今までは目視でチェックしたり、メモをしていたりしましたが、今後は建物の情報管理システムを構築し、データ管理していく方針です。6億6,000万uの土地や、建物面積82万uという膨大な施設を管理していくには、情報管理システムを構築していかなければなりません。 また、経費節減も必要で、法人化されてからは文科省からの運営費交付金は毎年1パーセント削減され、経営改善していかなければならないので、維持管理においても見直しを図っています。法人化される以前は、例えば電力料金なども予算と決算は単年度でしたが、複数年契約したり、ゴミの処分も有料なので、独自に圧縮減量に取り組んでいます。例えば、ゴミを1/5に圧縮すれば、容量も1/5ですむので、圧縮機を北大病院に導入しています。これによって、1,000万円単位で節約でき、実際に病院では3,000万円も予算を節約できています。 その他、一般の消防用設備については、今までは各部局で別々に発注し、火災報知設備の定期点検もバラバラに行ってきましたが、これを本部で一括契約することで経済的になりました。こうした一括契約と複数年契約などによる効率化は、コスト縮減のうえからも今後とも実施する必要があります。
──最近は原油価格の高騰による負担増とともに、環境対策も時代の要請となっています
増川
エネルギー対策も、維持管理の中で実施していかなければなりません。そこで環境報告書を昨年から作成しています。2006年度の環境報告書は「エコキャンパスを目指して」というサブタイトルが付けられていますが、教育研究を通じた環境の配慮や社会貢献をテーマとしています。大学の真の社会貢献はどうなっているのかといったテーマを中心にレポートにまとめることで、大学のアピールにもなり、社会的評価も高まる可能性もあります。 この他にも、日々の公開講座や環境関係のイベント講座なども独自に実施したり、さらには学内は緑が多く、市街地の中にありながら様々な自然環境が揃っているので、これをポンチ絵風にわかりやすく描いた配置図を作成したりしています。私たちとしても、できるだけ緑豊かなキャンパスづくりを目指しています。 この他、注目に値するのは、大学病院のESCO事業で、これは病院に限定して実施していますが、水道光熱費がこれまでは約7億円くらいかかっていました。それを省エネ化することで安くする事業で、民間手法で実施しています。NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構)という独立行政法人の補助金約1億9,000万円を昨年に獲得し、それによって北電をはじめとする企業グループが提案した省エネ技術に基づき、エネルギー改修工事を契約して施工しているところです。 この4月から共用開始する予定で、7年契約となっています。これによって、これまでは7億円が節約の限界でしたが、約1億3000万くらい削減できます。 そのうち契約業者に支払う毎年の契約金は約1億円ですから、3,000万円が大学として節減できることになります。この手法によって、CO2の削減率も21パーセント目標のうち、20パーセントは達成できます。こうした事柄のレポートを作成したり、その他にもユニークなシステムの建物を作った場合は、単に大学内だけで終わらせることなく、広く社会にオープンにしていく考えです。
──かつての国立大学の体制ではなく、独立採算での自立も求められる中で、財源対策に苦労がありますね
増川
文部科学省が、平成13年から17年までの施設の緊急整備5ヶ年計画を作りました。高度化した研究を実施するためには、それなりの施設が必要で、その施設環境を整備するための計画ですが、そのときには非常に斬新な施設を作ったりしました。 一方で、機能上劣化した老朽化施設や、耐震性に問題がある施設はなかなか整備がおぼつかなかったことから、そのような老朽施設の保有面積全体に占める割合は、全国レベルでは1/3でした。北大の場合は、それらの老朽化をを含めて耐震上の問題ある施設の割合が4割となっています。これが第3期の科学技術基本計画の中で問題視され、18年3月28日に作成された基本計画を受けて、文科省は第2次国立大学施設緊急整備計画を作成しました。 基本方針として、老朽施設の再生が明記されたほか、人材養成機能を重視した基盤的な施設づくりや卓越した超先端的研究施設を作ることになっています。 一方、大学病院については先端医療の導入と育成的役割が求められるので、その整備も緊急課題とされています。計画対象は1千万uのうちの520万uですが、それらを5年間で実施しようとすると、1兆2,000億円の事業費が必要になります。年間予算は、通常では1千億円前後しかありませんから、5年どころか12年もかかることになります。 かつては国が直轄で事業費は100パーセントの負担でしたが、法人化されてからは、大学側でも独自に新たな整備手法を導入しろということですね。その新たな整備手法として、寄付金を募集したり、自主財源を確保したり、あるいは産業界や地方公共団体と連携したりしています。しかし、今日では寄付金が十分に集まるような社会情勢ではありませんから、全施設を預ける施設部としてまさに智恵を絞らなければならない局面となっています。 そこで北大として何をすべきかといえば、単に文科省からの補助金に基づく改修、改築だけではなく、たとえばPFIを導入したり、自治体と連携して、学内にある川の再生を通じてキャンパス整備につなげたり、水産学部では、地元函館市と国が合築する施設に相乗りしたり、北キャンパスにある二十条門の道路用地を購入し、新たに道路整備を札幌市と連携し整備するなど、様々な取り組みをしています。
▲イチョウ並木
──北大という施設を、地域の市民や経済界がどう評価しているかが、連携や協力においてのポイントとなるのでは
増川
平成16年に発生した台風18号によって、キャンパス内のポプラ並木などの樹木が2,000本ほど倒れてしまいましたが、全国からポプラ並木を愛する人達からの寄付金が集まったことから、それを再生できました。 また、珍しい事業としては、「札幌農学校」と登録商標されたクッキーなどの商品があり、その販売利益の3パーセントを、大学に寄付という形で還元して貰えるという仕組みも作っています。 この他、学内的にはスペースチャージという制度も作りました。スペースが余っていると、教授陣は好き放題に利用してしまい、そのための管理業務も発生するので、全国的にスペースの課金制の仕組みを検討しているところです。 一方、大学の所在地はJRや地下鉄駅から歩いて5分程度の距離で、公共交通機関が非常に発達しているにも関わらず、車で訪問する人が多く、指定車両を除く臨時入構車両だけで、年間に42万台に上ります。しかし、積雪時の冬期間は駐車場が2,400台分しか確保できず、除雪の障害になるので、これを解消するために課金することも検討しています。これは環境サミットに同調して、CO2を減らす対策にもなります。
――まさに企業並みにあらゆる増収策を図ることが必要ですね
増川
他の大学では見られないケースとしては、定期借地権を利用した施設もあります。民間の建物を大学の中に作るというもので、塩野義製薬が北キャンパス内で創薬基盤技術研究棟を整備しています。そこで北大と次世代ポストゲノムの共同研究を行う予定です。これまでも、塩野義製薬は独自に生命分子機能の寄付講座を北大に開設しています。 通常は建物を寄付してもらって、大学が整備しますが、そうではなく土地を20年契約で貸すわけです。その期間が過ぎたら、解体することになりますが、資産価値もあるでことから、特約条項を設けた公正証書を作り、20年後には大学に無償で提供するという契約になっています。ただし、借地料は共同研究をするので半額にしています。 この他、文科省の施設整備補助金と大学の自主財源と合わせて整備した施設で昨年9月に竣工した人獣共通感染症リサーチセンターも、特殊で珍しい施設です。全国でも特殊なP3の実験施設のある建物で、鳥インフルエンザの研究や人獣共通感染症について研究する施設です。

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