建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年12月号〉

interview

建設産業の存続と建設会社の 存続はイコールではない

――健全な産業としてあるためには作業員の社会保証が必要

富良野商工会議所 会頭 大北土建工業株式会社 代表取締役社長 荒木 毅氏

荒木 毅 あらき・つよし
昭和27年 6月5 日生まれ
昭和50年 3月 小樽商科大学商学部商学科 卒業
昭和50年 4月 大成建設株式会社 入社
昭和53年 4月 大成建設株式会社 退社
昭和53年 4月 大北土建工業株式会社 入社
昭和56年 5月 大北土建工業株式会社 取締役営業部長 就任
昭和59年 5月 大北土建工業株式会社 常務取締役 就任
平成 2年 5月 大北土建工業株式会社 専務取締役 就任
平成 4年 6月 大北土建工業株式会社 代表取締役社長 就任
平成16年11月 富良野商工会議所会頭 就任
公職
旭川建設業協会理事
富良野建設業協会理事
富良野まちづくり促進協議会会長
社団法人富良野地方法人会連合会常任理事
安全運転管理者事業主会富良野支部長
大北土建工業株式会社
富良野市本町8番1号
TEL0167-23-1111

 大北土建工業(株)の荒木毅社長は、富良野商工会議所の会頭も勤めているだけに、建設産業が抱える問題点を、建設業界内部からだけではなく、財界人として業界外からの客観的な視点で鋭く指摘する。業界関係者が目を向けようとしなかったり、気付いていても声に出そうとしなかった問題点を明快に指摘する眼差しは、自らも建設会社を経営する立場ながら、極めて現実的で厳しい。今後の建設産業には何が必要なのか、経済人として国内外に幅広く活躍し、公益的かつ大局的な目線に立つ荒木社長に伺った。
――毎年の公共事業予算カットにより、建設業界は閉塞感に満ちています
荒木
閉塞感を言っているのは、土木従事者と公共事業費率の高かった地域の建設関係者ですね。公共事業の大幅な削減により仕事が激減し、自分の会社や自分の現在の立場が守れるか、生き残れるかを心配しているからと思いますが、今までは仕事量が多すぎたと考えることも必要でしょう。製材業界は20分の1しか残らなかったのが現実です。建設会社・就業者とも、適正規模・適正人員数になるまで、まだまだ減るのは覚悟しなければなりません。 ただ、世の中に与える影響は別問題ですね。 昨年度の建設業信用保証会社のデータを見ると、北海道の公共事業の発注はピークから見ると44%です。今年もさらに下がり、40%になるでしょうが、底が見えていないのが現状です。 北海道の自立を目指して、今後何をすればよいか、北海道商工会議所連合会でアクションプランを作るべく委員会を行っており、私もその委員ですが、北海道のためだけでなく、今後の日本に貢献する視点からも、遅れているインフラ整備がまだまだ必要との意見を全員が言っています。公共事業が減り続けている現状は、今後の北海道の発展に大きな問題であり、地域格差が問題となっています。 私は地域高規格道路の期成会長も務めていますので、道路の話を例にしますが、高速ネットワークが完成していない地域で特に格差が広がっています。北海道に社会資本整備はまだ必要です。 国土交通省の、道路中期計画のとりまとめの中間報告で、「地方の道路整備はいらない」との有識者の意見も記されていますが、日本の端から高速ネットワークの整備を進めていれば、東京だけが高速ネットワークが完成せず、ネットワーク化を是非進めるべきと、大合唱が起きていると思います。そもそも整備されたインフラにより、利益を享受している人が、自分に関係ない地域にはお金をかける必要が無いという資格はあるのでしょうか?国土交通省も、道路整備がいらないと言っている人の、地域別集計をしていただきたいと思っています。東京を初めとする大都市での整備は、民間に任せるのも一考でしょう。行政までが民間とともに一極集中を進めるのは疑問です。 しかし、政府方針の行財政改革の流れから、建設業界は規模が縮小される方向にあることは間違いありません。
――道ではソフトランディングを推進しています
荒木
ソフトランディングを行政が進める一番の理由は雇用問題です。雇用のデータで面白いものがあります。橋本行革の時代に調べたもので、1996年の建設業従事者は670万人でした。1990年は588万人ですから、82万人増えています。建設投資額を比べると、民間投資が55兆7千億円から46兆1千億円へと9兆6千億円減り、公共投資は25兆7千億円から36兆9千億円へ11兆2千億円増えています。建設投資全体では、81兆4千億円から83兆円へと、1兆6千億円分の2%の伸びによって雇用は14%も伸びています。公共投資の8割は土木でしたから、それだけ土木の雇用効果が高いわけです。これが縮小しているのですから、雇用環境は大変な状況です。 輸出産業のある地域では、この雇用減を吸収し、さらに他地域からも流入させているわけですが、公共事業に頼っていた地域は悲惨な状況になっています。 建設業従事者は、炭鉱労働者・農業従事者出身が多く、他産業に移籍しづらい人が多いのです。雇用確保には地域経済活性化が一番ですが、公共事業費の多かった地域は景気の回復感が全く感じられない地区ばかりです。建設業のソフトランディングだけでなく、行政として各種の雇用対策が必要です。
