建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

耐震化補強が安く施工できても喜べない

――みすぼらしいプレハブ市民会館に落胆

札幌市議会建設常任委員会 副委員長 飯島 弘之氏

飯島 弘之 いいじま・ひろゆき
昭和42年1月7日生まれ
昭和54年3月 札幌市立 手稲宮丘小学校 卒業
昭和57年3月 札幌市立 手稲東中学校 卒業
昭和60年3月 北海道立 札幌西高等学校 卒業
平成 3年3月 慶應義塾大学 商学部 卒業
平成 3年4月 株式会社 三和銀行(現三菱東京UFJ銀行) 入行
平成 6年2月 株式会社 三和銀行 退社
平成 6年2月 ロイヤルコンサルタント株式会社 入社
平成14年2月 同社代表取締役に就任
平成19年5月 札幌市議会委員 就任
平成19年5月 建設委員会副委員長 就任
平成19年5月 北海道新幹線調査特別委員会理事 就任

 今春の市議選で初当選した飯島弘之札幌市議(西区)は、当選4ヶ月にして建設常任副委員長に就任し、札幌市の公共投資のあり方に厳しい視線を向けている。かつては三和銀行員であり、後に公共事業のコンサル会社を経営してきた職務経験から、投融資のあり方やビジネスに対しては、シビアで的確な見解を持っている。それだけに、節約とリストラしかできないまま、ひたすら縮小再生産に向かう今日の札幌市政の問題点を、軽妙な口調で鋭く指摘し、札幌経済が息を吹き返すために必要な投資とは何かを力説する。
──札幌市は公共投資を止めてしまったかのような印象を受けますが、市議会建設副委員長としてどう考えますか
飯島
選挙では市長候補だった清治(真人)氏と共闘したのですが、今後のまちづくりにおいて、彼の主張は引き継ぎたいものが多いですね。やはり、インフラ面で札幌を魅力的な街にしておかなければ、北海道全体の底上げは難しいと感じています。そのためにも、札幌には集中投資して然るべきだと思うのです。 一方、私は新幹線調特委の委員も務めていますが、新幹線によって東京までの移動時間が4時間以下になるとはいっても、札幌から道内地方へのアクセスが悪いのでは、いかに時間短縮しても意味がありません。例えば、清治氏は高速道路の都心部への乗り入れを主張していましたが、それによって札幌から地方へのアクセスを向上させることは必要です。何しろ、新千歳空港にしてもIR札幌駅にしても、ともに高速道路がアクセスしていないため、例えば札幌駅から小樽へ向かうにも、北インターや西インターまでかなりの時間をかけなければ高速道路に乗れません。清治氏は、そのために国の予算を活用することもできるのだから、と主張していましたが、私も極めて同感です。こうした都市構造の問題は、多くの市民も感じているのではないかと思うのです。 札幌経済の将来を考えるなら、このように必要な投資はまだあるのですが、残念ながら上田市長の政策ではそれが曖昧で見えてきません。財政改革は、確かに自民党自らが主張している課題で、無駄なものは止め整理すべきことは整理し、メリハリを持たせることには同意しますが、だから何もしなくて良いというものではありません。
──札幌市営地下鉄なども、札幌ドームや丘珠空港と直結していないなど、その路線計画と都市計画に整合性が感じられません
飯島
私が所管する市建設局の事業なども、その決算が赤字だから何も出来ないというものではないと思うのです。交通局の地下鉄などは、それを建設することによって大きな波及効果を生み出します。せっかく日本ハムファイターズによる波及効果もあるのですから、相互乗り入れや延伸などの問題解決には取り組むべきなのですが、とかく部局側では「車庫が必要」であるとか、「需要が見込めない」など、できない理由ばかりを述べたがるのです。しかし、そんな問題はやる気を持って智恵を出せば解決できないはずはありません。削るところは削っても、投資すべきことに投資もしないでいるなら、全体にじり貧になるだけです。 そのために、国、道、札幌市など、それぞれの機能と計画を調整し、国民、道民、市民の幸福を実現していくのが政治の役割で、私たちは臆せずに主張していくべきだと思います。
──政府も自治体も財政再建に必死ですが、そのために見られる手法と言えばリストラと節約のみで、税収を高めて歳入を拡充するだけの才覚も意気込みも感じられません
飯島
まさにデフレ構造といえますね。国も企業も人が支えているのですから、このままでは人が逃げ出すだけです。北海道に生まれ育った人々は、この街で働こうという気にはならず、北海道に根着かなくなると思います。 例えば今春の選挙活動で、同窓生らを訪問してもみな東京や大阪在住で、中には海外で働いていたりと、とにかく地元に人がいないのです。道内に止まっているのは、せいぜい官庁勤めの公務員くらいとの印象を受けました(笑) これは地元にいないというよりも、そうした働き手が地元に“居られない”ということでしょう。いてもビジネスが成り立たず、地元では希望が持てないためです。このように地元に夢も希望もなくなりつつある北海道・札幌を転換していくためには、政治の力が必要です。 行政機能としては、北海道開発局や北海道建設部、札幌市建設局など十分な体制があるのですから、これらをフル稼働させて将来ビジョンを明確にしながら投資していくことが必要です。
