建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

建設会社が幕別農業生産組合を設立

株式会社アスワン 代表取締役社長 木川 東洋治氏

木川 東洋治 きがわ・とよじ
中川郡幕別町生まれ
昭和40年3月 日本大学生産工学部卒業
昭和40年8月 伊藤組土建株式会社入社
昭和45年3月 同社退職
昭和45年5月 幕別町役場 奉職
昭和46年1月 同役場退職
昭和46年3月 東洋土木株式会社を設立 代表取締役に就任
平成 4年4月 幕別建設業協会 会長に就任
平成 9年4月 北野建設株式会社と合併し、東洋北野建設株式会社に名称を変更し、代表取締役に就任
平成12年4月 十勝支庁東部安全連絡協議会会長
平成14年1月 亀山建設工業株式会社と合併し、株式会社アスワンに名称を変更し、代表取締役社長に就任
株式会社アスワン
中川郡幕別町札内青葉町308番地
TEL 0155-56-3366

 農業などの異分野に参入し成果をあげている建設会社を表彰する、道の新分野進出優良建設企業に選ばれた株式会社アスワン(本社・十勝管内幕別町、木川東洋治社長)は平成14年、同じ幕別町の東洋北野建設と亀山建設工業が対等合併して発足した。完工高25億円で、管内9位の中堅企業だ。木川社長は合併前の昭和63年に農業生産法人を設立、農業分野に参入したが、合併を機にそれまでの挽馬生産から畑作農業に方向転換し、いまではアスパラ生産が十勝管内でトップクラスの生産量をあげるまでになった。離農した農家の債務や雇用を引き受けるなど地域の活性化に貢献してきた実績は大きく、本業の建設部門の経営資源も有効活用するなど独自の経営感覚で幕別町の農業振興に一役買っている。
――会社を経営する傍ら、昭和63年に農業生産法人(有限会社幕別農業生産組合)を設立、農業分野に参入したのは、どのような経営判断でしたか
木川
当時、農業者の高齢化と担い手の減少に伴い、離農者が相次いでいたことから、地元農協から支援要請を受けたのがきっかけで、3軒の離農者の債務を肩代わりし、農地約25.9町歩を取得するとともに、挽馬の生産事業に着手したのが始まりでした。 挽馬に関してはズブの素人でしたが、息子が動物好きでしたのと、調査したところ収支とんとんで経営が可能と判断し、挽馬の生産事業に参入しました。農業生産法人の設立には、いろいろな規則とか制限があるようですが、債務を肩代わりしたことから、農協で農業法人設立の段取りをしていただき、比較的短期間のうちに実現しました。 債務を肩代わりして取得した農地は3,125万円、反あたり125,000円でした。建物は5棟で3,150万円。農機具はすべて牧草用で、トラクター、ベイラ、ジャイロット等6台必要でした。いずれも中古でしたが、それでも総額で330万円。また、親馬8頭の購入費用に1,670万円かかり、8,300万円の投資規模になりました。 しかし、平成6年に予期せぬことが起こりました。事前に情報をつかめなかったことが悔やまれますが、農畜産物の輸入自由化に伴い、馬の価格が暴落を始め、値上がりする気配は全くありませんでした。自由化により、アメリカやオーストラリアから2歳馬を大量に輸入、1年間飼育し、たっぷり脂肪を付けて馬肉として市場に出荷するんです。われわれが生産している馬の価格も下がったままの状態が続きました。
――その後、畑作経営に転換したのは、馬の価格暴落が影響しましたか
木川
牧場経営が思わしくなかったことや、本業の建設業にあっては公共工事の受注額が減少の一途を辿り始めたこともあって、平成14年3月に私どもの農業生産法人の農地に隣接している38.3町歩を取得するとともに農業の経営体制を再構築することにしました。畑作経営への転換に当たってはこれまでのような中途半端な体制では乗り切れないと考え、農業生産法人の資本金を10倍に増額し、アスワンも出資者として経営に参画、私が自ら農業法人の社長に就任しました。この間、挽馬の生産は徐々に縮小し、既に牧草の三分の二は畑に転換しており、挽馬は今年で止めることにしています。
――現在、何を作付けしていますか
木川
