建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

農家の経営形態に合わせて農業基盤整備の手法も変化(後編)

北海道農政部 神 浩二 技監

神 浩二 じん・こうじ
昭和26年9月生 熊石町出身 弘前大卒
昭和63年 網走支庁東部耕地出張所工事第1係長
平成 3年 渡島支庁管理課調査計画係長
平成 5年 農政部農地整備課畑地総合改良係長
平成 5年 農政部農地整備課畑地総合改良係長
平成 8年 十勝支庁東部耕地出張所長
平成10年 日高支庁耕地課長
平成13年 十勝支庁整備課長
平成16年 渡島支庁農業振興部長
平成18年 農村整備課課長
平成19年 農政部技監

(前号続き)

――食の安全意識が高まっている今日では、北海道で作られる安全で高品位の農産物の国際競争力は高まっているのでは
日本の米や野菜は、価格競争の問題はあるでしょうが、東アジアやロシアなどに輸出できる可能性は高いと思います。 また、最近は異常気象が問題視されていますが、実は昨年にも平成5年の大災害の年に近い異常気象の兆候が見られたのです。しかし、かつてのような米不足などは起きなくなってきています。 それは、品種改良も行われましたが、同時に排水と用水が整備され、生産条件を整備していったのが効いてきているのだと思います。国・道や市町村、農協・改良区も、それぞれの部署で基礎的な整備をしっかりと担ってきた成果が徐々に発揮され、多少の気象の変動では、生産量ががた落ちするようなことは起きなくなっています。
――来年のサミットは安全安心、そして美味である本道の農産物を、世界的にアピールできる絶好のビジネスチャンスですね
宣伝効果は絶大ですから、サミットでも様々な北海道産の食材を食べてもらいたいものです。
――そうした農業基盤整備による安定生産が可能になったためか、十勝や網走管内の農家の所得が上がってきたと言われます
北海道の農業は大別すると、水田地帯と畑作地帯と酪農地帯、そして道南の複合地帯に分かれ、地域毎にそれぞれ事業効果に違いがありますが畑作地帯においては、作物の品種改良や排水改良、規模拡大等によるものだと思います。
――空知管内は、稲作が中心ですが、大消費地である札幌に最も近いので、今後ともさらにビジネスとして成長する可能性が高いのでは
空知管内の水田も、今後の必要に応じて、農業基盤に機能を付加していくことはあると思います。かつて三反を基準としていたものを、1町へと拡大したり、用排水をさらに効率的なものに改良することも、必要になってくるでしょう。 それ以前に、まずは地域が集団で営農効率を上げ、コストを下げる努力が必要です。それとともに、整備コストも下げていかなければ意味はありませんから、旧来のように漫然と整備を続けるのではなく、営農形態に合わせて必要な事業をすることが大切です。その計画の立案に当たっては、我々も地域に入って農家の人々と時間をかけて相談して行くことが必要です。
▲干ばつ被害を防止する畑地かんがい施設
――農家もただ言われたことをするのではなく、何をしたいかが明確であることが必要ですね
お互いに話し合いながら事業を進めなければ、整備後にクレームが出たのでは対応できないので、今後は対話重視という局面がますます重要になると思います。現場の担当者は大変ですが、そうしなければ喜ばれる整備は出来ません。 また、その整備には一般土木の技術を持つ建設業者が施工に当たりますが、一般土木の技術者は、農業土木技術者とは呼びませんから、農業土木という概念は行政にしか無いものです。農業土木は農業という冠があるわけだから、その冠の重みを感じながら仕事に当たらなければなりません。このことを職員は常に意識して欲しいと思います。
――いよいよ平成20年を迎えますが、農業土木技術の向上が北海道の生産性の向上を果たしたという成果が、ようやく見られる時期を迎えたといえるのでは
そうですね。私自身は全ての現場に行ったわけではありませんが、地域の生産者や農協職員からは、整備して良かったと感謝されますから、着実に前進してきているのだと実感します。 もちろん成功した現場ばかりでなく、期待通りに効果が出なかった失敗例の方が記憶に残っていますが、そうした現場でも確実に克服はしてきています。人間は同じ誤りは繰り返すまいと努力し努めるものです。

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