──投資による配当や、収益事業による収益がないまま、就労者ではない高齢者と子供のための福祉支出ばかりを増やしたのでは、いずれ財政が破綻するのでは
飯島
福祉も確かに大切な政策ですが、ではその財源を誰が支えるのでしょうか。それを行政は考えなければならないのです。
──上田市政では、マンションその他高層建築に対して高さを制限しています。どこでもやみくもに高層化すれば良いとは思いませんが、固定資産税収入の効率性を鑑みれば、同じ面積に平屋があるよりは、高層マンションなどの方が増収しやすいはずです
飯島
私は就任してまだ4ヶ月ですが、札幌市は街づくりに向けてのトータルな議論が不足しているとの印象を受けています。とかく引き合いに出されるのはヨーロッパの町並みで、色彩や構造的規制が話題になりますが、ヨーロッパにはヨーロッパの考え方があってのことで、それが日本の国土にも適用できるかは疑問です。 欧米のものを妄信的に評価する傾向が日本にはありますが、例えば東京都などが持つ独特の猥雑さというのは、アジア圏に共通した魅力でもあると思うのです。したがって、ただやみくもに規制し、欧米を真似た街づくりを進めるのは疑問です。
──公共工事発注においては、「安くて良いものを」といった経済原則に反した要求から低価格入札が横行していますが、現実にそれは可能なのでしょうか。むしろ、施工において重大な問題点が、後になって発生するのではないかと懸念されています
飯島
例えば、公共施設の耐震化は全国共通の課題で、昨年の姉歯事件などの前例から、我々委員会としても厳重に監視する必要があります。そこで市の決算を見ると、確かに予算よりも低い価格で完工しており、関係部局の説明では「入札が効率的に執行できたお陰で安く仕上がりました」と得意気にいうわけです。しかし、「耐震化のための補強工事が“安くできた”のが良かった」などと喜ぶべきことでしょうか(笑) 間違いなく施工されていればかまいませんが、耐震化は人々の生命の安全がからむ問題ですから、カネの問題ではないでしょう。人件費を抑えて経済的にできたというなら、また評価も異なりますが、「施工を安く仕上げました」などと胸を張って説明されても、素直に喜べる話ではありません。私たちとしては、むしろ「そんなに安い工事金額で任せて大丈夫なのか」と不安になります。したがって、公共事業予算は減額していますから、建設産業はある程度縮小するしかないでしょうが、工事金額そのものを安くしてしまうことには、私は反対です。 かつて1兆円規模だった北海道開発予算も、今日では6,000億円程度ですが、それでかつての工事量をこなそうとすれば、安かろう悪かろうという施工になるでしょう。そうでなく、6,000億円を以て確実な施工により、施工会社がアフターサービスもできる余力を残し、後世の人々も長く使用できるものを残していくことが大切だと考えます。 その投資をどこにするかは選択の問題で、本州の人々は熊の通る道路を造ったなどと批判しますが、そうした批判を見直しつつ十分に効果が上がる投資をしていくことです。そして、道外、海外に出て行ってしまった人々が、帰ってこられるよう利便性を高める投資が必要です。そのための投資対象が、私は札幌なのだと考えています。
──当面の市政予算において、緊急に必要な事業は何だと考えますか
飯島
現在の上田市政では、どんな計画を提示しても無駄というムードが各現局には強いために、目新しい施策がほとんど見当たりません。トップに立つ者の姿勢がいかに強く影響するかが、如実に見られます。ただ、私たちは野党ですから、市長の顔色を気にする必要がないので、主張すべきは大いに主張していく気構えでいます。 そこで私としては、例えば老朽化した市民会館の建て替えについて意見があります。上田市長の決定により、計画では解体した会館跡に、暫定的な施設として民間企業に代替施設の建設を委託し、リース契約を結ぶことになっていますが、説明を受けたときに見せられた図面では、プレハブのような質素な概観で、当局には失礼ながら心中で失笑する思いでした。 市民会館といえば大通り公園に面し、NHKと隣接し、観光拠点であるテレビ塔の向かいに位置する札幌市の顔であり、時には海外の芸術者らも招かれたりする市民文化の拠点です。その建て替え事業に臨む上では、判断が早急だったのではないかと思います。 今日では、全国のどの都市でも財政その他の問題を抱えているとはいえ、それでもこうした施設は十分な投資によって、後世に残せるだけの立派なものを作っているのが実情です。それを、当局の説明ではプレハブ建築のようなものを作り、下手をすれば財政が苦しいので、リース契約が終わってもそのまま使おうといわんばかりの印象を受けましたが、市民は本当にそれで満足するのでしょうか。 よく、観光客が時計台を見て落胆したという評を耳にしますが、その近くにさらにプレハブのようなみすぼらしい市民会館というのはどうでしょうか。やはり国の予算を獲得してでも、見劣りのしないものを作るだけの気概を当局には見せて欲しかったと思います。

HOME