建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

自分たちの街は自分たちでつくるという意識(前編)

――区民の意見に基づく各区の地域特性を生かした街づくり

札幌市都市局長 荒川 正一氏

荒川 正一 あらかわ・しょういち
昭和23年5月18日生まれ
昭和46年3月 日本大学工学部電気工学科 卒業
昭和46年4月 札幌市採用
昭和60年1月 建築局電気設備課電気二係長
昭和63年4月 交通局施設課設備管理係長
平成 4年4月 交通局電力信号区軌道係長
平成 8年4月 交通局電気設備課軌道係長
平成 9年4月 建築局建築部電気設備課長
平成10年4月 都市局建築部電気設備課長
平成14年4月 都市局建築部設備担当部長
平成17年4月 豊平区長
平成19年4月 札幌市都市局長

 札幌市は郡部からの移住者が増えているとはいえ、高齢化も進んでいることから、札幌の街づくりを担う都市局の荒川正一局長はビジネスのためのオフィスを建てるよりも、暮らしに憩いや潤いを感じられる緑空間を多く確保したいと街づくりの理想を語る。また、10区の住民性が異なることから、各区の特性を生かすため、街づくり技術者は地域との対話を密にし、サービスマンのセンスを持つことが必要だと主張する。札幌市は、今後どんな街となっていくのか、同局長に将来像などを伺った。
──近年は地方の定年退職者らによる札幌市への移住が多いと聞きますが、人口動態に変化は見られますか
荒川
20年から30年前は、年間に20万人から30万人と人口は伸びていましたが、10年前からは10万人程度しか伸びていないのです。また札幌圏への一極集中の傾向がありますが、札幌だけでは解決できない課題もあるので、周辺市町村との地域的連携を強める必要があります。 都市基盤の整備もほとんど終わってきており、人口が伸びているときは、増分に応じて実施してきましたが、変動が落ち着いてきている状況では、現在の人々が充分に生活できる範囲の基盤を整えることが大切です。いわば、ハードからソフトにシフトするという転換期に入っているものと思います。
――都市インフラの整備手法は、変わってきたようですね
荒川
ポイントは誰のための街づくりかということで、作り手が技術力をアピールするための場ではなく、市民がこれからどうあるべきか、今後の市の中長期計画においても、それを見越した取り組みが都市局に求められているものと思います。そのために「誰もが訪れたい街。誰でも住んでみたい街。札幌」という街づくりを目指しており、市民の安全、安心と、環境に優しい街づくりをキャッチフレーズにしているわけです。 もっとも、口で言うのは簡単ですが、安心、安全、快適は、現実にはかなり難しいテーマです。というのも、お年寄りのためのバリアフリー、歩きやすい道路、建物、使いやすい施設など、留意すべきポイントが多岐にわたるからです。 例えば、安心とは防犯上の問題もあり、暗いところを明るく改良し、安心して就寝できる環境づくりが必要で、これも街づくりの一つです。そうした課題が、今後は多く発生するものと思います。 かつては行政主導型の施設整備できましたが、住人の意向を聞きながら慎重に進めるため、行政側の発想で自由に作れる時代ではありません。財政的余裕がないので、限られた予算で地域の意見を聞きながら、地域にとって最良のものを提供することが大切です。
――政策的に先導するのでなく、地域の意向に沿ったまちづくりですね
荒川
札幌市も地域性があり、事情は各区が必ず同じというわけではないのです。まず住んでいる人の構成が違いますね。学生の多い区、お年寄りが静かに住んでいる一戸建てが多い区、マンションに住んでいる人が多い区など様々で、それぞれにものの考えかたや行動範囲が違っていますから、各区の事情に合った街づくりが必要で、そのためには地域の意見を聞かなければなりません。したがって、今後とも職員が地域の中に分け入っていくことが多くなると思います。 以前に市長が「ともに考え、ともに行動」を標榜していましたが、正に適切な言葉だと思います。地域と一緒に考えることが求められます。
――職員の意識レベルも高まっていますか
荒川
着実に高揚しており、幅広く様々な人々の和に億劫がらずに入っていき、人の話を聞きながらどうあるべきかという議論する場面が多くなってきています。 現在は都市部の市街地整備のために再開発も進めていますが、これらも各地域の環境を考慮することが大切です。例えば大通周辺では地下街や札幌駅の連携に配慮しています。まちづくりの基本はあり、過去にはパターン化していましたが、今日では柔軟な考え方が必要です。
――まちづくりも、技術の基本に従うと、とかく画一的になりがちですね
荒川
