建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年11月号〉

interview

官民の出資を受ける手法で地域の困り事を解決した
賃貸マンション「アーヴァンヴィレッジ」(前編)

全国で2つしかない「街なか居住再生ファンド」の実例として注目

株式会社UV1 代表取締役 田宮 功三氏

田宮 功三 たみや・こうぞう
昭和43年8月28日生
順調に育ち
昭和63年3月 岩見沢東高校卒業
平成 3年3月 北海道大学工学部建築工学科卒業
平成 3年4月 株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社
平成18年3月 株式会社コンパクトシティ設立
平成19年5月 株式会社UV1設立

株式会社UV1の田宮功三代表取締役は、国が創設した「街なか居住再生ファンド」を活用しつつ不動産証券化の手法で、岩見沢市の中心部にある市場跡地を賃貸マンションとして再生した。単なる賃貸マンションではなく、一階には公共施設や、音楽科を専攻する北海道教育大岩見沢分校の学生のための練習専用ブースを設けた特色あるマンションで、国の制度活用事例としては、全国で2つ目という稀少なケースだ。田宮社長は「地域で直面している困った問題を解決するという姿勢で臨めば、必ず成功する」と、確信を持って語る。
――賃貸マンション「アーヴァンヴィレッジ」の建設地は、かつては市場でしたね
田宮
大正年間に創設されたナカノタナという市場で、南空知一帯の台所のような役割を担っていたと聞いています。市場は全部で40〜50軒の店舗があったとのことで、どこも混雑して盛況でした。当時は、卓球場、呉服屋、玩具屋などもあり、まさしく昔の時代に発展した市場という感じでしたが、後には店舗も十数軒にまで減り、シャッターだらけで、通りはまばらに電灯が灯っているというのが最後の姿でした。
――そうして寂れた商店街が、全国的にもありますが、そこで開発事業を構想した切っ掛けは
田宮
その敷地は個人の所有地で、建物も土地の所有者である社長が創業して七十数年の会社が所有していましたが、街の中心部なので、所有者をはじめ地元商店街や岩見沢商工会議所、そして岩見沢市も何とかしなければならないとの問題意識があり、10年ほど前から何かを計画しようとの機運はあったようです。その当時は、私は関与していませんでしたが、岩見沢市役所から「事業化できないものか」と持ちかけられました。 そこで、私は土地の情報を集め、どんなプログラムを導入すれば事業が成り立つか、1年半前から計画に着手しました。
――どのように計画を具体化していきましたか
田宮
平成17年に岩見沢で「大学と地域の連携による芸術・スポーツのまちづくり」のシンポジウムが開催され、まちづくり活動関係者として出席しました。国関係の出席者は内閣官房都市再生委員会からの参加者が、私の学生時代の先輩であったり、座長を務めた人は、私が卒業した北大建築科のお世話になった教授であったりと、面識ある人々がいましたから、商店街の一市民レベルではなく専門的な話題や具体例を提示しながらディスカッションしました。 特に、その頃は教育大学岩見沢分校が音楽系にシフトし、小学校課程から音楽・美術・体育科に特化するとの動きがありました。そうした音楽・美術の専門教育でも、全国から学生が来ているとのことですが、楽器を演奏できる場が岩見沢にはないのです。教育大学のピアノ科などは、これから本物の演奏家になる人も、全道の音楽・美術・体育系の教官も岩見沢に集まるという体制になっていながら、街としての受け入れ体制がないという問題がクローズアップされました。そこで、この解決を含めた賃貸マンションはどうかと発想したわけです。 そこで私は知人らに簡単な企画絵図を書いてもらい、資金対策としてJ-REITを導入することを基本に収支を試算してみたのですが、1億4千万円の収入が不足する見通しとなったので、それを行政の補助金で解決できないかと考えました。それが国交省の「暮らし賑わい再生事業」に基づく「街なか居住ファンド」で、この仕組みをアドヴァイスしてくれたのは、これを担当する(社)全国市街地再開発協会でした。仕組みとしては、収入の不足分1億4千万円のうち、市による補助は半額の7千万円で、残る7千万円は国交省が負担するというわけです。間接補助なので国交省は市に対して補助し、それを合算して市が倍額で補助する形です。市としても固定資産税などの税収により、10年くらいで回収できるので、市財政にとっても有効な事業なのだと思います。 そもそもこのファンドを知った切っ掛けは、市の経済部が17年6月頃に、説明会に誘ってくれたことで、2〜3年の間に様々に情報収集しながら得たものを繋いでいきました。 その他、国の関係部局の住宅整備課長や事務官には大学時代の先輩もいて、年に一回の忘年会など様々な場面で面識のある人もいたのです。このお陰で、どこに行ってもアドバイスをもらえ、ありがたいと思いました。私一人が唐突に計画を考えて推し進めたというよりは、行く先々で関係者が引っ張り上げ、アドバイスしてくれたり助けていただいた結果です。
――アーヴァンヴィレッジ計画に基づく建物の概要をお聞きしたい
田宮
1階部分は岩見沢市が購入して入居施設を検討中で、名称は確定していませんが、就業支援センターなどの社団法人に賃貸するものと思いますが、建物の正式な目的は賃貸マンションで、全部で47室となります。この6月19日に着工し、来年2月に竣工予定です。
▲岩見沢UV計画A
――音楽に特化した施設もこの建物に併設されるのですね
田宮
1階部分に設置し、上階の入居者がブースを借りる形となります。ヤマハなどに行くと、電話ボックスを巨大にしたような、家族が入れる規模のブースが見られますが、それと同様のもので24ブースを設置することになります。契約としては、ワンルームを賃貸した住人にセットで貸す仕組みですから、1Kの部屋に教育大生が居住してもらうことが前提です。
――一般向けはありますか
田宮
一般向けは47室のうち23室で、私としては、半分は学生の入居を想定していましたが、9月1日からリーシングを開始し、最初に決まったのは一般向けでした。間取りとしては3LDKと2L、1Lと3タイプで、子供をもつ家族でも住めるような間取りとなっています。 1ルームばかりであれば、家賃収入も多く得られますが、学生だけでなくいろいろな世帯が同居する方が良いと考え、ファミリータイプも相場程度に下げることにしました。 ブースについても、趣味のピアノが存分に弾けないので貸して欲しいとの要望があったので、一般向け入居者にも練習ブースの賃貸をプラスすることにしました。
(以下次号)

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