建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

interview

14支庁を9総合振興局に再編

――脱公共事業で製造業による経済的自立を目指す

北海道知事 高橋 はるみ氏

高橋 はるみ たかはし・はるみ
昭和29年1月6日 東京都三鷹市生まれ
昭和51年3月一橋大学経済学部 卒業
昭和 51年 4月 通商産業省入省
平成 元年 6月 通商産業研究所総括主任研究官
平成 2年 7月 中小企業庁長官官房調査課長
平成 3年 6月 工業技術院総務部次世代産業技術企画官
平成 4年 6月 通商産業省関東通商産業局商工部長
平成 6年 7月 通商産業省大臣官房調査統計部統計解析課長
平成 9年 1月 通商産業省貿易局輸入課長
平成 10年 6月 中小企業庁指導部指導課長
平成 12年 5月 中小企業庁経営支援部経営支援課長
平成 13年 1月 経済産業省北海道経済産業局長
平成 14年 12月 経済産業省経済産業研修所長
平成 15年 2月 経済産業省退官
平成 15年 4月 北海道知事

 折りから財政危機にあった道政の舵を握る高橋はるみ北海道知事は、大規模な職員削減や支庁再編など、道政史上に例を見ない大改革に取り組んでいる。同時に、従来の公共投資への依存度を低め、企業間での経済行為によって自立する経済構造を実現すべく、道外企業の誘致に全力を挙げている。旧通産省から経済界に転出した経験のある知事としては、製造、流通、サービスなど、建設外の産業活性化に、北海道経済の活路を見出そうとしているわけだが、農業と建設が二大基幹産業として長く道民を支えてきた本道経済において、果たして脱公共事業を実現し、本州型経済構造への変革は可能なのか。高橋知事に今後の展望を語ってもらった。
――行政体制の見直しと、今後の機構改革や人員配置などについてお聞きしたい
高橋
赤字再建団体への転落の危機を回避し、持続可能な行財政構造の確立を図るために、今後10年間の行財政改革の基本指針として、平成18年2月に「新たな行財政改革の取組み」を策定し、全庁一丸となって行財政改革に取り組んでいます。 この「取組み」の個別計画である「職員数適正化計画」では、「札幌医科大学」など、地方独立行政法人に移行した職員数も含め、知事部局の職員数を平成17年度から平成26年度までの10年間で30%削減する目標を掲げました。さらに、「集中改革期間」としている平成17年度から平成21年度までの5年間に、22%の削減を目標とし、達成に向けて最大限努力しているところです。 このため、毎年度の組織機構改正を通じて、道として担うべき役割の明確化や既存の事務事業の見直しなどを行い、簡素で効率的、機動的な組織機構の構築に努めながら、そのときどきの行政ニーズや社会経済情勢に対応していきたいと考えています。 したがって、来年度の組織機構改正においてもこの考え方に基づき、北海道が重点的に取り組まなければならない課題に対応できるよう、必要な体制を強化していきたいと考えています。
――支庁再編は古くから提起されてきたテーマですが、いよいよ具体化しましたね
高橋
道ではこれまでの議論を踏まえ昨年11月に「新しい支庁の姿(原案)」をお示ししました。現在の14支庁が形づくられてから、約1世紀が経過しました。この間、交通・通信網の飛躍的な発達や、道民活動の広域化など、支庁を取り巻く社会経済環境も大きく変化するとともに、地方分権改革も進展しています。 また、本格的な人口減少社会を迎え、より効果的・効率的な組織改革が求められており、今後とも支庁が地域で適切に役割を果たしていけるよう、広域的な対応が可能な業務の集約化などによる体制整備が必要です。 こうした社会経済環境の変化に的確に対応しつつ、総合計画における地域づくりの方向性に沿って、効果的な政策展開ができるよう、新しい総合計画において設定する連携地域を基本に、所管区域を見直します。 なお、道央地域と道北地域については、それぞれの連携地域の位置づけや市町村のご意見を踏まえて複数の支庁を設置することとし、現在の14支庁から9支庁体制とする考えを提示しました。 新しい支庁の機能は広域的な調整事務を中心に、9カ所の「総合振興局(仮称)」に集約するとともに、保健・福祉サービスなど住民に身近な事務については、行政サービスの低下を招かないよう、総合振興局の出先機関として設置する5カ所の「振興局(仮称)」において担う考えを提示しました。 この「原案」をもとに、さらに市町村や道民のご意見を伺いながら改革の実現に向けて全力を挙げていきます。
――支出抑制の努力の結果、致命的な収支不足は回避されましたが、増収策としての有効投資も必要では
高橋
