建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年1月号〉

200号記念

月刊「建設グラフ」 通算200号と時代の歩み

▲1991年6月号 創刊号

 1991年6月号を以て創刊された弊誌月刊「建設グラフ」が、この2008年1月号を以て通算200号を迎えた。1991年といえば、政府の大規模な補正予算に基づく景気浮揚対策により、公共事業が全国で活発化した時期である。レーガノミクスの失敗による米政府の双子の赤字対策として行われたプラザ合意を背景に、我が国の内需拡大政策に基づくもので、これを機に国内は実益を伴わない狂乱のバブル経済へ突入し、誰もが経済の勝者になったかのような錯覚に陥った。財力のある者は土地の転売や株式投資に狂奔し、およそ価値のない原野までが書類上で転売され、中には国有林内にある利用価値のない湖の湖面までが取り引きされたなどという呆れた事例も聞かれた。脱税犯を摘発する国税査察官を主人公とする映画「マルサの女」がヒットした時代である。

 一方、勤勉な国民性をワーカーホリックと国際的に中傷されたことから、官主導で週休二日制が導入され、リゾート法の制定により休日の受け皿としてテーマパークなどのリゾート開発や、ゴルフ場開発が乱発していた。こうした時代背景から、表面上は優雅なにわか金持ちが急増し、地道にして勤勉な労働や手を汚す仕事を毛嫌いする風潮が醸成されていった。汗と土にまみれて国土の整備を担う建設業が3K(きつい、きたない、きけん)と呼ばれ、敬遠されたのはシンボリックである。かつて北海道開発庁事務次官から北海道知事へと転出した堂垣内元知事は、小学生を対象に土木建設現場の見学会を行ったが、参加したある父兄が「勉強しないと、こんな仕事をすることになるのよ」と子供に話しているのを見て、関係者一同が落胆したと話していたが、まさに建設業はステータスの低い業種と見なされる風潮だったのである。

 後に日銀の総量規制によってバブル経済は崩壊し、あぶく銭を手にして浮かれていたにわか金持ちの白日夢は打ち砕かれ、人々はようやく目を覚ました。その間にも近隣アジア諸国では、着実なインフラ整備によって競争力を養い、世界経済に台頭しようとしていたのである。したがって、我が国はバブルとは無関係に経済社会基盤整備の手を休めなかった。

▲1991年6月号 堂垣内尚弘元北海道知事
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▲1991年7月号 戸部智弘北海道開発局長
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▲1991年6月号 伊藤蔵吉北海道土木部長
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 そこで、そうした建設事業の意義と、厳格な規則で管理される建設現場の現実を、グラビアを中心に正しく伝えていくことを基本方針として創刊したのが、月刊「建設グラフ」である。創刊当初は開発の遅れていた北海道内の基盤整備を主要コンテンツとしていたが、ネット社会の発達にともなう世界のグローバル化が進展したことから、道内ローカル誌の位置づけを脱皮し、全国の国土整備や街づくりの最前線にまで目を向けることとなった。また、発注者たる政府省庁や自治体、団体、設計・施行監理にあたる設計者、そして受注施行に臨む建設業界関係者や、現場で汗を流す代理人と監督官など、様々な人々のインタビューや寄稿、その他の記事を以て時代を映し出してきた。中でも「土木こそはデモクラシーの基本」と喝破し、それを担う技術者の尊厳を世に訴えた作家・曾野綾子氏の連載インタビュー記事は、いまなお建設界の聖書のごとくに読み継がれている。

▲1991年8月号 鳩山由紀夫北海道開発政務次官
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▲1991年8月号 小西康夫日本道路公団札幌建設局長
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 近年はバブル後のデフレスパイラルにより、公共インフラを活用して公共投資からの配当を十分に得られない時期が長く続き、さらには構造改革によって、かつて左うちわのにわか金持ちも、今や従前以上の貧困に陥る社会情勢から、莫大な事業予算を要する公共事業への怨嗟が広まった。このため、政府をはじめ自治体も公共事業予算を減額し、打ち切ったことで税収源が減少する一方、首都圏や工業圏の一部を除く地方では、それに取って代わる新財源たる新産業の確立もままならず、厳しい財政難のスパイラルに陥っている。

 一方、経済社会は、産地偽装や賞味期限のごまかしなど、商売上のウソが告発される情勢で、経済性を追求するあまりに不良業者の侵入を許し、無謀なダンピング合戦の続く建設業も、施工結果が懸念される状況が続いている。

 かくして景気拡大が伝えられる一方で、構造不況への道をひた進む建設業だが、ケインズの限界効用理論の範疇において全国的に必要なインフラはまだまだある。現在は、その必要と不要とのボーダーラインを巡って、建設業の規模が縮小再編される過渡期にあり、まさに優良業者と不良業者の検証と取捨選択が進められる歴史的転換点にある。弊誌は、今後もそうした公共事業と建設業の紆余曲折を誌面とインターネットを通じて、歴史の断片として報じていく。 


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