農協の協力を得て、十勝の基幹作物である小麦、甜菜、馬鈴薯、小豆の作付けから始めましたが、小規模農業では十分な採算性を確保できないため、平成15年に競売に出された農林水産省森林管理局の種苗畑を落札するなどして順次耕作地を増やし、現在の経営面積は90町歩を超えています。カナダから取り寄せた大型ビニールハウス3棟を建設、アスパラの生産にも乗り出しましたが、3町歩に作付けしているアスパラの収穫量は十勝管内のトップと聞いています。生産物はすべて農協経由で販売していますが、収益が思うように上がらないのが一番の悩みでしょうか。
――それはすごいですね。道は建設業のソフトランディング策として、農業など異分野への参入に力を入れています
木川
さて、簡単に農業といっても、どういう形で取り組めば成功するのか、よく実態を調べているものなのか、いささか疑問です。5〜10町歩程度の農地を取得し、片手間にやって採算が合うはずがありません。建設会社の社員にいきなりトラクターを運転しなさいと言ったところで、簡単に出来るものでもない。結局、経験者を雇用せざるを得ない。本業の建設業が採算ギリギリの企業では、農業で成功するのは容易ではありません。これまで農業部門に億単位の投資をしていますが、企業として一定の体力がないと参入できません。今年春に銀行の幹部が来社した折にも、金融機関として農業にもっと目を向けてほしいとお願いしたところです。 例えば、農作業の出面さんと建設作業員とでは賃金に格段の差がありまます。建設作業員を農業の現場で使っていてはペイしません。わが社は公共事業等に毎年30人程度を季節雇用で採用していますが、以前なら5月から仕事がありましたが、今では早くて6月にならなければ満度に稼動しない。そこで4〜5月は出面さんと同じ賃金で農業に従事してもらっていますが、嫌がる人は少ない。それだけ皆さん建設業の厳しさが身に染みています。
――農業生産部門の人員体制はどうなっていますか
木川
農業生産部門の正社員は2名、アルバイト・パート社員が45、6名。また、3月から6月までの間、建設部門からの季節出向が延べ300名前後で各種の作物を栽培しています。
――経営資源は有効に活用されていますか
木川
本業は建設業ですから、ユンボ、ダンプ、ユニック等を活用し、明渠、取付け道路の施工、排水路、牧柵の補修などを行っています。また毎年、農業改良普及センターや農協、近隣の農業経営者を講師に招き、農機具の取扱い方法や農作物の栽培方法などの研修を行って、資質の向上に努めています。
――今後も規模拡大を目指していきますか
木川
そのつもりです。しかし、農地は必ず地続きで確保できるわけではないので、分散していると作業効率が悪くなるのが悩みです。作物ごとに播種から収穫までの時期がそれぞれ違い、農機具のやり繰りにも一苦労します。トラクターを舗装道路を走らせて離れた農地に移動させると、トラクターの自重でタイヤの磨耗も激しい。農作物は生き物ですから、農地は一定の間隔で休ませることも必要です。余裕を持って営農計画を立てるためには、どうしても規模拡大が求められます。
――株式会社アスワンは今年、道から新分野進出優良建設企業の表彰を受けました。起業体験を話してほしいという依頼を受けることもあるのでは
木川
最近、網走市役所から連絡があったばかりです。最初はお断わりしていましたが、その後、市役所の担当者が直接来られて熱心に話されるので、お引き受けしました。 建設業を取り巻く経営環境が厳しいので、経営者の多くが大なり小なり不安を持っています。私どもも本業あっての農業生産法人ですから、アスワンの経営体質をどう強化していくかが最大の課題と思っています。 従業員の技術力向上のために担当部長ら幹部が先頭になって毎月数回、現場従業員への指導と意見交換を行っています。合併前の平成13年、十勝管内でいち早く品質管理に関する国際規格「ISO9001」を取得し、全社員にパソコンを貸与しました。自治体の財政難や入札制度の変化もあって、よりシビアなコスト管理が求められており、コストダウンと信頼性向上で合併効果をあげたい。

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