財政の立て直しは行政改革と連動して一体的に取り組み、平成18年2月に「新たな行財政改革の取組み」を策定して、18年度と19年度の2カ年間を集中対策期間として、人件費の独自縮減を含む歳出削減と歳入確保に努めました。その結果、見込まれていた1,800億円に上る収支不足額を解消し、現段階での赤字再建団体への転落は回避できました。 ところが、その後に道税や地方交付税などの一般財源総額が、見込みを上回って減少する一方、金利上昇に伴う道債償還費の増加や国の制度改正にともなう義務的経費の増加などの要因が発生しました。そこで、今後の収支見通しをさらに精査したところ、平成20年度は後期高齢者医療制度の創設や、金利水準の上昇基調にともなう道債償還費の増加などで、さらに収支不足額の拡大が見込まれる状況にあります。 この見通しを踏まえ、「新たな行財政改革の取組み」において、残された今後7年間の推進期間の中で、行財政構造改革を確実なものとするには、とりわけ厳しい財政運営が見込まれる平成20年度から23年度までの前半期4年間に、さらに様々な対策を集中的に実施し、概ね収支の均衡がとれるよう財政運営しなければなりません。そのため、『「新たな行財政改革の取組み」の見直しの方向性』を取りまとめ、提示したところです。 特に、財政の構造的な収支不足の大きな要因となっている道債償還費の縮減に向けて、投資的経費や行政改革推進債などの起債は計画的に圧縮し、新規道債発行の抑制を最優先の課題としながら、平成26年度末の道債残高を現時点と比較して1割程度下回る、5兆円程度に抑える考えです。 そのために、公共事業や単独事業などの投資的経費は、平成18年度以降は大幅な縮減を行っています。もちろん、こうした投資的経費の縮減は、道内経済や雇用に及ぼす影響も少なくないものとは考えていますが、道債償還費の増嵩が財政の収支不足の大きな要因となっているので、その縮減は避けて通れない課題です。 私としては、こうした対策に取り組むと同時に、経済と地域の活力の維持・向上を図り、道民の皆様がそれぞれの地域で生き生きと安心して暮らしていける環境づくりが大切であると考えており、このため、地域経済の活性化に向けて、全ての産業を対象とする北海道経済活性化戦略ビジョンを策定したところであり、今後、地域の実情に即した「戦略ビジョンの地域版」を策定するなどして様々な施策の推進に努めていきます。 また、今後の施策展開に当たっては、「地域力の強化」を庁内共通の視点として、建設業をはじめとした道内中小企業の活性化や地域の基幹産業である一次産業の付加価値向上など、地域を元気にする、きめ細やかな取り組みを加速していきます。
――公共投資の抑制に基づき、建設業界はソフトランディングを模索していますが、現実には困難を極めているようです
高橋
建設業の経営体質強化を図るため、道としては中小企業診断士の企業への派遣や、現場技術者の技術力向上を目的とする講座を継続して開催するほか、「技術と経営に優れた企業づくり」の基礎は「人」ですから、経営者を対象に、企業内での技術者や技能者の育成に必要な実践的な知識や事例などを紹介するゼミナールを、新たに開催する予定です。
――建設業主体の経済構造を変革し、製造・流通、サービスなど、他業種による経済再建を目指していますが、企業誘致の成果と今後の目標をお聞きしたい
高橋
全国的に景気拡大が続く中、設備投資は堅調に推移していますから、企業立地にむけての環境を的確にとらえ、自動車産業や電気・電子機器産業をはじめとするものづくり産業の立地促進に向けて、私が先頭に立って企業のトップの方々にお会いし、本道の優れた立地環境をアピールしてきました。 企業誘致の成果として、本道においてはトヨタ自動車北海道鰍フ相次ぐ増設や、アイシン精機鰍フ新規立地などを契機として、平成18年度以降は材料加工や金型などの自動車関連企業の立地が進み、さらに昨年4月には潟fンソーが進出決定するなど、道央圏を中心として自動車産業の集積が進展しています。 自動車関連だけでなく、オエノンホールディングス鰍ノよるバイオエタノールプラントの立地も決定したほか、電子部品、食品、ソフトウエア、コールセンターなどの新増設の件数も増えています。 そこで今後の目標としては、経済波及効果や雇用創出効果の高い自動車産業や電気・電子機器産業などを重点対策業種として、戦略的な誘致活動を展開し、平成22年までに200件の企業立地を目指します。 自動車産業の誘致については、トヨタ自動車鰍ニいすゞ自動車鰍フ業務提携により、ディーゼルエンジンを生産する新工場を苫小牧に立地するとの新聞報道がありました。これが実現すれば、本道の自動車産業の集積に大きなはずみがつきますから、地元関係自治体はもとより、経済界や企業誘致関係団体などとも連携し、積極的な誘致活動を展開していきます。 今後に向けても、ものづくり産業の集積を一層加速させるため、官民一体となったトップセールスや、企業立地セミナーの開催などを通じて、産業インフラや人材供給力など、本道の優れた立地環境を積極的にアピールしていきます。とりわけ道内、各市町村の地域特性や資源を活かした企業立地を促進するため、企業立地促進法を活用をしながら、地域と連携していきます。