――建設各社の倒産が各地で相次いでいますが、地域経済への影響だけでなく、災害・除雪、インフラの維持管理も覚束なくなりますね
荒木
地域にとって建設業者が居なくなると、災害対応などで支障をきたします。また、倒産は圏域の取引先に負債をばらまくことになります。損害を被った取引先は利益の中から債権償却をしなければなりません。このような景気動向では大変な苦労を強いられ、街に対する貢献などが縮小して、何も出来なくなる可能性があります。 しかし、倒産した企業のその後について、納得できないことがあります。民事再生した企業が公共事業にそのまま参入している状況です。民事再生計画が終了した後なら理解できますが、民事再生法の適用で一度死んだのに、なおも公共事業で生きている企業を我々はゾンビ企業と呼んでいます。 公共事業費は、各地の国民の安全・安心・経済活性化のために税金を投入して投資するのです。しかし、民事再生企業は取引先に負債をばらまきます。負債を償却するには利益が必要でが、債権償却分には税金がかかりません。したがって、民事再生企業は取引先を通じ、税収を下げている会社です。公共事業を担当する会社がその原資である税収を下げているのですから、参入する資格は無いとおもいます。民間工事や下請けで再生を果たし、その後公共事業に参入すべきではないでしょうか?ところが再生計画自体に、公共事業の受注が見込まれています。1995年の建設業政策大綱では、技術力と経営力に優れた企業の育成を目指しました。経営力に優れていなかったから、民事再生になったわけです。建設産業が縮小するときに、退場すべき会社までが存続するのは不適切ですね。 災害体制については、全てのスーパーゼネコンが全国の重機や人員を把握するのは無理で、それは地域の建設会社にしかできません。しかし、このことを理由に、地場企業の全てが存続しなければならないことにはなりません。単一の市町村でなく、地域として、想定する災害に合わせた防災体制が確立されていればよいのです。そのために、人員・機械等を検討し、対応する企業は、地域としてどうしても守っていかなければなりません。そもそもインフラ整備が安心できるレベルなら、緊急時の対応もそれほど必要はないのですが。緊急災害体制のためにも人材が必要なら、そうした人たちが建設産業に留まっていられる政策をすべきです。一定の人が地域で通常の生活が出来るようにしなければなりません。
――近年は発注者の低コスト主義に、過剰反応したかのように低価格入札が続いており、北海道では年収が200万円以下の人たちが公共事業に携わっています
荒木
公共事業削減を主張している野党が参議院で過半数を占めている状況から、公共事業予算はさらに減る公算が大きいと思います。建設業界はまだ縮小するでしょうが、未来を作る子供達に素晴らしい建設産業を残さなければなりません。今後建設産業をどの様にしていくかの議論も大事です。 公共事業で低価格入札が頻繁になされていますが、一番影響を被っているのは末端の作業員です。この作業員も建設産業を支えている一員です。2007年6月29日付けの建設産業政策研究会の報告で、「社会保険・労働保険への未加入など、法令違反に関しては、行政の厳格な対応を求められるが、まず何よりも法令遵守」と書かれています。 厳粛な対応を今からしておかなければ、未来に明るい夢を持った建設産業として存続するのは非常に難しいと思います。 地域にとって建設業者が無くなる不安の解消だけでなく、今後の建設産業をどの様にするかの視点も大切です。本来は、公共事業は末端の作業員を含めて、健康保険・厚生年金、あるいは国民年金・国民健康保険・雇用保険などの社会保障を確保すべきで、保障がないものを従事させるのは法令違反です。公共事業においては、健康保険・年金を保障している企業に限定すべきです。国土交通省で通達を出し、低価格入札物件について、工事施工後、従事していた末端の作業員・ガードマン等も含めて、健康保険・年金の加入状況を調査し、未加入者を従事させていた元請けを指名停止にすれば、一時の混乱はあっても、建設業界での年金未納が無くなります。今問題となっている国民年金未納率を下げることに繋がり、建設業従事者の賃金アップにもつながります。こうした対策をせずに、建設産業に携わったために年金が無いとすると、働けなくなってから生活保護を受けなければならなくなり、建設産業に優秀な人が来なくなってしまいます。 今後の建設産業が健全であるためには、健全な人間がいなければならず、それに対する最低限の社会保障は法律で担保しているのですから、法令を遵守しなければならない公共事業という業務については、それを徹底する必要があると思っています。
――健全な建設産業として残さなければならないわけですね
荒木
どの産業であれ、それに見合っただけの人員しか必要のないものです。企業数も減るでしょう。しかし、文明を支え、維持していくために、未来のある建設産業は絶対に必要です。建設会社の存続は個々の企業の問題であって、他産業に活路を見いだすもの、施工能力に特化するもの、管理能力に特化するもの、民間事業に特化するもの等いろいろな方法で生き残りを目指していますが、これは個々の企業の努力です。建設産業を健全な産業として、残していくことは国家政策としても大事だと思っているのです。

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