かつては技術さえあればやっていけるという声も多く聞かれましたが、今は技術を持ったサービスマンという形でなければならないと思います。一方、市民側も行政がどうあるかということを認識して頂きたいと思います。市民がやるべき事は何か、行政がやるべき事は何か、企業がやるべき事は何か、お互いがきちんと理解をし合っていることが大事です。 なんでも行政に任せるというのはダメだと思うのです。私たちの街は、私たちの考えで作るが、ノウハウがないので行政サイドに応援してもらおうといった、役割分担を理解した街づくりが理想だと思うのです。 行政の代わりに市民が街づくりを先導し、市は調整役に徹し、計画を調整して工事を発注するなどの業務に専念するといった役回りが理想でしょう。そこに至る物作りの計画において、主役はあくまでも地域の市民だと、私は思うのです。 いわゆる市民自治というもので、実際に昨年4月から始動していますが、官民が一体となって、市民・行政・企業がそれぞれに自分の街を良くするという目的を持つ時代が来たと思います。
――札幌市は政令指定都市の中でも4番目の大都市ですが、特に冬期の降雪という世界に例を見ないハンディを負っています
荒川
百万人を超える都市で、降雪問題を抱えながらも長く生き続けた都市は、世界的に珍しく日本でも稀少です。それを毎年クリアしてきているのです。予算もかなりかかっていますが、市民の協力もあってこそ解決できるものです。 それだけ地域の連携は必要不可欠であり、その連携をより一層進めていかなければなりません。 先にバリアフリーについて触れましたが、これも単にお年寄りが障害物にぶつからなければ良いという問題ではありません。例えば、目の不自由な人は路面の先導ブロックに頼って歩かなければなりませんが、車椅子の人はそれがあると通れなくなりますから、新たな問題が発生します。 したがって、何でも決まり切った手法にこだわる必要はなく、目の不自由な人が歩くスペースと、車椅子の人が通るスペースを最初から確保しておけば良いのです。無理に一つにまとめて共有しようとするから、どちらかが困ることになるのです。 これからの施設のバリアフリー化は、それぞれの人達の事情を考えるべきだと思いますが、それだけに難しく時間も掛かるのです。
――最初に「誰もが訪れたい街、誰でも住んでみたい街」とのキャッチフレーズがありましたが、局長からみて札幌はどのような特徴、魅力あると思いますか
荒川
札幌は広く凹凸のある変化に富んだ街です。そこに住む人が楽しく暮らすためには、そこにある施設がどうあるべきかを考え直し、有効利用することですね。 札幌の人口は、今後は減少に転じると思います。道内だけでは五百数十万人しかおらず、全てが札幌に移住することはありませんから、何らかの事情がない限りは人口が200万人や250万人になることはないでしょう。そうなると、今ある施設で不足なのか十分なのかという問題が起きます。また、全国的に遅れている耐震化の課題もあります。幸いにして、地震が少ない地域なので、関西方面の地震の多い地域と違って危機感がないのです。 そこで改めて検証すると、全ての施設を耐震化する必要はなく、老朽化施設を生かすか廃止するかという選択肢のほか、既存のものを統合して作り直すという考え方もあります。 それをこれから取捨選択していくことになるでしょう。地域にかつてあった施設が、必ずしも存続しなくても良く、その代わり必要なところに必要なものを残すことです。既存のものが無くなれば、土地が空きますからそれを有効活用することです。 現代は、次々と建物を作る時代ではなく、潤いや憩いの場を作る時代で、緑を増やしたり、高齢者が散歩したり、子供と一緒に遊べるスペースを増やしていくことが、私の街づくりにおける夢なのです。 また、都市部では地下鉄沿線の高度利用化を進めることです。公共交通の利便性が良ければ、資産価値もあるので、特に都心部の高度利用者を活用すれば、増収も見込めます。特に公共施設であれば、固定資産税はかかりませんから。
――やはり札幌市内での再開発事業は、様々な面で有効ですね
荒川
もちろん、再開発は進めています。都心部の交通アクセスが良いところは、その高度利用の利点を活かし、離れたところは、その広さを活かすべきだと思います。どこにでもビルが疎らに点在するのではなく、そうした地域を作るゆとりはあると思います。
▲JR篠路駅西第2地区 地域住宅交付金事業
――今年度から、JR篠路駅での再開発が進められていますね
荒川
ようやく着工した再開発の内容はマンションと借上市営住宅です。篠路地区は開発が遅れていましたが、当地域がどうあるべきか地元の方と繰り返し協議してきました。JRが運行しているなど交通の便が良いので利便性を一層高めるため、周辺の再開発はどうしても必要になります。
――再開発事業といえば、従来は組合組織が一般的でしたが、篠路では株式会社が主体となっていますね
荒川
そうですね。株式会社として利点を考えるのは当然で、もちろん営利目的もあると思いますが、やはり行動力があります。ただし、篠路は古い住宅地で、大規模にビルを建てるような地域柄ではありません。そのために住宅メインとした再開発事業となっています。  (以下次号)

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