建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年12月号〉

interview

官民の出資を受ける手法で地域の困り事を解決した賃貸マンション「アーヴァンヴィレッジ」(後編)

――全国で2つしかない「街なか居住再生ファンド」の実例として注目

株式会社UV1        代表取締役 田宮 功三氏

田宮 功三 たみや・こうぞう
昭和43年8月28日生
順調に育ち
昭和63年3月 岩見沢東高校卒業
平成 3年3月 北海道大学工学部建築工学科卒業
平成 3年4月 株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社
平成18年3月 株式会社コンパクトシティ設立
平成19年5月 株式会社UV1設立
株式会社コンパクトシティ
岩見沢市大和2条7丁目27番地1
TEL0126-22-1711

(前号続き)
――賃貸料とブース使用料を合わせてどのくらいの賃貸価格に設定しましたか
田宮
3LDKは7万円から8万円で、1Kは3万円後半から4万円ですから、相場並みですよ。 一階のブースもタイプは様々で、グランドピアノを設置してあるブースでは3万5千円程度。グランドピアノは自分のものがあるから不要で、スペースだけが必要な人の場合は1万5千円程度です。 その他、声楽専攻の学生など、電子ピアノによる音とりだけが必要な人のためには、電子ピアノが設置してあり、1万8千円から1万9千円くらいです。 音楽科の先生やヤマハなどに問い合わせたところ、グランドピアノとアップライトピアノとでは、同じ鍵盤楽器でありながらも全く異なる楽器なので、それぞれの生徒が選択した楽器により使い分ける必要があったのです。
――ピアノの練習ブースを備えた賃貸マンションとは、非常に珍しいですが、調律その他のメンテナンスも楽器専門店などと契約しているのですか
田宮
いいえ、調律は個人の責任で行うことになっています。こうしたピアノ付きの賃貸マンションというのは、全国でも珍しいでしょう。これも教育大の先生に指摘されましたが、楽器というものは毎日触れていないと感覚が狂うとのことです。そのため、自宅にあるものを持ち込んでしまうと、帰省した時に練習出来ないので、下宿先のマンションに設置されているのはありがたいと評価されました。 私などは楽器のたしなみがないので、ピアノがいくらするのかもわからず、一から勉強して、ヤマハともいくらくらいで卸せるのか相談したりしましたが、小規模の安物では駄目で、少なくともC3以上のレベルでなければならないなど、彼らの世界での常識があるようです。しかし、それを導入したらスペースもとり、ブースも大きくなりますが、そのブース代をいくらにすべきか見積りに骨も折りました。これも補助金を受けての事業であり、若者に街中に居住してもらうことで活気を生み出すという大きな命題もあるので、できるだけ価格は抑えましたが、それでも3万円は超えました。
――学生にとっても自前で用意するよりは、遙かに負担が軽く済みますね
田宮
グランドピアノなどは一台で150〜200万円もしますが、彼らは4年で卒業しますから、ピアノのあるブース付きで3万円、それ以外でも2万円程度ですから、48ヶ月分では100万円にも満たないのですが、これくらいの負担なら良いと判断しました。
――社長として、後進育成の親心も含まれているのでは
田宮
いいえ、私の私財ならそうでしょうが、J-REITとして出資者から提供していただいた資金ですから、出資者に出来る限り還元することが大前提で、会計としては、全ての事業費も私たちの人件費も含めて過不足のない収支となりますから、彼らのために私たちの収益から支出する考えは全くありません。 私にとっては、あくまでも収益事業なので、これで収益を得なければ次の事業が出来ません。そして、融資には連帯保証はありませんが、出資者にはより多く配当しなければならないのですから。
――こうした音楽という機能を持った賃貸マンションによって、岩見沢市自身が音楽の街としての性格を持ち、賃貸マンション自身が音楽堂のような役割を担うことになるのでは
田宮