――新年度の施政方針と、知事の描く北海道の将来像をお聞きしたい
高橋
北海道においては、ここ数年で「食」・「観光」のブランド化やものづくり産業、IT・バイオなど新産業の創出といった、将来に向けた新しい活性化の「芽」が芽生えてきました。一方、人口減少や少子・高齢化が進行する中で、地域においては医療・福祉、雇用といった暮らしの安心を支える社会基盤や、自治体財政など様々な分野で対応すべき課題が生じていることも事実です。その上に、先に述べた通りに財政が危機的な状況ですから、真の行財政改革も成し遂げていかなければなりません。 それらを踏まえて今後に向けては、従来の努力を通じて芽吹いた様々な分野にわたる「活性化の芽」を育むとともに、私の公約の実行計画である「北海道新生プラン・第U章」や、20年度からスタートする新総合計画の着実な推進に取り組んでいかなければなりません。それは「自立する北海道づくり」、「安心して暮らせる潤いと活気ある地域社会づくり」とともに、サミットを契機とした「環境と暮らしの調和」といったタテの視点に、「地域に根ざした政策」というヨコの視点を加えた、活力あふれる地域と豊かな暮らしの創造です。 そのためにも財政状況を踏まえて「選択と集中」をさらに強めつつも、これまで以上に知恵と工夫を働かせた効果的な政策と、「地域の元気」に心配りするきめ細やかな施策の展開に努めたいと考えています。
──来年はいよいよサミットが開催されますが、道としての受け入れ体制は
高橋
この7月7日から9日に開催される「北海道洞爺湖サミット」は、本道最大の行事となります。G8各国の首脳がこの北海道に一堂に会し、豊かな自然に囲まれた、落ち着いた雰囲気の中で、環境問題などの重要な問題が討議され、今後の世界の針路・方向性が決められることは、地元として大変名誉なことと受け止めています。 開催決定後は、庁内に北海道洞爺湖サミット推進局を設置し、また横断的な北海道洞爺湖サミット推進本部も設置しました。そして6月には、道を含む73にも上る関係団体に参画いただいた官民一体の「北海道洞爺湖サミット道民会議」が設立されています。会長は私が拝命していますが、この道民会議が中心となって、様々な受け入れ準備や情報発信などを担当しています。 もちろん、サミットはあくまで国が主体で開催されますが、私たち地元としても、おもてなしの心を持って素晴らしいサミットとなるよう努めていかなければなりません。 サミットの開催によって、北海道の名前が国内外のマスコミに数多く取り上げられ、食や観光、文化など、あらゆる面で北海道の価値を高める大きなきっかけとなり、本道の魅力を全世界に発信していく絶好の機会にもなるものと期待しています。 なお、情報発信の手法としては、インターネットを通じて道民会議が直接情報を発信する手法と、日本で活動している海外の報道関係者に情報を提供し、報道記事や映像として各国に配信してもらう手法の2本立てで進めています。 前者については、昨年11月に日本語と英語を基本としたポータルサイトを開設しました。後者は、昨年同月に行われた(社)日本外国特派員協会の催しにおいて、私自らが観光・食・環境といった北海道の魅力などを、海外のプレス関係者にPRしました。 その他、在京G8大使館関係者もお招きし「北海道洞爺湖サミットの夕べ」を東京で開催したほか、昨年11月、12月には海外プレス関係者に道内各地の魅力を体験してもらう「プレス・ツアー」を実施しています。このイベントは4月までに3回実施する予定です。 サミット期間中は、ルスツに設置される国際メディアセンターなどに北海道情報館を設置し、食や観光、文化など北海道の魅力を発信する予定です。 こうした広報活動を重層的に進め、本道の知名度やイメージアップを図ることで、観光振興や道産品の販路拡大など、経済の活性化につなげていきたいと考えています。 サミットの開催は、この北海道が世界に直接つながっていることを、道民一人ひとりが実感できる絶好の機会となります。特に、次世代を担う子供たちには、そうした経験とサミットを成功させた自信を与えることができれば、北海道の将来にとっても、大きな財産になりますから、素晴らしいサミットとなるよう全力を尽くしていきたいと思います。

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