建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

炭坑閉山の受け皿として地域経済を下支えた建設業

――投資的経費削減は地域の崩壊につながる

社団法人 空知建設業協会 会長 中山 茂氏

中山 茂 なかやま・しげる
昭和29年4月 生まれ
昭和52年3月 成蹊大学 卒業
昭和52年4月 三共舗道株式会社 入社
昭和55年6月 株式会社中山組 入社
平成13年6月 株式会社中山組取締役社長 就任 現在に至る
平成18年2月 社団法人空知建設業協会会長 就任 現在に至る

 空知管内の建設業は農業を抜きには語れない。上川と並んで道内有数の稲作地帯としての地位を築いたのは、栽培技術の向上とともに、泥炭と闘いながら良質な土づくりと災害に強い農業基盤整備に取り組んできた地域の建設業の存在があったからにほかならない。相次ぐ炭鉱閉山の時期には、その受け皿として地域経済を下支えしてきた。近年は公共事業の大幅削減で、空知の建設業も苦境にあえいでいるが、「地域再生」をキーワードにフォーラムの開催、IT化の推進、建設業安全大会と現場パトロールなど、さまざまな事業に取り組み、地域に密着した各種情報を発信しているホームページ「くうけん・ねっと」の作成などインターネットを機軸とした会員相互のデジタルコミュニケーションの構築は、建設業の存在意義を大いに高めたようだ。
――公共事業費の大幅な削減に建設業界は大きなダメージを受けていると思いますが、空知管内の業界は、現状をどのように打開しようとしていますか
中山
公共事業が減るのはやむを得ないことと思っていますが、とにかく削減幅が著しい。特に道の財政再建策の一環として補助事業が前年度対比で10%、直轄事業が同じく5%カットを4年間続けるのは、「われわれに死ね」と言っているようなものであります。 岩見沢、長沼、南幌などの穀倉地帯は石狩川、夕張川の下流域に展開していますが、これまで何度も水害の被害を受けていますし、排水機能の整備はまだまだ必要です。しかし近年は大雨が降っても被害が少ないのは基盤整備が進んできた証拠です。
――大消費地・札幌の食の安全を支えてきた一面もありますね
中山
われわれ建設業者も、その一翼を担ってきたことを誇りにして良いと思います。
――美唄の農家が栽培した道産米の「おぼろづき」が全国お米コンクール総合部門で、新潟や山形のコシヒカリ抑えて最高賞の金賞に輝いたのはうれしいニュースでした
中山
道、国が長年にわたって取り組んできた基盤整備の成果だと思います。水はけの良い土づくりは水、泥炭との闘いでした。土は生き物ですから。函館本線の北側はすべて泥炭と言われており、歴史的にも空知の建設会社は泥炭と闘ってきました。
――空知建設業協会としても柱はやはり農業ですか
中山
川(河川改修)と農業(農業土木)ですね。これらの分野で50年以上の歴史を刻んできましたから。技術力と地域との信頼関係の積み重ねが、今日のおいしい米づくりにつながっています。空知管内が米づくりを主とする食糧基地としての役割を果たすことが「地域再生」の強力な武器になりますので、ほ場の大型化、用水路や農道の整備など農業農村基盤整備を着実に推進していくことの必要性をさらにアピールしていきたい。
――空知建設業協会は大正15年に滝川市で産声を上げましたね
中山
岩見沢と滝川にそれぞれ協会があって、滝川が全道協会につながっていました。その後、空知土木建築請負業組合、中空知土木建築協会などを経由・合併し、昭和24年9月、空知管内を代表する事業者団体として滝川市に空知建設協会を正式に開設しました。昭和40年には事務局を岩見沢市に移転、活動の拠点としてこの建設会館が完成したのが10年後の昭和50年です。
――空知建設業協会と言えば、IT化への取り組みは目覚しいものがあります
中山
3年前からペーパーレス化を実現し、協会や発注者、労働基準監督署など関係官庁などのさまざまな情報は正会員のほか準会員、賛助会員にウェブ上で発信しています。会館では25台のパソコンを常備し、キャド、パワーポイントの研修をいつでも出来るようにしています。 会員版とは別に一般向けのホームページは美唄名物の「やきとりめし」が新千歳空港の空弁に登場したとか、カレーライス、アイスクリームのおいしい店の紹介など空知のさまざまな情報満載で、どなたでも見られるようになっています。
――IT化の意義についてはどのように考えていますか
中山
空知における建設業は炭鉱閉山の受け皿であり、兼業農家の働き口でもあるので、雇用面とあわせ地域経済に果たす役割は大きいと考えています。ITは、協会として地域における建設業の存在意義を発信していくためのツールで、「地域再生」をキーワードに開催しているフォーラムを通じて建設業の役割をしっかりと発信していきたい。 このため広報・IT委員会では会員向けのIT講習会の実施や普及に努め、会員企業間の情報の共有化に取り組んでいるところです。ただし、IT化で仕事が増えると勘違いされると困ります。建設業の経審に関しても新しい制度は内容が複雑ですので、単に内容を伝えるだけではなく、理解してもらえるように心掛けています。
――建設会社の中には資産を切り売りしてしのいでいる事例も聞かれますが、空知管内では
中山
公共事業の発注量は平成10年をピークに半分にまで落ち込んでいるのに、企業数はあまり変わらないと言われていますが、それは建設業許可業者の数でしか比較していません。実際に指名願いを出している登録業者の推移を把握する必要があります。空知建設業協会会員会社で言えば、110社から76社に減っています。産炭地域における廃業、倒産、合併の影響が大きい。 空知管内の人口は現在32万人ですが、夕張の人口が10万人を超えていたピーク時に比べ全体で50万人以上減少しています。かつては産炭地の夕張、三笠からは岩見沢、芦別へ、赤平からは滝川へ移転するケースが多く、両市は「ダム都市」と呼ばれた時期がありましたが、いまでは岩見沢、滝川を飛び越え札幌へ流出する傾向が強く、「ダム」そのものが決壊しているのが現状です。
――なおさらのこと基幹産業の農業に頑張ってほしいですね
中山
幸い管内の農業が元気になってきたので、農業基盤整備事業だけは手を抜いてほしくありません。一般の土木とは違って、農業土木が空知管内の柱ですから。札幌と旭川に挟まれており、ここだけでは食べていけないので、われわれは農業土木、河川改修の技術を生かし、札幌や旭川、留萌、遠くは函館、帯広に進出して頑張っています。
――開発局の幹部も、北海道が生き残る道は農業と観光と位置付けています
中山
空知にも農業と一体となった観光資源があります。三笠、浦臼、岩見沢などは富良野、池田に匹敵するくらいブドウ栽培とワイン醸造が盛んになってきましたが、私が密かに応援しているのが三笠の山崎ワイナリーです。農家民宿やファームレストラン、観光農園など新しい農業の裾野を広げていく取り組みも必要です。
――物流の視点から言えば、国道の4車線化、空知と苫小牧港を直結する道路整備も課題では
中山
栗沢、北村、南幌などの南空知は千歳の後背地として有望です。石狩湾新港よりも苫小牧港のほうが便利なので、札幌市内を経由せずに苫小牧へ行けるルート開発はぜひとも実現してほしいですね。

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