本当は彼らが街中で演奏できるスペースを、私としては4条通りに作りたかったのです。住民が練習し、周辺の人々にビラなどをまいて、月に一度でも街中でストリートライブが出来るくらいのものにしたいと思っていました。そうすれば、道行く人も「ここには音楽家の卵が住んでいるのだ」と認識するようになり、彼らが5年〜10年後にはなんらかのコンクールで入賞するようになれば、人々も「岩見沢で弾いていたあの子だったのか」と認識を改めるようになればと思ったのですが、それは収支上なり立たなかったのです。これは私たちにとって不可能であり、かつ悔しい面でもあります。本来ならそこまでして、はじめて商店街に活気が戻るのだろうと思ったものです。 さらには就業支援センターを通じて、彼らが職業として、音楽のレッスンなどを一階のフロアで出来ないものかと模索したものですが、セキュリティの問題など運営の面で無理がありました。
――どんな支障があったのでしょうか
田宮
セキュリティの問題で、市の床と民間の床においてどちらが安全管理に責任を負うのか、その壁を越えられなかったわけで、今なお悔しく思いつつ実現出来なかったことです。したがって、次からは最初からプログラムとして上手に織り込んでいけば、なんとか実現できるのではないかと思っており、努力するつもりです。
▲岩見沢UV計画B
――札幌市では毎年、世界の音楽家が集まり、演奏会だけでなくプロによるレッスンなども行い、音楽芸術を広げるPMFというイベントがありますが、岩見沢の古い市場跡から未来の音楽家が台頭し、そうしたイベントで活躍する人材を輩出していくような構造が確立されていくという将来像も考えられますね
田宮
私一人が、絵だけを描いていたのでは、やはり成り立たないものです。制度や学生達の事情など様々な要素が絡みます。 その意味では、岩見沢市の10万人都市も札幌市も同じですが、札幌市の場合はむしろ簡単です。この価格であればマンションが売れるという情報があれば、土地を買って事業化することが可能で、それだけのマーケットもあります。 地方都市に欠けているのは、そうしたマーケットなのです。しかし、市が図書館を必要としていたり、お年寄りが増えてきて病院を必要としているなど、必ず誰かが困っているとの情報があり、それを不動産事業でソリューションするわけです。「問題を解決する」という考え方で取り組むならば、たとえどんなに小規模の都市でも私は必ず実現できると思います。そこには行政による支援策もあるのですから。 
――この事業が完結した後は、どんな体制となりますか
田宮
着工した現在、やることはほとんどありません。UV1が物件を持ち続け、賃貸収入によって融資への返済をしながら存続することになります。ただし、会社とはいえ、社員がいるわけではなく、税理士と弁護士を外部スタッフとして契約するだけです。 また、その入金と出金の管理は当社で引き受けますが、私はUV1の社長であり、それを管理するコンパクトシティの社長でもあるので、今後はUV1の経営者は変えた方が良いと考えています。株式会社UV1はこの事業のためだけの自動操縦のビークルなので、社長は誰でも良いのです。
――地方都市の建設会社は、公共事業の激減で経営者は対策に悩んでいますが、こうしたノウハウが解決の糸口になるのでは
田宮
問題は何に困っているかで、困っている問題が明確なら解決できます。土地を持っていて、年間に1千万円の収益が必要なので何とかならないかという相談であれば、対応できます。不動産会社であれ建設会社であれ、地域が活性化しても自分の会社が倒産したのでは無意味です。
――今回の事業によって、新しいビジネスモデルが確立されると同時に、岩見沢で音楽 の道を志す学生達が一つの建物の中で夢を実現していくという波及効果も生まれるわけですね
田宮
5年、10年が過ぎて、例えば彼らがショパンコンクールで入賞したり、街中で朝から晩まで練習できる環境が、その人の才能を伸ばせたということになれば、UV1の社長としてではなく、人として嬉しいとは思います。 もちろん、夢物語で不動産事業は出来ませんから、それを狙ったわけではなく、あくまでもシビアな金の話で、しかも億単位の投資事業ですからナーバスな話とは次元が異なります。

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